107.思わぬ収穫
「こ······これは······っ!」
色んな料理をたくさん食べさせてもらいお腹も膨れてきた頃、私は目の前に置かれたものに衝撃を受けた。一緒に、それを見た皆は固まり「これ······食べて大丈夫なんですか?」と誰かが呟くのが聞こえた。
「お父さん、さすがにコレはないわ」
「いやぁ。普通なら出したら怒られそうなお貴族様が食べないような俺たちのメシを、あまりに美味しそうに食べてくれるから嬉しくて······、つい」
「ついじゃないわよっ! ティアナ様、こんな物をお出しして申し訳ございませんっ」
ダンさんとそんな会話をしてたアンナが私の前に置かれた、黒くてトゲトゲな物を回収しようと手を出したので、制止した。
「コレって······ウニよね?」
「そうです! 俺の好物なんですよ」
「ウニまで知ってるなんて、さすがティアナ様だね。珍味だから平民でも地元の漁師くらいしか知らないんだけど、ダンは気に入った客を見つけると自分が好きだからって出しちゃうんだよ」
あら、嬉しい。どうやら私はダンさんに受け入れられたようだ。
「こんなトゲだらけなモノを、どうやって食べるんですか? 食べたらこのトゲ刺さりませんか?」
「トゲのような殻は食べれません。中の身を食べるんですよ。見た目も味も好き嫌いが激しく別れる食材なので注意して······無理しないで下さいね」
レーヴェの疑問にアンナが諦めたように、ウニを食べる為の準備をしながら、答えた。そんな話しをしているうちにウニが捌けたらしい。
「「「「!!!?」」」」
先程の殻付きの状態をみて困惑。という顔をしていた皆は、捌かれたウニの中身をみて、今度は驚愕! という表情だ。レーヴェがそんな顔のまま、アンナを見る。
「これを······食べるんですか!?」
「だから言ったじゃないですか。見た目も好き嫌い分かれるって」
小さく「私は苦手です」というアンナの声が聞こえた。
ウニを見つめる。中身はあの独特なつぶつぶした形状でオレンジ色。外の殻といい私が知ってる通りのウニである。同じものと思って良さそうだ。
「······っ!」
私はスプーンでひと口食べて、口を押さえた。そんな私をみてアンナが慌てた様子で水を持ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「おいしい!」
アンナの声と私の声が重なった。私はダンさんをみる。
「ダンさん! このウニ、まったく臭みもないし、甘みもあって濃厚で凄い美味しいっ」
「それは良かった! じゃあ今、もっと捌くから酒でも飲んでまってて下さい」
「やった! よろしくお願いします」
ダンさんが沢山ウニを捌いてくれた後は、ダンさん達家族にもテーブルについてもらい一緒にご飯とお酒を飲んだ。
◆
「アンナはともかくミーナが貴族の屋敷で働くなんて失礼な事をするんじゃないか不安だったが、ティアナちゃんが居るの所なら安心だな! これからもミーナとアンナをよろしく頼む」
「失礼な対応してるのは今のお父さんでしょ! 言葉遣いもだけど、ティアナちゃんって······」
「大丈夫だ。ウニ好きに悪いやつはいねぇ!!
ティアナちゃんがそれで良いって言ってくれたんだよ。なぁ?」
うむ、だいぶ酔ってるようだ。私としては緊張して話されるより気軽に話してくれて嬉しい。そして更に······
「いやぁ、ほんとウニ仲間が増えて嬉しいぜ。それもまさか、元々知ってたとは······。今度はウニ以外にも······そうだな、今度は牡蠣でも用意するから食べてみてくれよな」
「牡蠣? 牡蠣もあるの!? ぜひ、よろしくお願いします」
思わぬ収穫だ。まさか、この世界でウニと牡蠣が食べれるなんて······っ! ちなみにウニはリズとレーヴェは美味しいと言ってくれたが、エレーネさんとステラには不評だった。
その後は結局、昼ごはんだけでなく結局夕飯までご馳走になり夜まで飲んだ。酒の力を借りれたおかげか本音で食堂の3人と、色々な話が出来たのだった。




