130.護衛と採取と
私たちは、念のためレーヴェも連れて兵士の詰所へ向かった。
すると、ちょうど用事を済ませたらしいロベールさんとダンさんが、前方からやって来るのが見えた。
「ロベールさん、ダンさん!」
「ティアナ様! それに皆さんも……どうされたんですか?」
「あの後、話し合った結果、また相談したいことが出てきて……この後時間ある?」
私が尋ねると、ふたりは顔を見合わせ、ダンさんが口を開く。
「それはちょうど良かった。こっちも話したい事があるんだ。長くなりそうだし、場所を移そう」
そうして、私たちは場所を移動した──。
◆
私たちは、ロベールさん一家が仮住まいに泊まっている宿へ向かった。ダンさんも含めて5人でお邪魔するには少し手狭だが、周囲に話を聞かれたくないので、お店は却下。
屋敷に戻るのは、2人が「緊張してしまう」ということで断られてしまった。
「それで、相談したいってなんなんだ?」
「兵士に護衛を頼みたいの」
「は? なんでだ。レーヴェじゃ駄目なのか?」
ちらりとレーヴェを見て言われたので、慌てて否定する。
「違うの。私の護衛じゃなくて、スラム街の子供たちの護衛というか、見守ってくれる人が欲しいの」
「スラム街の子供たち……?」
ロベールさんが目を見開き聞いてきた。
いきなりスラム街の子供って言われても、意味が分からないよね。
「えっとね……。スラムの子たちって、仕事がなくて食べるのもやっとでしょ? もし安全で簡単な採取作業をお願いできたら、食べ物やお金を渡せるし、生活も少しは楽になるかと思ったの」
私の言葉に、2人は息を呑んだ。
少しの沈黙のあと、ロベールさんが口を開く。
「……ありがとうございます。スラム街のことを気にかけてくれたんですね」
優しい目で見つめられ、思わず照れてしまう。
目線を下げながら続ける。
「さっき、兵士たちが人手不足で大変だって聞いたばかりなのに、仕事を増やすようなことを頼むのは心苦しいんだけど……。
でもね。護衛だけなら冒険者でもいいと思うんだけど、子供相手なら兵士の方が適任かと思ったの」
「素人の子供を働かせたところで、貴重な素材を簡単には採取出来ねえだろうし、護衛を頼む費用や子供たちを見てる手間を考えたら、食事を無料で配った方が楽じゃないか?」
「確かにそうなんだけど、それだとずっと無料で提供しなきゃいけないし、それを止めたらまた今の状態に元通りでしょ?
だから自分たちで稼ぐ方法を知って欲しいの。誰かに頼るだけじゃなくて、自分でお金を稼げることを子供たちに知ってほしい」
私がそこまで話すと「なるほどな」とダンさんは呟き、腕を組んだ。
「それにね、貴重な素材じゃなくていいの。アルカ草を採ってきて欲しくて……」
「……アルカ草?」
思いがけないことだったのだろう。ダンさんもロベールさんも不思議そうにこちらを見る。
「下級ポーションの材料が欲しいのです。下級ポーションを作るにはアルカ草と、ついでに採れるならセージも。とりあえずその2つは、こちらで買い取ります。その他は自分で使ったり、換金してもらって構いません」
リズが補足してくれた。しかし、その説明を聞いて、ダンさんはますます意味がわからないという様子で頭をかいた。
「わざわざ護衛までつけてやるのに、採取した物を頂くんじゃなくて、買い取ってやるのか!?
あんたらにとって、割に合わないだろ?」
「だって、それだと……やる気起きなくない? ご飯をあげるだけでも採取はしてくれるかもしれない。でも、それだと自分がどれくらい頑張ったか、どれ程の成果を達成したか分かりずらいでしょ。ちゃんと成果を出した分だけ報酬をあげたいの。……それにね」
私は笑う。
「ただ親切心でやるわけじゃないの。ちゃんと私たちも損しない……ううん。儲けられる方法をちゃんと考えたのよ」
「儲けられる方法?」
「今、話したように、ちゃんと報酬は払うけどアルカ草とセージなら安いでしょ? それを使って下級ポーションを大量に作るの。そのポーションは兵団に提供するわ」
それを聞いたロベールさんが申し訳なさそうに口を開く。
「兵団は上級はもちろん、中級も下級ポーションも不足してるのでありがたいですが、上級ポーションのこともありますし……大量に買う資金がありません。安くお譲りいただけるんですか?」
「いいえ。正規の値段の2割増よ」
「おいおい……値引きどころか2割増って……」
呆れたように言うダンさん。その言葉を遮るように──。
「でも、そのお金を払うのはッ!
ゴルベーザ・マニュールです!!」
腰に手をあて、エレーネさんが大声で言った。
「……エレーネ」
「すみません。私もかっこいい台詞言ってみたくなっちゃって」
頭痛を押えるようにこめかみを指で押さえるリズが呟くと、エレーネさんが「てへっ!」と聞こえそうな笑顔で言った。
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