120.上級ポーション
「あの、少し気になったのですが⋯⋯ロベールさんは魔獣に脚を千切られたれたとかでなく、火傷を負い切断を余儀無くされたんですよね?」
皆の視線がリズに集中した。ロベールさんが「ええ、そうですが⋯⋯」と返したが、なんでそんな質問を? と戸惑っているようだ。
「ポーションはどうされたのですか。使用はできなかったのでしょうか?」
──あ。リズが言いたいことが分かった。
この世界の常識、病気や怪我は回復魔法やポーションで治す。元々、魔法もポーションも存在しない日本で生きた私からしたら、即効性があるそれらも奇跡みたいに思えてしまうが、それには限界がある。
上級ポーションでは普通の骨折くらいの怪我は治せるが、重体だと治りきらなかったり、ロベールさんのように欠損してしまった場合は止血くらいで治すことが出来ない。
でもロベールさんの怪我は、元々は火傷だ。それが原因で脚を切断する事を余儀無くされてしまったが、火傷の段階で上級ポーションなどを使っていれば⋯⋯話を聞いただけなのでどれ程ひどい火傷だったのかは解らないが、完全に治すことは出来ないにしても切断する事は無かったはずだ。
「ポーションは使いました。でも兵団には中級ポーションまでしか支給されてなかったので⋯⋯止血をするのが精一杯でした」
脚を失うなんて大変な事だ。現にロベールさんはそのせいで仕事を失い、スラム街に行くことになってしまったのだ。
脚を失ったせいで、この2年間どれ程大変だったんだろう。スラム街からは出れた。これから私もできる限りのサポートはして行くつもりだ。でも──失くなってしまった脚はもう戻らない。
手の施しようがなかったのならしょうがない。でも脚を残す手段が存在のに、それが使われなかったなんて⋯⋯。
なんで、上級ポーションが用意されていなかったの? だって兵士達は町を守ってくれる為に働いてくれているんでしょ?
上級ポーションというのは、それほど高価だったり希少だったりするのだろうか。
ジルティアーナの記憶にその情報がなかった。上級ポーションの価値を知らない自分の知識不足が、恥ずかしくなった。
悔しさから手を強く握る。するとその手に温かいものを感じた。⋯⋯リズだった。私の思いを汲むようにリズが言った。
「とりあえず⋯⋯上級ポーションを10本程、兵団にお譲りしましょう」
「10本?」
リズの言葉に聞き返したのはダンさんだった。リズがダンさんに応える。
「少なすぎるとは思いますが、直ぐに用意できるのは10本くらいが限界です」
「いやいや、逆ですよ! 10本も譲って頂けるんですか?」
ロベールさんに言われリズは、目を開き少し驚いた様子をみせた。
「冒険者だって高ランクなら、上級ポーションを持ってますよね。 危険を伴う兵団にも必須です。いつ大怪我を負う人がいるか分かりません、なるべく早くお届けした方がいいかと思います」
「まぁ確かに、俺たちのBランクのパーティーだって念の為、最低1本は上級ポーションを持ってたな。
クソ、あの時⋯⋯上級ポーションを俺かロベールが持っていれば⋯⋯ッ」
ダンさんは顔を歪めテーブルを拳で叩いた。そんなダンさんを見てロベールさんは苦い笑いを浮かべる。
「仕方ない事だ。まさか兵士の仕事でこんな怪我を負うなんて、あの時は誰も思わなかったからな。パーティーを解散した時、冒険者を続ける奴に上級ポーションを渡した判断は、間違いじゃなかった筈だ」
そう言って、今はない右脚を見つめた。
タラレバでしかない事はわかってる。
でもやっぱりロベールさんが火傷を負った時に、上級ポーションがあったならば⋯⋯。そう思わずにはいられなかった。
読んでくださりありがとうございます!
この小説を読んで
「面白い!」「続きが気になる!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★とブックマークを押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、作者の更新の励みになります!
よろしくお願いします!




