第35話:意外な人物からの紹介
今回も少し短いです。どうしても区切りが合わなくて。
エドモンが再登場&新キャラ出ます。
その日珍しい出会いがあった。
「やあバリアシオン君、隣いいかな?」
そう俺に話しかけてきたのは一人の少年だ。
背は高く、薄紫色の髪をオールバックにまとめ、タレ目ながらも細い目には長いまつ毛がみえる。
鼻は女性のように美しく、端正といって差し支えない顔立ちだろう。
何を隠そう、彼の名はエドモン・ダンス・インザダークである。
いや、今はただのエドモン・インザダークか。
以前、ラトニーという『悪霊』に唆され、エトナを誘拐し俺を殺そうとした張本人だ。
事件後しばらくは拘留されていたようだが、案外はやく解放され、新年度からは学校にも通い始めているようだ。
以前は動くたびに大勢の手下を引き連れていたらしいが、今彼は基本的に一人で行動している。
例の事件以降、ミスワキを始めとするエドモン党なる組織は解散され、エドモンの周りにいるあの変な信者はいなくなったようだ。
むしろエドモンに関しては進んで一人になっているような気もする。
「ああ、空いている。どうぞ」
「ありがとう」
軽く返事をするとエドモンは俺の隣の席に腰をかける。
今から始まるのは魔法研究ゼミの講義だ。
このゼミでは毎週行う小レポートの提出の他に、学期ごとに提出する各自のテーマの発表があり、後者の方は3~5人程度のチームで作成することになっている。
なので、授業を受けるときは各々チーム毎で固まるのが通例になっているのだが、残念なことに俺はチームを組むことができず、一人でテーマレポートを仕上げなければならない。
そしてエドモンもどうやらチームを組むことが出来なかったようだ。
例の事件は学校中に知れ渡っているので、もしかしたら、関係のない生徒などもエドモンを避けてしまっているのかもしれない。
もっとも別に俺もエドモンと友人というわけではないので、あぶれたからといって一緒にチームを組むことなどはしないのだが。
それでも彼とは何度か隣で授業を受け、その日の課題の内容や、学期末に発表するレポートの内容を雑談するなど、少なくとも知人とは言える仲にはなっただろうか。
エドモンの魔法の能力は案外高く、正直俺はヒナ以外でここまで魔法ができる同年代の人間に初めて出会った気がする。
特に土系統の属性魔法に関しては既に学生の域を超えているのではないだろうか。
彼は上級魔法こそ使えないものの、土魔法によって錬成する土の質とその造形の精度はおそらく俺よりも上だろう。
エドモンの学期末レポートのテーマも土魔法によるインテリアの作成についてのもので、まだ話で聞いた限りではあるが、なかなか興味をそそられる内容である。
俺も陰ながらの趣味として魔道具を作る。生産者として、いつか詳しく聞いてみたい。
ちなみに俺は自分の学期末レポートのテーマに以前から興味のあった重力魔法について書こうと考えていた。
最近になって、長い間の試行錯誤の末、重力魔法の発動に成功したのだ。
無詠唱でマスターするにはもう少し時間がかかりそうだが、この魔法が自由自在に使えれば、もしかしたら空を飛ぶことだってできるようになるかもしれない。
もっとも、重力魔法をどう利用するかについては、まだ俺の練度も足りていないこともあり、方向性は定まってはいない。
したがって、もしかしたら研究テーマの変更をするかもしれない。
少し心残りではあるが・・・。
「はいじゃあゼミをはじめまーす」
担当の教師の声が教室に響き、講義が始まった。
● ● ● ●
「バリアシオン君、今日の小レポートの内容は出来たかい?」
ゼミの講義が終わると、エドモンが俺に話しかけてきた。
「ああ、もう来週分まで予習はしてあるから恐らく大丈夫だよ」
「そうか、流石だねえ」
答えると、感心しながらエドモンがうなずく。
「いや、水魔法から氷魔法への性質変化なんて初歩の内容だからな、まさかゼミに来てまでこんな事を学ぶとは思っていなかったよ」
「まあ確かに一理あるね」
正直、今の所この魔法研究ゼミは期待していたほどの高度な事は学べていない。
確かに今までの基礎の基礎よりは大分マシになっているが、内容は初級から下級に上がった程度であり、期待していた専門性のある内容とは程遠いものであった。
「でも仕方ないさ、僕らのように入学前から家庭教師を呼んで魔法が使えるようになった人間はごく一部だ。大半の人間は学校で丸々1年かけて魔法を発動させて、また1年かけて初級の魔法を覚える。学校で学ぶ魔法学には限界があるからね」
エドモンはやけに理論的な事を言う。
あんなアホみたいな団体を作るくらいだから、もっと考え無しの人間かと思っていたが、案外冷静なキャラなのか。
いや、もしかしたら、あの事件の後に、彼も色々と変わったのかもしれない。
「そういえばバリアシオン君、今日この後時間あるかい?」
ふと気がついたようにエドモンが俺に尋ねた。
「ん、ああ、特に予定はないがどうしたんだ?」
前述通りエドモンとはそこまで親しいわけではないので、このように授業後話しはしても、帰りに寄り道するどころか、そもそも一緒に帰らないことが多い。
一体何の用だろうか。
「いや、バリアシオン君を紹介して欲しいという人がいてね。もちろん君さえよければだが、ちょっと付き合ってくれないか?」
「構わないが・・・」
人の紹介か・・・・まさか変な組織の勧誘とかじゃないだろうな。
今のエドモンにそういう繋がりがあるかはわからないが、去年までは常に周りに怪しい取り巻きを作っていた人物だ。
そう簡単についていっていいものだろうか。
「あ、紹介する相手の身元は保証するよ。まともな人だ」
俺が厳しい顔をしていたのが分かったのか、エドモンが慌てて付け足す。
ふむ、そんなまともな人が俺にいったい何の用だろうか。
俺はとりあえず怪しみながらもエドモンに同行することにした。
● ● ● ●
案内されたのは2年生教室の一つだった。
もうゼミも終わって暫く経つので、廊下には人がほとんどいない。
案の定、ゼミもない2年生の教室は人がいなかった。
―――否。
教卓の近くの席に二人ほど人影が見える。
「やあ待たせてすまなかったね」
教室に入るなり、俺に先んじてエドモンが二人の方に近づく。
どうやら、この二人が俺に紹介したい人物のようだ。
一人は多少小柄で細身の少年。
多分同学年だ。何度か廊下や授業で見かけたことがある。
もう一人は逆に長身の少女だ。
「いや、無理に頼んだのはこちらだからね。構わないよ」
スッと前に出てきたのは少年の方だ。
白い肌に特徴的な銀髪、そしてかけているメガネの奥には、中性的な顔とは裏腹にキリッとした目。
少年は笑顔でこちらに挨拶をする。
「初めまして、アルトリウス君。僕はオスカー・ファリド・プロスペクター。この度はお呼びたてして申し訳ない」
オスカーと名乗る少年は挨拶をすると同時にこちらに握手の手を差し伸べる。
『ファリド』というとユピテル四大氏族の一つだが、そんな大貴族の子弟が俺に何の用だろうか。
特に無下に扱う理由もないので彼の手を取り、こちらも自己紹介をする。
「アルトリウス・ウイン・バリアシオンです」
といって無難に頭を下げる。
「敬語はよしてくれよ、学年は同じさ」
オスカーがはにかみながら言う。
一応初対面なので敬語を使ったのだが、やはり予想通り同学年だったようだ。
「ああ、わかった。よろしく」
「うんうん。そしてこっちが僕の連れで、ミランダ・レーヴ・ミストラルだ。ほら、挨拶して」
オスカーが少し後ろにいた長身の少女を手招きした。
「・・・・・ミランダ・レーヴ・ミストラルです」
ミランダと呼ばれた少女は多少前に出て、自分の名前を名乗ると、ぺこりと頭を下げる。
「どうも、アルトリウス・ウイン・バリアシオンです。よろしく」
こちらもぺこりと頭を下げる。
ミランダは近くで見ると茶髪長身の美形女子だったが、挨拶が終わるとすぐにオスカーの後ろに下がってしまった。
ひどく大人びた顔立ちの人だ。とても同学年には見えない。
ミランダを眺めていると、少し後ろにいたエドモンが口を開いた。
「ふむ、じゃあ紹介も終わったようだし、僕は失礼させてもらうよ、バリアシオン君、プロスペクター君」
「ああ、ありがとうエドモン、もう大丈夫だよ」
オスカーが言うと、エドモンは満足そうに教室を去って行った。
「さて・・・・・・では今回、君を紹介してもらったわけを話すよ。座ってくれバリアシオン君」
エドモンが出て行くと、間髪入れずにオスカーが教室に置いてある椅子を指差す。
「じゃあ失礼するよ」
俺はそう言い、一番近くにあった席に腰掛ける。
オスカーは俺の正面、そしてミランダはその隣に座る。
「よいしょっと。じゃあさっそく説明させてもらうよ」
席に着くなりオスカーは切り出した。
「実はちょっと困ったことがあってね」
憂鬱な面持ちで、彼は自身の身の上を語り出した。
オスカー→銀髪色白眼鏡のチビ。
ミランダ→明るい茶髪の長身美女。色々でかい。無口。
読んでくださり、ありがとうございました。合掌。




