127.ずっと求めてたもの
『アイテム一覧』には、さまざまなアイテムがずらりと並んでいた。
その横には、それぞれの所持数が記されている。
──でも、なぜ?
先ほど不足していると表示されたアルカ草。
ならば、井戸水とセージは……?
アイテム一覧に目線をやると、違和感の答えがあった。
アルカ草 × 48
井戸水 × 264
セージ × 132
そこには、井戸水とセージ。
私がが入手したのはアルカ草×49だけなのに……。
下級ポーションを作成したため、それぞれ1個ずつ減っているが、数多く井戸水とセージがある。
それ以外にもたくさんのアイテムが並んでいた。
なんで? なんでこんなにたくさん……?
考えを巡らせるうちに、ある仮説が浮かんだ。
これ、もしかして──
前世の私が『錬金術師になろう』で集めたアイテム!?
何年も前にプレイしたゲームだ。
どれを、どれだけ集めたかなんて覚えていない。
井戸水とセージはあった気がするけど……
オリジナルアイテムもあったはず。でも、それらは見当たらない。
おそらく最初に文字化けしたのが、それだったのだろう。
けれど、井戸水とセージはこの世界にも存在するアイテム。
だから、ゲーム内のデータと融合して、こうして残った──
「えっ!?」
私はある重大なことに気づいた。
アイテムは、あいうえお順に並んでいる。
その中で、
「井戸水」の近くに──
『おにぎり』の文字を見つけた。
……おにぎり?
あの、おにぎり?
別名、おむすび、握り飯とも呼ばれる、あの三角の……!?
この世界には米がない。
当然、おにぎりなんて存在しないと思ってたのに──
でも、ここにある。
私は思わず、おにぎりの文字をタップした。
選択肢が表示される。その中に──
『取り出す』。
私は息をのんで、それを選んだ。
──シュッ!
下級ポーションの小瓶が現れたときと同じように、私の目の前に、おにぎりが現れた。
……おにぎりだ。
私は震える手で、それを受け取る。
そして、そのまま──
ぱくり。
もぐもぐ……もぐもぐ……ごくん。
──おにぎりだ……っ!!
具は何も入っていない。ただの塩むすび。
なのに、こんなに美味しいなんて……!
ずっと食べたかった。
この世界の食事……。
最近こそ色々頑張ったり、ミーナたちのおかげで改善されてるけど、最初は本当にひどかった。
ずっと日本食が恋しかった。
お米を、どれほど求めたことか……!
これだよ……!
また、おにぎりにかぶりつく。
ただの塩むすびが、こんなにも……。
「うぅ……!」
気付くと涙があふれていた。
膝から崩れ落ちる。でも、落としたくない!!
私は咄嗟に、テーブルの皿へとおにぎりを置いた。
その様子を見ていたエレーネさんとリズが、慌てて駆け寄ってくる。
「ティアナ様!? どうされたのですか?」
「まさか……これに毒が!?」
リズが、おにぎりを睨みつける。
「うぅ……美味すぎる!!」
私は涙を拭いながら、叫んだ。
◆
「紛らわしいことをしないでください!!」
……リズに怒られた。
はい、ごめんなさい。
「……あの、これは、なんなんですか?」
エレーネさんは皿の上のおにぎりを不思議そうに、覗き込む。
「えっ? おにぎりだけど?」
「おにぎり……?」
ますます不思議そうな顔をするので、説明をする。
「えっと……米っていう穀物の一種で、私が住んでた国では主食なの。で、その米を炊いて、ぎゅっと三角に握ったものなんだけど……」
「そうなんですか」
うん、この顔はピンときてないね?
だったら……
「よかったら食べてみる?」
たぶん、私が口で説明しても伝わらない。
だったらもう食べてみてもらった方が早いだろ。と思い、提案してみた。
「ええ~~! いいんですか!?」
大袈裟に驚いたあと、顔を輝かせるエレーネさん。
さては、それを期待してたな。
「でも、お口に合うか分からないわよ?」
「大丈夫ですよ! ティアナ様がこれほど感動する味……絶対美味しいはずです。ぜひ、私も体験してみたいです!」
エレーネさんの真剣な眼差し。
その視線に、私は自然と笑顔になる。
「じゃあ、ちょっと待っててね!」
私はもう一度アイテム一覧を開き、新たに『おにぎり』を取り出した。
シュッ!
「わっ……!」
エレーネさんが小さく息をのむ。
宙に浮かんだおにぎりが、ふわりと落ちてくる。
私はそれをそっと手に取り、彼女に差し出した。
「どうぞ!」
「ありがとうございます!」
エレーネさんは、少し緊張した面持ちで、おにぎりを大切そうに両手で受け取る。
「それでは、失礼して……」
そっと口元へ運び、ひと口──。
もぐもぐ……
「……!」
エレーネさんの目が、驚きに見開かれる。
もぐもぐ……ごくん。
「この味は……っ!」
「どう? いける?」
「シンプルなのに、しっかりとした旨みが広がって……お米の甘みと塩加減が絶妙で……おいしいです!」
おにぎりの美味しさに感動するエレーネさん。
その横で、リズは何やら複雑そうな顔をしていた。




