112.ロベールの杖
「ネロ、ルト」
私とリズ、ロベールさんは市場に居たレーヴェ達3人を見付け、ロベールさんが声をかけた。それに気付いたルトくんが嬉しそうに駆け寄ってきて、手に持っていたフルーツジュースを差し出す。
「父ちゃん! コレすごーくおいしいの。父ちゃんも飲んでみて!」
「ありがとうルト。でも、そんなに美味しいならルトが全部飲みな」
すると何故か、ルトくんはしょんぼりとする。コップを両手で握りしめポツリと言った。
「でも……おいしすぎるから、父ちゃんにも飲んでほしいの」
何それ、かわいっ!
ロベールさんも我が子の可愛さに、きゅんっとしているのが分かる。ルトくんが持ってるコップを受け取り、一口飲んだ。
「本当だ。ルトが言ったとおり、すっごく美味いな」
「でしょ!?」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。可愛さにほっこりしてるとネロくんとレーヴェもやってきた。ネロくんはロベールさんを見て、目を見開く。
「父ちゃん、その杖どうしたの?」
「ティアナ様が木工工房で注文して下さったんだ。松葉杖っていうらしい」
右手を杖ごとあげて見せる。実はロベールさんと最初にあった時から気になってたのが、杖。
ロベールさんが使ってたのは、お年寄りが持ってるような普通の杖だったのだ。ちょっと足が悪い程度ならいいけど、しっかり身体を支えなきゃいけないロベールさんには不向きだろう。
「これなら一緒に出かけられそうだね!」
「えっ、ほんと?」
ネロくんが言ったことにルトくんが目を輝かせ松葉杖を見にくる。
今までは杖が使いずらく少し出掛けるだけでも大変な為に、ロベールさんは家から出る事は殆どなかったという。これからはもっと自由に動けるようになるかもしれない。
そんな事を思ってると、ルトくんがソワソワし始めた。
「父ちゃん、お姉さん達とのおはなしは終わった? 終わったなら、はやくお家にかえろっ」
「ルト、ティアナさんがくれたケーキが早く食べたいんだろ?」
「うー……だっておいしそうだったんだもん!」
あら。嬉しい! ……でもね。
「ルト、ティアナ様が下さったケーキは……別の場所で食べよう」
優しく微笑んだロベールさんに、そう言われたふたりは不思議そうな顔をしながらも「わかった」と頷いた。
◆
「てっきりダンおじさんの食堂に行くのかと思ったんだけど……どこ行くの?」
私たちは賑やかな市場を抜け、町の中心部へ向かう。ロベールさんはネロくんの問いには答えず、新しい松葉杖を器用に使いこなしどんどん進む。
(良かった、ちゃんと使えているみたいだ)
しばらく歩くと、ロベールさんが一軒の店の前で止まった。
「ここって……え、父ちゃん!?」
ロベールさんがそのまま入口へ進んでいくと、ドアマンがドアをあけ誘導してくれた。
それをぽかんとした後、おろおろしたネロくん。私は「大丈夫だよ」と肩を叩き中へと促した。
「うわー。すごいね、兄ちゃん!」
「あ、ああ……」
ルトくんが嬉しそうに周りを見回す一方、ネロくんは不安げだ。ここは、クリスディアの町で評判のオーベルジュ。宿泊施設を備えたレストランだ。
ロベールさんはロビーの中央にある大きな階段に向かい、そのまま上り始める。
「父ちゃん!? 大丈夫?」
「ああ、松葉杖だとちゃんと身体を支えられるからな。余裕だよ」
にやりと笑いながら、一段ずつ松葉杖を使って登ってく。ルトくんはロベールさんに駆け寄り、会話をしながら階段を上がった。
下からそれを見つめるネロくんがぽつりと呟く。
「父ちゃんが、自分で階段を上るなんて……よかった」
それを聞きながら、私たちは更に進む。2階の廊下の先、ある客室の前に止まりロベールさんがノックをするとドアが開いた。
「ダンおじさん!?」
「おう。ネロ、ルトおかえり」
中から現れたのはダンさんだった。
「え? ……ただ、いま??」
戸惑うネロくん。するとダンさんの後ろからさらに別の人物が顔を出した。
「ルトくん!」
「エレーネお姉ちゃん!」
エレーネさんはルトくんの手を掴むと、ロベールさんに笑顔を向ける。
「では、ルトくんをお預かりしますね」
「よろしくお願いします」
そう言ってルト君を、奥の部屋へ連れていった。驚き固まるネロくんが、しばらくして口を開いた。
「父ちゃん……エレーネさんといつの間に知り合ったの?」
「ついさっきだよ。詳しい話しは、この後な」
そう言ってエレーネさんとルトくんが行ったのとは別の部屋へ入った。




