歪で異常な家族
ミリアは困惑していた。
(なに……?)
学園でアルフレッドにあしらわれた後、いつものようにディオや他の男子生徒の元へ行こうと思っていた。そして慰めてもらおうと。
しかし現れたのは見たこともない、少し地味な格好の騎士らしき男。ついてくるように言われ、従ってみるとその先にいたのはジャックだった。
「ジャック様!今日は学園に来てたんですねえっ!」
そしていつものように甘えるためにその側に近づこうとした瞬間、数人の騎士に止められた。よく見るとそこにはいつもミリアをちやほやと甘やかしてくれるディオと2、3人のジャックの側近の姿もある。
ただし、見知った顔の全てが今まで見たこともないような厳しい顔をしていた。
自分を止めた騎士の動きもおかしい。なんだかべたべたと触ってくるとは思っていたが、これは……拘束されているのではないか?
そう気づいたときには遅かった。
(どういうことなの……!?)
少しだけ抵抗をしてみるもあまりに無意味ですぐにやめた。相手は騎士だ。仕方なく言われるがままに連れていかれた先は自分の住む屋敷。
異様な雰囲気にさすがのミリアも委縮する。
(怖い……嘘でしょう?何かの冗談よね……?)
屋敷の中に出入りする人間は誰も彼も厳しい表情。よく見るとほぼ全員が騎士のようだ。そしてどんどん人数が増えていく。そのうちに自分と同じように拘束された父親が引きずられながら連れて来られた。
そうして、混乱のまま。気がついたときにはブルーミス一家は地下牢の中にいた。
「なぜこんな地下牢に入れられるんだ!私は男爵だぞ!せめて貴族牢があるだろう!!」
的外れなことをぎゃんぎゃんとわめきたてる父親。
「うぅ…………」
相変わらず、暗い顔でめそめそとうるさい母親。
そしてミリア。ブルーミス家はこのたった3人だ。使用人も通いの最低限の仕事をするもののみ。うちは裕福なのになぜだろう?と思ったこともある。恐らく屋敷に見られてはいけないものが多すぎることが1番の理由だろうが、ミリアはそんなことには思い至らない。
父親はどこか違う国にルーツがあるらしく、ミリアは親戚にも会ったことがなかった。まさか全くいないことはないだろうが、それもあまり深く考えたことはない。母親の出自はミリアには知らされていなかったが、実は幼い頃に家族を亡くし没落した低位貴族の令嬢だった。こちらも他の親族は不明である。
言えることは、グライト王国にブルーミス家の親族が全くいないこと。彼らは孤独な一家だった。
父親が母親を選んだのは偏に見目が美しかったことに尽きる。ミリアの母は評判になる程の儚げな美女で、その美貌はミリアに受け継がれた。それこそが男爵が願ったこと。男爵は自らの地位に満足していなかった。もっと高い地位を!名声を!しかし自分にあるのはこずるさと少しの商才だけ。特別優秀なわけではないと自覚があった。だから思い描いた。1番手っ取り早いのは……娘が高位の男性に嫁ぐこと。高位貴族の縁戚になること。
さらに、自分を認め、一緒に商売しないかと声をかけてきた――ミラフーリスのとある貴族。
「私はこの国でたくさんの権限を持っている。今はまだ詳しくは言えないがね?ほら、君は他国の人間。まだ信頼関係がないだろう?そのうち教えるさ。それでも、君の悪いようにはならないと約束しよう」
そうして渡された大金に、愚かな男爵はすぐにその貴族を信用した。男爵の大好きな『高位貴族』であったことも大きかった。だからこそ簡単に信用してはならないという、貴族として当たり前の感覚が麻痺していた。
結果はこの通りである。
(どうしてこうなったの?これからどうなるの?私はただ……愛されていい思いをしたかっただけ……!ルーシー様の持っている物が欲しかっただけなのに……!)
最初に欲しかったのはアルフレッド・バルフォア侯爵子息。
初めてみた瞬間からずっと欲しくてたまらなかった。なんて素敵な人だろう?この人に愛されたい。この人が欲しい。
実は、「他人のモノだからよく見える」という理由なしでミリアが欲した唯一がアルフレッドだった。
「お父様、私あの人が欲しいわ」
1度目は願って間もなく婚約者になった。父親がミリアのためにバルフォア家の価値を一時的に下げてくれた。男爵家のミリアが婚約できるように。ただし、本当に没落してしまうと台無しなので、上手く調整してくれた。
(お父様は天才だわ!)
とても嬉しかったのを覚えている。
しかしアルフレッドはいつまで経ってもミリアをお姫様にはしてくれなかった。それどころか、別の女に熱い視線を送っている。
(面白くない……)
その後はご存じの通りだ。
実は、1度目にミリアが進んでねだったのはアルフレッドだけ。父親は自らのために、ミリアのために色々と手をまわしてくれていたようだけど、あまり興味もなかったので詳しくは知らない。とは言え全く知らないわけでもない。ミリアが手伝うこともあったのだから。
その間、母親だけはずっと空気だった。
時を戻り、またミリアは父親に泣きつく。
いつまでたってもジャックの正式な婚約者になれないこと、妃教育が辛いこと、婚約者候補のままではあまりチヤホヤされないこと。
「ミリア、私に任せなさい。その条件を出したのは――王妃だね?」
今思えば、他にも誰か王妃が邪魔だと感じている人間がいたのではないかと思う。ミリアとしては、「そう言われれば王妃様だった気がするわ」くらいのものだった。
父親に言われるまま、王妃が邪魔しているから自分は婚約者になれないのだと思った。
「大丈夫だよ、王妃はすぐにいなくなるだろう。そうすればきっとお前も楽になる」
そして……ルーシーが羨ましくて仕方ないこと。
「どうしてルーシー様だけあんなにいつも皆に愛されているの!?いつも皆に囲まれてるの!?候補とはいえ私が婚約者になったじゃない!」
ルーシーが持っていた『王子の婚約者』の肩書きを貰えば、自分がその立場になれると思ったのに!ずるいずるいと喚きたてた。ルーシーはミリアの憧れだった。だからこそどんどん憎く、許せなくなっていった。そんなミリアに、父親は微笑んだ。
「じゃあルーシー様にもいなくなってもらおう。そしたらきっとミリアの番が回ってくるよ」
――それはあまりにも短絡的で異常な思考回路。
元々男爵も狂ってしまっていたのか?彼が心酔したミラフーリスの貴族の指示だったのか?もしくは洗脳の事実でもあったのか?長くミスリの薔薇の毒を育て続け、何かしらの悪影響を受けていた可能性もある。
ミリアや他の人間に言っていた言葉は全て適当で、もっと別の思惑があった可能性もある。それをこれから厳しい取り調べで明かしていこうという手はずになっていた。
――しかし、もう永遠に男爵が真に何を考え、何を思っていたかが解き明かされることはない。
その夜、ブルーミス一家は地下牢の中で、無残な死を遂げた姿で発見された。
突然のシリアス回で申し訳ない…次回はジャック視点です。
ジャックは愛したミリアの末路に何を感じるのか。
お昼ごろに登場人物一覧を更新する予定です!^^
追記:プロローグ前に登場人物一覧の第一弾を更新してます。こんなので良かったかな…?^^
さらに追記:39話部分、学園入学前の部分に登場人物一覧の第二弾を更新してます!是非のぞいてください^^




