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第86話:間話・妹無双

 息抜きに書いた間話です。

 特にストーリーには関係しません。

 文も雑だし短いので同時にもう1話更新です。


 皆さんはじめまして。

 私はアイファ・ウイン・バリアシオン。

 最近は敬語の練習をしています。


 突然ですが、私の兄――アルトリウスお兄ちゃんは、とんでもなく凄い人です。

 ずっと前から知っていたけど、でも、学校に来てから、その尊敬の念はより広がるばかりでした。


 同学年はもちろん、上級生の人たちは特に、みんなお兄ちゃんのことを知っていました。


 私が自己紹介をすると、誰もが、「あのアルトリウスの妹さんか」と言ってくれるのです。


 ファンクラブなんてものがあるとわかったときは、流石に戦慄しちゃいました。

 お兄ちゃんが素晴らしい人であるので、多くの女性が惚れてしまうのは仕方のない事ですが、エトナ姉さんやヒナ姉さん、リュデ姉さんだけでも手一杯だというのに、これ以上お兄ちゃんの周りに女の子が増えると、お兄ちゃんが私に構ってくれなくなってしまいます。


 生徒だけでなく、先生方もみんなお兄ちゃんの事を知っていました。

 ある先生は懐かしそうに、ある先生は感心しながら、ある先生は悔しそうにお兄ちゃんの事を教えてくれました。


 曰く、年間最優秀賞や、特別賞を4年間総ナメした神童。

 曰く、8歳にしてほとんど全ての上級魔法を網羅した異才。

 曰く、学年中の生徒から恐れられ、尊敬される傑物。

 曰く、平均点40点以下のテストで100点を連発した天才。


 どれもが賞賛の言葉でした。


 お兄ちゃんの評価が高いのは私としても凄く喜ばしい事ですが、逆にプレッシャーでもあります。

 もしも私の出来が悪かったら完璧なお兄ちゃんの顔に泥を塗ってしまうでしょう。

 完璧なお兄ちゃんの妹は完璧な妹じゃなきゃダメなんです。


 そういう意味ではアランは頼りになりません。

 最近はリリス姉さんにデレデレで、せっかくお兄ちゃんが教えてくれた勉強も少し疎かになっています。

 私はちゃんと特待生として入学したのに、アランは一般枠の合格でした。


 リリス姉さんもリリス姉さんで、アランを甘やかしすぎなんです。


 お兄ちゃんがいた頃は、アランも勉強を頑張っていて、私としても張り合いはあったのに・・・。

 あぁ、お兄ちゃん、早く帰ってきて欲しいなぁ――。


 ・・・おっといけません。

 お兄ちゃんはお兄ちゃんにしかできない大事なお仕事に行っているので、私のわがままで残って貰うわけには行かないのです。


 学校の勉強は、きちんと予習していた事もあって、それほど苦労はしませんでした。

 魔法学も余裕です。

 下級魔法はすでに全て網羅しているんです。


「おい、バリアシオンの! やけに有名な兄がいるようだけど、調子にのるなよ!」


 私が澄まし顔で水球(ウォーターボール)の詠唱に成功していると、隣の席の男子が絡んできました。


 どうやら私のことをお兄ちゃんの威を借る妹とでも思っているようです。

 事実その通りなので何も言えません。

 お兄ちゃんは偉大過ぎるんです。



「アイファは気負いすぎなんだよ~」


 アランはよく気だるげに言います。

 見た目だけはどんどんお兄ちゃんにそっくりになっているのに、中身は一向に成長してくれません。


「僕は無理してアル兄みたいになることなんてできないや。アル兄も、前にそう言っていたし」


「お兄ちゃんが?」


「うん。人は人、僕は僕。僕は僕なりに頑張ればいいって言ってたんだ」


 流石はお兄ちゃんです。

 もっともなことを言っています。

 アランにしても、学校ではお兄ちゃんと比べられているはずなのに、特に落ち込みもせず、のらりくらりとしているのは、きっとお兄ちゃんの言葉のおかげでしょう。

 アランはもっとお兄ちゃんを崇拝して生きた方がいいと思います。


 さて・・・では私は私なりに、お兄ちゃんの妹として恥じない結果を出さなければなりませんね。


 そう思い、私は頑張りました。


 テストでは絶対に1位を取る所存です。


 もう全部知っている範囲でしたが、授業は真面目に聞いて、復習も欠かしません。

 魔法も毎日詠唱の練習をして、水球(ウォーターボール)だろうと油断はしません。



 ・・・テストは想像以上に難しいものでした。

 もちろん、教科にもよりますが、こんなので満点なんて絶対無理です。


 案の定帰ってきた答案は80点や70点のものばかり。

 これでは1位は取れないかもしれません。


 答案を返却する先生たちの微笑ましい顔が、やけに同情されているようで悲しくなりました。


 しかし――。


 発表された順位は、私が1位となっていました。


 単に、テストがすこぶる難しく、他のみんなは私以上に出来ていなかったようです。


 後から先生に聞いたところによると、


「いやぁ、お兄さんがいた時の名残りでかなり難しくしてしまったよ」


 と、苦笑まじりに言われました。

 どうやらお兄ちゃんに満点をとらせないために、テストのレベルを躍起になって上げていたらしいです。


 それでもお兄ちゃんは毎回100点や、それに近い点数を取るとのことで、やっぱりお兄ちゃんは凄いんだなあと思いました。


「――しかし、今思うとミロティック嬢も、バケモノのような娘だったな・・・あの彼と対等に勝負できるなんて・・・」


 先生がそんなことを呟いているのが印象的でした。


 ミロティック嬢――きっとヒナお姉ちゃんのことですね。

 ヒナお姉ちゃんはもう引っ越してしまったけど、よく家でお話しをしました。

 お兄ちゃんからの評価が凄く高くて、しかも可愛い女の子なので、要注意人物です。





 さて、本日は、私にとって非常に重要な日です。

 もちろん、重要じゃない日なんてありません。

 最近はお父さんも忙しそうだし、カインさんもエトナお姉ちゃんも、働いている人はみんな忙しそうです。

 大人たちの間ではなにか重要な事があるのかもしれません。


 それでも、今日という日は、私にとっては1年で最も重要な日でしょう。


 何を隠そう、今日は学校の表彰式です。

 1年間の成果を問われるこの表彰式で、私は是非取りたい・・・いえ、絶対に取らなければならない物があります。


「では、次の表彰に移ります。新入生年間最優秀賞――」


「――ッ!」


 ――きました!


 私が何としても取らなくてはならない・・・年間最優秀賞です。

 かつてお兄ちゃんが、4年連続で取得して伝説を残したという、その最初の一つです。


「――アイファ・ウイン・バリアシオン」


 やった!

 私の名前が呼ばれました!


 今年の年間最優秀賞は、私です!


「――ハイ!」


 内心飛び上がりそうなほど嬉しい気持ちを抑え、毅然とした態度で返事をします。


 舞い上がってはいけません。


 きっとお兄ちゃんも、クールに――さも当然と言った感じて受け取ったはずです。


 壇上に上がると流石に緊張しましたが、賞状と、お兄ちゃんの持っていたのと同じ金色の紀章を受け取ると、そんな緊張はどこかへ吹き飛んで行きました。


「流石はかの神童の妹さんだね」


 賞状を渡す際に、校長先生が小声でそう言ってくれたのが、何よりも嬉しいことでした。



「・・・その、バリアシオンさん、最初は突っかかって悪かったよ。お兄さん関係なしに、君は凄い人だった」


 その後、学校が始まったばかりの頃私に突っかかってきた男の子が、かしこまった顔で謝ってきました。


「ううん。私なんてまだまだだよ!」


 私は笑顔でそう返しておきました。


 私は満足していません。

 もっともっと、頑張って、お兄ちゃんが帰ってきたとき・・・いっぱい褒めて貰うんです!



 アイファは、アルトリウスを尊敬しているのは事実ですが、「お兄ちゃんの妹として恥ずかしくないように」というよりは、本心では「単にお兄ちゃんに褒めて欲しい」から頑張っているただのブラコンです。


 読んで下さりありがとうございました。

 

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