117.みんなで食べるナポルケーキ
「コレ、すっごいおいしい⋯⋯っ! こんなおいしいのはじめて食べた。ありがとうティアナお姉ちゃん!」
楽しみにしてたナポルケーキを食べたルトくんは、満面の笑顔で言ってくれた。
可愛いが過ぎる!!
ずっとこのままで居てね。と思わずルトくんを抱きしめる。
「嬉しいことを言ってくれて、こちらこそありがとう。また作ってくるね!」
「ほんと!? 」
わーい! とまた喜んでくれるルトくん。
君の笑顔の為なら、ナポルケーキはもちろん色んなお菓子を作るよっ! 更にぎゅっと抱きしめた。
「こんなおいしいの初めて食べた。か⋯⋯。ルトは、ダンおじさんの料理が1番って言ってくれてたのになぁ」
「仕方ないわよ、このナポルケーキ。ルトが言う通りすっごい美味しいし、さらに味だけじゃなくて見た目も薔薇の花みたいで綺麗だもの。私にとっても1番だわ」
「アンナも⋯⋯昔はお父さんのご飯が1番って、言ってくれてたのになぁ」
ナポルケーキを口に運び、幸せそうに頬に手を当てるアンナを泣きながらダンさんは見ていた。
「どうしたの、お腹でもいたい?」
ステラのそんな声に気付き見ると、美味しそうに食べていたはずのネロくんの手が止まってた。顔も先ほどまでの笑顔ではなく、どこか暗い。
私も心配になり見ていると、ネロくんが首を振った。
「どこも痛くないよ。ただ⋯⋯」
みんなの視線がネロくんに集中する。ネロくんはナポルケーキが3分の1くらい残ってる皿を両手で掴むとポツリと言った。
「ケーキを食べ終わっちゃうのが、寂しくて⋯⋯」
それを聞き、ハッ! とするルトくん。自分の皿を見るとそこにはもうナポルケーキは、ない。
「ぼくはもう、たべおわっちゃったぁ」
と、涙目になり俯いてしまった。そんなルトくんにネロくんは大事に食べてたはずのナポルケーキを差し出す。
「ほら、コレ食べな」
「え! でも兄ちゃんも美味しいって⋯⋯」
「いいよ。だって今日はルトの誕生日会だろ」
本当にネロくんは優しいお兄ちゃんだな。
たぶん今までも、ずっとこうして弟に色んなものを譲ってきたんだろうな。と思うと複雑な気持ちになった。
2人の向こう側では、エレーネさんがナポルケーキが入ってた籠を持ったのを見て、私はネロくんに声をかけた。
「ネロくん大丈夫だよ。それはネロくんが食べてね」
「でも⋯⋯」
「はい、どうぞ」
エレーネさんがルトくんの前に置いたのは、ナポルケーキ。
「え!!」
「本当はひとり1個なんだけど、特別ね」
ルトくんはロベールさんを確認するように見た。
食べて良いよ。と言うように頷くと、ぱぁぁぁぁと顔を輝かせた。
「ルト良かったな!」
自分の事のように嬉しそうにするネロくん、の前にもナポルケーキが置かれた。
「⋯⋯え?」
「ネロくんにも特別」
「でも俺は誕生日じゃないよ?」
戸惑うネロくんに、私は近づき笑いかける。
「そうだけどネロくんは沢山、家族のために頑張ったでしょ。そのご褒美だよ」
「だってそれは、俺は兄貴だから⋯⋯」
先程、ロベールさんにネロくんが言ってた言葉。
『何言ってんだよ。兄貴なんだし、元気なんだから俺が頑張るのは当たり前だろ? これからだって⋯⋯っ』
そうやってずっと、この子は家族の為に頑張ってきたんだ。いつも家族のために働いて、自分が遊びたいのも我慢して、ナポルケーキみたいに自分が食べたくてもルトくんに譲ってきたんだ。
それは凄い事だ。素晴らしいことかもしれない。でも──。
「このケーキはネロくんのだよ。ルトくんの分はちゃんとあるから、ネロくんが食べてね」
「⋯⋯わかった。ありがとう」
少し考えたあと、はにかんだ笑顔でそうこたえてくれた。私はそんなネロくんに、小さな箱を渡す。
「あと、コレ」
「なに?」
「ナポルケーキはね。日持ちしないから今日中に食べなきゃいけないの。でもコレ⋯⋯クッキーなら3日は持つから、ゆっくり食べてね」
ネロくんはクッキーが何か分かっていないのか、不思議そうな顔をして、蓋を開けた。横にいるルトくんもそれを覗く。
「これ⋯⋯っ」
「これって、お菓子!?」
ふたりが目を輝かせ見てきたので、笑顔で答える。
「そうだよ。家族で分けて食べてね」
これからは、譲るばっかりじゃなくて分け合って欲しい。
そんな思いを込めてクッキーを渡した。




