114.家族の思い
そんな事があってルトくんに、皆がルトくんを大切に思っていることを伝える為に、「ルトの誕生日会を盛大にやろう!」となった。
誕生日会はどこでやろう。
最初は屋敷で。と思い付いたが、貴族に慣れてないルトくん達の負担になった元も子もない。じゃあダンさんの食堂で? とも思ったが、特別感を出したくて、このオーベルジュでのお泊まり付き誕生日会を考えた。
もちろん最終決定は、保護者に承諾してもらわないといけないし、何よりルトくんの思いをロベールさんに伝えなければ。
先程ロベールさんの家での話し合った時に、その事も話した。
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『ルトが、そんな事を⋯⋯?』
『ルトが産まれてからロベール達には色んな事が起こり過ぎたからな。ルトが⋯⋯「ぼくのせい」と悩むのも無理は無い』
ダンさんの発言に、本来なら立ち上がる勢いでテーブルを叩き反論する。
『ルトのせいの訳がないだろっ!?』
『もちろんです。ルトくんが悪い訳は絶対にありません。なので提案なのですがこの後、ルトくんのお誕生日会をしませんか?』
『ルトの誕生日会?』
『一日遅れですが、ルトくんのお誕生日を皆でお祝いして、ロベールさんとネロくんはもちろん皆が、ルトくんの事が大好きな事を。ルトくんが産まれてきてくれて嬉しく思ってる事を。たくさん、ルトくんに伝えたいんです』
私の提案に沈黙するロベールさん。返事を待っていると大きく溜息を吐き、頭を抱えた。
『俺は⋯⋯駄目な父親ですね。今、ティアナ様に言われて気付きました。毎年⋯⋯昨日だってルトに「お誕生日おめでとう」とは伝えてはいましたが、それだけで。
ルトの誕生日は、妻の命日と思うと気が落ちてしまい、ちゃんとルトの誕生日を祝ってあげられていませんでした』
やっぱりそうだったか。
貧しく生活が苦しい中でお祝いをするのが難しかったのもあったのだろうが、子供にとっては寂しい。
更にルトくんの場合は、自分の誕生日=お母さんの死んだ日で、産まれた事に対して申し訳ない気持ちがあったのだろう。
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「ぼく⋯⋯ぼくのせいでお母さんはっ。ぼくがうまれたから、ぼくがわがままだから⋯⋯っ」
「ルト、ちがうよ。お母さんが死んだのはルトのせいなんかじゃない」
ルトくんを抱きしめ、ロベールさんは否定したがルトくんには届いていないようで、「ぼくのせいなんだ」と泣き続ける。
そんな様子を、ネロくんも不安そうに見ていた。
「そうだね」
ルトくんの泣き声が止まる。ルトくんが目にたくさんの涙を貯めながら見つめた先には、エレーネさんが居た。
エレーネさんはゆっくりと近寄るとルトくんと目線を合わせるように、しゃがんだ。
「ルトくんの言う通り、ルトくんを産まなければ、お母さんはまだ生きてたかもしれない」
「なにを⋯っ」
「ねぇルトくん」
ロベールさんがエレーネさんの言葉に反論しようとしたようだが、エレーネさんはルトくんの目を見ながら構わず続けた。
「お父さんの脚が無いせいで大変な事が多いよね、そんなお父さんは嫌? 脚がある違うお父さんがいいと思う?」
「そんなわけないっ! 脚がなくてもぼくの父ちゃんがいい⋯⋯っ」
「そうだよね。でもそれはお父さんとお兄ちゃんも同じだよ。ルトくんが大切で、ルトくんにいて欲しいと思ってるんじゃない? だってさっきお父さんが言ってたじゃない。『大好き』って、『生まれてきてくれてありがとう』って。お父さんは凄いルトくんの事が好きなんだね」
そうですよね? と、エレーネさんはロベールさんとネロくんに聞くように2人をみた。ロベールさんが頷くのを確認し、「ほらね」と微笑むと続ける。
「お父さんたちとは違って、もう死んでしまったお母さんに聞くことはできないけど、お母さんもきっと同じだよ」
「え⋯⋯?」
「お母さんもルトくんの事が大好きだから、自分が死んででも産んでくれたんだよ。きっと誰よりもルトくんに幸せになって欲しいって、願ってる」
「そう⋯⋯なのかなぁ」
またポロポロとルトくんの目から涙が落ちた時、
「ルトのバカっ!」
ネロくんが叫んだ。
ネロくんは目を潤ませながらルトくんを睨む。
「オレも父ちゃんも、母ちゃんだってルトの事が好きだ! 母ちゃんが死んだのはルトのせいじゃない。元々身体が弱くて、俺を産むだけでも大変だったのに⋯⋯自分は長く生きられないだろうから、せめて俺が寂しくならないように。って、兄弟をつくってくれたんだ! でも結局⋯⋯っ」
そこまで言うと悔しそうに俯いたが、拳に力を込め真っ直ぐルトくんをみた。
「母ちゃんは、ルトに会えるのを凄い楽しみにしてたよ。大きくなったお腹を撫でながら、『早く出ておいで。大好きだよ』って、いつも笑ってた」
「ルト」
ロベールさんは名前を呼ぶと同時にルトくんを抱きしめた。その腕にぎゅっと力を込めるのが分かった。
「ごめんな、お父さん⋯⋯お前がそんな風に思ってることに気付いてなかった。ネロとエレーネさんの言う通りだ。お母さんはお前が生まれるのを。お前と会えるのを、とても楽しみにしてた⋯⋯っ」
ルトくんの肩に埋めていた顔をあげると、ルトくんの顔をみて、はっきり言った。
「俺は⋯⋯いや、俺たちはルトが生まれたせいで不幸になったんじゃない。ルトが生まれてきたおかげで幸せになれたんだよ!」
ロベールさんはネロくんも引き寄せると、改めてふたりを抱きしめた。




