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42話 泣き下手姉妹の告白と生徒会 1


 一方、少し時を(さかのぼ)って――。

 勝剛を見送った双子たちは、再び生徒会室に集まっていた。


「はぁ。パ――能登さん、格好よかったなあ……」

「ええまったく。こんなことなら写真撮っておくんでしたね。きっとあの一瞬だけでストレージがパンクしていたでしょう」


 席に腰掛けて一息つくなり、うっとりと呟く紅愛と白愛。

 そんな彼女らに、田中が何気なく話しかけた。


「やはり勝さんのことが好きなんだな、ふたりとも」

「…………え?」

「…………え?」

「え? そんなポカンとすることか? ちょっと前に同じこと聞いただろう、俺は」


 備品のポットからお茶を()ぎながら言う田中。

 コポコポコポ……とポットが音を立てる。それしか聞こえない沈黙の空間。

 田中はお茶を一口すすり、「(あっつ)っ」と呟いた後、ようやく周りの空気に気付いた。


「何だよ、皆黙って。(あつ)つ……」

「どういうことですかぁーっ!?」

()っっちぃゃぁーっ!!?」


 飛んできた真理佳に揺すられ、田中は熱々のお茶を盛大に(かぶ)った。

 のたうち回る生徒会長を放置し、真理佳は双子姉妹に詰め寄る。


「紅愛先輩! 白愛先輩! さっきの会長の台詞、本当ですか!? 嘘ですよね!? また会長のつまんないスベり芸なんですよね!?」

「ちょっと真理佳君!? 俺はボケてないぞ!」


 おしぼりで顔を拭きながら涙目で抗議する田中。当然のように真理佳は無視した。

 可愛がっている後輩から詰め寄られ、困ったように視線を外す双子姉妹。紅愛は両手で顔を覆って俯いた。普段冷静な白愛でさえ、口元に手の甲を当て、表情を隠そうとする。


 真理佳がヨロヨロと後ずさる。


「そんな……能登さんは先輩たちの保護者だって聞いていたのに……」

「まあ確かに、思い当たる節はありますわね。紅愛さま、白愛さまの信奉者たる(わたくし)でさえ、おふたりのあのようなお顔は初めて拝見しましたもの。実に良かった……」

「わ、私それ知りません!」

「そりゃあそうですわ。あなた能登さんの強面がショックすぎて気絶してましたもの」

「う……!」


 痛いところを突かれ、動揺する真理佳。先輩に対して物怖じしない彼女には珍しく、言いたいことがまとまらず右往左往する。

 一方の双子姉妹も、なかなか返答ができないでいた。

 そんな彼女らの間に入ったのは、はなだった。


「そのくらいでストップ。本人たちが何も言わないのに、これ以上問い詰めるのは悪いだろ?」

「そ、そうですよね……」


 真理佳が少し冷静さを取り戻す。はなには負い目があるためか――何せ顔を見て失神するという失態を犯したのだ――、真理佳は素直に忠告を聞いた。


 ――はなの背中に守られた紅愛と白愛。

 彼女たちは激しく心を乱されていた。

 元は田中の何気ない一言とはいえ、大事な友人たちから自分の気持ちを指摘されるのは、彼女らにとって初めての経験。これまで上手く隠してきた仮面が一気に剥ぎ取られ、しばらくどうしていいかわからずにいた。

 他人から指摘されるとこんなにも意識してしまうのだと、彼女らは思い知る。


 さらに紅愛と白愛には不安があった。

 ふたりは揃って朝仲に視線を向ける。


 この話がきっかけで自分たちの素性まで知られてしまったら、迷惑がかかるのではないか。

 朝仲や事務所の仲間たち。そして何より、大事な勝剛に。


 動揺し、混乱する天才たちを、敏腕マネージャーはじっと見つめた。

 そして、意外な言葉を口にする。


「いいんじゃないかな。彼らには話しても」

「あ、朝仲さん!?」

「今日、図らずも生徒会の方々の人となりを見る機会になった。彼らは優秀だし、ちゃんとあなたたちを見ている。ぼくの見立てでは、きっと悪いようにはしないはずさ」


 この台詞には、双子姉妹だけでなくはなも驚いた表情をした。

 朝仲は双子の側まで歩み寄ると、彼女らの頭をそっと撫でた。


「それに、これ以上胸の内に秘密を抱え続けるのは君たちの心に良くないと思っているよ。ぼくもずっと考えていたんだ。近いうちに、すべてを明かすときを作らなければとね。紅愛と白愛が次のステップに胸を張って進むために」

「朝仲さん……」


 双子姉妹は互いに顔を見合わせた。その表情に落ち着きが戻ってくる。


 田中が動いた。彼はカーテンを閉め、生徒会室を施錠する。そして自らは出入り口の扉に背中を預けた。誰か来たときにすぐわかるようにするためだ。


 紅愛と白愛は姿勢を正すと、生徒会メンバーを順に見渡す。


「皆、聞いて欲しい」

「私と姉様がずっと秘密にしていたことを」


 ――そして双子姉妹は語り出す。

 自らの出生の秘密。

 自分たちと勝剛の関係。

 そして、育ての親への想い。


「紅愛先輩と白愛先輩が、かつての大女優の隠し子? 能登さんはその女優さんの弟で、先輩たちの叔父で……父親代わり? そんな能登さんをお二人はす……す……す……」


 改めてショックを受けた様子の真理佳。

 そんな彼女を、紅愛は真正面から見つめた。今度は顔を隠さず、真剣な声音で告げる。


「真理佳ちゃん。全部、本当のことだよ。本当の気持ちだよ」


 姉の隣で白愛も頷く。

 何かを言いかけた真理佳は、ふと双子姉妹が互いに手を握り合っていることに気付いた。アイドルで、女優で、校内でも一際輝いている憧れの先輩が、真剣な表情で不安と戦っていることを見て取る。

 それは真理佳にとって、初めて見る等身大の双子姉妹だった。




【42話あとがき】


学校では、会長の一言をきっかけに双子姉妹の秘密に沸き立つ――というお話。

田中、そういうとこだぞという感じですよね?

双子の告白を聞いた生徒会メンバーはどんな反応をするのか?

それは次のエピソードで。

朝仲さん、ずっとこのタイミングを狙っていたんだろうなと思って頂けたら(頂けなくても)……


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