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第八十五話 城内の探索

 セレシオン王国の王城ではいつも通りの営みが行われていた。

 業者の者が出入りし、女中達が忙しなく通路を通り抜けていく。側から見れば何の違和感もない王国に見える。


 だがそれは仮の姿だ。

 今のこの王国は『灰』のサーシャによって完全に支配されている。

 王族に始まり騎士団、果ては末端の兵士まで支配が進行していた。



 そんな中、私達はセレシオン王国の城内に潜入してサーシャの足取りを追っていた。


 こっそり侵入した理由は簡単だ。兵士たちに見つかると戦闘が始まることが分かったからだ。



 恐らくサーシャの差金だろう。

 不審な人物は見つけ次第に迎撃するよう命じられているに違いない。


 街中で一度遭遇して一瞬にして戦闘になってしまったのだ。幸い、応援が呼ばれる前に全員を無力化できたので大事には至らなかった。



 しかし、そう何度も足止めを食らっていると、サーシャを追いかけることもままならなくなる。

 騒ぎに気付いて王族を人質に取られるかもしれない。


 そんなこともあって、私達は出来るだけ見つからないように行動していたのだ。



「ダメです。彼女の痕跡は見つかりません」


 地面に膝をつき、目を閉じていたジークは首を振りながら立ち上がった。

 私は無言で頷いた。まずは直接本人の魔力を探知してもらっていたのだが空振りだったようだ。


 元々知らない人、知らない土地なので、アルドベルを探し当てた方法も使えない。

 それに、彼女をよく知るフィオ達やアレク将軍でも見つけられなかったのだ。もしかしたらもうこの国からは逃げている可能性もあった。


「やはり見つかりませんか。本当にあなた達のメンバーは優秀ですね」


 私はフィオ達を見ながら賞賛の言葉を口にした。分かってはいたが、手詰まり感は拭いきれないでいる。


「まあ、ね。サーシャは私より魔力隠すの上手だし。でもまだ遠くへは行ってないはずよ」


 フィオは足元で暴れる兵を足で小突きながら言った。どういうことか、と彼女に聞くつもりで顔を向ける。


「精神支配の魔法は強さによって縛れる距離が変わるのよ。命縛法はどれだけ離れても有効だけど、軽い支配なら恐らく国を出れば自然に解けるわね」


 フィオは何でもないとばかりに説明した。


 ストルク王国で同じような手段をとっていたフィオだからこそすぐに分かるのだろう。やはり彼女を生かしておいて正解だったようだ。


「ではその兵士さんが正気に戻るまではサーシャさんが王都に潜んでいると言うことですね。彼が元に戻るまでに探し当てましょう」


 そう言って私は腰に手を当てて考え始めた。

 彼女が逃げ切っていないと言う指標はあっても、そこからは手詰まりなのだ。


 どうしようかと頭を捻っていると、アレク将軍が何かに気づいたように声をあげた。



「彼女を探す手がかりになるかは分からないが、まずは国王達の救助から始めてはどうだろうか。リジーなら彼らが操られなくする方法はあるだろう?」


 彼の提案は人質になりうる者達を手元に置こうというものだった。それに、私とジークは命縛法への対処魔法を持っている。


 王族が盾にされる前に救助してしまえばサーシャは何も出来なくなる。実に合理的な手段だった。


 私は彼の提案に乗ることにし、王族たちが住まう塔へ移動を開始した。



 その際、塔入り口で警備に当たっていた者達との衝突は避けられなかった。だが、私とジークにシーズが揃っているので制圧は一瞬だった。


「しかし弱いのー。もう少し暴れたかったぞ?」


 シーズは前足で気絶した兵士に軽くパンチしていた。気絶した兵士は呻き声も出せずに地面に突っ伏していた。


「その、彼らは私の部下でもあるから、お手柔らかに頼むよ?」


 アレク将軍は私達の足元で気絶している兵達を見てそろりと言った。


「国の危機ですから仕方ありません。手加減はしましたから命に別状はありませんよ」


 戦争でもないのだし私だって彼らを殺す気はない。ただ、操られているとは言え、斬りかかられては対処せざるを得なかったのだ。


 ただ、それが分かっているアレク将軍は、それ以上は言わず、兵達を見つめるだけに留めた。



 少し沈黙ができたところで、今度はフィオの気怠げな声が聞こえてきた。


「ま、こんだけ実力者が揃ってりゃ簡単よね。リジー様一人でも国を落とせるくらいだから楽なものね」


 そう言う彼女は、倒れた兵達を一箇所に集めて一人ずつ魔法で固定していた。ぼやいてはいるがその手際はやはり熟練している。


「ぼやいてないで早く縛っとけよ。起きてまた暴れられたら面倒だ」


 彼女の横ではベルボイドも同じ作業をしていた。口は悪いが仕事はきちんとこなしている。彼は根っからの仕事人間のようだ。


 ここは彼らに任せても大丈夫だろう。

 塔に登る間、下から増援が来て挟み撃ちにも遭うのも面倒なので、下の見張りを彼らに任せることにしよう。


 そう考えた私は、すぐさま彼らに命令をくだした。


「シーズはここで待機を。増援が来たら殺さない程度に止めてください。フィオとベルもここに残って兵達の処理をお願いします」


「はいよ、任せときな」

「了解」

「へいへーい」


 私の指示を受けた彼らは各々返事を返した。


 これで足元は固定できた。あとは王族の元に向かうだけだ。

 その場の制圧は私とジークがいれば事足りるだろう。



「アレクさん、道案内をお願いします」

「ああ、行こう。こっちだ」


 私が促すと、彼は静かに頷いて塔の中を先導を始めた。

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