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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
クリスディアの領主

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199.指先に宿る希望


「……うわぁ、すごい……本当に塗るだけで、こんなに指先が綺麗に見えるんですね」


エレーネさんの声には、まだ夢見心地の響きがあった。

その様子に、私は思わず小さく笑ってしまう。


「ね、指先って、ちょっと手をかけるだけで、気持ちまで変わるから不思議よね。

爪が綺麗になると、背筋も伸びるし、自信もつくの。人に見せるのはもちろん、ふとしたときに綺麗な自分の手を見ると、前向きになれるのよね」


「……わかりますっ。なんだか、こう……ちょっとだけ、貴族のお嬢様になった気分です」


エレーネさんが恥ずかしそうに笑い、両手を胸の前でそっと合わせる。

その仕草さえ、ほんの少し優雅に見えた。


「ふふ、面白いわね」


ミランダさんが小さく笑みを浮かべながら、マニキュアの小瓶を手に取った。


「爪紅よりも手軽にできそうだし、何より仕上がりが美しいわ」


アイリスさんは、エレーネさんの爪をまじまじと観察しながら、「爪紅より、艶やかで素敵です」と呟いていた。


「さっきの説明で、ベースカラーがここにあるってことは作製できそうなのは分かったわ。でも、トップコートとベースコートはないのよね?

それは……作れないってことなのかしら?」


「あ……いえ、ベースコートの材料はベースカラーと大きくは変わらないと思うので、おそらく作製可能です。

ここにないのは、【錬金術師になろう】の世界に、そもそも存在していなかったからだと思います」


私はそう補足した。


──【錬金術師になろう】。

それは、かつて私が夢中になっていたRPGゲームだ。

作れるアイテムの種類がとにかく多く、特に料理アイテムの充実ぶりは異常と言っていいほどだった。

そのほかにも、この“マニキュア”のように、現実世界にありそうな小物がたくさん登場していた。


けれど、あくまでそれは“ゲームの中”の話。

現実では、マニキュアを綺麗に塗るには、いくつもの手順を踏まなければならない。

ささくれや甘皮を整え、爪の形を整える。

塗る工程も、ベースコート、ベースカラー、トップコート……と段階を重ねる。


ゲーム内では、そうした工程は一切なかった。

マニキュアは単に「依頼品」の一つとして扱われ、素材を集めて錬金すれば完成した。

実際に誰かに塗るイベントもなく、「トップコートが必要」なんて描写も、もちろん存在しなかった。


でも、今は違う。

ここはゲームではなく、現実の世界。

塗ってみて初めてわかった。やっぱり、ちゃんとした工程が必要なんだ。

だからこそ、ベースカラーを改良し、トップコートとベースコートも作る必要があると感じた。


「ふむ……やっぱり“ゲーム”ってものはよくわからないけど……

ベースカラーの改良は、ベースコートに接着力を加えて、トップコートはネイル表面を保護しながら艶を出す。

つまり、皮膜整形剤を多めにすればいいのね?」


「はいっ! それでいけるはずです」


ミランダさんの言葉に、私は深く頷いた。

すると彼女は、唇に微笑の弧を浮かべる。


「トップコートとベースコートの作製は、私たちにまかせなさい。

ベースカラーだって、もっといろんな色を作ってみせるわ」


ミランダさんの力強い言葉に、私は胸の奥から湧き上がる熱を感じた。

あの頃、ゲームの世界で何度も錬金していた“だけ”のアイテムが、いま、ここで、現実の中に形を持ち始めている。

──それも、私ひとりじゃなくて、みんなと一緒に。


「ありがとう、ミランダさん。……本当に、助かります」


素直な気持ちを言葉にすると、ミランダさんは「お礼なんて、早すぎるわよ」と言って、クスリと笑った。


──と、そこへ。


「……あの、ティアナ様……」


エレーネさんが、ひょいと身を乗り出してくる。目がきらきらと輝いて、上目遣い……先ほどと同じような表情だ。


「その……そのベースコートとかトップコートができたら……

次はラメ入りとか、模様入りとか、そういうのも作れるようになるんですか!?」


「ラメ……模様……」

私は思わず考え込む。


「うーん、そうね。微細な金属粉や顔料、ホログラムシートの代わりになるものが見つかれば、たぶん作れると思う。

あとは、筆の形を変えたり、スタンプ方式にしたり……」


「ぜったい欲しいです! きらきらするやつーっ!」


「エレーネさん、興奮しすぎです」

アイリスさんが苦笑しつつ、私の言葉をメモしていた。


「ふふ、でも気持ちはわかるわ」

ミランダさんが微笑んだ。


「それにしても、ティアナが持ち込んだもの。“ネイル”だけでも……思っていたより、影響力がありそうね。

美しさって、やっぱり力になるのかもしれないわね」


私はふと、自分の爪を見る。

そこには先ほど塗った、1色だけの淡いピンク色。


でも、そんな遠くない未来に、日本でしてたようなキラキラのジェルネイルもできるかもしれない。


だって、私はひとりじゃない。

みんなで力を合わせれば、きっと──


「……私、きっともっと考えます。もっと、誰かの気持ちを前向きにできるものを。

だから、ご協力よろしくお願いします」


その言葉に、誰もが黙って頷いた。

この静かな部屋の中に、小さな熱が生まれていた。



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