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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十一章 少年期・カルティア決戦編
93/250

第93話:VS『双刃乱舞』②

 次回は2話更新となります。


 痛みを無視して俺は飛び掛かった。

 辛うじて傷口のみをふさいだ腹はキリキリと悲鳴を上げ、全く回復していない左腕はまともに上がらない。

 それでも・・・!


「オオ――ッ!」


 雄たけびを上げながら、赤紫髪の男に向けて突っ込む。


 シンシアはギリギリ耐えていた。

 自慢のスピードも、ギャンブランには劣るものの、的確に回避のみに専念している。


 俺の時のように遊んでいるのか、ギャンブラン自身が、シンシアを殺さないようにしているのかもしれないが・・・とにかく、部下が襲われているのに、助けない上官はいない。


「ちっ! 死にぞこないがぁ!」


 ガキィィィィイン!


 俺の剣が左の剣で、シンシアの剣が右の剣で防がれた。


 わかっていたことだが、こいつは『双刃乱舞』の名の通り、二刀流の剣士なのだろう。

 

「――おらよぉ!」


 掛け声一つで、俺とシンシアはそれぞれバラバラに吹き飛ばされる。

 剣の膂力が違うのだ。


「なんだぁ? 治癒魔法かぁ? 面倒だな、魔法士かよ・・・奴の弟子だけはあるなぁ」


 ギャンブランは俺の腹部の傷が繋がっているのをみてそう言った。

 実際は見た目だけだ。

 中は活性魔法で誤魔化しているに過ぎない。

 

「隊長! 動けるんですか!」


 逆側で、シンシアの高い声が聞こえた。


 一応、俺とシンシアはギャンブランを挟んでいる形だが・・・その程度でこの男に有利が取れているきは全くしない。


「シンシア、2人でやるぞ・・・君に合わせる!」


 俺は判断を変えた。たとえ1人を犠牲にしたところで逃げ切ることはできまい。

 できるのは・・・とにかく2人で協力して生き残ること。

 耐え忍べばそのうち、ゼノンとシルヴァディが来てくれる。それを信じるしかない。

 彼らならきっと、こいつにも勝てる。


「・・・了解」


 ゴクリと、シンシアが唾を飲み込んだ。


 赤紫髪の男――『双刃乱舞』ギャンブランは、この状況ににへら笑いを浮かべている。

 こちとら既に満身創痍だというのに、こいつは未だに汗一つかいていない。

 

「いいぜぇ、相手してやるよぉ・・・精々弱者なりにあがいて――」

 

 ギャンブランが言い終わる前に、シンシアが動いた。


「ハアア!」 


「うおおお――ッ!」


 俺も、同時に動く。


 双方からの同時攻撃。

 少なくとも、その2本の剣で受けに回らざるを得ないはず・・・!


「『双転斬』!」


 声が聞こえた瞬間、ギャンブランの動きがブレた。


 ――いや、ブレて見えるほどの速さの・・・回転斬りだ。

 

 遠心力と、2本の剣による手数の多さ―――それが回転斬りの密度を増している。


 鈍い音と共に俺の剣も、シンシアの剣も弾かれる。


「―――『双撃』」


 瞬く間に回転の合間から剣が飛んでくる。

 狙いはシンシアではなく、俺。


 2本の剣で、態勢を崩したままの俺に剣が迫る。

  

「―――く、おおお!」


 とにかく、避けるか、守らないと。


 上段から迫るのは2本の剣による振り下ろし―――。


 ガァァアン!


 無理やり魔力で動かした()()が、俺の体とギャンブランの二太刀の間に滑り込んだ。


「うぐっ!」


 俺の左腕に仕込まれた鋼鉄の篭手は鈍い音を立てながら砕け散るが、そのおかげで一瞬の余裕ができた。

 左腕の状態なんて構っている場合ではない。


「この―――っ!」


 後ろからギャンブランにシンシアが斬りかかる。


 俺も下がらず、前に出た。


 しかし――、


「『双車輪』―――!」 


 キン!


 上体を逸らしながら出される高速の回転斬りに、俺の剣も弾かれ、シンシアの剣も弾かれる。

 

 今まで見えていたはずのこの男の剣の速度も、回転斬りの際は全く持って目視ができない。

 遠心力と、片刃であるということが、回転斬りの速さと威力を底上げしているのか・・・それともこいつの奥義か・・・。


 とにかく、隙が無さすぎる。


 まさに、多対一の為にある二刀流のようだ。


「・・・なんだぁ? もう終わりかぁ?」


「・・・まだまだ・・・です!」


 息まくのはシンシアだ。


 あくまで攻めるのは彼女で、俺はサポートに回るべきだろう。


 シンシアの動きを読むのだ。


 敵――この男の動きを読むには、流石に時間が足りない。

 同格の相手ならともかく、これほど格上の相手の動きを読むには、長い時間観察する必要がある。


 ゼノンの動きを読めたのは、安全に第三者として、毎日のように観察できたからだ。


 だから、読むのはシンシアの動きだ。

 彼女の動きなら、毎日のように見てきた。

 どのタイミングでどんな技を出すのか、まるで手に取るようにわかる。


 シンシアの動きを読んで、それに合わせる。


 それが俺にできる――最善手段・・・!


 ―――突っ込むシンシア。


 ―――弾くギャンブラン。


 ―――追撃を防ぐ俺。


 ギャンブランがシンシアに対して致命傷になるような剣を使わないのと、持ち前のシンシアの速さ、そして、息を合わせたような俺のフォローによって、なんとか 成り立っていた競り合いだ。


 もちろん、そんな形だけの競り合いは長くは続かない。



 最初に崩れたのはシンシアだ。


「―――っ!」


「なんだぁ? 急に動きが悪くなったなぁ!」


 ケガこそしていないものの、シンシアの動きの速さにキレがなくなっている。

 

 ―――魔力の枯渇だ。


 シンシアは常に最高加速と最大身体強化で動いていた。

 彼女とて魔力量は少なくないのだが、この場では最も早くガス欠してしまったのだ。


「ちっ!」


 俺も魔力量には余裕はないが、彼女がガス欠ならば、俺が前に出るしかない。


「ふん、死にぞこないが前に出てきてもなぁ!」


「うおおおおおっ!」


 俺に会話をするような余裕はない。

 ただ必死で剣を振り、ただ必死に地面を蹴る。


 ―――だが、届かない。

 

 俺の剣は軽く奴の剣でいなされる。


 飛んでくるのはもう1本の剣。


 ―――全く本当に嫌になる。


 シルヴァディの言うところの「第四段階」か。


 いくら修業を積んでも、どれほどの思いを込めようと、俺の剣は彼らの領域に届かない。 

 俺は、ただ俺の周りの物を守りたいだけなのに、そんな些細なことも、俺の力では足りない。


「―――」


 血の飛沫が、視界を覆った。


 俺の血だ。


「隊長――――ッ!」


 シンシアの声が聞こえた。  


「ちっ。手間取らせやがって」


「・・・よくも隊長を・・・」


「うるせぇ」


「――うっ」


 鈍い打撃音の後、足音が俺から離れていくのが聞こえた。



● ● ● ●



 ――体中のあちこちが悲鳴を上げているのがわかる。


 生きてはいる。

 

 だが、体は動かない。

 意識が遠い。


 ――動けよ。


 動けよ俺の体。


 なんのために・・・なんのために修行してきたんだよ・・・。


 守るためだろう。


 大切なものを・・・守るために強くなったんだろう。


 ここで守れなきゃ、何の意味も無いじゃないか。


『――仕方がないだろう? 相手は八傑だ。シルヴァディと肩を並べる存在だ。お前が相手になるはずなかったんだよ』


 うるさいよ・・・。


 それでも、やらなきゃいけないんだよ・・・じゃなきゃ、俺は――なんのために・・・。


『仕方がないさ。この世界には化け物みたいに強い奴がうじゃうじゃいるんだ。所詮お前がどれほど頑張ったところで、そんな強者にはなれない。お前が一番わかっているだろう?』


 黙れよ・・・。


『前世でもそうだった。アイツには何をやっても勝てなかった。勉強も、仕事も、アイツは俺の半分も努力せずに俺以上の結果を出した』


 黙れ!

 黙れ黙れ黙れ黙れ―――!


『そして、そんなアイツにも、勝てない奴なんていくらでもいた。世界なんてそんなもんだ。いくら頑張っても、限界はある。トップにはなれないんだ』


 黙れよ!


 だからって・・・だからって諦めていい道理はないんだ。


 シンシアが連れ去られて、人質にされて、そうなったら、シルヴァディも、ゼノンも勝てないかもしれない。


 今、止められるのは・・・ここには俺しかいないんだ。


『でも動かない。見ろよ、お前は既に死にかけている。肩口をバッサリ切られたんだ。他人の心配をしている場合か?』


 それでも、やらなきゃいけないんだ。


 もう、嫌なんだ。

 守れなくて、俺が弱くて、後悔するのは。


 全部背負うって、強くなるってそう決めたんだ。


『無理だよ。それは傲慢だ。なんでもかんでも守れるような強さになんて、なれるはずがないだろう?』


 じゃあ、諦めろっていうのかよ・・・。

 目の前の少女を助けることもできずに、諦めて、そして無様に生き残って、後悔して―――。

 そんなことに耐えられるわけないだろう!


『だからといって、強さを求めるのか? この世の頂点の力は限りなく遠い。力を求めるのは―――この道は苦行だ。お前にとってはなによりも苦しく、険しい道となる。人を殺すのに、いつも辛く、苦しそうな顔をような甘ちゃんが、人を殺す技術を磨き続けるんだ。お前にその苦しみを背負えるのか?』


 ・・・そうだ、その通りだ。

 本当は人を殺したくなんかない。

 戦場からは離れて、安全な都市の中で、平和に暮らしていきたい。


 大軍の中に突貫するのも怖いし、強いやつと戦うのはもっと怖い。


 でも。


 それでも、俺は引き返せない。


 知ってしまったから。


 守れなかったときの悲しみを。

 恐怖を。

 辛さを。

 情けなさを。


 家族も、友人も、部下も、好きな人も、平和で健やかな日常も――守るためには力がいるって。


『・・・相手は世界最高峰。個人で一軍にすら匹敵すると言われる連中だ。そんな奴らを相手取るということが、どういう意味か、わかっているのか?』


 ああ、そうだな。

 わかっているよ。


『それを倒そうというなら、お前も・・・化け物と、そういう奴らと同じになるしかない。お前に、その力を背負う覚悟があるのか?』


 ある。

 それで、誰かを救えるのなら何だって背負うさ。

 もう俺にはそれしかできない。

 力には、責任が伴う。

 わかっているさ。


『・・・そうか。ならばいい。器は既にできている。扉を開けよう』


 ・・・扉?


『そう。扉――強者の扉だ。扉を開ければ・・・お前のみる世界は一変する。あとは、お前次第だ』


 ――お前は誰だ?


『俺はお前だよアルトリウス。誰よりも他人を守り、救いたい――そんな傲慢なお前の心根を、誰よりも理解するお前自身だ――』



 声はそこで途絶えた。


 そして、どこかで扉の開く音がした――。



● ● ● ●



 背中がひんやりとする感触とともに目を開けた。

 

 腹部と、左肩から胸にかけて、違和感を感じる。


 そうだ、俺は奴に、肩口をバッサリと斬られたはず・・・。


「生きてる・・・」


 ――不思議と痛みはなかった。


 無意識のうちに治癒魔法を使っていたのか、一応傷口の血は止まっていた。

 見た感じは、血が止まっているというだけで、痛々しい傷跡は残っている。


 魔力は相変わらずほとんど残っていない。


 でも・・・。


 不思議だ。


 見えている景色が違う。

 音が細かく聞こえる。

 景色が鮮明に見える。


 あらゆる風が、草が、大地が、どのように動いているのか、よくわかる。


 さきほどのは夢だろうか。

 記憶はおぼろげだが――。


 ・・・限界。


 強さには壁があると思っていた。

 いくら頑張っても、シルヴァディやゼノンのようにはなれないと、そう思っていた。


 前世の俺が、アイツに勝てなかったように・・・。


 でも。


 彼らのようにならないと守れない物があるのなら。

 彼らを越えないと救えない物があるのなら。


 越えてやる。

 何段でも飛ばして越えてやる。

 5年後でもない、10年後でもない。

 今だ。


 命に代えても、体に代えても・・・俺は・・・。


「・・・まだ遠くないな」


 シンシアは・・・追いつける距離にいる。

 なんとなくそう思った。


「行こう――」


 俺は剣を握りしめた。



 読んで下さりありがとうございました。

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