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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十一章 少年期・カルティア決戦編
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第91話:接敵


 「敵軍が予定よりも早く出陣している」


 その情報をラーゼンに知らせたところ、返ってきたのは「作戦続行」の指示だ。

 多少の準備の時間の差などは意に返さないほど、会戦に自信を持っているのだろう。


 作戦続行ということで、敵の陣形が整うのを確認しつつ、奇襲をするポイントへ向かう。

 奇襲というのは、敵軍のどこを突くかが非常に重要なのだ。

 俺は部隊に、隠密行軍をさせながら、目的のポイントに移動させた。


 敵の斥候が山の中に潜伏している可能性は高い。

 そんな奴らに見つからないように行軍するのは、いくら100名余りの部隊とはいえ至難の業だ。

 なるべく密集させず、班ごとにバラバラとなりながら、しかし一つの場所を目指す。


 山や、森の中の行軍は、すでにゲリラ戦演習で慣れたものだ。

 いまだ10代の少年少女たちが、あたかもベテランかのように山の中を練り歩くのは、改めて戦争という所業の痛ましさを思い知るところもあるが、この世界だと大して珍しくもないことなのだろう。


 俺たちは特に障害もなく、目的の位置についた。


「・・・既に始まっていますね」


 すぐに、フランツが言った。


 彼の言う通り、山から見下ろす先―――平野の上では既に戦いが始まっている。

 なかなかに激戦だ。


「早く行かないとな」


 単純な平地での戦闘の場合、12万と8万では、いくらユピテル軍の兵士の質が高いと言ってもいずれ限界が来る。

 その数の不利をひっくり返すために存在するのが俺たちの隊なのだ。


「どこに突貫しますか?」


 随分物騒な質問だが、いつもやっていることだ。


「・・・後方だ。敵の司令官を一気に落とす。それで詰みだ」


「では、全員にそう回します」


 フランツも慣れたようにそのまま素早く伝令に回った。

 他の班とは少々距離があるのだ。

 実に優秀な副官である。


 とはいえ、どこに突っ込むかなんて別にそれほど厳密に決めなくても、どうせ俺を先頭に全員がついてくる。

 100人隊なんて、ある程度全員まとまっていなければ、幾万の軍勢の間を横断しきるなんてことはできないからな。


 隊の士気は相変わらず高い。

 最後の戦いということで、誰もが気合をいれているのだ。

 

 だが・・・最後の戦いだからこそ、彼らには生き残ってもらわないとな。

 

「それに・・・」


 これは別に・・・最後ではない。


「隊長、どうされました?」


 フランツが戻ってきていたことに気づき、そんな言葉は呑み込む。  

 士気の高い部隊の中でわざわざ言うことではないからな。


「いや、なんでもないさ。じゃあ・・・・行くか」


「はっ!」


 そう、まさに今、全班集合の指令を出そうとしたそのとき―――。


 ()()()は、現れた。



「―――!?」


 体全身が危険信号を出していた。

 

 ―――全力で逃げろ。


 俺の中の生存本能も、剣士としての経験も・・・俺の全てがそう告げていた。


 ―――コイツはヤバい。


 向けられていたのは『殺気』だった。


 まだ距離はある。

 だが―――それでも充分に感じる殺気―――。


「た・・・た、隊長、この悪寒は・・・一体・・・」


 隣を見ると、フランツが、ガクガクと体を震わせている。

 顔を青くして、恐怖におびえているのだ。


 他の面々も似たようなものだ。

 

 アニーも、サムも、ウェルゲンも、ジェイドも、ノエルも、ラムザも―――。


 共に、いくつもの戦場を乗り越えてきた歴戦の―――第1独立特務部隊の1班の猛者共だ・・・。


 だがそんな彼らが、恐怖に顔を引きつらせ、足をすくませている。


 大軍の中に突っ込んでいくのに、何の躊躇もしない彼らがだ。


「――クカカカカカ! 本当に来やがったよぉ! あの司令官もなかなか切れ者だなぁ!」


 声が聞こえた。


 既に目視できる距離に―――()()()はいた。


 俺とそいつの間には、いくつもの木々や傾斜がある。


 そのはずなのに、その姿からは目が離せなかった。


 それは1人の男だった。


 赤紫色の逆立つような髪に、薄気味悪いほど青白い肌。

 痩躯に見えて、鍛えられている密度の濃い肉体。

 愉快そうに歪む顔は、おぞましい笑顔であり、漂う風格は、歴戦―――恐怖そのもの。 

 背中に背負う2対の剣は、鞘に納められていても業物とわかる一品・・・。


 ―――わかる。


 聞かなくても、みるだけで、感じる。


 あれは―――強者だ。


 シルヴァディや、ゼノン・・・俺の届かない域にいる、絶対的強者―――!

 

「フランツ!」


 俺は叫んだ。


「他の班も連れて、総員撤退しろ! 師匠に知らせてこい!」


「は・・・・でも、隊長は!?」


 ハッと我に返るようにフランツがまじまじとこちらを見る。


「俺は・・・殿(しんがり)だ。安心しろ・・・全員、何があっても逃がしてみせる」


「・・・しかし――!」


「早くしろっ!」


「・・・ハッ!」


 フランツは走り出した。

 他の班の元へ縦横無尽に駆け回り、きっと撤退戦を成し遂げてくれるだろう。


 ―――そうだ、それでいい。


 もはや・・・作戦なんてどうでもいい。

 せめて、あいつらは生かしてやらないと―――。


「あぁ? 逃がすわけ、ないだろぉ!」


 声と同時に、赤紫色の髪が―――消えた。


 いや、消えるはずがない。

 見える。見えるはずだ。

 毎日見てきた、そんな速さは!


 体を・・・動かせ!

 

「ハアァァアッ!」


 キンっ!


 剣の重なる音が鳴った。 


「・・・ほぅ」


 フランツ達を追おうとしていた、男の剣を止めたのだ。


 心臓が脈打つ。

 かつてない――強者との接敵。

 

 俺にできるのか?

 

 ・・・違う。


 やるんだ。

 やるしかないんだ。


 間違いなくこいつは・・・敵だ。


「てめぇ・・・名前を聞いておこうか」 


 鍔迫り合いながら、男が口を開いた。

 

 知りたいのなら教えてやる。

 最近お和え面向きの二つ名まで貰ったところだ。


「・・・『烈空(れっくう)』アルトリウス」


「―――クカカカカ、そうか、てめぇがアイツの弟子かぁ」


「!?」


「俺は『双刃乱舞』ギャンブラン―――せいぜい準備体操くらいには、なってくれよぉ!!」


 赤紫の髪の男――ギャンブランの顔が、愉快に歪んだ。




● ● フランツ視点 ● ●



 規格外。

 化け物。

 絶対的強者。


 そういったものは、きっと隊長のような人を言うのだろうと思っていた。


 だから、隊長が自分の力を過小評価するたびに、彼は謙虚な人なのだと、そう思っていた。


 だが・・・きっと隊長は知っていたのだ。


 毎日のように天剣シルヴァディ閣下や迅王ゼノン閣下と稽古をしている彼だから・・・あるいは自分たちとは違う次元で死線を何度もくぐっている彼だからこそ、知っていたのだろう。


 ――あれは、格が違う。

 

 ただ殺気をまき散らされているだけなのに、体は震え、戦意がなくなっていくのがわかった。

 

「フランツ! 他の班も連れて、総員撤退しろ! 師匠に知らせてこい!」


 隊長に叱咤されるまで、恐怖で何をすればいいのかもわからなかった。


「は・・・・でも、隊長は!?」


「俺は・・・殿(しんがり)だ。安心しろ・・・全員、何があっても逃がしてみせる」


「・・・しかし――!」


 殿(しんがり)・・・。

 明らかに化け物と分かるような、この殺気に対して、たった1人で殿を務めるというのだろうか。

 私にもわかる。

 あの男は隊長よりも・・・。


「早くしろっ!」


「―――っ!」


 きっと、フランツや・・・他の隊員がいくらいたところで足手まといなのだろう。

 隊長は、隊員に死なれることを誰よりも忌避している・・・!


「―――ハッ!」


 私は走った。

 とにかく、全員をつれて、全員を生かすのだ。

 隊長の命懸けの判断を―――無駄にしてはいけない。


「総員、ただちに撤退せよ! 作戦は中止! 隊長命令だ!」


 叫びながら木々の間を走り抜ける。


 はるか後ろでは―――恐ろしい殺気と、隊長が対峙している。

 

 隊長がどれだけ持つのかはわからない。

 私に推し量れる次元の実力ではない。


 私にできるのは、とにかく全員を逃がし・・・シルヴァディ殿かゼノン殿に救援を・・・!


「フランツ! 今の殺気は!? 撤退って・・・何があったのですか?」 

 

 シンシア副隊長が合流し、フランツ達1班と並走する。


 彼女の班は我々とは距離があったのか、()()()を目視していないようだ。


「想定外の敵です。とにかく、全員撤退をとの命令です!」


「隊長は・・・隊長はどうしたんですか!?」


 走りながら、シンシア副隊長は、鬼気迫る形相だ。


「隊長は・・・1人残って殿(しんがり)を・・・」


「―――っ!」


 シンシア副隊長が立ち止まった。


「副隊長!?」


「フランツ、隊のことは任せます。私は・・・戻ります!」


「シンシア副隊長!」


 静止も聞かず、シンシア副隊長は走り出した。


 あのおぞましい殺気の元へと・・・。


 読んで下さりありがとうございました。

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