表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
海の街、クリスディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/349

151.少年がしたこと


──あのときのやりとりを思いながら、私は今、目の前の光景を見つめている。


子どもたちは、自分たちの“ご褒美”を、家族と分け合うことを選んだのだ。


 



そして今──

 


スラム街の広場には、大きなテーブルがいくつも並べられ、その上には湯気を立てるスープ鍋と、白パンのかごが置かれている。

人々は列を作り、ゆっくりと食事を受け取っていく。


広場の中心には、笑顔でスープを分け合う子どもたちと、その家族の姿があった。



「あっちのおじいちゃんにも届けてくる!」


「兄ちゃんにも持っていかないと!」


子どもたちは手伝いながら、自分の家族らにスープを運んでいく。


ミアちゃんは、お母さんと並んでベンチに座り、湯気の立つスープを、ゆっくり口に運んだ。


「……お母さん、どう?」


「……うん。すごく、あったかいね。美味しいよ」



お母さんの目元が少し潤んでいたのを、私はそっと見守る。




「……あたたかい食事なんて、本当に久しぶりだよ」


ゆっくりと話すおばあさんは、スープのカップを両手で大事そうに持ち、食事を運んできてくれた少年を見上げた。


──あの、孤児の少年だ。


おばあさんは目に光るものを浮かべながら、少年に言った。


「こんなにあたたかい食事は本当に美味しいし、こんな柔らかいパンは、長い人生で初めてだよ。

でもね、なによりも──みんなで食べるごはんって、本当に美味しいね。……ありがとう」


「っ! 俺は……何もしてない。……食事を持ってきてくれたのは、ティアナさんたちだ」


お礼を言われた少年はうつむいた。

その様子を見守っていた私は、少年が拳を強く握りしめているのを見た。


おばあさんはじっと少年を見つめたあと、穏やかに微笑んだ。


「でもね、さっきあそこにいた綺麗なお姉さんに御礼を伝えたら、こう言っていたよ。



『この食事は、子どもたちが採取を頑張ってくれたおかげで得た利益によって、“スラム街のみんなにも美味しいごはんを”という子どもたちの願いを受け、我が主・ジルティアーナ様がご用意されたものです。

御礼なら、子どもたちに言ってあげてください』──とね」


少年はその言葉を聞いて顔を歪めた。

そして、ぽつりぽつりと言葉を絞り出すように話し始める。


「だったら……やっぱり、俺にお礼なんて言わないでほしい……っ。

みんなが『“ご褒美”は家族のためのスープがいい。お菓子はいらない』って言ったのに……俺は……」



それ以上は言葉にできなかったが、おばあさんには少年が何を言いたいのか、きっと伝わったのだろう。


「──そうかい。

けどね、今こうして私のところに食事を運んできてくれたのは、まぎれもなくキミだよ」



少年は、おばあさんの穏やかなまなざしを受け止めきれず、目を伏せたまま、小さく唇を噛みしめていた。


──けれど。


ほんの少し、ほんのわずかに、その肩が震える。


「……俺……ほんとは……」


ぽつりと、また言葉がこぼれ落ちる。


「みんなと同じこと……言いたかった。……けど、俺だけ、言えなかったんだ」


彼の声は、掠れていた。


「お菓子……ほんの少し、食べてみたかっただけなんだ。家族がいるみんなが羨ましくて……。情けないよな」


そう言って、少年は俯いた顔を腕で隠すようにして、静かにすすり泣いた。


おばあさんは、その細い背を見つめ、静かに手を伸ばす。


そして、そっと少年の頭に手を置いた。


「……情けなくなんか、ないよ」


優しい声だった。


「ほんの少し、自分の願いを言うことが、どうしていけないんだい? あたたかいごはんも、お菓子も──どれも、君が努力した結果だ。受け取っていいものなんだよ」


少年の肩が、びくりと震えた。



「……俺は、そんなこと言ってもらえる資格はないよ。

この炊き出しのこともだけど俺、ネロにひどいことしたんだ。


ネロはスラム街に住んでいたけど、頼もしい父ちゃんもかわいい弟も居て……ダンさんのところで仕事までもらえて……正直、ネロのことが妬ましかったんだ。

だから、あいつが『ルトの誕生日プレゼントも買ってやれない』って悩んでた時に言ったんだ。

だったら──」


言葉が止まった。

少年は、ひと呼吸したあと苦しげに、絞り出した。


「『金持ちの使用人からでも財布を盗めばいい』って……」



聞き耳を立てていた私は息を呑んだ。


ずっと疑問だった。あんなに真っ直ぐで、曲がったことが嫌いそうなネロくんが──どうしてスリなんてしたのか、と。



──少年の言葉は続けられる。


「ネロは『人のお金を盗むなんてできない』って言ったのに、俺が……さらに言ったんだ。

『金持ちなんて、ネロの父ちゃんに酷いことをしたお貴族さまみたいに、悪いやつばっかりだ。汚い金に決まってる。だからちょっとくらい、いただいたってバチは当たらない』って」


少年の声が震え始めた。


「俺がそんなことを言ったところで、いつもの真っ直ぐなネロなら、スリなんてしないだろうと思ってたんだ……。なのに、まさか……本当にやるなんて……それもお貴族さまのお金を盗むなんて夢にも思わなかったんだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ