118.クッキーと2種類のスコーン
クッキーが入った箱を見ていたルトくんが、ネロくんの袖を引っ張って耳打ちをする。
「ねぇねぇ兄ちゃん⋯⋯1個たべてみたいなぁ」
ルトくんは小声で言っているつもりのようだが丸聞こえだ。ネロくんが「えええ? ちょっと待ってな」と、クッキーを出そうとしたので止める。
「それは食べないでね。後で食べる用だから」
私がそう言うと、しょぼんという効果音が聞こえてしまいそうなほど、ルトくんががっかりしたのが分かった。私は慌てて補足する。
「クッキーは、今食べる用のは別に用意してあるからそれを食べてね。あと一緒にスコーンもあるよ」
その言葉に合わせるかのように、リズとエレーネさんが大皿に乗ったクッキーとスコーンをテーブルに置いた。
笑顔になるネロくんとルトくん。それと⋯⋯
「スコーン!? あのレシピノートに書いてあったやつだね」
「ええ。ノートに書いてあったのは、この三角形スコーンよ」
興奮気味にやってきたミーナに、私は答えながら
三角形のスコーンを指した。三角形のスコーンは、レザブというブドウのような果実を干した、干しレザブ入りのものと、ミックスナッツを混ぜたものを用意した。
「こっちの丸いのが、クッキーかい? 大きいめのもあるけど⋯⋯」
「小さいのはクッキーよ。基本のプレーンと、スコーンに使ったナッツが余ったから、ナッツクッキーも作ってみたの。
大きい方のは、それもスコーンよ」
そう。私はレシピノートに載ってた三角形のアメリカンスコーンとは別に、丸い形のイングリッシュスコーンも作ってみたのだ。
食い入るように見ていたミーナに、エレーネさんが一種類ずつ取り分けた皿を渡した。
「結構重いんだね。パンみたいなものかい?」
「そうね。ある国では、三角形のスコーンは朝食にパンの代わりのように食べたりするわ。良かったら食べてみて、ぜひ感想を聞かせてほしいわ」
私とミーナが話してる間に、リズとエレーネさんが取り分けてくれたスコーンとクッキー、それと紅茶を並べてくれた。
席に着き、説明する。
「クッキーと三角形のスコーンはそのまま。丸いスコーンは甘さ控えめだから、そのままでもいいけど横にあるジャムを付けるのがおすすめよ」
食べ方を見せる為に、イングリッシュスコーンを手に取り真ん中にある割れ目から横半分に割った。割った断面にジャムを塗る。苺のような果物、ポワルのジャムを用意した。
ジャムを塗ったイングリッシュスコーンを食べ紅茶を飲み、顔をあげた。
「どうぞ、食べてみて下さい」
皆がそれぞれ、クッキーやスコーンを手に取り食べ始めた。
「⋯⋯っ! このクッキーていうの、あまくておいしい! ね、にいちゃん」
「そうだな。凄いおいしいな」
そう笑い合う、ルトくんとネロくん。良かった。ルトくん達をはじめ、みんなに好評のようだ。
「スコーンも美味いな!? 丸いスコーンは、ティアナちゃんが言ったとおり甘さ控えめだが甘くない分、甘いのが苦手な男なんかに良さそうだし、甘くしたけりゃジャムを付ければいい。てのも面白いな」
「そうね。この丸いスコーンはお貴族様にも良さそうだわ。⋯⋯お貴族様なら蜂蜜をかけても良いかもしれないわね」
「こっちの三角形のは結構甘めだね! ⋯⋯うん。これ、携帯食に良さそうじゃないか?」
食堂の料理人達はそれぞれの意見や感想を言い出した。
(うんうん、なるほどねー。どれも使えそうなアイデアだわ)
そう思っていると、ミーナの「携帯食」の言葉にダンさんとロベールさんが反応した。
「携帯食と言えば干し肉と固いパン⋯⋯パンは普段ならスープに浸けたりするが遠征中は難しいからな。
ただでさえ辛い遠征に、普段よりも不味い食事。でもそんな時に、こんな美味い物が食べれれば⋯⋯」
「俺が、冒険者や兵士の時にこれがあればなぁ⋯⋯」
昔を思い出したのか、ふたりは遠い目をした。
(携帯食かぁ。それならもっとナッツやドライフルーツを入れた方がいいかもな)
そんな事を考えながら、スコーンで水分を奪われた口に紅茶を運んだ。




