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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第五章 学校へ行こう・旅立ち編
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第36話:仕事の斡旋

 今回も少し短いです。

 いや、やっぱり9千字とかは長すぎたんでしょうね・・・。


 ファリド一門というのはユピテル四大貴族の一つだ。

 中でも俺の目の前にいる少年『オスカー・ファリド・プロスペクター』の家であるプロスペクター家はファリド一門でも筆頭といえる家名である。


 実際にオスカーの父は、何度も執政官、つまり行政の最高役職を歴任した後、軍事の最高司令官としてカルティアへの遠征を決行している。


 そんなファリド・プロスペクター家であるが、権力を持つが故に、敵が多い。


 特に、近年深刻化している民衆派と門閥派との対立が拍車をかけている。

 政治に携わる貴族たちの間で、その支持基盤を民衆に置くか、既に権力者である大貴族や大金持ちに置くかで派閥があるということだろう。

 元老院では日々、派閥間で論が交わされ、毎年のように政権が交代する。

 

 そんな中、ファリド一門・・・・・というよりは、オスカーの父、ラーゼンは門閥派から民衆派へと鞍替えし、一躍民衆派の代表と目されるようになった。

 当然、門閥派からは目の敵にされているらしい。


 対立しているといっても、数の上では圧倒的に門閥派が多数を占める。


 考えればわかることだ。

 貴族のくせに民衆の味方をする人間が、そんなに多くいるはずがないからな。


 ともかく、そんな多勢に無勢の中でも情勢が均衡を保てていたのは、オスカーの父、ラーゼンが首都にいたからだ。


 先程言ったとおり、執政官を歴任するほどの才覚をもつラーゼンは、少数派でも多数派と渡り合うほどの実力があった。


「しかし、例のカルティア遠征に任命されたせいで、首都から離れざるを得なくなったのさ」


 ため息をつきながらオスカーは続ける。


「最初の一年はよかったんだけどね」


 ラーゼンが遠征にいったあとも、しばらくの間は首都の勢力図は変わらなかった。残った民衆派の貴族と、その勢力基盤である民衆が門閥派に抵抗したのだ。


 しかし、最近になって問題が生じた。


 門閥派が実力行使をしてきたのだ。


「まさか?」


 俺はこの話を最初は信じられなかった。

 いくら政治的対立があるとしても、この首都ヤヌス内で、暴力による統制があっていいはずがない。

 この国は、法と権利が支配する民主主義国家だぞ? 


「僕も最初は信じられなかったよ。政治と行政は言論によって行うという、ユピテル建国以来の理念からは考えられない行為だからね」


 オスカーもため息をついている。

 はあーとまたもやオスカーはため息をつく。


「でも信じざるをえなかった。なにせ先週、母が襲われた」


「―――!?」


「あー、いや大丈夫。命に別状はなかった。軽い切り傷だけで済んだようだ」


 俺が眉間を寄せるのを見て、オスカーがフォローをいれる。


「向こうはおそらく、母や僕を人質にとって、父の邪魔をするつもりさ」


 まあ、オスカーの父は民衆派の代表だ。

 門閥派が実力行使をするとしたら、真っ先に狙うのはその家族だろう。


「よく考えれば、父も、襲われることを見越して()()()カルティア遠征を決行したような気もする。首都にいるより、戦場にいた方が安全なんて、皮肉な話だけどね」


 しかし、まさか家族まで狙ってくるとは思っていなかったわけか。


「母を襲った門閥派は、セルブ一門の徒党ということは分かっている。どこの家名だったかまでは分からないから追及はできないのが癪なところさ」


 セルブ一門は、氏族の格でいうと、四大氏族には一歩劣るが、上級には位置する門閥派の過激派であるらしい。

 門閥派も、トップは良識派のようだが、もはやトップの腕で抑えられるほどの情勢ではないという事だろうか?


 しかし、それを俺にどうしろというんだろう。

 うちのバリアシオン家は、ウイン一門という弱小氏族な上、その中でも新興の部類だ。

 とてもではないが、上級貴族同士の権力闘争に首が突っ込めるほどの家格ではない。


「それ以来、僕や母、民衆派の重要な面々の家族などは常に実力のある警護兵を周りにおいているんだけど・・・・・学校には警護兵を連れていけなくてね」


 ――――なるほど、話がみえてきたぞ。


「そして、運の悪いことに僕は武術も魔法もからっきしだ。ないとは思うが――――門閥派の優秀な子弟に襲われたらひとたまりもない」


「つまり、俺に頼みたいのは学内での護衛、と」


「その通りだよバリアシオン君。聞いていた通りなかなか物分かりのいい人だ」


 ふむ、どうしようか。

 護衛、と言っても学内だけでいいのなら別にそれほど大変なことではない。


 しかし、俺がオスカーの味方をすることによって、バリアシオン家が民衆派の味方とみなされる、なんて事にはならないだろうか。


 俺が原因で家族に迷惑をかけてしまうということは避けたい。


 ウイン氏族は、家によって民衆派、門閥派はバラバラだ。

 バリアシオン家は、大貴族クロイツ・ローエングリン家から妻を娶っている―――ああ、アティアのことだが―――わけだし、俺とカインは仲もいい。クロイツ一門と懇意にしているといっていいだろう。

 なので、派閥としてはクロイツに従属していそうだが――――確かクロイツ一門は、どちらにも属さないことで有名な穏健派だ。まあクロイツ一門は軍に影響を持っている反面、政治の場に顔を出し辛いからな。


 うーーん。俺個人として、別に引き受けるのはやぶさかではない。

 オスカー自体は、ここまで内情をきちんと話して物事を頼んでくるあたり、人間性は信用できると思う。

 嘘を言っているとも思えないしな。

 重要なのは、どこの派閥のどこの家だから、とかではなく、その人個人の人柄や性格だと俺は思っている。 


 迷っていると、オスカーが口を開いた。


「もちろん、表向きは護衛ではなく、偶然にも同じ授業をとり、偶然同じゼミに入り、偶然近くの席に座る事になった友人。ということにするよ。下手に公表して、君の家にまで迷惑はかけられないからね。選択する授業もゼミも君に合わせよう」


 ふむ、表向きは偶然仲良くなった友人か。

 しかも、授業とゼミを俺に合わせてくれるとは、かなりの譲歩ではないか。


「それで、そっちのミランダさんは? ここにいるってことは無関係ではないんだろう?」


 俺はオスカーの隣に座る長身の美少女を指して言う。


「ああ、まあ彼女も僕と似たような立場さ。ミランダは民衆派の有力議員の娘なんだ。僕の父が遠征に発ってからは、彼女の父が首都の民衆派をまとめている。一応彼女も護衛の対象だ」


 もっとも、と前置きするオスカー。


「ミランダは僕と違って優秀でね、魔法も剣術もかなりの物さ。学校内程度なら自衛は問題ないだろうがね」


「・・・・・オスカー一人くらいなら私一人でも守れる」


 オスカーが苦笑するとミランダが口を開いた。

 ミランダはどうやら自分の実力に自信があるようだ。


「ミランダ、昨日も言っただろう。僕らはこんなところで父の邪魔をしてはいけないんだ。あらゆる可能性を考慮して万全を期さなければならない。なにせ僕は戦闘に関して相当な無能だからね」


 オスカーは何故が胸を張りながらミランダを説得する。


「・・・・うん、わかった。オスカーの足の遅さはよく知ってる」


 謎の信頼のされかたをしてるな・・・・。


「というわけで、どうかなバリアシオン君。もちろん、護衛料も払うよ。大金というわけにはいかないが、まあ妥当な額を提示しよう」


「うーん」


 確かに金は欲しい。

 なにせバリアシオン家の家計は火の車だ。

 バイトでもしようかと思っていたところだ。

 受けてもいいかも知れないが・・・・・でも政治絡みの仕事はなぁ。


「それと、もう一つ。バリアシオン君はどうやら神話について知りたがっていたよね?」


「え、ああ、確かにそうだが」


 そう答えると、オスカーはカバンから一冊の本を取り出した。


「これは、プロスペクター家の書庫に眠っていた古書だ。おそらくどこの図書館にも置いてない本だと思う。僕にはよく内容は分からなかったが、おそらく神話の時代のことが書かれていると思う。これは、護衛を引き受けるかどうかに関わらず君に差し上げよう」


 そういってオスカーは本を俺に渡す


「え、いいのか? 家にとって重要な物じゃないのか?」


「構わないさ。今僕らにとって重要なのは身の安全だ。そして、少なくともこの学園内で一番の実力者との関係を良くしていくことは、学校での僕の身の安全を保障することにつながる」


 なるほど、確かに俺と知り合えたという時点で、彼からしたら目的の半分を達成しているのかも知れない。

 別に俺が護衛を引き受けなくとも、彼らが俺の目に届く範囲で襲われたりしていたらきっと俺は彼らを助けるだろう。


「それで、どうだい?」


「期間は?」


「とりあえず一年。4年生に進級した時、また新たに頼むことにする」


 ふむ、一応気に入らなかったら来年断ることもできるのか。


「・・・・・よし、いいだろう。引き受けた」


 俺は彼の護衛を引き受けることにした。






 読んでくださり、ありがとうございました。合掌。

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