103.財布の行方
とりあえず落ち着こうと、屋台ではなく市場の端にある喫茶店に入った。
「申し訳ございません······っ!」
「エレーネさんは悪くありません! 盗むなんてひどいですっ」
私とリズに謝罪するエレーネさんを、ステラがぷひぷひと怒りながらフォローする。どうやら、ただぶつかっただけではなくスリに遭ったらしい。エレーネさんは「預かっていたお金を失くしてしまった」とひどく落ち込んでいた。
「お金のことよりも、エレーネさんにケガがなくてよかったわ」
「ティアナ様······!」
そんな話をしていると注文した紅茶などが運ばれてきたので、それを頂いた。飲み終わり
(美味しかったけど、お茶はやっぱりリズが入れてくれたのが1番だな)
なんて思っていると、エレーネさんがティーカップをソーサーに置くと顔をあげた。
「あ──っ! なんか落ち着いたら、ムカついてきましたっ!」
「恐らくは、ぶつかってきた子供が犯人でしょうね」
レーヴェの言葉に先ほど走り去って行った子供の後ろ姿が脳裏に浮かんだ。だが皆も見てなかったり、見てても私と同じく後ろ姿しかみてない。と言うので犯人を捕まえるのは難しいだろう。······と、思っていたがレーヴェが続けた。
「捕まえに行きましょうか?」
「え、どうやって?」
私は反射的に聞いた。皆も同じように思ってるようだ視線がレーヴェに集中する。
「俺のスキル【嗅覚】を使えば、財布が捨てたりされて無ければですけど、エレーネさんの匂いを辿って探し出せると思います」
◆
「こっちです」
鼻をクンクンさせながら、レーヴェが進みその後を私達が追う。市場から外れ、静かな住宅街をどんどん進み、住宅街も通り抜けた先。海に近付いてきたと思うと、賑やかな声が聞こえてきた。
どうやら食堂のようだ。昼間から酒でも飲んでいるのか中からは陽気な男たちの声が聞こえてくる。
食堂に近付き······見付けたっ! さっきの青髪の子供に似た子供が、青髪の子より年下にみえるオレンジ色の髪の男の子とふたりで食堂の外に置かれたテーブルに座り食事をしていた。
「兄ちゃん! やっぱりダンおじさんのごはんは、おいしいねっ」
「だよな。今日はいっぱい食べても良いからな」
「え!? 本当に?」
「ああ、今日は······臨時収入があったからな!」
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
話していた二人の子供の、青髪の少年の背後にレーヴェが立った。
「うわぁ! なんだよ、お前!!」
レーヴェは片手で少年の腕を掴みあげ立ちあげさせたかと思うと、もう片方の手を少年のポケットに突っ込んだ。
「やめろ!! 離せよっ」
少年が暴れるが大人の······それも獣人の力に敵うはずがなく、少年のポケットから出されたレーヴェの手には財布が握られていた。
「あ! 私のお財布!!」
「やべっ」
少年がエレーネさんに気が付き、逃げようと更にジタバタと暴れる。レーヴェから財布を受け取ったエレーネさんは急いで中身を確認した。
「よかった······ちゃんとお金は残ってます」
ホッとした様子で笑顔を浮かべ、財布を握りしめた。うん。よかった、よかった。でも、犯人······少年をどうしてくれようか。そう思ってると大きな声が聞こえた。
「おい! お前、ネロに何してんだ!?」
その声にビクリと声の主をみると、大柄のマッチョ男が居た。エプロンを着けているところをみると食堂の人だろうか? マッチョの後ろには先程、ここで食事をしていたオレンジ色の髪の少年がみえた。
マッチョがズンズン大股でレーヴェに近付き肩を掴んだがビクともしなかった。さすがレーヴェっ! ムッとしたマッチョの目がレーヴェの耳をとらえた。
「お前······獣人か? 獣人が子供に何してやがる! 離してやれ、痛がってるじゃないか!!」
その言葉にむっとする。ここでもやっぱり獣人は良く思われてないのか、そう思っているとエレーネさんが叫んだ。
「この人は悪くありません! その子が私の財布を盗んだから、取り返してくれたんです!」
「······は??」
ぽかんとエレーネさんを見つめるマッチョ。するとプルプル震え、先程から怒っていたが更に恐ろしい顔で青髪の少年をみた。
「ネロ!! お前、このお嬢さんが言ってる事はは本当か!?」
「う······。ご、ごめんなさい、ダンおじさん」
「なんでそんな事したんだ? さては、さっき臨時収入って言ってたのは······クソッ! 腹が減ったなら俺が食わせてやるから悪いことはするなと言っただろ!!」
レーヴェが少年を捕まえた時点で周りの客から注目されていたのに、マッチョが怒鳴るせいで更に注目が集まる。そろそろ止めた方がいいかな? と思っていると、また別の怒鳴り声が聞こえた。
「あんたぁぁっ!! なにしてんだい。あんたの声が店中まで響いてるよっ! 今日は私とアンナがたまたま居るから良いけど、さっさと戻ってこないと店が回らない······て、あああ!!」
最後に言った「あああ!!」は私を指差し言われた。そこには、私たちを見つめ驚愕の表情をしたミーナがいた。




