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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十一章 少年期・カルティア決戦編
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第89話:大一番へ

 本当はもう1話間話を挟もうと思っていたのですが、さっさと話を進めたかったのでやめました。



 キャスターク攻略作戦についての参謀会議が開かれた。 


 都市『キャスターク』はほぼ最後と言ってもいいカルティアの大都市だ。

 ここさえ落とせば、もうカルティア軍に、逃げ場はない。


「つまり、奴らは、会戦を挑んでこざるを得ないということだ」


 ラーゼンが言った。


 ここを落とされれば、もうカルティア軍には逃げ込む都市も、助けてくれる都市もない。

 だとするならば、奴らとて打って出てくるしかない。

 既に掌握している都市の数も、資源の量もユピテル軍の方が上回っている。

 籠城戦はできまい。


「キャスタークにいる敵軍は、およそ10万。元々の主力軍と、各都市の残存兵力を合わせた全兵力と思われます」


 諜報担当の参謀の1人がそう報告する。


「・・・うむ。ここが大一番だ。小細工は無用。我々の全軍――8個軍団を持って、正面から奴らを叩き潰す!」

 

 ラーゼンのその宣言に、その場にいた誰もがゴクリと唾を呑みこんだ。

 俺にとってはまだ1年程度だが、彼らは俺よりも以前からこのカルティアで戦っているのだ。

 大一番といわれれば、感慨深いこともあるのだろう。


「無論、正面からとはいっても、勝つために戦術は使わせてもらう。アルトリウス!」


「はっ!」


 この戦術の発表のときに俺の名が呼ばれるのも当たり前の光景になった。

 側面からの別動隊や、陽動など、重要な役割を押し付け――もとい任命されるのだ。

 結果を出してきた今となっては、文句を言う武官もいない。


「君の部隊は、今回、別動隊として動いてもらう」


「はい」


 今回というよりは、いつもな気がするけど。


「キャスタークは、2つの山に囲まれた都市だ。山は天然の要害となっており、大軍を率いるならば、山の間の平野を抜けるしかない。我々本軍も、この平野に陣を構えるつもりだ」


 そういって、ラーゼンは、キャスターク周辺の地形が大まかに書かれた地図を指す。

 ラーゼンの言う通り、キャスタークの周囲で会戦を行うには、平野に陣を構えるしかない。


「アルトリウス隊は、この山の片方――そうだな、西の低い山の方を行軍し、会戦が始まった瞬間、敵軍の側面を突け。もしも山で敵軍と遭遇しても・・・山林戦は得意だろう」


「得意というわけではありませんが・・・対策はしています」


 山林戦というのは、山に潜伏している敵との戦闘――ゲリラ戦の事だろう。

 日夜訓練を積んでいるし、何度も実戦も経験している。


「ならばいい」


 満足そうにラーゼンは頷いた。

 

 その後、作戦に参加する軍団の司令官の名前が読み上げられる。

 もちろん、全軍で出撃するので、8個軍団の指揮官8人全員の名前があがる。

 本軍の最前線はいつも通りシルヴァディだ。


「そして、もちろん今回は、私も出る」


 ラーゼンはニヤリと笑った。


 このラーゼン・ファリド・プロスペクターという人間は、自身の戦闘力は皆無と豪語している割に、大きな戦いの際は、必ず最前線に赴く。

 まぁ傍にゼノンはいるから、安全といえば安全かもしれないが、それにしても総司令官が自ら前線に出るということ自体は、素直に尊敬できるところだ。

 彼が前に出るからこそ、兵士たちは彼を信奉しているのだろう。 


 武官、文官問わず士気が高揚する中、参謀会議は幕を閉じた。



● ● ● ●



「また別動隊ですか・・・」


 駐屯地に戻り、参謀会議の内容を伝えると、フランツが言った。


「不満か?」


「あ、いえ、そんなことは。我らは隊長のいる場所へならばどこへでもお供する所存なので」


「そ、そうか」


 隊員たちには何故か変な風に懐かれてしまっている気がする。

 まぁ俺としては指示を素直に聞いてくれる分には問題はないが。


「それで、山を登って敵軍の側面に回り込むことになったんだが、待ち伏せによる奇襲の可能性がある。暫くはゲリラ戦演習を行うぞ」


「げ、ゲリラ戦演習ですか・・・了解しました」


 フランツに限らず、ゲリラ戦演習をするとき、隊員の顔はいつも引きつっている。

 何故だろう。

 カルティア軍の主戦法であるゲリラ戦の対策をするのは、実戦でも活きていると思うのだが。


「ゲリラ戦演習って、そんなつらいか?」


「へ? ええと、つらいといいますか・・・その・・・カルティアの大軍を相手にするよりも、隊長1人を相手にする方がよっぽど大変ですので・・・」


 言葉を選びながらフランツが答えた。


「それだと、まるで俺1人に隊が全滅できてしまうようにも聞こえるじゃないか」


「・・・できないのですか?」


「・・・お前は俺をなんだと思っているんだ」


 そんな化け物になった記憶はない。

 確かにこの隊の単体戦力の中では一番かもしれないが、隊全員を相手にするとなると、まずシンシアだけでも手いっぱいだ。

 シンシアを抑えている間に、残り100人で襲い掛かられたら溜まったもんじゃない。


「そんなんじゃ、もしも俺より強い敵が出てきたときが心配だよ」


「まさか。隊長よりも強い敵なんてよほどいませんよ」


「・・・・」


 確かに、ここまでのカルティアとの戦争で、単体で俺よりも強い位置にいる敵とは出会っていない。

 修羅兄弟(ゲイツとゲイル)程度の奴らならいたかもしれないが、班でかかれば負けることはなかった。

 カルティアでも有名な二つ名持ちと呼ばれている『砂塵』は『マラドーアの会戦』の最中に死んだらしいし、『剛腕』には出会っていない。『剛腕』はいつも最前線でシルヴァディとやりあっているらしく、後方や側面から奇襲することの多い俺たちとは接敵しないのだ。


 だが、確かに敵としては今まで出会っていないが、味方に俺よりも強い――それも圧倒的に強い人物が2人もいるのだ。敵にもいるのではないかという不安は拭えない。


「確かにまだ接敵したことはないが、味方には副司令2人のように圧倒的な強さを持つ人もいるんだ。2人が存在する以上、敵にも同等の強さの者がいても不思議ではない。油断はしないようにな」


「・・・はい」


 俺がそういうと、フランツは心得たとばかりに頷いた。


 窮鼠猫を嚙む、ともいうし、ここまで全戦全勝だからと言って、油断はできない。

 ここまで生き残ったからこそ・・・最後まで生き残らないと意味がないからな。

 


● ● ● ●



「どうだ、そろそろ『飛燕』は使えるようになったか?」


 早朝。

 いつものように稽古をしていると、シルヴァディが言った。


「使えるもなにも、見てわかるでしょう。ようやく『流閃』が物になってきたところなのに、すぐに次の技なんて無理に決まっているでしょう」


 俺はほぼ1年かけて水燕流の奥義『流閃』をマスターしたので、今は次の技――『飛燕』というのを練習している。

 シルヴァディは6つの技を1年で覚えたとか言っていたので、多分才能が違う。


「なあに。奥義なんてもんはなにかきっかけがあれば不意に使えるようになったりするんだ。『流閃』は確かに1年かかったかもしれねえが、もしかしたら他の技は3日で覚えれるかもしれないぜ」


「はあ」


 シルヴァディはいつものように飄々と言い放つ。

 だが、俺も無知ではない。

 シルヴァディは剣においてとんでもない才能を持った人間だ。

 先ほどの水燕流の奥義にしたって、6つ全部を使うことができるのは、世界に3人しかいないらしい。

 シルヴァディはその1人だ。


 そもそも4つの流派を全て免許皆伝まで極めた人間なんてのも他には聞いたことがない。

 それも、たった数年だ。

 

 そして最近、特に実感していることだが、シルヴァディは現在進行形でまだ強くなっている。

 多分、毎日立ち合いをしている俺だからわかることだろう。

 初めは、俺が強くなっていないのかと思っていた。

 だが、逆だった。

 俺も強くなっているが、シルヴァディも強くなっているのだ。

 そりゃあ勝てるはずはない。

 敵じゃなくてよかった、本当に。


「それに、お前は気づいていないかもしれないが既に・・・いや―――何でもない」


 シルヴァディが何かを言い淀んだ。


「何ですか?」


「・・・いや、お前なら大丈夫だ。『飛燕』もすぐに使えるようになるさ」


 含みのある言い方だが・・・まぁ単に励ましてくれたということか。


 『飛燕』は、返しの技だ。

 切り込んでくる相手の太刀を躱したときに半身半歩で打ち込むカウンター技。

 踏み込みが半歩かつ、半身の姿勢という力が入りにくい態勢から有効打を打ち込むのはなかなかに難しい。

 半身で躱すという動作自体は、神速流ともマッチしており、使えるようになればそれは強力な技になるだろう。


「気長にやりますよ」


「そうだな」


 まぁ昔シルヴァディも『流閃』だけでも極めれば水燕流は極めたも同然みたいなことを言っていた気がするし、地道に気長にだな。



「そういえば、アルトリウス、噂をきいたんだが」


「噂ですか?」


 剣の話も一通り終わったところで、シルヴァディが急に真顔になった。

 なんだろう。

 どこか深刻そうな顔をしている。

 流石のシルヴァディも最後の戦いを前に緊張しているのだろうか。


「・・・シンシアと付き合っているって、本当なのか」


「は?」


 何を言っているんだこの親父は。


「だから・・・シンシアと交際しているのか?」


「いや、してませんよ。何言っているんですか師匠」


「そうか・・・」


 もちろん、事実無根なのでそういったのだが、シルヴァディは相変わらず深刻そうな顔をしている。


「――確かに、シンシアとは最初の頃と比べれば仲良くさせて貰っていますが、恋愛感情はありません。向こうからしてもそうでしょう」


「・・・そうなのか」


 無論、シルヴァディはシンシアと接する機会なんてないので、シンシアが俺のことをどう思っているかなんて知る由もないと思うのだが。


「いや、昨日の参謀会議の後、ゼノンと話したんだが、お前とシンシアがいい感じらしいみたいなことをぼやきやがってな・・・」


 どうやらゼノンから聞いたようだ。

 全く、早とちりにもほどがある。

 

「そうでしたか。安心してください。貴方の娘さんは剣一筋ですよ」


「そう、か」


 シンシアの興味は剣と・・・あとはお風呂くらいか。

 色恋なんてしているとは思えない。

 もしかしたら俺の知らないところでそういった相手はいる可能性もあるが・・・。

 彼女とそういう話はしたことはないからな。


「それに、僕は将来を誓った人がいますから、浮気はできません」


 疑いを晴らすために、そう言っておいた。

 既に二股であることは棚にあげる。


「ほお、そうなのか」


 すると、シルヴァディは深刻そうな顔を解き、食いついてきた。


 詳しく話すまで帰してくれなかったのは言うまでもない。




「・・・しかし、その歳で二股とは・・・アルトリウスもなかなか隅におけないな!」


 ところどころかいつまんで2人の子と将来を約束しているという話をすると、最後は上機嫌でそういわれた。


「しかし、ユピテルだと重婚は罪だから、気を付けろよ!」


「・・・まぁ、はい。それについてはいくつか考えていますから」


「ならいい」


 ニヤニヤしながら俺の背中をガシガシ叩く姿は、とてもこの人が軍の最高戦力とは思えないようなどこにでもいる普通の親父だった。


 しかし、シルヴァディはやっぱり、シンシアのことは大切に思っているんだろうな。

 シルヴァディからシンシアのことを話すのは珍しいが、きっと気にかけて、娘の近況については調べているのだろう。

 

 今度一応シンシアにそれとなく想い人がいるか聞いてみるか。


 もちろん、戦争が終わった後でな。


 ・・・そうだな・・・落ち着いたら、シルヴァディとシンシアにが2人で話せるような場を設けるのも悪くないかもしれない。

 戦勝パーティーとかやるだろうし、その時にさりげなく連れて行ってみるとか。

 


 そんなことを思いながら、俺はシルヴァディの元を後にした。  

 



 キャスターク攻略作戦―――カルティア最後の決戦が、まもなく始まる。



 読んで下さりありがとうございました。

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