125.消えた『錬金術のレシピ』
「アルカ草……!」
なんで『錬金術師になろう』のレシピ選択画面にアルカ草が?
私は『錬金術師になろう』をやり込んでいた。けれど、ゲーム内ではアルカ草なんて名前には聞き覚えがなかった。
なのに──どうして『錬金術師になろう』には存在しないアイテム名がレシピ選択画面に表示されているの?
「もしかして……」
あることを確かめたくて、一抹の不安と期待を抱きながら、『錬金術のレシピ(初級編)』を手に取る。すると──
----------------------------------------------------------------------
『錬金術のレシピ(初級編)』を覚えますか?
YES/NO
----------------------------------------------------------------------
再び、ポップアップが現れた。
私が確認しようとしてたこととは違うけど……もしも、この世界の【錬金術】が『錬金術師になろう』と同じシステムなら──
迷わず『YES』をタップする。
その瞬間、私が左手に持っていた『錬金術のレシピ(初級編)』がシュッと消えた。
「え!?」
本が消え、驚きの声を上げたのはエレーネさん。
私は無言で、レシピ選択画面を確認する。そして──
「……やっぱり」
私の視線の先には、先ほど手の中から消えた『錬金術のレシピ(初級編)』の項目が、しっかりと表示されていた。
それを選択する。
──表示された作成アイテム名の一覧。
それは、先ほどまでの異常が一切なく、消えた部分も、もちろん文字化けもない。
『錬金術のレシピ(初級編)』に書かれていたであろう作成可能なアイテム名が綺麗に並んでいた。
「錬金術のレシピ本! 私が買ってきた本はどこへ!?」
私が落としたと思ったのか、テーブルの下に潜り込んだエレーネさんが本を探していた。
私はとっさに謝る。
「ごめん、エレーネさん。
たぶん私が『錬金術のレシピ(初級編)』取り込んじゃった」
「へ!?」
ゴンッ!
私が言ったことに驚いたのか、反射的にあげようとしたエレーネさんの頭がテーブルにヒットした。
「……痛っ!」
頭を押さえるエレーネさん。リズがそんなエレーネさんの頭を確認する。
「これは……痛そうね。たんこぶになってるわ。
ちょうどいいわね、これを使ってみましょう」
そう言ってリズが手に持ったのは、私が作ったばかりの下級ポーションだった。
「さぁ、どうぞ」
「え、これ。私が飲むんですか?」
ずずいと渡され、戸惑うエレーネさんにリズは笑顔を向ける。
「ポーションは飲んでも、患部にかけても、どちらでもいいけど……今回は頭だから、頭からかけたらびしょ濡れになるわよ?」
「……わかりました」
ぐいっと、エレーネさんは一気に飲み干した。
眉間に皺を寄せ、舌を出した。
「うぅ……ポーションの味って、苦手ですぅ」
「じゃあ、キャラメル食べる?」
私はテーブルにあったキャラメルを一粒、エレーネさんの口に入れてあげた。
「……! これ、良いですね!」
エレーネさんは、ぱっと笑顔になり、もぐもぐと口を動かす。
「キャラメルのおかげでポーションの嫌な味が嘘みたいに消えましたっ」
「それは良かった!」
「いや、それより……ポーションの効果は?」
リズに突っ込まれ、ハッとするエレーネさん。
「もう全然痛くないです! 凄いです。ちゃんと下級ポーション成功ですね!」
「本当!? よかったー!」
そう言って、喜び合う私たちを見て、リズは呆れたようにため息を吐いた。
「そういえば……」
長いため息のあと、リズがふと考え込みながら言う。
「消えたレシピ本、どこに?
『取り込んじゃった』ってどういうことですか?」
私はしばらく考えてから答えた。
「多分、さっき『錬金術のレシピ(初級編)』を私が覚えたせいで、消えたんだと思う」
「……覚えた?」
リズが首をかしげる。
「えっと……」
どう説明すればいいんだろ。
うん、言葉で言うより、見た方がわかりやすい。見てもらえるかは分からないけど──
「ステータスオープン」
そう言った瞬間、目の前にある半透明なレシピ選択画面が、青から赤に変わりうっすらと《 開示中》の文字。
「な、なんですか、この画面……!」
エレーネさんが驚きの声を上げた。
よかった……ステータスみたいに、このレシピ選択画面も、ちゃんと見せられてるようだ。
そして、私はテーブルに置きっぱなしになっていた『錬金術のレシピ』の中級編と上級編を手に取ると──先ほどと同じように、現れたポップアップ。
----------------------------------------------------------------------
『錬金術のレシピ(中級編)』
『錬金術のレシピ(上級編)』を覚えますか?
YES/NO
----------------------------------------------------------------------
その表示をみて、どちらか……あるいは2人ともか、ゴクリと固唾を呑むのが分かった。
私は、ゆっくりと『YES』を選択する。
その瞬間、私が持っていた2冊の『錬金術のレシピ』が、先ほどと同じように跡形もなく──消えた。




