表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
クリスディアの領主

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

188/349

187.しじみと、いのちのスープ


「じゃあ、次は味噌汁を作ろうか」


私がそう声をかけると、マイカちゃんとルークくんが、


「うん!」


「わーい、味噌汁!」


と笑顔で喜んだが、


「……でも、味噌汁って?」


と不思議そうな顔をした。


何か分からないけど、新しい料理にわくわくしているらしい。かわいいなぁ。

私もつられて笑顔になりながら説明する。


「味噌汁っていうのはね、ある国ではご飯と一緒によく飲まれてる“スープ”なの。

まずは味噌汁に入れる具の準備……これが“しじみ”ね」


そう言って、私はボウルに入れたしじみを見せる。

ちなみに、砂抜きには時間がかかるので、あらかじめ薄い塩水に入れておいたものだ。


「……これ、貝ってやつ?」


ルークくんが恐る恐るのぞき込む。

すると、ボウルの中でしじみがちょこちょこ動き、水を吐いた。


「うわっ、動いた! 生きてるの!?」


「そう、生きているの。だから、料理する前にきちんと砂を吐かせてから使うんだよ」


「砂を吐かせる……?」


「しじみの中に砂が入ってるの。それを水にしばらくつけておくと、勝手に出してくれるの」


「ふーん……料理って、準備が大変なんだなあ」


ルークくんが感心したようにうなずく。


「で、これを水に入れて、だしを取るために昆布も一緒に入れるの。しじみのうまみで、味噌汁がぐっとおいしくなるんだよ」


しじみと昆布を入れ、鍋に火をかける。

やがて、殻が少しずつ開いていった。

それを見て、マイカちゃんが思わず声を上げた。


「わぁ……開いた!」


「ちゃんと火が通ると、こうやって開くのよ。開かないやつは加熱が足りないか、もう死んじゃってるから使わないでね」


「料理って、すごい……なんか、いのちを感じるわね……」


ぽつりとつぶやいたマリーの言葉に、みんなが静かになった。


「そうだね。食べるってことは、何かの命をもらうってこと。だから、“いただきます”って言うんだよ」


私は、鍋から昆布を取り出しながらそう返す。

視界の端で、マイカちゃんとルークくんが頷いているのが見えた。


「その昆布は、もう使わないの?」


「はい、もう出汁が出ましたので。ここでアク取り……この表面に浮いてるのを取り除いてください。そのままにすると、煮汁が濁って見た目が悪いし、臭みも出て味も落ちちゃうんですよ」


ミランダさんの問いに、アクを取りながら答える。

ミランダさんは頷きながらメモをとり、マリーは「オリバーがやってたの、そんな意味があったのね……」とつぶやいた。


うん。教えてもらわないと、なんでアク取りなんて手間がいるのか分からないよね。


──私の見解だけど、おそらくこの世界では、“砂抜き”や“アク取り”みたいなちょっとしたコツを【料理人】たちはスキルで無意識にやっている。


無意識にやってるからこそ、そういう小さな工夫が料理の仕上がりに差を生んでいて、自分たちが重要なことをしていると思っていない。

【調理】スキルを持たない人たちに、料理を教えようとした時、それが必要だと気づけず失敗しているんじゃないかな?


そんなことを考えながら、私はお玉を手にしじみを端に寄せた。


「たまに、ちゃんと砂抜きをしても砂が残ってることがあるから、しじみを端に寄せて鍋底に砂が出てないか確認してみてね」


うん、今回は砂は出てない。


すると、アイリスさんが口を開いた。


「もし、砂が出てたらどうすればいいんですか?」


お。アイリスさんも料理に興味出てきた?


そんなふうに嬉しく思いながら答える。


「鍋底に砂があったら、一度、汁だけザルなんかでこすといいよ。そのときは、しじみを先に別の器に移してから、汁をこしてね」


しばらくすると、いい香りが立ちのぼってきた。


「よし、だしが出たら……次は味噌を溶かすよ」


味噌を入れて、そっと溶かしていく。


「うわ、いい匂い……!」


マリーが目を細めて、鼻で息を吸い込んだ。


「これが“味噌”の香りよ。これが、しじみと合わさるとね──」


味噌の香ばしさとしじみの出汁が合わさって、厨房中にふわっと優しい香りが広がる。


「……おいしそう」


ルークくんが思わず、ごくりと喉を鳴らす。


みんながわくわくした顔で味噌汁を見つめる中、私は火を止めた。


器に盛り、細ねぎをちらす──


「よし、完成!」


しじみのエキスがたっぷりのお味噌汁ができあがった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ