122.ポーションと【錬金術】
「私も【錬金術】を使ったことないから、よく分からないんだけど、スキル欄には【錬金術】って書いてあるから多分使えるんじゃない?」
「……今度は【錬金術】ですか。本当に規格外ですね」
こめかみを押さえながら、リズがため息混ざりに呟いた。やっと復活したようだ。
「ティアナ様。前にポーションを使って切り傷を直した時は、『ポーションを初めて使った』と言ってましたよね?」
「ええ。使うどころか見るのも初めてだったわ」
この世界ではポーションが普通に使われている。思ったより高価だけど。
元日本人の私にとっては、この前のが初めてだったけど、ジルティアーナの記憶にも怪我や病気のときに使った経験があった。
私の返答に、リズはしばらく考え込んだ。
少ししてから顔を上げ、ゆっくりと話し始めた。
「……ポーションを作るのは、【錬金術】です。
【錬金術】とは、調合を行うことで新たなアイテムを創り出したり、既存のアイテムを変化・強化させるスキルです。
【錬金術】はご存知でしたか?」
「私の世界にもあったみたいだけど……別の国で、大昔に使われていた技術らしいわ。詳しいことは知らないけど。ただ……」
私は考える。こんな話、しても意味無いかもしれないけど……
「ポーションの事を知ってはいたわ。実在する物じゃなく、空想の物としてだけど」
「……空想……ですか?」
「現実には存在しないけど……本とかの空想の物語の中には、怪我や病気を治したり体力を回復させるポーションが出てくることがあったわ」
厳密に言えば、ポーションは水薬だ。咳止め等をポーションと呼ばれる事もあるが、だが今言ってるポーションとは違うと思い、そう説明した。ゲームの事も然りだ。
私の認識としては、ポーションは漫画やライトノベルに出てくる存在だが、それ以上に「ゲームのアイテム」という印象だ。
でもゲームを説明するのが難しいと思い「本の中」とリズ達には伝えた。
「──とりあえず、何か作ってみたらどうですか?」
「え?」
急に言われ、エレーネさんを見た。エレーネさんは私とリズが注目した事を確認し、話を続けた。
「ティアナ様が【錬金術】を使えそう。という事は分かりましたが、どれ程の物が作れるのか分かりませんよね? 色々考えるより、とりあえず作ってみたら良いのではと思ったのですが……」
うん。エレーネさんが言うことはもっともだ。……でも、どうやって?
これまでスキルを使ってきたけれど、【解析】以外は「使った」という実感がなかった。
【前世の記憶】や【翻訳】は、ゲームでいうところのパッシブスキルだ。
特に意識しないで、自動的に使えてしまっている。
【錬金術】と同じく、【生産】の中にあった【調理】は元々以前から慣れ親しんだものだった。
スキルを使おう。と思ってやったわけでもなく、以前と同じ感覚で料理をしてただけだ。
スキルのおかげで、泡立て器が使いやすかったり、砂糖をグラニュー糖に変化させた事はあったが、普通に料理をした流れで使えてしまったので、スキルを使った。という感覚があまりなかったのだ。
【解析】は対象物をみて「【解析】」って言うだけだもんなぁ。【錬金術】が同じように使えるとは思えない。
改めて私のステータスの、【錬金術】の説明を見てみる。
・覚えたレシピによる調合、オリジナルな調合、アイテム強化ができる
覚えたレシピって言われても【調理】と違って、錬金術なんて使った事ないから、錬金術のレシピなんて知らないわよ!
と思い、リズたちに聞いてみた。
「【錬金術】のレシピなんて、私は全く知らないんだけど、ふたりは何か知ってる?」
エレーネさんはすぐに首を振った。
「申し訳ございません。私は知りません。【錬金術師】は希少な天職なので、知ってる人は少ないと思います。でもスキルショップに行けば基本的なレシピはありますよ」
「スキルショップ?」
「天職だけでも何千と種類がありますし、スキルの数はそれ以上です。両親と同じ系統の天職を授かる事が多いですが、そうじゃない事もあります。その為にスキルショップが存在し、そこで多くの天職の基本的な内容を本にまとめた物が販売されてるのです」
「スキルショップ」と聞いて、ゲームに登場する「スキルショップ」を思い浮かべた。
スキルって、買えるの!? そんな期待がよぎったが、そんなに甘くはなかった。
「……井戸水とセージ……」
黙想してたリズが呟いた。
「ん?」
「思い出しました! 井戸水とセージとアルカ草です。この3つの材料で下級ポーションが出来るはずです」
井戸水とセージは分かるけど……アルカ草って? 簡単に手に入る物なのだろうか?
「井戸水とセージはあります。アルカ草は町の雑貨屋で買ってきます!」
そう言い残して、エレーネさんは部屋から出ていった。
……そんな簡単に手に入るんかいっ!




