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47話 泣き下手と例の場所


 ――ArromA(アロマ)の皆を自宅に招いた数日後。休日である。

 各々のスケジュール調整がつき、俺は双子姉妹とArromAを連れて出かけることになった。

 紅愛と白愛の下着を買いに行くのである。

 あの話、マジだったのな……。


「今日はよろしくお願いしまーす!」

「うん。よろしく」


 イルミネイト・プロダクションの駐車場――。

 帽子、眼鏡にマスク姿と、プライベート用の装いでArromAメンバーが挨拶してくる。さすが現役アイドル。変装していても私服姿は可愛らしい。紅愛、白愛と並ぶとより華やかさが増す。


「うわ、でっかい車!? ごっつ!?」

「これならちょっとやそっとのトラブルじゃ壊れないっすねー。めっちゃ他の車が避けていきそう」

「わわわ……世紀末車……」

「コレでパパがサングラスかけるともっとすごいよ?」

「え? それちょっと見てみたいかも」

「卒倒しないでくださいね。桜庭さん」


 ……年頃の少女が5人揃えば、やはりかしましい。

 きゃいきゃいと楽しそうな彼女らに、「出発するから乗ってくれー」と声をかける俺。

 

 無意識に、頬が緩んでいた。


 ここ数日、俺は千波さんの意向もあり仕事を休んでいた。その分、紅愛と白愛と一緒にいる時間を可能な限り取るようにしたのだ。

 当然、送り迎えは付きっ切り。オフの時間は自宅にこもるようにした。


 学校からも協力を得た。

 星乃台高校生徒会や校長先生、教頭先生のはからいで、日中の時間帯も生徒会室や応接間に滞在することを許されたのだ。ありがたいことだ。

 正直、カイトの件があってから紅愛と白愛からいっときたりとも目を離したくないと思う。少なくとも、カイトに何らかの処分が下り、ほとぼりが冷めるまでは。そのために、俺は休業中も各方面と綿密に連絡を取り続けている。


 そんな中で、今日の買い物だ。


 朝仲さんは「息抜きにはちょうどいいタイミングでしょう」と言ってOKを出してくれた。俺も同感である。気の置けない友人たちと談笑する双子姉妹は、とても自然な笑顔を見せていた。

 ここ数日、どことなく表情が硬かったのを俺は心配していたのだ。


 紅愛と陽光のご要望通りサングラスをかける俺。背後から変な声が上がるのを聞きながら、出発前にスマホを確認する。

 すると、助手席に座った白愛がちらりと横目で見てきた。彼女の手にもスマホがある。


「父様? これはどういうことですか?」

「これ、とは?」

「これです。生徒会のグループチャットのことです」


 そう言ってスマホを掲げる白愛。

 そこには、星乃台高校生徒会メンバーで作るグループチャット画面が映っていた。たった今、俺が打ち込んだやり取りが既読表示されている。

 直前に俺がやり取りしたのは一ノ瀬さんだった。


「父様、いつの間に一ノ瀬さんと仲良くなったんです? 『すごいですね! 今度私にもレシピを教えて下さい!』――って、ずいぶんフレンドリーではないですか?」

「ああ。一ノ瀬さん、料理が得意っていうからさ。画像を送り合ってたんだ。……というか白愛。お前もグループに入ってるんだから、やり取りの中身は知ってるだろ?」

「だとしても、距離の詰め方が異常です。ほんの一週間くらい前は気絶させたのに」

「それはあんまり思い出させないで欲しい」


 げんなりしながら、車のエンジンをかける俺。

 すると今度は、後ろから腕が伸びてきて首に絡んできた。紅愛だ。


「なーんか、やたらと親しげなんだよねー。何でかなー?」

「一ノ瀬さんは真面目だからな。気絶してしまったことをずいぶん気に病んでたから、できるだけ早く関係修復したいと思ったんだろう。たまたま得意なものが似通ってて、話してみると気が合ったってところじゃないか?」

「ふーん。そんな他人事みたいに言うんだー。ふーん。そういえば真理佳ちゃん、パパのことを『真面目で優しい方なんですね。見直しました』って言ってたもんねいつの間にかねーどうしてかなー?」

「能登さんサイテー」

「これは万死に値するっすね」

「はわわ……スケコマシー……!」

「出発します!!」


 いくら何でも5対1ってひどくない?

 こういうときにはなには連絡つかないし。用件が用件だから、彼女にも同行して欲しかったんだが。

 そういえば、グループチャットには必ずと言って良いほど常駐している蓬莱さんも、今日はいなかったな。家族で旅行にでも出かけているのだろうか。


 気を取り直して、車を発進させる。


「……それで、どこに行けばよろしいでしょうかねお嬢さん方。まだ買い物する場所を聞いてないんだが」

「じゃあココ! ココでお願いします」


 そう言って、陽光が後ろからスマホの画面を見せてくる。どうやら商店街周辺の店のようだ。喫茶店アルテナにも近い。日常的な行動範囲エリアだ。

 それでも、俺は眉をひそめた。


 この店、どこかで……?


 車を近くのパーキングに停め、スマホ片手に商店街を歩く。相変わらずかしましい少女たちの中、紅愛が何となく引き攣った表情になっていた。

 引率する俺の袖を引いて囁く。


「ねえパパ……もしかして陽光ちゃんが提案したお店って」

「どうやら間違いなさそうだな」


 俺もまたげんなりしながら応える。


 先導する陽光が、とある店の前で「じゃん!」と両手を広げた。


「ここだよ、目当てのお店! どう、シャレオツでしょ?」

「シャレオツ……いやまあ、確かにそうなんだけど」


 俺と紅愛は頬をピクピクさせながら店の外観を見る。

 そこはかつて、紅愛と白愛とともに『デート』で訪れたブティックだったのだ。


(……あの店員さん、まかり間違って今日休んでないかな)


 はかない俺の希望をあっさり裏切り、店内から女性店員が出てくる。にこやかな微笑み、隙のない立ち居振る舞い、そして――。


「我が領域に足を踏み入れし(つわもの)どもは貴女がたか。よくぞ参られた」

「やっぱりノリノリじゃねえか!」


 マジトーンでのボケ。


 バラエティーの素質を備えたあの(・・)店員さん、再登場である。

 ……覚えてたのね、紅愛とのやり取り。





【47話あとがき】


芸人より芸人らしい店員さんがあらわれた!――というお話。

以前訪れた客とのやり取りを再現するなんて、これはこれでデキる接客なのか?

ArromAと店員さんにどんな繋がりが?

それは次のエピソードで。

この5人、商店街を歩いていたら滅茶苦茶目立たない?と思って頂けたら(頂けなくても)……


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