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スキルをよみ解く転生者〜文字化けスキルは日本語でした〜  作者: よつ葉あき
海の街、クリスディア

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137.特別な塩


目の前のみんなは、ぽかんと口を開けている。

まあ、急に目の前でおにぎり握り始めたかと思えば、

今度は湯気の立つ豚汁と、茶の香りただよう日本茶まで出てくるんだから、無理もない。


「これ、……何ですか!?」

「スープと……お茶?」


驚く声があがるけど、私はにっこり笑って返す。


「ふふん。これはね、ただのおにぎりじゃないよ。

塩にぎりと鮭にぎり、どちらも【調理】スキルの恩恵を存分に使った、最高のおにぎりよ!」


私は、自信満々に言い切った。

それから湯気の立つ豚汁をそっと差し出した。


「そしてこれが豚汁。具だくさんで出汁がしっかり効いてる。

あったかくて、優しくて、心までほぐれる味だよ。おにぎりに合うから、一緒に食べてみて」


「……?」


皆がざわつきながらも、おそるおそる手を伸ばす。


「じゃあ、いただきます……!」


一口、おにぎりを頬張った瞬間──


「うっ……な、なんだこれっ! ご飯がふっくらしてて、口の中でほどけていく……!

さっき食べたのも美味いと思ったが、全然違うじゃねぇか!?」

「鮭のも、前に頂いたのとは全然違います! 鮭はジューシーですし、何よりご飯の美味しさが際立ってますね……っ!」


次々と歓声が上がる。豚汁をひと口すすると、エレーネさんが目を潤ませながらつぶやいた。


「……これ、泣きそうになるくらい美味しい……」


さらに日本茶でほっとひと息つくと、みんなの顔がふわっと緩んでいた。





おにぎりを食べ終えた。

みんな、おにぎりをはじめ豚汁と日本茶を絶賛してくれた。


ちなみに、私がおにぎりを作る前に、渡していたおにぎりは、それぞれ持って帰ってもらい、家族にも感想を聞いてみてほしいとお願いした。

そして──



「お米、作りましょう!!」


拳を握り宣言するエレーネさん。それに他のみんなも真剣な顔で頷いた。


(よしよし、順調におにぎりの魅力が浸透しているわね!)


私は心の中でガッツポーズを決めた。



「いやー、それにしてもおにぎりはすごかったな。簡単そうだけど、あのふわっとした食感を出すのは難しいぞ」

「ご飯……美味しかったです。鮭が入ったのはもちろん良かったですが、何も入ってない塩むすびも、ご飯そのものがほんのり甘くて、いい塩加減でした」

「豚汁っていうスープも美味しかったな!」


ダンさん、レーヴェ、ロベールさんが次々と嬉しい感想をくれた。

するとロベールさんがふと口を開いた。


「レーヴェの言う通り、塩むすびって塩だけで味付けしてるんだろ?

ご飯が美味しいのはわかるけど、もしかして……塩も普段のとは違う、何か特別なものなのか?」


「あら、鋭いわね。特別とまではいかないけど、ただの塩じゃなくて、“藻塩”を使ったのよ」


塩の違いに気づくなんてすごい! と思いながら答えると、反応したのはダンさんだった。


「もしお……? 普通の塩とどう違うんだ??」

「……え? 他の人はともかく、ダンさんも知らないの?」


まさか海の町の【料理人】が知らないなんて──!?

みんなの顔を見回すと、「知らない」という表情ばかり。


……もしかして、この世界には藻塩が存在しないの?


「藻塩っていうのはね、海水と海藻から作る塩なんだけど……」

「は……? 海水って……海の水のことだよな?

そこから塩が作れるって、マジか……!?」

「……え?」


まさかの反応に、言葉を失う。

藻塩どころか、海水から塩を作る方法すら知らないの──!?


「う、うそでしょ……? 海水を煮詰めたら塩が採れるって、知らないの……?」


私の声は、自然とひくくなっていた。

みんなの視線が一斉に私に向く。静まり返った部屋で、リズがぽつりと呟く。


「塩は、普通──岩塩鉱床という塩の塊が鉱山から見つかることがあります。そこから岩塩を削り出し細くしたもの。それが、本来の塩の作り方です」


あ、岩塩はあるんだ?


そう思っていると、ダンさんが興奮ぎみに言ってきた。


「塩が……海の水から作れるのか……?

すごいな……塩が、そんな風に作れるなら……!」


それにロベールさんが同意する。


「──ああ、海水なんて、このクリスディアにはいくらでもあるじゃないか!?」


……海水から塩が作れることを知らないのは、この人たちだけ?

──いやいや、そんなことは……ないよね?

などと、ちょっと失礼なことを考えていると、リズが静かに口を開いた。


「フォレスタ王国には、岩塩を採掘できる鉱床がありません。そのため、塩はすべて他国からの輸入に頼っているんです。

特にこの町クリスディアは、供給国から離れているため、塩はとても貴重で高価なんです」


そう言って、真剣な眼差しで私を見つめる。


「それなのに……もし塩が海から作れるというのなら、それはとてつもない利益をもたらすと思います」


塩が……利益になる? 塩に、そんな価値があるなんて──。



衝撃を受け、呆然とする私の耳に、エレーネさんのぽつりとした呟きが聞こえてた。



「海水って、しょっぱいだけだと思ってました……」





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