表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
海の街、クリスディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/349

141.角が折れたジャッカロープ


一瞬、場の空気が静まり返る。

けれど、私の言葉はちゃんと届いていた──


「ほんとに? やったー!」

ぱっと表情が明るくなり、飛び跳ねるように声を上げる。

「俺、もっと食べたい!」

他の子どもたちも次々と声を上げ、おかわりの列が一気に賑わいを見せた。


リズとステラ、そしてレーヴェが、集まる子どもたちに手際よく対応してくれている。


泣いていた男の子は、涙をぬぐいながらパンをじっと見つめ、そっと口に運んだ。

さっきまで喧嘩していた二人の少年は、ぎこちなく目を合わせつつ、どこか気まずそうだ。


すると──


ふいにネロくんがふたりの首に腕を回し、勢いよく飛びついた。


「やったな! 午後もがんばればお土産もらえるってさ!?

父ちゃんとルトにもパン食わせてやりたいから、俺、がんばろっと!」


そう言って、高々と拳を突き上げる。


「俺だって負けねぇぞ! 午後は俺が一番アルカ草を見つけてやる!」


赤髪の少年が元気よく叫び、隣の緑髪の男の子に視線を向けた。


「ぼ、ぼくだって頑張るよ! 母さんたちにパンを持って帰るんだ!」

「……おう。じゃあ三人で、誰が一番見つけられるか競争だな」

「……うん!」


──よかった。ちゃんと仲直りできたみたい。

笑い合う少年たちを見て、ネロくんも嬉しそうに笑っていた。


「よし。午後も頑張るために、スープもパンもおかわりするぞー!」


そう言って、ネロくんは配膳しているリズたちのほうへ駆け出していった。


「あっ! ずるいぞネロ! 俺だってもっと食うからな!」

「僕もスープおかわりしたいっ!」


二人もネロくんを追いかけるように走り出す。


そして、追いついたところでネロくんは立ち止まり、私と目が合うと、にかっと笑い──またすぐに、ふたりの背を追って走っていった。


「ネロくん……いい男だわー」


ぽつりとつぶやくと、隣にいたダンさんが腕を組み、なぜか誇らしげに胸を張った。


「そりゃあ、自慢の息子だからな! ……俺の親友の、だけどな」


「ふふ、じゃあその素敵なところ、親友さんにもちゃんと伝えなきゃいけないわね」


そう言ってふたりで笑い合い、おかわりが殺到している様子を見て、私も手伝いに向かった。



「ほら、お前ら! 全員おかわりできるから、ちゃんと並べー!」


そんなダンさんの声が湖に響く。

その声に応えるように、優しい風が吹き抜け、蝶がひらりと舞った──。




おかわりを済ませた子どもたちは、それぞれの持ち場へと向かっていった。


私はというと──湖のほとりに残り、パンを袋に詰めていた。


「ごめんね。私が勢いで『パンをお土産あげる』なんて言っちゃったから……」


急に仕事を増やしてしまったことを謝ると、ステラがくすっと笑って言った。


「ティアナ様らしいです」


……ちょっと待って、それ、どういう意味?

誉められて……ないよね??


今、一緒にパンの袋詰めをしてくれてるのはリズとステラ。

袋詰め作業はレーヴェよりステラの方が向いてるだろうと役割を交代したのだ。

この場所は安全そうだし、リズと近くにはダンさんもいるしね。


そんな中、ステラがふと顔を上げて言った。


「──それにしても、ここは不思議な場所ですね。初めて来たはずなのに、なぜか懐かしい感じがします」



その言葉に、私は思わず驚く。


「……え、ステラも?」


そう言った瞬間、ひゅう、と風が吹いた。

春の風にしては少し冷たいけれど、どこか優しさを含んでいた。


風に舞う、小さな花びらのようなものが、私たちの間をふわりと通り抜けていく。

それが本当に花びらなのか、何か別の“気配”なのか──私は無意識に湖の方を振り返った。


そして、そのときだった。


「……あれ? うさぎ……?」


いつの間にか、湖畔に一匹のうさぎが現れていた。

けれど、その灰色の小さな体には、どこか普通のうさぎとは違う気配がある。


「あら、あれは──ジャッカロープみたいですね」

「……ジャッカロープ?」

「魔獣ですが、小型です。少し角が危険なのですが……あの子のは折れてしまっているようですね。

とても臆病な性格なので、人前に出てくるなんて、珍しいことです」


……角?

よく見ると、確かにジャッカロープの頭には、枝のような角が生えていた。

けれど、その角は根元からぽっきりと折れてしまっている。


それが、普通のうさぎと何か違うと感じた原因だったのかもしれない。


ステラが「……あの子」とつぶやき、そっと一歩踏み出した。

静かに手を差し出すと、ジャッカロープはその手に顔を近づけ、鼻をひくひくと動かす。

そして、おそるおそる──けれど確かな動きで、ステラの手に身を寄せた。


……かわいい~~!!

ジャッカロープももちろん可愛いけれど、うさ耳のステラが抱きしめてる姿は反則級に愛らしい!


ステラはそっとその子を抱き上げ、こちらへと戻ってきた。


「ティアナ様! この子、怪我してますっ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ