126.2回目の調合
私たちの目の前に浮かぶ、赤いレシピ選択画面。
そこには先ほどまではなかった──
『錬金術のレシピ(中級編)』
『錬金術のレシピ(上級編)』
新たに追加された2つの項目が、初級編の隣に並んでいた。
私は迷わず、それぞれの項目をタップする。
──うん。どちらも、内容が欠けることなく、作成できるアイテム名がしっかりとリストアップされている。
「本当に……『錬金術のレシピ』が取り込まれてますね」
リズが真剣な表情で、ぽつりと呟いた。
画面をそのままにしつつ、私は試したかったことを実行する。
『錬金術のレシピ(初級編)』から、『下級ポーション』を選択。
「……あれ?」
ゲームの感覚で、『つくる』と書いてある丸いボタンを押したが
『アイテムが不足しています。』
その下には赤い文字で『アルカ草』と表示されている。
アイテムが不足してる?
いや……材料は目の前にあるのに……。
そう思いながら、アルカ草の束に手を伸ばした瞬間、別のポップアップが現れた。
----------------------------------------------------------------------
アルカ草を入手しますか?
YES/NO
----------------------------------------------------------------------
入手?
もうアルカ草は手元にあるのに、どういう意味だろう……。
疑問に思いながら、恐る恐る『YES』をタップした。
「わっ!」
次の瞬間、私が触れていたアルカ草の束が、シュッと消えた。
それと同時に、ポップアップの表示が
『アルカ草を入手しました。』
に切り替わった。
(……なにか、おかしい)
胸の奥に引っかかる違和感。
だが、今はそれを考えるよりも、先に進めることを優先することにした。
錬金術のレシピ(初級編)』から、『下級ポーション』を選択する。
すると必要な材料が表示された。
・井戸水 × 265
・セージ × 133
・アルカ草 × 49
まるでゲーム画面のように並んだリストを確認し、私は『つくる』をタップした。
──チャッ!
と、例のBGMが一瞬流れる。
「ん?」
エレーネさんが不思議そうに上を見た。
試しに今度は『つくる』ボタンを長押しする。
──チャッチャチャッチャ~♪
『錬金術師になろう』のBGMが、どこからともなく流れ始めた。
「……なっ! なんですか、この音!?」
やはり、今回はエレーネさんたちにも聞こえたようだ。
エレーネさんが驚いて、音の出処を探そうと上の方をキョロキョロと周囲を見回す。
「……さっき、ティアナ様が動揺してた原因はこれでしたか」
対象的に、リズは落ち着いた声で、ぽつりと呟いた。
そして──画面には新たなポップアップが現れる。
『錬金術師になろう』で調合する時に出てきていた、鍋の中でお湯が煮え立つアニメーションが始まる。
鍋もコンロなしで、これができるの……?
地味に便利過ぎない?
ボタンに触れてる指先が、じんわりと熱くなる。
──魔力が流れているのがわかる。
そのまま長押しし続けると、やはりBGMも流れ続け──
チャチャチャチャチャンっ! チャララランっ♪
音楽が終わると同時に、アニメーションの鍋の中身が水色に変化した!
指を離すべきなのだろうが……私はあえて魔力を流し続け、5秒ほど遅れて指を離した。
すると──
『し、失敗だぁ~。煮込み過ぎだよぉ』
どこからともなく、そんな高音ボイスが響く。
同時に……ポンッ! と小さな爆発音とともに、目の前に小瓶が現れた。
ポップアップが表示される。
『下級ポーションを作成しました。──失敗』
私は、小瓶を手に取り呟く。
「【解析】」
-------------------------------------------------------------------
【下級ポーション(失敗)】
回復薬。怪我や病気を治せる。
(効果)
通常の下級ポーションの30%回復
(品質)
★
-------------------------------------------------------------------
──やっぱり、同じだ。
アイテムの作り方が載った参考書を入手すると、
作れるアイテムがリストに追加され、必要な材料が自動で表示される。
『つくる』ボタンを長押しし、アニメーションやBGMのタイミングに合わせて指を離せば、調合が完了する。
そして、成功か失敗かで変わるボイスメッセージ──
これは、完全に『錬金術師になろう』のシステムそのものだ。
私は2回目の調合で気づいたことを確かめるために、急いで画面を切り替えた。
そして──
「……あった」
目の前に映し出されたのは、『アイテム一覧』。
そこには、先ほどアルカ草だけ『アイテムが不足しています』と表示された時に感じた違和感の答えがあった。
私は『アイテム一覧』にずらりと並んだアイテム名を見つめた──。




