136.めざせ!専門店の味
そう思ったら、試さずにはいられない!
私は、ご飯、塩、海苔、鮭の切り身、水──そして調理台代わりの板を、テーブルの上にずらりと並べた。
突然いろいろ取り出した私に、みんなが呆気にとられて視線を向けてくる。でも、気にせず作業を進める。
ご飯は──ありがたいことに、ふっくら熱々の炊きたて! そこはすでに確認済み。
『錬金術師になろう』の料理、マジで凄すぎる。
そもそも、おにぎりの種類だけで7種類もあるところからして、制作陣の異常なこだわりが伝わってくる……。
私はゲームをやると、宝箱は全部開けたいし、アイテム図鑑もコンプリートしたくなるタイプ。
だから『錬金術師になろう』をプレイしていた頃は、あまりの料理の多さにムキーッ!ってなっていた。
でもまさか、その経験が今、こんな形で役立つなんて!
アイテムボックスには、まだまだたくさんの料理や食材が詰まっているのだ!!
ありがとう、『錬金術師になろう』──
そしてありがとう、かつて全力で料理作成に挑んだ、過去の私……!
私は心から感謝しながら、おにぎり作りを始めた。
「【洗浄】」
呟いた瞬間、手にひやりとした冷たい感触が走る。
板の見た目は変わらないけれど、きっと綺麗になっているはずだ。
このスキルはミーナに教えてもらった。
【料理人】は、ある程度レベルが上がると【洗浄】というスキルが使えるようになる──と。
その名の通り、スキルを使えば洗浄してくれる。
だから水で手を洗ったり、調理道具や皿を洗ったりする手間が省ける。めちゃくちゃ便利!
ただし、けっこう魔力を消費するらしく、平民の【料理人】たちはあまり使わないらしい。
でも私は魔力量が多いから、教えてもらってからは使い放題! 活用しまくっている!
……と、【洗浄】の話はこのくらいにして、今はおにぎりだ!
今から作るのは、ただの握り飯じゃない。
目指すのは──専門店のおにぎり!
「まずは塩にぎりから、いってみよう」
しゃもじでご飯をふんわりすくい上げる。炊きたての湯気が立ちのぼり、つやつやの米がキラキラしている。
塩をほんの少し指先に取り、手のひら全体に馴染ませる。
その手に、湯気がたつ熱々のご飯をのせた──その瞬間。
「熱く……ない!?」
普通なら炊きたてのご飯は熱すぎて持てないし、少し冷ましたり、手を氷水につけたりする必要がある。
でも今は、熱さを感じない。いや、ご飯が熱いことは分かるけど、やけどしそうな痛みがまったくない。
おそらくこれも【調理】スキルのおかげ。……素晴らしい!
ご飯を手の中で軽く、優しく握る。ギュッと力を入れず、ふわっと浮かすように転がす。
力を入れすぎれば米が潰れるし、弱すぎても形にならない。
「……よし、いい感じ」
できあがった塩にぎりは、ほんのり塩が効いたシンプルな味。それだけでご飯のおいしさがダイレクトに伝わってくる、王道中の王道だ。
「次は……鮭!」
目の前には、香ばしく焼かれた鮭の切り身。
表面にはほどよい焦げ目、中はふっくらジューシー。骨も丁寧に取り除かれている。
「さすが、あのゲームのアイテム……手抜かりがない……!」
身を丁寧にほぐし、大きめのほぐし身になるように調整して、ご飯の中にそっと埋め込む。
中身が偏らないように包み込むようにして具を隠し、またおにぎりを握る。軽く、優しく、ふんわりと。
最後に海苔をひと巻き。
「……できた」
目の前に並んだのは、シンプルながらも完璧なおにぎり2種。
しっかりとした三角形ではなく、ころんと丸みを帯びた、やさしい三角形。
余計な装飾はない。けれど、見ているだけでほっとするような、そんな安心感のある佇まい。
そっと手に取る。力を入れたら、崩れてしまいそうなほど繊細なおにぎり。
「いただきます」
ぱくり──
ひと口食べた瞬間、ほろっと口の中で崩れ、ご飯の美味しさが口いっぱいに広がる。
これっ! これだよ、これ!!
私は心の中で大興奮した。
ステータスから取り出したおにぎりもとても美味しかった。久しぶりにお米を食べれて泣きそうになるほどだった。
でも今食べているおにぎりは──まさに専門店のプロの味……っ!
こんな美味しいおにぎりを、自分の手で作れるなんて……!
【調理】スキル、本当に素晴らしい!!
──はっ! この美味しいおにぎりには、アレだ!
私は再びアイテムボックスを漁る。そして取り出したのは──
「──お待たせしました!」
私はテーブルに、おにぎり二種と温かい豚汁、それに日本茶を並べた。
おにぎりは、ただの料理じゃない。心を込めた“こだわり”の逸品。




