表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/250

第87話:間話・最後の一手

 今回も短いです。


 総合400P行きました!

 たくさんの方に読んで貰えて嬉しいかぎりです!


 カルティア地方には、さまざまな部族がいる。


 多くのカルティア人は身体能力の高さを自慢とし、好戦的な性格をしているが、そんなカルティア人の中でも、知略を武器にする部族が存在する。


 代表的なのが、セルベント・キャスタの率いるキャスタ族だ。


 知力に優れるキャスタ族の中でも、部族長に選ばれるほどの策士であるセルベントであったが、今日は・・・いや、ここ数日は特に顔色が優れない。


 理由は明白。

 自身の率いるカルティア軍がーーユピテル軍に敗北しようとしているからだ。


 1年前、『マラドーアの会戦』にて、マラド族の首都マラドーアを失ってしまったカルティア統一戦線だったが、しかし、それでもまだカルティア地方の3分の1程度を失ったに過ぎない。

 人口だけはやけにいるカルティア人だ。

 募兵は容易であるし、まだ都市も残っている。

 いくらでも戦いようはあると思っていたのだが――。


 しかし蓋を開けてみれば、それ以来、カルティア軍は連戦連敗。


 いくつもの都市と兵を失い、この1年で立場は逆転。

 カルティアの3分の2はユピテル軍の手に落ちた。


 もはや残っている領土のうち、大きな都市はこの『キャスターク』しか残っていない。


「こんな、はずでは・・・」


 都市キャスタークの自室で、セルベントは嗚咽を漏らしていた。


 そう、こんなはずではなかった。


 そもそもマラドーアでは勝てるはずだったし、その後も、ゲリラ戦や消耗戦に持ち込めば、まだまだ十分勝機はあった。


 しかし――。


「あの部隊だ・・・あの部隊さえいなければ・・・っ!」


 『アルトリウス隊』。

 そう呼ばれる100名あまりの魔法使いによる部隊が確認された途端、ことごとくセルベントの策は打ち破られた。

 彼らが現れるたびに、カルティア統一戦線に壊滅的なダメージを与えてくるのだ。


 率いるのは『烈空(れっくう)』アルトリウス。

 空を飛んだとかいう魔導士だ。

 噂によるとまだ少年の域を出ない子供であるらしいが、恐ろしく高い戦闘力を持っていると聞く。

 彼以外も、アルトリウス隊は、一筋縄では行かない手練れ揃いであるとか。


 ともかく、その部隊が存在することによって、ユピテル軍の戦術はまさに自由自在だ。

 守りの『迅王』に、攻めの『天剣』。

 それに加えて遊撃の『烈空』となれば、もうこちらにそれに対抗する手駒はない。


 まだカルティア軍には『剛腕』は残っているが、魔導騎兵の数は少ない。

 隊列を形成することは困難だろう。


 つまり。


 ――カルティアは、負ける。


 もはやそれは避けられないことのように思えた。

 一応、残存する兵力をこのキャスタークに集結させてはいるものの、もはやいくら数を揃えたところで意味はないように思えた。


 ――いっそのこと、降伏するか?


 敗北を悟ったいくつか部族などはすでにユピテルに寝返り、恭順の意を示している。

 カルティア統一戦線も、敗北を認め、都市を解放して降伏すればいいのだ。

 カルティア部族の誇りは残らないが、人と都市は残る。


 もちろん、全面降伏したところで、総指揮官であるセルベントは確実に処刑されるであろうが、それでも多くの同胞はこれ以上死なずに済む。


 愛すべき故郷『キャスターク』を、戦場にせずにも済む。


 ――だが、本当にそれでいいのだろうか?


 それで、今まで自分に従って殺された兵士に、滅ぼされた都市に顔向けできるのだろうか。

 苦渋の選択を、セルベントは迫られていた。



 そんな折、コンコン、とセルベントの自室のドアを叩く音が聞こえた。


「なんだ?」


「――失礼します。どうやら、総指揮官殿に面会したいという者が来ておりますが」


「・・・通せ」


 大方、いつもの族長連中が、今後どうするのかについて問い詰めにきたのだろう。

 もしくは、セルベントにはもはや指揮官を名乗る資格がないとして、追放を言い渡しに来たか――。


 そんなことを考えていたセルベントだったが、彼の前に現れたのは、予想だにしない人物だった。


「――おいお前、入っていい――ぐはぁ!」


 扉の外からそんな音が聞こえた。

 明らかに先ほどの伝令が何かしら危害を加えられた音だ。


 ――なんだ?


 セルベントの脳に、早く逃げろと警鐘が鳴り響いているのがわかる。


「――へぇ、アンタがこの軍のトップねぇ」


 しかし、そんな警鐘に従う間もなく、「そいつ」は入ってきた。

 愉快そうに笑いながら部屋に入ってきたのは、1人の見慣れない男だった。


「――っ!」


 全身の身の毛がよだつのを感じた。


 まるで悪魔だ。


 赤紫色の逆巻く髪に、青白い肌。

 上背はそれほどないが、鍛えられていることがわかる肉体。

 背中に帯びられる、2本の剣。

 明らかに、カルティア人ではない。


 だが、そんな見た目のせいだけではない。


 セルベントは本能的に感じていた。


 それは、心の奥底から湧き出るような()()


 この男を前にすれば、何をやっても無駄――まもなく自分は死ぬのだろうと、まったく武術のできないセルベントにも理解できた。


 そんな恐怖に逡巡するセルベントに、男は口角を上げ、愉悦な表情をしながら言った。


「いやぁ、苦しいよなぁ苦しいよなぁ。いくら頑張っても、いくら誇りがあっても、いくら考えても、力がなきゃどうにもならない。死ぬか生きるか、弱者にはその選択肢がないんだからよぉ」


 嫌悪感を覚えるほどのおちょくるような声だ。

 

 敵か。

 味方か。

 その台詞からは判断することはできない。


「・・・お前は・・・何者だ? 俺を殺しにきたのか?」


 精いっぱいの勇気を振り絞り、セルベントは言った。


 気の狂った殺人鬼か、それともユピテル軍の放った暗殺者か。


 セルベントの問いに――男はニヤリと笑った。


「――俺は『双刃乱舞』ギャンブラン。傭兵だ。お前らを助けにきてやった」


「双刃乱舞・・・?」


 ――聞いたことがある。


 この世で最も強いと呼ばれる8人の強者。

 その1人に、最強の傭兵と呼ばれる男がいると。


 数多の戦場を渡り歩き、あらゆる組織や国を滅ぼしてきた圧倒的な存在。


『双刃乱舞』。


 セルベントが求めていた――強力な「個」の力だ。


「俺の目的はただ1人、天剣シルヴァディを血祭りにあげる事だ。・・・協力してもらうぜぇ?」


「――!」


 まさか・・・味方。

 いや、単に味方ではない。

 敵の敵だから味方ということだろう。


 だが・・・上々だ。


 『天剣』、『迅王』、『烈空』。


 どれかでも崩せれば、まだ勝利はある。


 勝つためならば・・・たとえ悪魔だろうが契約してやる。


 それが、死んでいった者たちと、カルティア部族に対しての誇りのあり方だ。


「見ていろ、ユピテル・・・これが――最後の一手だ」


 セルベントの瞳に――力が戻った。


 カルティア戦役、最大の大一番・・・『キャスタークの戦い』は、間も無く始まる。






 読んで下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ