106.ネロ達の生活
今日、2回目の更新なのでご注意ください。
ネロくんとルトくんは解放し、帰宅させた。
そのあと食堂内のテーブルに案内されると、ダンさんがまたまた頭を下げた。だけど今度は私たちではなく、レーヴェに向かって下げられてた。
「獣人だからって、一方的にネロに悪さをしてると思い込んで怒鳴っちまった。ゴメン!」
······獣人って気付く前から怒鳴ってた気もするが、まぁいいか。獣人だからって差別すんのか、このマッチョめ! と思っていたが、素直に謝るダンさんに好感度が上がる。
「でも本当、肝が冷えたよ。ネロが知らなかったとはいえ貴族のお金を盗むなんて······相手がエレーネさん達だから良かったけどね」
ミーナが言った事に青ざめたのはダンさんだ。
「おま······っ! 何言ってんだ!! いくら寛大にお許し頂いたからといって、そんな言い方······」
「いいんだよ。私は。ダンとアンナと違って丁寧な言葉は使えないし、無理に使おうとすると上手く話せなくなっちゃうから。ティアナ様達が普通に喋っていいって許可してくれたんだよ。ね? ティアナ様」
たぶんダンさんが焦ってるのは言葉遣いの問題もあるが、それ以上に内容を気にしてるんだと思うんだけど。
にっこり笑うミーナに対し、ダンが信じられないという顔で私たちを見てきたので「そうなのよ」と同意する。それを聞いて、えええええー···マジで? という感じのダンさんは放っておいて、エレーネさんが言う。
「でもミーナさんが言うことはもっともです。たまたま相手が私達で、ティアナ様達が優しい方なので良かったですが······。
もしも私の雇い主が酷い貴族だったら······ネロくんはもちろんの事、ネロくんの家族も私も、もしかしたら関わってしまったダンさん達ご家族だってみーんな殺された可能性もあります。そう考えるとぞっとしますよ」
その言葉に食堂内は静まり返った。そんな中ボソリとダンさんが「そうだよな、ネロを含めスラム街の子供たちに注意しとかないと······」と呟いた。思わず聞く。
「スラム街?」
「ロベールおじさんが脚を失くしたから、収入も殆どなくて······それからネロ達はスラム街に住んでるんです」
「それでもネロ達はまだマシな方さ。私たちがネロとルトにできるような仕事を与えて、少ないけど給料も食事もあげてるからね」
そう言って、ミーナとアンナは表情を曇らせた。ダンさんが腕を組み眉間に皺を寄せる。
「俺も、ロベールがスラム街に行くまであそこの現状を知らなかったが······、ロベールのような障害があったりして仕事が出来ない奴や孤児たちばかりで悲惨だよ。運良く生き延びて孤児が大人になっても、コネも信用もないからまともな仕事にも付けねぇしな。
それこそ······、嫌な話だが盗みとか悪い事をしなきゃ食ってけない」
「ちょっと待って。ロベールさんは兵士の仕事で脚を失ったのよね?」
「はい。そうですが······?」
私の疑問に、「それが何か?」という感じに不思議そうな顔で3人に見られてしまった。私は気になった事をこのまま口に出すのはマズイ気がして立ち上がり、リズの肩を叩くと食堂の端まで移動した。
「ねぇ、冒険者なら分かるけど、兵士なら領主に雇われてた······いわば公務員みたいなものよね? なのに障害者になってもなんの補償もないの?」
「公務員というのがよく分かりませんが······、冒険者でも兵士でも補償等はなく、脚を失ったなら仕事も出来ないので、家族が養ってくれない限りスラム行きですね。家で出来る手仕事が得意であれば良いですが······。冒険者や兵士の時点でそんな人はまず居ないので、難しいです」
そうなんだ······。と暗い気持ちになりながら席に戻った。そんな私を見て、ミーナがパンっ! と手を叩く。
「ところで昼を過ぎたけど、みんな昼ごはんはもう食べたのかい?」
「いえ、まだだけど」
「だったら私達もこれから昼ごはんにするんだけど、客を突然返したからさ。作っちゃったものとか、作りかけの食材が余ってるんだよ。一緒にどうだい? ご馳走するよ!」
「おい、まてっ! お嬢様方にうちの平民向けの料理なんて······」
「え、ほんとに? ミーナ達の食堂料理食べてみたかったの」
やったー! と喜ぶ私とミーナの会話を聞いて、止めようとしてたダンは、また「マジかよ······」というような顔をして黙り、アンナが「諦めて」と言わんばかりに父の肩を叩いた。
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