表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
クリスディアの領主

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

208/349

207.いいにおいにつられて


“イル”の味を噛みしめていた、そのとき──


「……ん、なんか……いいにおい……」


ふと背後から、小さな声が聞こえてきた。


入口のほうを振り返ると、数歩だけ身を乗り出すようにして、ひとりの女の子が立っていた。

年の頃は四つか五つほどだろうか。そっと鼻をひくひくさせながら、じっとこちらの鍋を見つめている。


そのすぐ後ろから、男の子がひょっこり顔をのぞかせた。


「ねえ、あれ……ごはんかな? すっごくいいにおいがする!」


その声に、カミラさんがはっと立ち上がる。


「こらっ、あんたたち! お客様のところに勝手に入っちゃだめって言ったでしょ!」


慌てて駆け寄ったカミラさんは、ふたりの肩にそっと手を添えて引き戻そうとする。


「でも、だって……いいにおいで……」


女の子が、しょんぼりとつぶやいた。


「母さんたちだけずるいぞ! おれたちもお腹減った!!」


その言葉を聞いた瞬間、私は思わず立ち上がっていた。


「こっちにおいで。一緒に食べましょう?」


呆れたように頭を押さえていたカミラさんが、驚いた顔で私を見る。


「でも、ティアナ様……子どもたちが、失礼を……」


すると、今度はマリーが立ち上がり、子どもたちに駆け寄った。


「こんにちは! 私のこと、覚えてるかな?」


お兄ちゃんである男の子が少し考えたあと、ぱっと顔を明るくした。


「あ……マイカのお母さん!?」


「正解っ! 久しぶり、カインくん。大きくなったね!」


にっこりと笑いながら、マリーは男の子──カインくんの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「うん! あれ、マイカとルークは?」


「ごめんね。今日は子どもたちは連れてきてないの」


「……そうなんだ」


少し残念そうにするカインくんの袖を、女の子がつんつんと引っ張る。


「お兄ちゃん、この人だあれ?」


「母さんの従姉妹のマリーおばさんだよ。なんだよ、カリン。覚えてないのか?」


カインくんにそう聞かれて、そっと首を振る女の子──カリンちゃん。

マリーは苦笑し、「最後に会ったのは二歳のときだもんね」と言ってから、そっと手を差し出した。


戸惑いながらも、カリンちゃんはマリーの手を取る。

マリーはカインくんとも手をつなぎ、ふたりをこちらへ連れてきた。


それを、心配そうに見つめるカミラさん。


「マリー……」


「心配しなくて大丈夫よ! なんたってティアナは、マイカとルークとも友達なんだから」


片目を閉じてそう言ったマリーの言葉に、カミラさんとカインくんは目を丸くした。


「えっ、マイカたちの友達なの?」


「そうなの。君も友達になってくれるかな?」


にこりと笑って聞くと、男の子は腰に手を当て、胸を張って答えた。


「しょうがないなぁ。お姉さん、友達少なそうだもんな」


その言葉に、カミラさんとカールさんが青ざめる。


「こらっ! あんた、なんてこと言うの……っ」


「え!? 分かっちゃう? そうなのよ。だからカインくんが友達になってくれたら、すごくうれしいなあ」


「うん、いいよ。まかせとけ!」


私たちが笑い合うのを、真っ青な顔で見ていたカミラさんたちに、オリバーさんが「大丈夫だよ」と優しく声をかけながら、新たによそったご飯を運んでくれた。


「……たべて、いいの?」


「ええ。いっぱい食べて、感想を聞かせてね?」


そのやりとりに、カミラさんの目元がうるんでいく。

カールさんも、静かに息を吐いてから、子どもたちの頭をぽんぽんと撫でた。


「今日は特別だぞ。よく味わって食べるんだ」


「うんっ!」


小さなふたつの声が重なって、ぱっと笑顔が咲いた。


オリバーさんがそっと器をふたつ差し出すと、ふたりは「ありがとう」とぺこりと頭を下げた。


そして──ひと口。


「……おいしい……!」


「ぷちぷちしてる! 食べたことない味だけど、すげぇうまい!」


口いっぱいに広がる味に、ふたりは目をまるくして歓声を上げる。

その純粋な反応に、大人たちの間にも、あたたかな笑いが広がっていった。


あくまで試食用。もともと量の多くなかったご飯は、あっという間になくなってしまった。


「おかわり!」


「ごめん、もうないんだ……」


元気よく言ったカインくんに、オリバーさんが申し訳なさそうに答える。


「えー!」


「カイン! わがまま言わないの。昼食用にパンがあるでしょ?」


「だって、黒パンなんて、うまくないじゃん。こっちのほうが断然おいしかったよ」


「……カリンも黒パン、固くて苦手……」


──そういえば、マリーも以前、“子どもたちは黒パンが苦手”って言ってたわね。


子どもたちの声を聞きながら、胸の奥が少しだけ、きゅっと締めつけられるような気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ