ブルーミス男爵
遅くなりました……!(><)
スーパーご都合主義展開ですが悪しからず……!
「あの子はね、君が羨ましくて仕方ないんだそうだよ」
とてもじゃないけど理解できない。愛する人に愛を向けられてなお、選ばれなかった私を羨むミリアさんも、そのミリアさんの願いを叶える為と言いながらこんなことが出来てしまう男爵のことも。
「私の可愛いミリアはね、とても愚かな子なんだよ。愚かな女の産んだ愚かな子供」
「は……?」
「あの子は人のモノが欲しくてたまらないんだ。分かりやすく多くの人に人気があるモノとかね。でも手に入ると途端につまらなくなる。ほら、愚かだろう?」
「…………」
この人は本気で言っているの?
「そして私にねだるんだ。『パパ、あれが欲しい』ってね。なんて可愛い子だろうか!おまけにあれはいいモノばかりを欲しがるから、私としても悪くない。さすがにまさか殿下がミリアを選ぶとは思わなかったがね。その前はバルフォア家の嫡男だったか……ああ、彼は今、君の婚約者だったね」
「えっ……?」
アルフ様を……?ちょっと待って。
「ははは!突然殿下が手に入るから彼はもういいと言い出した時は何の冗談かと思ったものだ」
待って?待って……!
――「でかしたミリア!お前の言っていたことは本当だったんだね!」
――「だから言ったでしょうパパ!」
――「それでは、あれはもういいんだね?」
――「ええ、もういいの。忘れてちょうだい――」
あの婚約解消の日のお茶会の帰り、ブルーミス男爵とミリアさんの会話を確かに聞いた。あの時は意味も分からず、特に気にも留めなかった。
まさか……それじゃあ、1度目にアルフ様とミリアさんが婚約するきっかけになったバルフォア家の没落騒動も、ミリアさんの望みを叶えるためだったというの?
ハッと息を呑む。
「バルフォア侯爵様の、薬草茶……」
その瞬間、男爵が一気に警戒したのが分かった。
この反応!やっぱりそうなんだわ……!アルフ様の家のことまでミリアさんと男爵の仕業だったんだ……!
「おい、お前は何を知っている?」
さっきまでの笑みを消し、男爵が鉄格子に手をかけガシャンと乱暴に揺らす。
私が答えないままでいると、それでももう1度にこりと笑った。
「まあいい、どうせお前は生きては帰れない」
「それであなたは本当に無事でいられると思っているの?」
ブルーミス男爵はまるで舞台の上の俳優のように、芝居がかった仕草で両手を広げる。
「もちろんさ!私は守られているからね!まさかお前も、ただの男爵風情が1人でこんなことができるとは思っていないだろう?」
やっぱり後ろに、誰かいるのね。
ミラフーリスの誰かにいいように使われているのかもしれない。
「あなたは愚かだわ」
本人が言うところのただの男爵風情、本当に守ってもらえるとでも思っているの?いざとなったら見捨てられて終わりに決まっている。
ミリアさんもあなたも都合の良いことしか見ていない!本当に……愚かだ。
「気の強いご令嬢だね。ただし強がっていられるのも今の内だろう」
「どうかしら?あなたのしていることは全部知っているとしても?」
「何?」
愚かな男爵でも、私みたいなただの令嬢が1人で真実にたどり着いたとは思わないでしょう?
「全部知っているのよ。お父様が手にしたお茶のことも、バルフォア侯爵様が苦しめられた薬草茶も、ミスリの薔薇の毒のことはなんでもね!――王妃様のこともあなたの仕業なんでしょう?」
「……馬鹿な!それは誰も知られていないはず――」
やっぱり王妃様もミスリの毒で……!一か八かだった、これで言質はとった!あとは私の証言で調べてもらえれば全てが男爵に繋がるはず!
「お前――」
男爵が少しうろたえたその時だった。
「うわっ!?な、なんだお前はっ……うっ……」
「や、やめろ!うわーっ!」
階上が一気に騒がしくなった!
「……なんだ!?」
男爵が顔色を変える。
まさか殿下がもう!?早い!だけどすぐにこの場所を突き止めたとしても、殿下からすればここにミスリの薔薇があるとは分からない。確証がない以上、こんなに早くは踏み込めないはず……というかそもそもここってどこだっけ!?!?
私もついでにパニックになっているうちに、男爵の背後にある扉がさっさと勢い良く開いた!
「ルーシー嬢!!!」
えっ!?
「――アルフ様!!!!」
来てくれたのは殿下じゃなかった。まさかのアルフ様だ!どうして!?驚いて思わずじっと見つめると、ホッとしたような顔をした。
その後ろの方には人の足や腕が見える。どうやらアルフ様が見張りの人間を全員伸してしまったらしい。
えっ?ちょっと待って?アルフ様、まさか1人なの!?!?
ちょっとカッコよすぎない……!?
「どうしてここが……!まさか、本当に全部知られているというのか……!?くそっ!」
「えっ!?きゃあ!」
ブルーミス男爵は素早く鉄格子を開けると、私の髪を引っ掴んだ!
「やめろ!汚い手でルーシー嬢に触るな!」
「それ以上近づいたら、お前の愛しい婚約者は2度と笑えなくなるぞ」
男爵が低い声で吐き捨てる。
ヒヤリと冷たい感触。私の首にはナイフが押しあてられていた。




