繋がった
リロイは教室で窓の外を眺めながら自国に思いを馳せる。ミラフーリスは植物大国と言われる国だ。他の国に比べ薬草や植物が育ちやすく、新種の栽培にも多く成功している。地形が理由に土壌が良いのだそうだ。詳しくはリロイには専門外であまり分からない。
王位に興味がないというアピール半分、自分の将来の役割の確保半分で他国を巡った数年。ルーシーと出会ったことは彼にとって僥倖だった。
初めてグライト王国に足を踏み入れた時はまだ言葉に不自由していて、おまけにグライト王国の人間にはミラフーリス語は少し難しいらしく話せるものが極一部に限られる。きっとルーシーがいなければ自分がグライト王国にここまで興味を持つこともなく、留学先にと選んだのも他の国だったに違いない。
それに、グライト王国から移住したユギース家に興味を持つこともなかっただろう。
ユギース家のマリエがルーシーと親しいと聞き、軽い気持ちで声を掛け、自身も友人となった。子爵家という身分の低さを問題にせずこうして親しくできたのも、リロイがここまで作り上げてきた『王族らしからぬ』という立場のおかげだ。
全てが偶然で、その結果あることに気付いたことすらも偶然。
留学先にグライト王国を選んだ理由。1つは単純にグライト王国に興味がわいたこと。平和で人は穏やか、ミラフーリスの様に殺伐とした雰囲気もなく、これからどんどん発展していくだろうという国だ。今のうちに縁を結んでおくに越したことはない。
次にルーシーにもう1度会いたかったこと。――正直、自分の帰国後にすぐ婚約を結んでいるなんて予想外だった。
(おまけにあのバレバレな尾行してた婚約者候補殿だ)
思い出すといまだに笑える。
(婚約してたって関係ないから、連れて帰ろうと思ってたんだけどな)
いざ来てみると思いのほか仲睦まじく、随分がっかりしたものだ。あと婚約者がめちゃくちゃ威嚇してくる。すごくしてくる。ありゃこっそり手を出して掻っ攫う隙も無い。多分、前回ちょっとばかり揺さぶったのがだいぶ効いているようで、ルーシーに分からないようにかなり警戒している。
まあそれは置いておいて。
1番大事な理由。
(……我が国の膿が、この平和な国に影を落としているのだとしたら)
到底許せることではない。
放課後、リロイは生徒会室に向かっていた。
ルーシーが手伝いをし始めたことを口実に(もちろん、ルーシーに会いたかったのも本音だが)リロイもその部屋に何食わぬ顔で出入りするようになった。どこかのタイミングで、ジャックと話がしたかったのだ。
リロイはジャックのことも友人だと思っている。あいつも色々大変そうだが、根はいい奴だ。人を見る目には自信があった。伊達にあらゆる人の悪意にさらされてきていない。
確証がない今。まずはジャックだけに内密に話を通したかった。学園という非公式の場で。偶然会って話をしたように。ミラフーリスでもまだ証拠がなく、陛下や兄王子たちが公式な立場で動くには危険すぎるからだ。こういうとき、王族でありながら身軽な自分の立場は随分役に立つ。
それなのに、最近はジャックがあまり学園に顔を出さない。やっと見つけたと思っても何を警戒しているのか全く1人にならない。この際あの婚約者殿には申し訳ないが、ルーシーならば巻き込むか……そんなことを考えながら、リロイは辿り着いた生徒会室のドアに手をかけ勢いよく開けた――。
*******
久しぶりに殿下が登校し、生徒会にも顔を出すと聞いて私は放課後を待っていた。
殿下にどうしても見せたいものがある。
今思えば、どうして気付かなかったのだろうと思う。記憶力だけには自信があったのに、不覚だわ!それほど平和ボケしてたっていうことなのかな?
もしかすると何も関係ないかもしれない。それでも……伝えなければいけない気がしていた。
思えば、私達が時戻りをした瞬間から全ての運命が変わったんだ。それは当然だといえば当然のこと。だけど、不自然なことも多かった。偶然変わったにしては変わり方が不自然なことがいくつかある。だって考えてもみて?
――お父様の死の回避は、どうしてあんなに簡単だったの?
病なんて、根本的な発生源がはっきりしているようなものでなければ災害に近い。予防と早急な治療を目指してどうにかならないかと考えたものの、1度目に1人だけ死に至ったお父様が誰よりも軽症だったなんて、偶然やラッキーで片づけるには出来すぎている。
じゃあ、少しずつ変わったお父様の運命の歯車、その最初の1つ目はなんだった?
「もしかして、これかもしれない……」
胸騒ぎが止まらない。
殿下は、「見ればわかる」と言った。違えばいいと思う。ただの私の考えすぎで、殿下に「なんてことを考えるんだ」って怒られたい。そうでなければ……そうでなければ。私は許せないかもしれない――。
「ごきげんよう、殿下、スミス様」
生徒会室に入ると、ちょうど殿下とスミス様以外は出払っているようだった。
「ああ、お疲れ様ルーシー嬢、いつもありがとう。――じゃあディオ、よろしく頼む」
「はい。ルーシー嬢、いつも仕事を任せきりになってしまっていて申し訳ありません。私は別の用事がありますので今日はこれで」
どうもたった今殿下に何か指示を受けたらしい。
「いえ、お気になさらず。お忙しそうですが、ご無理なさらないでくださいね」
私がそう声を掛けると、スミス様は微笑みながら小さく礼をして、急いで生徒会室を出ていった。
最近はこういうことが増えた。生徒会のメンバーは大体が殿下の側近。生徒会の仕事ではない、何か殿下に直々に依頼された仕事をこなしている時間が多いらしい。恐らく今もそうなんだろう。
もしかして、例の事件について殿下の手伝いをしているのかもしれない。1度目の時は最終的に殿下とともに騎士団が動いていたけれど、今の状況では1つ1つに関連性のない謎の不審死事件。原因となった植物のことは判明していないわけで、公にそのことを調べるには理由が足りないのだろう。
だからこそ、余計に。
少しでも可能性のあるものはすぐに知らせなければと思う。
どう伝えたものか一瞬迷ったけれど、もうどうしようもないのでストレートに言うことにした。
「殿下、見ていただきたいものがございます」
もしも、違ったら。いや、もしも違わなかったら……そう思うと緊張で手が震える。自分の心臓の音が大きくて、周りの音が遠く感じる程だ。
「これなんですが……」
殿下は私を真剣な目で見つめる。お願いだから、どうか違っていてほしい――。
ここまで大事に抱えてきたものを取り出そうと、持っていた袋に手をかける。
その時、生徒会室のドアが勢い良くあいた。
「あっ……!」
あまりのタイミングの良さに驚いてしまい、手が滑り今まさに殿下に差し出そうと持っていたものを取り落としてしまう。
ゴトッ……
「うわ!ごめんルーシー!」
入ってきたのはリロイ殿下だった。
私が落とした瓶が転がり、打ちどころが悪かったのか蓋が開き中身が少しバラバラと出てしまっている。
「それは――」
ジャック殿下が驚いたように立ち上がるのと、
「――ルーシー、それをどこで手に入れた」
リロイ殿下が唸るような低い声で呟くのは同時だった。
中身が溢れ、相変わらずのいい香りがふわりと広がる。
その瞬間、私は悟った。やはり、これだったのだ。全ての始まり……。
転がったものと別の、取り落とさなかった手の中のもう1つを呆然と見つめる。
数日前まで、その存在すらすっかり忘れていた。
殿下に見せようと持ってきていたのは、数年前にお詫びだと差し出された、――ミリアさんにもらったお茶だった。
とんでもない誤字脱字が相次いでいて申し訳ないです…誤字報告ありがとうございます><
ついに出た、お茶…!
この物語もいよいよ終盤です。
いつも読んでくださりありがとうございます!最後までお付き合いいただければ幸いです(*^▽^*)
と言いつつ今日の夜更新は怪しいです…!
更新ない場合は…明日を…お楽しみに…><




