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クリスマス番外編(後編)

 


 遡ること数週間前。


 アルフレッドは悩んでいた。



「結婚してから初めてのクリスマス……!ルーシーに何をプレゼントしよう……!絶対絶対喜ばせたい……!!!」


 すると、声を掛けてきたのは最近騎士団に入った同い年のエリクという男。


「俺も嫁さんにサプライズプレゼントしようと思ってんだけど、よかったら一緒に買いにいかないか?ほら、俺あんまりセンスないからさ……実は一緒に選んでほしいっていうか」



 アルフレッドは感激した。なんていいやつだ、エリク!と。

 あまり話したこともない自分に親切にも声を掛けてきてくれたことはもちろん、何より感激したのは……。


(奥さんにサプライズプレゼントだって?なんていいやつ!奥さんを愛している奴にきっと悪い奴はいない……!)


 自分も他人の意見が聞きたいと思っていたし、何よりセンスに自信がないというこの男の力になってやりたい。


「――アルフレッド、エリクとプレゼント選ぶの?お前あいつとそんなに仲良くなかっただろ……?1人でじっくり選んだ方がいいんじゃないのか?あいつは――」


「大丈夫!きっと俺もエリクもいいプレゼントを見つけてくるよ!」


「……そうか」



 ――ルーシーが絡むと相変わらず脳内お花畑になるアルフレッドは、騎士団の他の同僚達が少し微妙な表情をしていたことにも気がつかなかった……。


 次の休みに一緒に出かけて、あれこれ相談して探し回った。だがエリクが「しっくりこない。また付き合ってほしい」というので、それを了承。

 エリクの買い物が予想外に難航し、アルフレッドがルーシーに相応しいプレゼントを選び損ねたこともその理由の1つだった。




 その次の休みにもう1度一緒に出かけた時、なぜかエリクは妹を連れてきた。


「初めまして!お兄様がいつもお世話になってます…!オリビアと申します!」


「はあ……」


 アルフレッドは気の抜けた声で答え、エリクを見た。悪びれもせず笑顔を浮かべている。


「オリビアは見ての通り可愛くてお洒落だから、いいアドバイスをくれると思ってさ!ついてきてくれるように頼んだんだ」



 そういう人物が身内にいるなら2人で行けばいいではないか。

 あまりいい気はしなかったが、仮にも騎士団の同僚だ。きっと、ちょっと空気が読めないやつなんだな。そう考えたアルフレッドは渋々ながらオリビアの同行を了承した。


 その後すぐ、自分の浅慮を後悔する。



 近い距離、あざとい仕草、平気で自分にも触れてくる馴れ馴れしさ。何度さりげなく腕を振り払ったか分からない。文句を言おうかとエリクを見ると、


「ごめんな、オリビアは末っ子だから甘えん坊でさ。許してやってくれ」


 兄というものはこうも妹に対して現実が見えないのか?どう見たってこの女は自分に媚を売っている。



 有益だったのは1度だけ。


「最近はこういう色鮮やかなトパーズが女の子に人気なんですよっ!」


 宝石店でそう言った彼女の言葉に、店員の女性も賛同した。


「そうですね!それは素敵なプレゼントになりますね!彼女さんはすごく幸せですね」


 確かに見事なオレンジで、ルーシーの喜ぶ顔を想像して気持ちが昂った。

 結局そのままラッピングしてもらい購入することに。


 ニコニコしている店員も、なぜかはにかむオリビアも目に入ってはいなかった。当然だ。アルフレッドの頭の中はルーシーでいっぱいだったのだから。


(サプライズにするために、騎士団の隊舎に隠しておこう……)


 当日の仕事を恨んだが、隠し場所と思えばよかったかもしれない。



 オリビアに1ミリも興味がないから、その瞳がとても鮮やかなオレンジであることも、店員が自分たちをカップルだと勘違いしていることも気づきはしなかった。


 どうせ、この妹とはきっともう2度会うことはない。



 *******



 しかし、今日。

 ルーシーへのプレゼントを手にいそいそと帰宅しようとするアルフレッドの前にエリクが立ちふさがった。



「オリビアがお前を好きだと言っている。お前もまんざらじゃなさそうだったろ?一緒にうちにきてオリビアと過ごしてやってくれ。え?無理?何言ってんだよ、オリビアに抱き着かれてよろこんでたじゃないか。あいつは最初からお前とそういう風になりたいと思って俺に紹介してくれって頼んできたんだぜ?オリビアの瞳の色の宝石も買ってただろ」


 意味が分からない。理解不能な思考回路をしている人間はどこにでもいるのだと思った。



 アルフレッドは激怒した。ふつふつと湧き上がる怒り。馬鹿にしている。


「俺がいつ喜んだ?お前の顔を立ててやっただけだ。あんな非常識な振る舞いどうかしていると思っていたが自覚があったんだな。もう2度と話しかけないでくれ。それから」


 アルフレッドは手に持っていた、プレゼントの入った袋をエリクに押し付けた。


「これを手切れ金だとでも思ってくれ。お前の妹の瞳の色など知らないが、そのつもりで勧めたのなら愛する妻にそんなもの贈れるわけがない」



「――……なんなんだよ、お前!結局プレゼントを用意していない俺への当てつけか?いつも幸せそうにしやがって……!はは!俺にこの宝石でもプレゼントして不仲の妻の機嫌を取れってか!」



 アルフレッドはその言葉で初めてエリクが妻と不仲だと知った。途中からルーシーのことを考えるのに忙しく、プレゼントを結局用意していないのにも気づいていなかった。


 そして同時に悟った。エリクはいいやつなどではない。こいつは俺を気にいった妹を差し向け、アルフレッドとルーシーの仲を壊したかったのだと。

 理由は……幸せへの嫉妬だろうか。


 こんな奴に自分とルーシーの話をする気は毛頭ない。しかし、1つだけ言わずにいられないことがあった。



「ふざけるな!その宝石を妻にプレゼントする!?絶 対 に!やめろ!!そんなんだから奥方に振り向いてもらえないんだろうが!!他人が他人のために用意したプレゼントを贈るなんて愛する人に対しての侮辱でしかないからな!!!!仲良くしたいなら普通に頑張れよ!!!!俺はかつて妻に振り向いてもらうために隠密行動まで身に着けたぞ!!!!」


「……は?お、おんみつ?」


「あー、もうお前に構っている暇はないんだよ!ルーシーにきちんとしたプレゼント買いに行かなくちゃ……ああ、浮かれていたからと言って他の女のアドバイスを聞くなんて俺としたことが気が狂っていたとしか思えない……そうだ、奥方への片思いを拗らせたお前にこれをやる」


「か、かたっ……!?誰が……!」


「宝石店とその店は全くの反対方向だからな……プレゼントを用意していたら閉店時間に間に合わない……くそっ、お前、やっぱり呪う……!」


 アルフレッドは呪詛を吐きながら走り去っていった。


 残ったのは事態をじっと静観していた他の同僚と、ぽかんとしたまま何も言えないエリク、その手に握らされたパティスリー・シェリーの整理券。人気店ゆえに、クリスマス当日の今日はこの整理券がないと店の中にも入ることはできないのだ……。もちろん入手困難。アルフレッドは血を吐く思いでケーキを食べて喜ぶルーシーの笑顔を想像するのを止めた。

(プレゼントなしよりは、マシだ……!)





 そうして大急ぎでルーシーへのプレゼントを買いに行ったアルフレッド。クリスマスで店も混雑。なんとかお目当てのものを手に入れて急いで帰ってこの時間だった。



「本当にごめん、ルーシー。元々あいつの妹のことは今日が終わったら話そうとは思ってたんだ。俺が反対の立場だったら、自分の知らないところでルーシーが他の男に好意を向けられているだけでも許しがたいから、せめて知らないよりは知りたい……いや、それも辛い……そうならないように変な男は絶対に近づけさせない――はっ!つまり、俺はあの女を近づけさせたうかつさですでにルーシーを傷つけている……?」


 アルフレッドはみるみる顔を青くさせ項垂れた。




 *******




 一瞬でも不安に思った自分が情けない。

 それにしても、アルフ様……


「ふ、ふふ、あなたって時々すごく斜め上におバカだわ」

「ルーシー……」


 アルフ様はポケットからおもむろに、輝く宝石を取り出した。


「まあ……!」


 それは透明度の高いアクアマリンのイヤリング。まるでアルフ様の瞳の色みたいな……。


「こんな状態でごめん……ラッピングしてもらう時間、待ちきれなくて……」


 な、なんだか急ぐポイントがおかしい気がするわ?それならまっすぐ帰ってきてくれてプレゼントは今度でもよかったのにね?

 もう、本当にこの人は……。


「……素敵……アルフ様の色ね」

「そう!本当は一目見た時からこれを付けたルーシーを見たいと思ったんだ!……やっぱり他の女のアドバイスで君へのプレゼントを選ぼうなんて、一瞬でもどうかしてた……」


 しゅんとするおバカなアルフ様が可愛くて、その頬にキスをする。


「アルフ様、私もあなたに後でプレゼントがあるの……それから、実はケーキも作ってみたんだけど……」

「えっ!?」

「皆に手伝ってもらったから、多分美味しいと思う。ふふふ、アルフ様に食べさせてあげようと思ってたけど。遅くなったお詫びに、アルフ様が私に食べさせてくれる?」

「ルーシー!それご褒美だけどいいの???」


 感極まったように顔を上げたアルフ様が、勢いよく私を抱きしめる。

 そのまま私の顔のあちこちにキスをしながら、いつの間にかどんどん部屋の奥へ移動していって……――あれ?このパターン、ちょっと覚えがあるんだけど……???



「アルフ様!料理もう冷めてる!」

「もう冷めてるから、後にする」

「ケーキもあるのに……!」

「もちろん食べるよ?ルーシーが作ってくれたものなんてすごく!すごく楽しみだ!でも、その前に……」


「きゃー!アルフ様の変態!」





 ――翌朝。ご満悦な顔でルーシーお手製のケーキを頬張るアルフレッドの耳には、ルーシーの瞳の色とそっくりのピアスがあったとか……。







 ―――――――――― 


 ☆おまけ



 残されたエリクの元へ、他の団員が近づく。


「お前、不幸に巻き込みたいならアルフレッドを選んじゃダメだろ~」

「え……?」

「こいつ最近騎士団にきたから知らないんだろ!アルフレッドがいかにあの美人妻を溺愛してるか」

「ああー、1回家に遊びにいってみろ、もしまだあいつが取り合ってくれるなら、だけど……」

「確かに、1回見たらそんな馬鹿なことやらかす気もなくなるな」

「むしろなんか、あの夫婦見てたら自分も妻に愛を伝えたくなるんだよな~」

「「「「分かる」」」」


「俺、アルフレッドと仲良くなってから夫婦仲めちゃくちゃ良くなった」

「俺も結婚決まった」

「は!?お前いつの間に!?」

「へへへ……そろそろ俺も帰るわ。『もうすぐ妻』が待ってるから……」

「くそ……俺も可愛い彼女欲しい……今度バルフォア家に行こ……」

「そうだな、あの夫婦思い出してたら俺も早く帰りたくなった」


「じゃあ、俺たちももう帰るから。頭冷やしてまた今度ちゃんとアルフレッドに謝れな?あいつ身内には甘いから、誠心誠意反省すればきっと許してくれるよ」


「…………」




 その後、大人しくパティスリー・シェリーのケーキを買って帰り素直に妻に気持ちを伝えたエリクと、その妻の仲がこの日を境に劇的に改善し、ルーシー・アルフレッド夫妻が騎士団の中でまるで夫婦円満や恋愛成就の教祖のようにもてはやされるのは、また別のお話……。






なんだか今更このお話そんなにクリスマスぽくない気がしてきたけど気にせず投稿…!


この後、改心したエリクは宝石のお金と共にパティスリー・シェリーのケーキをめちゃくちゃアルフレッドに献上します。

心を入れ替えて奥さんとラブラブになったエリクはそのまま浮気絶対許さないマンに。

元々実はそんなに仲良くなかったオリビアはエリクに監視され人の男にちょっかい出せなくなる。もちろん2度とアルフレッドには会えないです!


長くなりすぎたので削ってますが、アルフから漂った知らない匂いはめちゃくちゃ混雑した宝石店でついただけだよ…!^^


読んでくださりありがとうございます(*^▽^*)

また別の番外編を投稿したときにも読んでいただけると嬉しいです…♪



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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったで!! しかし男爵部下居ないんかい…(´・ω・`)
[良い点] 番外編書いてくださったのですねー!!! 2人のラブラブ話、最初から最後までワックワクドッキドキで見ました! もうこの2人のラブラブは、いつ見てもこっちまで幸せになります。 [一言] また…
[気になる点] 親の教育か?遺伝子レベルか? と思われる兄妹 幸薄いのではなく 幸遠い、遠ざかってるぞ と思ったら 兄には近づいた? アルフのテコ入れ?のおかげ? [一言] その頃、ジャック殿下は…
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