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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十一章 少年期・カルティア決戦編
92/250

第92話:VS『双刃乱舞』①

 いつの間にか総合500P!

 感謝です!


 『双刃乱舞』。

 

 ギャンブランと言ったか。

 

 以前シルヴァディに教えて貰った記憶がある。


 カルティアの近くにいるかもしれない実力者にして、『八傑』に名を連ねるほどの男。


 この世で最も強いと呼ばれる8人のうちの一人。

 まぎれもない強者。


 俺とは次元の違う・・・シルヴァディや、ゼノン、グズリーなどと同等の位置にいる剣士――。


 なぜ、今――こんな時に現れたのか。

 どうして本軍でなく、俺たちの部隊を狙ったのか。

 

 そんなことを考えている余裕はない。


 敵として、今そんな奴が目の前にいる。


 立ちすくんでしまうほどの殺気に、強者の風格。

 シルヴァディのいうところの「第四段階」に達している者。


 俺もここ1年で研鑽を積んできたつもりだが、それでも、未だにその域には程遠いと思っている。


 『烈空』なんて二つ名もついたが、呼び方が変わっただけだ。

 俺の強さが変わったわけじゃない。


 つまり、こいつは、絶対的な格上―――。


「ほらぁ! なぁに考えてんだぁ!?」


「―――っ!」


 ギャンブランの剣撃が走る。


 防戦―――。


 攻め込むはずの神速流が、相手の剣を躱すために、相手の剣から逃れるために、その速度を発揮している。


 コンマ1秒でも動きを止めたら、一瞬でも油断したら、確実に狩られる。


 俺の最大速度の動きに、まるで片手間のように奴――ギャンブランの片刃の剣が追い付いてくる。


「くっ・・・『流閃』!」


「水燕流も使うのかぁ! 奴の弟子というのは本当のようだなぁ!」


 最近ようやく物になったと思っていた『流閃』も、その一言で容易に返される。

 自信は一瞬で打ち砕かれていく。


 雷撃魔法(エレキトリック)爆炎魔法(エクスプロージョン)も、何の意味もなさない。

 そんな魔法を発動させているような暇もなければ、発動したところでこいつには当たりもしないし、当たったところで無傷で終わる未来が容易に想像できる。


 単純に・・・強い。

 辛うじて、神撃流であることはわかるが、速さも、重さも、俺とは比べ物にならない完成度だ。


 俺の剣が、技が、これまで必死に磨いてきた全てが、この男の前では無と帰す。


 動きを読んでも意味のないほどの速さと重さの差。


 覆しがたい膂力の差。


「・・・はあ・・・はあ・・・」


 なんとか足を踏ん張り、剣を構える。


 ――だがまだだ。

 

 こいつの剣は、視認できている。

 俺だって長い間、このレベルの剣を見てきたのだ。

 もちろん、反応できているかと言われれば微妙だが、それでもこいつの剣よりはゼノンの剣よりも遅い。

 俺がまだ生き残っているのがなによりの証拠だろう。

 

 まだだ。

 もう少し粘らなければならない。


 こいつと戦闘を開始してから、体感はすでに何時間も経っているが、どうせ実際は数十秒も経っていない。

 

 今逃したら、部隊を追うことなど容易だろう。

 シルヴァディかゼノンが来るまでなんとか持たせないと・・・。  


 そんな俺を眺めながら、『双刃乱舞』はつまらなさそうに呟いた。


「・・・はぁん? もう終わりかぁ? リードの奴が気を付けろっつーから期待していたのに・・・案外大したことないな」


 まるで遊んでいたとでもいうようだ。

 事実そうかもしれない。

 こいつはまだ、2本ある剣のうち、1本しか抜いていない。


「・・・終わりじゃ・・・ない!」


 地面を蹴った。

 もちろん、俺にできうる限りの最大速度だ。


 最も得意な上段からの構えのまま、一気に距離を詰める。


 だが、そんな俺の剣は、奴に容易に躱される。


「クカカカカカカ! 苦しいよなぁ、苦しいよなぁ? 折角の才能も、折角の努力も、何の役にも立たないもんなぁ!」


 男は笑っていた。


 俺を蹴り飛ばしておいて、笑っていた。


 口角をねじり上げ、俺のことを見下ろし、嘲笑っていた。


「でもなぁ! それが現実! それが実力! それが強さ!」


 狂気にも思えるその男の様は、俺には恐怖をもたらした。

 得体のしれない強さに対する恐怖。

 そして・・・。


「特にこれ以上相手してても、大したもんはないみてぇだし・・・さっさと殺すか。用があるのはてめえじゃねえからなぁ!」


 男――ギャンブランの剣が振り上げられた。

 

 ―――死。


 いつ振りにか、感じる死の恐怖。

 この世界に来てから何度もあり・・・そして、いつしか鈍感になっていた死への恐怖だ。


「――くっ――」


 挑んだ時点で、こうなることはわかっていた。

 覚悟もしたつもりだった。


 それでも感じる・・・恐怖・・・。


「じゃあな、天剣の弟子――」


 剣が振られた―――その時―――。


 ――キン!


 剣が受けられる音と共に、黄金の髪が舞った。


 シルヴァディ?


 ――否。


 戦場に似つかわしくない白い皮鎧に、絹のように細かい金色のサイドテール。


「・・・シン・・・シア?」


 黄金の髪の少女―――シンシア・エルドランドが、俺の前にいた。




「―――ちっ!」


 ギャンブランは剣を払い、数歩後退した。

 そして注意深くこちら――というよりはシンシアのことを凝視している。 


「・・・生きていますか?」


 その間に金髪の美少女、シンシアは横目で、俺の方を確認した。

 額には汗が浮かんでいるように見える。


「・・・おかげさまで。ありがとう」


 俺も立ち上がり、剣を構える。


「でも、どうして来たんだ? 撤退命令を出しただろう」


「そんなの・・・無理です。隊長に死なれたら困ります。その・・・まだ隊長には勝ち逃げされたままですから」


 立ち合いでの勝率はシンシアの方が高いはずだが・・・最近の勝率の話か? 

 それとも、最初の立ち合いのことを言っていたのか?


 わからなかったが、まぁ今はそれどころじゃない。


 シンシアの冷や汗は、首筋にまで垂れている。

 眼前にたたずむ、1人の男を捉えて。


「・・・よく、こんなの1人で相手にしようと思いましたね」


 シンシアも毎日ゼノンと稽古をしているからわかるのだろう。

 相手にしている男の強さ――格の違いを・・・。

 いや、フランツ達ですらわかったのだから、強者というのは誰でもわかるものかもしれない。

 

「『双刃乱舞』ギャンブラン・・・八傑の1人だ」


 短く俺はそう答えた。

 

「・・・八傑―――あの人と同じ・・・」


 シンシアの顔が引き締まる。

 流石に緊張している面持ちだ。


「・・・君は逃げろ。俺がなんとか時間を稼ぐ」


「今さっき死にかけていた人が何を言っているんですか。私もやります。それ以前に・・・逃がしてくれるとは思えませんが」

 

 正面――なにやらジィーっとシンシアを見つめていたギャンブランの瞳は、どこか憎々し気なものに変化している。


「・・・そうだぁ。逃がさねぇよ、てめえは・・・てめえだけはなぁ!」


 先ほどまでの狂気に満ちた笑顔ではなく、憎しみに満ちた表情だ。

 逃がさないというのは俺ではなく、シンシアのことだろう。


「どこか面影がある。その金色の髪も・・・間違いねぇ。てめえ、シルヴァディの娘だろぉ?」


「!?」


「シルヴァディの娘は連れ帰ることにしてんだぁ・・・奴をおびき寄せるためになぁ!」


 ―――まさか、初めからシンシアが狙いだったということか。


 たしかシルヴァディは言った。

 以前『双刃乱舞』とは戦ったことがあると。

 なにか因縁のようなものがあるのかもしれない。

 ・・・シルヴァディを倒すために・・・人質かなにかに使うのかもしれない。 


「シンシア! 逃げろ!」


「隊長!?」


 俺は前に出た。

 シンシアが狙われているというのなら、なおさら、彼女を渡すわけにはいかない。


「邪魔だよてめえ!」


 抜き身の刃が眼前に迫る。


「――ッ!」


 見える。

 見えているのだから―――。


 加速。

 更に加速。

 

 足を――腕を――走らせる。


 敵の刃には―――()()を突き立てた。


 バギャアァアン!


 高い音と、すさまじい衝撃が俺の左腕に浸透する。

 中の骨は逝ったかもしれないが・・・見かけ上は、ギャンブランの剣は俺の左腕によって止められている。

 そう、左腕に仕込んだ鋼鉄の()()に――。


「ここだああぁぁぁああ!」


 奴の剣が止まった。

 今しかない。


 右腕に魔力を持っていく。

 渾身の威力と渾身の加速だ。


 剣閃を―――。


「―――うっ」


 剣を振りかけた瞬間、腹部に激しい痛みを感じた。


「ちっ! 抜かせやがってよぉ!」


 そこにあったのは、2本目―――。


 いつの間にか抜かれていたギャンブランの2本目の剣が、俺の腹部を裂いていた。


「ぶふっ!」


 口の中に血の味が広がる。


 俺はその場に崩れ落ちた。


「隊長!」


「次はてめえだよ! 天剣の娘ェ!!」


 ギャンブランは、倒れる俺には目もくれず、シンシアにめがけて迫っていく。


「―――くっ!」


 シンシアも覚悟を決めたのか、剣を振るう。


 ―――駄目だ。


 そいつには勝てない。

 逃げなきゃ。


 剣の音が聞こえる。

 

 打ち合えているのか?


 くそ、動け、たかが腹を切られてくらいで・・・。


 治癒魔法を全力でかける。

 見かけだけでも血が止まればそれでいい。


 繋がるだけでいい。


 とにかく、今――今動かないと・・・・!


 俺は立ち上がった。


 読んで下さりありがとうございました。

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