表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
観光の街、クリスディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/349

218.陽だまりの家で


「お待たせいたしました!」


元気よく言いながら、ミアちゃんが大量のおにぎりの入った袋をネロくんに差し出す。

彼は「ありがとう」と言って、それを丁寧に受け取った。


「あ、目印が付いてるのは“お母さん”用ね!

この前の健診で、“体重増えすぎた!”って言ってたから、マヨネーズ少なめにしておいたの!」


「……何から何まで、ありがとな」


にっこりと笑うミアちゃんに、ネロくんは半ばあきれたように笑いながらも、やさしく礼を言った。


「いつもありがとう、ミアちゃん。ミーナにもよろしく伝えてね」


「はーい! また来てくださいね!」


明るく手を振るミアちゃんに見送られ、私たちは袋をマジックバッグにしまい、再び通りへと歩き出した。


吹き抜ける風には、ほんのり潮の香りが混じっている。

その匂いを感じながら、私たちはネロくんの家へと向かった。


「お昼に間に合ってよかったですね」


レーヴェが言うと、リズが微笑んで応じる。


「早く届けないと、お腹空かせて待ってるわよ。きっと」


ふたりのやり取りを聞きながら、私たちは住宅街の通りへと入っていく。

やがて、角を曲がった先に、真新しい家が見えてきた。


ネロくんが先頭に立ち、その背を私たちは静かに追う。


住宅街の中でも、ひときわ陽当たりの良い角地に建つ家。

白い壁に木の窓枠、低く整えられた垣根の内側には、小さな花がちらほら咲いていた。

敷石の道の脇には、洗濯物が気持ちよさそうに揺れている。


「……ずいぶん、小さいのね」


リズがぽつりとつぶやく。

ネロくんは振り返らず、「でしょ? 俺も小ささにびっくりした」と軽く笑って、洗濯物をじっと見つめた。


玄関の前に立ち、彼が手を伸ばしかけた、そのとき──


ガチャ!


ドアが音を立てて、内側から開いた。


出てきたのは、


「兄ちゃん、おかえりっ! あ、ティアナお姉ちゃんたち、いらっしゃい!」


「ルトくん! こんにちは。おにぎり、たくさん買ってきたよ」


「わーい、ありがとう! 早く食べよっ!」


ネロくんが「ただいま」と返し、マジックバッグから袋を取り出すと、ルトくんは嬉しそうに両手で受け取った。

そのままくるっと踵を返し、家の中へ駆けていく。


するとすぐに、奥からにぎやかな声が響いてきた。


「お母さーん! すごいよ! ティアナお姉ちゃんが、おにぎりたっくさん持ってきてくれたー!」


「えっ、本当に!? やった〜! どれにしようかなぁ?」


その声に、ふぅっと息を吐いてから、リズがネロくんを追い抜いて部屋の中へ入っていく。


そして──


「“どれにしようかな”じゃないわよ。あなた、体重が増えすぎなんですってね? あなたのは、目印付きの二個だけ。マヨネーズ少なめよ」


「エリザベス様!? ひどいです〜! マヨネーズは多めがおいしいのにぃ!」


「そんなこと言うなら、“マヨなし”にするわよ?」


「ええええっ!」


そんな懐かしい二人のやり取りに、私は思わずレーヴェと顔を見合わせて笑った。

それに気づいたエレーネさんが、ぱっと顔を明るくする。


「ティアナ様! レーヴェも! 来てくださってありがとうございます。すみません、お出迎えもせずに……」


そう言って立ち上がろうとしたので、私は片手を上げて制した。


「いいのよ。お出迎えなら、ルトくんがしてくれたわ。……ずいぶん、大きくなったわね」


私が目を細めて言うと、エレーネさんはぎょっとして、自分の頬を両手で挟んだ。


「えっ!? 私、そんなに太りました……!?」


背景に「ガーン!」と書きたくなるほどの衝撃顔で、ぶつぶつと「本当に“マヨなし”にしなきゃ……」と呟いている。


思わず私は吹き出した。


「違うわよ、“大きくなった”っていうのは、お腹のこと」


「へ? ああ……これのことですか! よかったぁ〜……」


ほっと息を吐いてから、エレーネさんはお腹を優しく撫でた。


リズもその様子を見ながら、やわらかく微笑む。


「外に干してあったベビー服を見ても思ったけれど……本当に、もうすぐなのね」


一瞬きょとんとしたあと、エレーネさんはにっこりと笑った。


「はい! もう、すっごく動くんですよ。夜も寝られないくらい!」


そう言いながらも、その顔はとても幸せそうな──“お母さん”の笑顔だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ