第六話 ~前田利家~
<永禄3年(1560年)五月二十日 尾張国 春日井郡 清州城 自宅>
俺は前田利家の助けを受けて、信長の居城である清州城の一角に家を間借りした。掘っ立て小屋に毛が生えたような家だが、贅沢は言ってられないな。
とりあえずは利家の配下となって、仕事を覚えることから働くことになるようだ。
「何で先輩と二人暮らしなんですかっ!? まるで、ふ、ふ、夫婦みたいじゃないですかっ!」
「仕方ないだろ。」
琴美ちゃんは事態を全く呑み込めていなかった。持っていたスマホで何度も位置情報を検索しようとしていたが、当然圏外。ソーラー充電付きなので時計とかアラームといった機能は使えるが、ググールとかのポータルサイトはまったくの無反応だ。
「とりあえずさ。俺、信長の配下になったから! 頑張って『名武将』になってみせるよ!」
「はぁ。意味が分かりません。これだから男の人って……」
呆れ顔の琴美ちゃん。男のロマンってのが分からないみたいだ。
「まぁ、とりあえず家のことはやっておきますから! 先輩は『名武将』とやらに早くなってくださいね。あ、あと、この線から一歩でも入ったら警察呼びますよ!」
「……警察なんか、いる訳ないじゃん」
俺は借りた着物に着替えると、上司である前田利家の家へ向かった。
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<永禄3年(1560年)五月二十日 尾張国 春日井郡 清州城 前田利家 宅>
「おおう! 似合うではないか!」
俺の上司となった又左こと前田利家は、自分の古着を着た俺を見て笑顔で出迎えてくれた。
「ありがとうございます。ピッタリです。」
「儂は見ての通りの大柄でのう。お主ぐらいじゃ、儂と肩を並べることができる者は!」
「本当にそうですわねえ。お前様。」
利家の奥さんらしき可愛らしい女の人がコロコロと笑った。胸には可愛い赤ちゃんを抱いている。女の子かな?
というか、この人「まつ」様!? NMKの再放送で松〇菜々子が演じてた超有名人じゃん! 見た目はすっごく幼い。中学生くらいじゃない? 戦国時代だからか子どもを産むのが早いっ!
あまりにもまつ様をじろじろと眺める俺を見て、利家はさらに笑った。
「こらこら。いかに『まつ』が美しゅうても、誰にもやらんぞ! お主には『琴』という立派な妻がいるではないか!」
「は、はは」
俺は乾いた笑いを浮かべた。警察を呼ばれそうになりましたが。
利家に聞く所によると、俺が配属されたのは信長の親衛隊馬廻衆の一つ、「赤母衣衆」だと言う。十名しかいないうちの一人になったのだから、これは大抜擢だ。筆頭には前田利家が返り咲いたらしい。「どうして外されていたの?」と聞くと「いけすかない拾阿弥という奴を殺したら、怒られてしまってのう!!」と豪快に笑った利家。ヤンチャだなあ。でも裏表のない気持ちのいい上司だ。家中の者からも信頼が篤い。仲良くやれそうだ。
馬廻衆にはもう一つ、「黒母衣衆」というのがあるらしい。筆頭は「与四郎」と呼ばれていた河尻秀降という武将だ。聞いたことがあるな。
「赤母衣衆」と「黒母衣衆」は、役割は同じだけれども分かれている。これは二つの組織を競わせてライバル心を煽り、相乗効果をねらっているのか? だとしたら、やはり信長様は素晴らしくやり手だな。
「どれ、今日はお主と二人で、清州の町を散策するとするか! 酒は飲めるのであろう?」
「は? は、はい!」
「ははっ! では参ろうぞ!」
本当は親戚が集まった時になめたぐらいなんだけど。
俺は豪快な上司と清州の町へと繰り出した。
前田利家とまつ
「槍の又左」「イヌ」などと呼ばれた前田利家は、戦国武将の中でも特に輝かしい武将の一人です。
幼名「犬千代」から「イヌ」と呼ばれた前田利家。前田利春の四男として生まれ、14才で信長の所へ小姓として奉公に出されます。
182cmの巨漢で、端正な顔立ち。どうやら信長とxxxな仲だったとか。この頃の嗜みなので仕方ないですね。赤母衣衆、拾阿弥殺しなどは史実から引用しました。実際に奉公を許されたのは桶狭間後よりも、もうちょっと先だったようです。
史実では信長の信頼篤く、信長の死後は秀吉に仕え、さらに加賀百万石の礎を築いた武将なのは誰もが知っている所でしょう。
まつ様は前田利家の従兄妹。数え年12才で前田利家に嫁ぎ、すぐに長女・幸を産んでいます。満11歳11か月で出産と言いますから、驚きですね。




