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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第八章 少年期・カルティア到達編
68/250

第68話:初陣

 パソコンはなんとかなりそうです!


 章自体にまとまったテーマはありません。

 今話はオスカー視点です。




● ● オスカー視点 ● ●



「バリアシオン君――――ッ!」


 その時オスカーは叫んでいた。


 巨大な橋が崩れていく音。

 自分の身が、まるで神の見えざる手によって導かれるように宙を浮いて岸に向かっていく現象。

 そして、それと対照的に、底の見えない水の中へ落ちていく少年の姿。

 焦げ茶髪に、焦げ茶色の目の瞳。

 誰よりも信用して、信頼して、そして頼ってしまった少年が、自分の手から離れていく。


 必死に叫んでも、結局何もできない。


 無力感。

 絶望感。



 そんな感情と共に、目を開けた。


 視界に飛び込んでくるのは見慣れない光景だった。

 天井は簡素な木組みの茶色い布地の天井だ。


 そして、今自分が、カルティアの従軍中であり、ここが野営地のテントだという事に気づく。


「―――また・・・夢か」


 カルス大橋を越えてから、オスカーは毎日のように夢を見る。

 多くがアルトリウスの出てくる夢だ。


 まだ学校にいたころ、共に授業を受けていた時の記憶であったり、軽口を叩き合った記憶であったり。

 最近のことになるほど夢は鮮明になる。

 一緒に馬車に乗って、野営をした記憶。

 バルビッツの話を聞いた記憶。

 街を歩いて買い物をした記憶。

 そして、橋の上の記憶。


 もう戻れない過去に戻りたい願望からか、はたまた今の現実から逃避したい願望からかはわからない。

 

 ―――きっと両方だ。


 オスカーは思った。

 直接的な原因は、雷の魔法かもしれない。

 でも、大本を正せば、オスカーがアルトリウスに頼らなければ、アルトリウスは死ななかった。


 ―――僕が・・・もっとちゃんとしていれば・・・。


 そんな後悔と情けなさから、オスカーはアルトリウスを探し続けた。 

 でも、見つからなかった。

 

 不貞腐れ、自暴自棄になったところ、ミランダに怒られ、叩かれ、オスカーは感情を殺した。


 ―――バリアシオン君が、僕を助けた意味を・・・。


 オスカーは必死に考えた。

 生かされた者にしかできないことがある。

 オスカーにしかできないことがある。 


 使節の代表だ。


 ――僕は、僕にできることを・・・。


 そのことだけを考え、オスカーはカルティアまでやってきた。

 北方山脈の過酷な環境も、襲ってくる盗賊たちも、気にならなかった。

 

 だからだろうか。

 無事にカルティアにつき、使節の役割を終えた瞬間、オスカーは自分がなにをすればいいのかわからなくなった。 


 どうして自分が生きているか、わからなくなったのだ。


 アルトリウスという、おそらくこのままいけば歴史に名を遺したであろう偉大な人物が、命を懸けて自分を助けた意味。

 どうすればその意思を尊重できるのか、オスカーには分からなかった。



 久しぶりに父に会って、それなりに会話はした。

 親子の話すような内容じゃない話だったかもしれないが、それは昔からだ。


 父には、何故かアルトリウスの話をした。

 カルス大橋を渡って以降、一度もしなかった話題だ。

 父は彼のことを惜しんでくれたが、それだけだ。


 今後、父が行うことにオスカーの力が必要なのか、わからなかった。

 

 結局どうすればいいかわからなかった。 


 わからなかったから、とにかくアルトリウスのようにふるまおうと―――彼の代わりになろうと思ったのかもしれない。


 ―――戦線に加わるか、後方の参謀府に加わるか。


 従軍の講習をミランダと共に受け終わり、父に呼び出され、問われた。


 近々、二方面からの攻勢作戦が行われるというのだ。


 おそらく普段のオスカーならば、迷うことなく後方勤務を選んだだろう。

 自分が何よりもひ弱であることは自覚しているのだ。


 でも、オスカーは、戦線に加わることを選んだ。


 後からミランダに「どうして後方にしなかったのか」と聞かれたときも、オスカーは満足に答えることができなかった。


 ―――わからない。


 戦線に加わると答えたとき、父がどこか嬉しそうにした理由もわからない。


 ―――わからない。


 ミランダが、覚悟を決めたような目をしている理由もわからない。


 ―――わからない。


 どうして、自分が生きているのか、わからなかった。

 

 ただ、きっと彼なら・・・アルトリウスなら前線にいるような、そんな気がした。

 強く、賢く、勇気のある少年だった。

 彼に後ろで縮こまっている姿は似合わないと、そう思った。



 オスカーは1個大隊を任された。

 千人隊だ。

 

 10個大隊からなる1個軍団のうちの1つだ。


 軍団の指揮官は、従兄であるマティアス。

 森林地帯を火攻めする作戦案を提出し、自ら指揮官に立候補した男だ。

 体も丈夫で、プロスペクター家の人間にしては珍しく武芸にも優れ、部下からの信頼も厚い。


 マティアスは、オスカーの隊を、最も後方に置いた。

 比較的安全な場所だ。


 前線に置いて活躍してしまう事を恐れたのか、オスカーの身に何かあることで、ラーゼンから叱責を受けることを恐れたのかはわからない。

 マティアスでなくとも、多くの指揮官はそうしただろう。


 オスカーはまだ成人もしていない子供。

 親の意向で大隊長に収まっているに過ぎないのだ。


 だが、オスカーにはわかることもある。


 戦場に軍団の一員として出た以上、安全な場所はない。

 敵からすれば先頭だろうと後方だろうと、隊列を組んでいれば同じだ。

 会敵した部隊が最前線になるのだ。


 そして、もう1つわかることもある。


 何事も物事は作戦通りにはいかないということだ。


 火攻めにより、森林地帯は焼失した。

 まるで巨大な嵐の通り道かのように焼けただれた荒野が広がっていた。

 死体は見えない。

 炎魔法が大量に森に注がれた時点で、逃げ出したのかもしれない。

 

 開けた森の中を、軍団は注意深く進んでいった。

 敵の気配はない。


 マティアスの軍団は困惑した。


 森林に潜み、ゲリラ戦を展開していた部隊はどこに行ったのかと。

 森の先に陣営があるのではないかと。


 森であったであろう場所を抜けても、軍隊がいたような陣の跡はなかった。


 ―――ではどこに?


 答えはすぐに分かる。


 ブ―――ッ!


 ラッパの音が鳴り響いた。


 敵襲を知らせるラッパだ。

 

 その音は、オスカーのすぐ後。


 つまりは軍団の最後尾からだった。


「――オスカー、応戦を!」


 ミランダの声が聞こえ、オスカーは慌てて反転応戦の指示を出す。 


 オスカーは考えた。


 なぜ背後を取られたか。

 隠れる場所などなかったはずなのに、背後を。


 しかしそれ以上考える間もなく、戦いは始まった。


 鳴り響くラッパの音に、戦士たちの怒号。

 

 オスカーの目前にも、敵の兵士は迫った。


 『蛮族』だ。

 

 縮れた長い髪に、赤みがかった肌。

 そして大柄な体格。


 小柄なオスカーとは比べ物にならない。


 そして、そんな蛮族の兵士たちが体中土だらけであることに気づいた。


 ―――そうか。


 オスカーはようやく理解した。彼らがどこから現れ、軍団の背後を取ったのか。


 彼らはずっと潜んでいたのだ。

 地下に掘った穴の中に―――。


 不可能な話ではあるまい。

 確か先日の従軍の講習で聞いた。

 カルティア軍には、『砂塵』と言われる土属性の魔法に優れた魔法士がいる、と。


「オスカー! ボケっとしてないで下がって!」


 ミランダが叫んだ。


 そうだ。今更種や仕掛けが分かったところで意味はない。

 既に、戦闘は始まっているのだ。


 周囲を見渡すと、既に戦場は大混戦の様相だった。


 背後だけではなく、軍団の左右からも土の中から兵士が湧き出てきたようで、多くの部隊が唐突な奇襲に対応できないでいる。


 敵味方は入り乱れ、辛うじて赤いマントだけが、敵と味方を識別する指標だ。


 『蛮族』と呼ばれるカルティア人は、体格もよく、誰もが恐ろしい顔をしていた。


 そして、そんなカルティア兵に、オスカーの大隊の兵士は、次々と切り倒されていく。


 陣形を立て直そうとしても、既に立て直すほどの兵の数はいない。


 他の大隊も、概ね数を減らしていたが、最後方にして最前線であるオスカーの大隊は最初に交戦を始めただけに、最も多くの被害を受けている。


「撤退! 撤退!」


 隣の大隊からそんな声が聞こえてくる。


 ――負け戦。


 森林にばかり目がいっていたユピテル軍の敗北だ。


 じりじりと、オスカーの大隊は囲まれていく。

 撤退どころの騒ぎではない。


 カルティア兵の剣撃が、オスカーの近くまで届く。

 その度にミランダが決死の動きで敵を屠る。


 彼女にしても人を殺すなんて初めてであるはずなのに、オスカーを守るために感情を殺して剣を振っている。


「・・・ミランダ、君は逃げてくれ。君だけならまだ逃げられる」


「―――大丈夫、オスカーは、殺させない・・・っ!」


 ミランダは剣を振るう。

 オスカーに斬りかかろうとしていた蛮族が倒れる。

 

 頼りになる護衛だが、見る限り満身創痍であることはわかる。


「・・・もう、いいんだよミランダ。ここが僕の死に場所だ」


 アルトリウスの代わりなんて、オスカーにはできなかったのだ。


 ――ああ、やっぱり僕じゃダメだったよ。


 オスカーは思った。


 ―――だって、わからないんだ。


 オスカーはオスカーにできることを。

 ミランダはそう言った。


 でも、オスカーにできることなんて何もないのだ。


 父は民衆の旗頭だ。

 きっと父は、革命を成功させるだろう。

 自分はその分野で父を越えることなんて出来ないと思っている。

 後継者も、マティアスの方が良いだろう。

 兵士からの信頼もあるし、武芸にも優れる。

 前線の指揮官としても、現に今、なにもできないことを思い知った。


 もうオスカーにできることなんてない。


 ―――許してくれバリアシオン君。


 でもせめて・・・。


「―――ミランダ、逃げてくれ! こんなところで僕と一緒に死ぬことはない! 君だけならまだ逃げ切れる!」


 オスカーという足手纏いがいなければ、ミランダは撤退する部隊に合流することもできるあろう。ミランダは優秀なのだ。


 ―――ここは僕の死に場所だ。


 なにもできないのに、なにも考えず、なにも考えれず、のこのこと戦線に出てきたオスカーの死に場所なのだ。

 ミランダがそれに付き合う必要はない。


 だが、ミランダは歯を食いしばるように叫ぶ。

 剣を振り、盾を構え、オスカーを守る様に立ち上がる。


「・・・こんなところで、オスカーを死なせたら・・・バリアシオンに合わす顔がない!」

 

「―――そんなのっ!」


「アアアァァアアッ!」


 普段は寡黙で、気怠げな彼女が叫びながら剣を振っている。

 一回りも二回りも大きい男たちに立ち向かっている。


 蛮族たちは、群がる様に湧いてくる。


 ――――っ!


「くそおおおお!!」


 慣れない剣を抜いた。

 振り方なんてわからない。


 それでも、彼女を守らなければと思った。

 自分なんかのために―――親友の命を奪った自分ごときのために彼女を死なせるわけにはいかないと、そう思った。 


 3度も振れば、すぐに腕に限界が来た。

 剣を振るための筋肉なんてないのだ。


 もちろんオスカーの剣なんて誰にも当たらない。

 オスカーの運動能力が低いうえ、カルティア人は身体能力が高いのだ。 


「おいおい、ガキが戦場でなにやってんだぁ!」


「はっはっは! お坊ちゃんが必死になってよぉ!」


 嘲るような笑い。

 バカにする声。


 当然それらを黙らせるような力はオスカーにはない。

 気づくと剣もどこかへ行き、オスカーとミランダは囲まれていた。


「―――くそが、まさか後方に魔法使いがいるなんてな」


「―――手間取らせやがって・・・」


「―――ガキじゃねえかまだ」


「―――油断するなよ・・・その女の方に何人もやられた」


 2人を囲む巨躯の男たちが口々に言う。 


「・・・はあ・・・・はあ・・・」


 ミランダは息を切らしている。

 もう盾もほとんど形を成しておらず、剣も折れている。

 魔力が尽きているのも一目瞭然だ。


 ―――このまま死なせるのか?


 アルトリウスだけではなく、ミランダまで死なせるのか?


 ―――僕のせいで・・・僕の決断のせいで・・・。


「―――っ!」


「オスカー!?」


 オスカーは前に出ていた。

 ミランダの前だ。


 敵の兵は目と鼻の先だ。


「お、なんだガキ・・・女の子を守ろうってか?」


 すぐ目の前にいた蛮族の男が、にやにやしながら言った。


 オスカーは割れた眼鏡で男を見据える。

 足は震えている。


「・・・僕は、オスカー・ファリド・プロスペクター。総司令官ラーゼンの息子だ」


「―――ほう、確かに司令官は銀髪だと聞いているが・・・それがどうした?」


「僕の命は利用価値があるはずだ。捕虜になってもいいし、殺してもいい。だから・・・ミランダは・・・彼女だけは見逃してくれないか?」


「オスカー!?」


 後ろでミランダが声をあげ、前に出ようとするのを制止する。


 提案が受け入れてもらえる可能性なんてない。

 受け入れられたとしても、オスカーは殺される。

 あるいは、捕虜として囚われる。

 そして、父に多大な迷惑をかけることになるだろう。

 ひょっとしたらそれが原因で戦争に負けるかもしれない。

 

 ―――でも、それでもせめて。


 ミランダは、命を懸けてでも、守らなきゃならない。

 もうオスカーにできることなんてこれくらいだ。


「・・・・・」


 オスカーの言葉に正面の蛮族は目を丸くして、数秒固まった後・・・。


「――――くくく・・・カハハハハハハッ!」


 高らかに笑いだした。

 周りの兵士たちも皆が嘲るように笑っている。 


「ハハハハ! 聞いたか? 見逃してくれだとよ! ユピテル人は戦争している相手国にも面白いジョークを提供しているらしい! ギャハハハハハハッ!」


「な、なにが・・・・」


 おかしい、とオスカーが言う前に、男が目を細める。


「―――いいか? ここは戦場だ。殺し合っているんだよ! 戦場に出てくる時点で、いつ死んでも文句は言えねえんだ。男は当然殺すし、女も犯して殺す。子供だろうと、貴族だろうと、関係なく殺す! 相手を選んで生き残れるような場所じゃねえんだよ!」


「―――っ」


「ここでは、力が全てだ! 力のある奴だけが最後まで立っていられるんだ。地位も権力も、金も宝石も、何の意味もねえ! なんの力もなく戦場に出てきたくせに、何かが得られると思うな!」


 オスカーには言い返す論理も、言い返せる道理もない。


「だから、てめえはここで死ぬ。恨むなら、力のない自分を恨むんだな!」


 目の前の男が地面を蹴った。

 剣が振りかぶられる。


「オスカ―――ッ!!」


 ミランダの悲痛な叫びが響いた。


 ―――ああ、ごめんよミランダ。


 力が足りなかった。

 知恵も足りなかった。

 何も分からなかった。


 そして、


 ―――ごめんよ。バリアシオン君。僕じゃ君のようにはなれなかったよ。

 

 オスカーは目を閉じた。


「・・・?」


 しかし、いつまでたっても何も起こらない。

 痛みも、剣の感触も、何も響かない。


 オスカーは目を開けた。


「―――!?」


 ―――そこには、1人の少年がいた。


 オスカーとミランダを守るかのように、立ちはだかる少年。

 

 盗賊が着ていそうな古びた皮鎧。

 ユピテル軍の赤いマントとは程遠い灰色のマント。

 だが、不思議と、高貴な雰囲気を漂わせる出で立ち。 


 ブラウンの髪に、ブラウンの瞳。 


 どこか見覚えのあるような、かといって、記憶にある彼とはまるで違った表情をする少年。


「・・・悪い、遅くなった」


 少年が言った。


 かつて聞き慣れた―――死んだはずの少年の声だ。


「・・・バリア・・・シオン君・・・?」


「―――すぐに終わらせる」


 少年は答えず、小さくそう呟いた。


「てめぇ、いったいどこから―――」


 目の前のオスカーを斬りつけようとしていた蛮族が言葉を発する前に、彼の首は飛んでいた。


「―――このガキ、かなりやるぞ! 全員で―――」


 他の兵士が叫ぶ頃、既に少年の体は消えていた。


 いや、オスカーの目視出来ない速さで動いていたのだろう。

  

 そこから先は圧巻だった。


 何人もの屈強な蛮族の兵士を、その手に持つ剣で、あるいは放たれる魔法で次々と薙ぎ倒していく少年。

 その一連の動作を、オスカーには知覚することはできない。

 ただ、カルティア兵が倒れるという結果だけが、オスカーに辛うじて状況を把握させた。

 その魔法で何人が燃やされたのだろう。

 その剣で何人が首を刎ねられたのだろう。


「・・・これが・・・バリアシオンの本気・・・」

 

 ミランダが後ろでそう呟いたころ、彼の足元には無数の屍が散らばっていた。


 実際には、せいぜい数十人程度だっただろう。


 それでも、その戦場で、まさしく少年は一騎当千であった。


 ―――だが・・・。


「・・・君は・・・」


 オスカーは少年の姿から目を見離さなかった。 


 何の躊躇もなく、一撃で敵を屠る剣捌き。

 一瞥もせずに、一瞬で敵を吹き飛ばす大魔法。

 そして、かつての彼とは似ても似つかぬ―――酷く悲しく、辛そうで、儚げな表情。


 そこに至るまで、少年がいったいどのような経験をしてきたのか。

 オスカーにはわからなかった。

 ただ・・・。


 ―――これも、僕の罪、だ。


 オスカーが頼ったせいだ。

 誰よりも優しく、他人を気遣い、思いやりのある少年を、人殺しの道へいざなってしまった。

 力を持つからと言って、それを振るいたいわけじゃないのに、オスカーは彼にそれを強要させてしまった。

 

 ―――償いようのない罪だ。


 誰よりも人間を愛し、信じていた無垢な少年は、もういない。

 その少年は、オスカーが殺してしまった。


「ああ、ごめんよ・・・」

  

 でも、こんなことになるなんて思っていなかった。

 ただ、彼が来てくれれば、安心できると思った。

 彼がそばにいれば、何とかしてくれると思っていた。

 

 辛いことも、楽しいことも、一緒に共有して、乗り越えていけると思った。

  

 彼が生きていたことは嬉しい。

 また会えてよかった。

 

 でも、オスカーの罪悪感は消えることはない。

 いや、むしろ増大していた。

 彼は、オスカーを生かすために、彼自身の心をどこかへやってしまったのだ。

 そして、そうさせたのはオスカーだ。


 『オスカーは、オスカーにできることを』

 

 ミランダの言葉が脳裏によぎる。


 ―――ああ分かったよ。


 オスカーだから。

 オスカーにしかできないこと。


 ―――僕も・・・背負わなければならない。


 その罪を。

 その業を。

 彼をこうしてしまったオスカーにしかできないことだ。 


 屍の上に立つ少年の背中を見ながら、オスカーは、おぼろげにそう思った。




 気づくと、敵軍は退いていた。


 他にも味方の援軍が来ていたようだ。


 この日ユピテル軍は多大な犠牲は出したが、辛うじて完全敗北は免れることとなった。 



 読んでくださり、ありがとうございました。合掌。

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