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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十八章 青少年期・世界激動編
249/250

第249話:南下道中

どうやら設定ミスで、ずっと作品ページから作者リンクに繋がらない仕様になっていたようです。

何も調べず連載を始めたためこれまで気づきませんでした。申し訳ありません。

教えてくれた方、ありがとうございます!

システム面疎いため他にも何か気づいた点ありましたら、教えていただけると嬉しいです。



 ラーゼンの死――。

 そう言われても、シンシアは最初、何を言われているか分からなかった。


 深刻そうな面持ちで《深淵の谷》から帰ってきた隊長――アルトリウスと、ヒナ。

 

 どうやら巷でも噂になっていたらしいその悲報は――事実の可能性が高いのだとか。


 ラーゼン・ファリド・プロスペクターという人物は、シンシアからすると少し遠い人だ。


 アルトリウスは、同じ貴族であるし、重要な役職も持っている。

 だが、シンシアは平民の出であり、指揮官というよりは現場の兵という意識の方が高い。

 

 指揮官のさらに上―――最高司令官であり執政官であるラーゼンとは、全くと言っていいほど関わりはなかった。

 それに、軍事ならまだしも、「政治」という物は、あまりシンシアには分からない。

 興味がない、といった方が正しいが、ともかく、戦争が終わり――政治家となったラーゼンに対し、それほどシンシアは思い入れはないのだ。

 彼女がここまで戦い続けてきたのはラーゼンという司令官への忠誠なんかではなく、父やアルトリウスへの憧れ、そして剣に懸ける思いだけだ。


 だけど――その後にアルトリウスがゆっくりと述べた言葉は、そのラーゼンの死という事の意味をより明確にシンシアに伝えた。


「――ゼノン閣下も……行方がわからないらしい」


 その場は、隊の班長が集まった会議の席だった。

 アルトリウスがシンシアに目配せしながら話していた事を不思議に思っていたが、きっとこのゼノンの事を気にしたのだろう。


 考えればわかる事だ。


 執政官ラーゼンが殺された。

 それは普通あり得ない。

 何故なら――迅王ゼノンがそれを防ぐからだ。


 つまり――ラーゼンが殺されたという事は、迅王ゼノンが――防げなかった……つまり、やられたという事を意味する。


「……俺が入手した情報では……《フードの男》がヤヌスで暗躍をしているらしい。ゼノン閣下や……魔断剣ゾラですらも相手取る剣士であるとか」


 隊長の言葉がやけにふわふわと聞こえてきた。


 耳にはあまり残らない。


 あるのは、師が――その主君と共に、この余から去ってしまったという衝撃だ。


 ――迅王ゼノン。


 彼はシンシアの師だ。

 幼いころ、初めてその剣を見たときから憧れ、一途に目指し続けてきた剣の完成系。

 

 カルティアで、ようやく弟子になって――本格的に剣を学んで。

 それで、きっとこれからだと――そう思っていたのに……。


「……シンシア、大丈夫か?」


 いつの間にか――会議は終わっていたようだ。

 皆既に部屋を退室している。

 すぐ隣には、心配そうにする焦げ茶髪の少年――アルトリウスの姿があった。


「……えっと……その――」


 あまり、思考が追い付いていなかったというのが正直なところだ。

 ゾラに、ゼノン。

 世界を代表する剣客がこの短期間に消え去るなんてこと、信じられなかった。


「―――隊長……本当に……――お師匠様は……死んでしまったのでしょうか?」


「……断定は、できない。死体が見つかったって話は聞いていないし……。でも、ラーゼンが死んだというのは、おそらく本当だ。だから、多分―――」


 アルトリウスは目を伏せた。

 

 ラーゼンが死んだというのは本当なのだろう。

 彼や、ヒナが深刻そうな顔をしているのがその証拠だ。


 現実が――シンシアを襲った。


「……どうして? どうして……こんなことが……起こるんですか?」


 目に滴が溜まるのをぐっと堪えた。 


「……分からない」


 アルトリウスは痛ましそうな顔でそう言った。


「そうですか……」


 アルトリウスが分からないなら、きっと誰にも分からないのだろう。

 

 フードの男の正体なんて、シンシアは知らない。 

 そもそもシンシアは、迅王ゼノンを倒せるような剣士を知らない。


 あるいは父や――隊長や聖錬剣覇なら、出来るのかもしれない。

 でも、ユピテルに――そんな相手はいなかった。


「……シンシア……」


 アルトリウスは、そっと、シンシアの肩を抱く。

 師を失くすという経験は―――彼にとっても新しい記憶だろう。

 

「―――少しだけ……肩を借りてもいいですか?」 


「……ああ」


 彼だって悲しい気持ちはあるはずだ。

 正式な弟子ではないが、アルトリウスにとってもゼノンは師の1人だ。

 それに、イリティアという家庭教師の先生も行方不明になったと聞いた。

 心の中は休まっていないに決まっている。


 でも――少しだけ。


 シンシアはアルトリウスの胸で、声も出さずに泣いた。




● ● ● ●



「……シンシア」


「はい」


 少し落ち着いた頃、シンシアを抱いたまま、アルトリウスは言った。


「さっき――ヒナとも話し合ったんだけど、俺はアウローラへ行くよ」


「アウローラへ?」


「うん。行かないと……もしも最悪な事態になったとき、止められない」


「最悪の事態、ですか?」


 尋ねると――アルトリウスは低い声で答えた。


「―――内戦、だよ」


「……まさか―――。内戦がどんな物か、誰もが身を持って知っているはずです」


 1年前、ユピテルは内戦を経験したばかりだ。

 その戦いがどれほどの悲しみを呼んだのか、分からぬはずはない。


「だからだよ。内戦をしても国は滅ばないと――そう思う国民もいるだろう」


「……滅ばなければ何をしてもいいと?」


「いや……そうだな。もしかしたら――そもそも滅ぼすことこそが、目的なのかもしれない」


 アルトリウスは顔を上げた。


「だから、行くんだ。分からないから、それを確かめに。確かめて――行動するために」


「隊長……」

 

 どこか決意を秘めていて、優し気な、そんな瞳と目が合う。


「シンシア、君はどうする? もしも君の――その、心の整理がつかないなら、君は王都で待っていて貰ってもいい。どちらにせよ全員は連れていくつもりはないし――」


「―――行きます」


 アルトリウスが全てを言う前に、シンシアは答えた。


「当たり前じゃないですか。隊長のある所に、アルトリウス隊はあるんです。私は隊長の――その……恋人――ですが、それ以前に、貴方の隊の副隊長なのですから」


「シンシア……」


「それに、私も――知りたいです。どうしてこんなことになってしまったのか。そして、これから――どうなっていくのか」


 そうだ。

 知らなければならない。

 どうして師が死んだのか。

 その先に待っているのが何なのか。

 見届けるのは、弟子の務めだ。

 

「……わかった」


 シンシアの言葉に、アルトリウスは頷いた。 




● ● ● ●




「――大丈夫?」


 馬上で、シンシアは声をかけられた。

 隣の馬に跨っていた――赤毛の少女――ヒナだ。

 軽くレクチャーをしただけで乗馬をマスターしてしまったこの少女には流石に驚いたが―――何やらこちらを心配そうに除き込んでいた。


「あ、いえ――すみません。少し考え事をしていて」


「そう? 気分が悪いなら、治癒をかけるけど」


「大丈夫です。少しぼーっとしていただけなので」


 現在は、馬上――王都からユピテル――アウローラへの行路を進んでいる途中だ。

 もう少しでブレア大森林に差し掛かるところ、と言って差し支えない。


「ならいいけど」


 言いながら、ヒナは前を向く。


「―――でも――考え込む気持ちはわかるわ。色々と分からない事が多いから」


「分からない事ですか」


「ええ。ユピテルの事もそうだけど――アルトリウスも何か鬼気迫るような感じだし……色々と不安になるわよ」


「……それは……そうですね」


 アルトリウスの事は信頼している。

 強さも人格も判断力もだ。

 だけどアルトリウスは、どこか1人だけ―――既に確信をもって何かを覚悟しているような――そんな節が見えた。

 分からないとは言いながらも……確実に何かが起こると、そう思っているような。

 実際、シンシア達がアウローラへ向かっているのも「最悪の事態」が起きた場合のためだ。

 

「――前に隊長が言っていた……《神族》という物が関係しているのでしょうか」


「……かもしれないわね」


 ヒナは少し考え込むかのように言った。


 以前に、王都の事件の真相をアルトリウスに聞いた際、《神族》という物について説明を聞いた。


 ヒナは真剣な面持ちでどこか納得するような顔をしていたが、シンシアはそれほど容量を得たわけではない。

 

 戦いの最期、消えていった少年が――全ての黒幕であったらしい。

 それらが俗にいう《悪霊》という物で、人に害を与えることがあるのだとか。

 彼を疑うつもりなどないが、どうにも雲の上の話であるような気がしてならなかった。 


 《精霊王》だという不愛想な灰色の髪の子を紹介された際も、ヒナだけはやけに驚いていた記憶がある。

 勿論、「凄そう」という認識はシンシアにもあったが、やはり魔法士でないと分からない世界があるのだろうと思った。


『――やっぱりアルトリウスは……特別なのね』


 そうヒナが呟いた事をよく覚えている。 


「――そう言えば、隊長はどこへ行ったんですか?」


 そこで、シンシアは気が付いたように言った。

 先ほどからアルトリウスの姿が見えないことに気づいたのだ。


 ヒナがすぐに口を開いた。


「ああ、アルトリウスなら――《闇狗》の所へ飛んで行ったわ。次の野営地で合流する予定よ」


「―――闇狗のところに? 大丈夫なんでしょうか?」


「……多分大丈夫なはずよ。ウルは恋人にはしないって言っていたし」


 少し懐疑的な顔で、ヒナは言った。

 シンシアとしては浮気の心配ではなく、アルトリウスの身の心配をしたのだが――。


「……闇狗と隊長、そんなに仲がいいんですか?」


「ええ。あの子、要注意よ。どこか二人だけで通じている話もあるみたいだし……」


 別に――アルトリウスに関して今更浮気とか、そういう次元の話でないことは分かっている。

 後から認めて貰ったシンシアとしては、もしもアルトリウスの事を本当に愛していて、アルトリウスも同じように思っているなら――1人や2人くらいなら増えても受け入れるだろうとは思う。

 先日ようやく彼の両親や弟妹、家族を紹介してもらい、若干余裕ができたからだろうか。


 とはいえ、闇狗ウルとは――シンシアとしては予想外の所である。


「そうですか……。私としてはリーゼロッテ陛下も怪しいんじゃないかと思っているんですけど」


「……確かに。面談の回数多すぎよね」


「はい、本当に。いつも帰ってくると香水と茶菓子の匂いが……」


「わかるわそれ……。全くもう……そういうのはエトナがちゃんと注意しないとダメよね」


「ふふ」


 何とも不思議な会話に、思わず笑みがこぼれた。

 この王都での三か月の生活では割と見られた会話であるが、改めて自分たちが同じ人を愛しているのだなぁという実感が湧く、不思議な会話だ。 


 ここの所は笑みがこぼれるような事などなく、やけに隊全体が重苦しい雰囲気だった。

 シンシア自身も、ゼノンの事で少し気落ちしていた部分はある。

 もしかしたら、シンシアの緊張や不安をほぐすためにわざとこういった話を振ってくれたのかもしれない。


「……ヒナ。ありがとうございます」


 会話が途切れたところで、シンシアはポツリと言った。


「……何がよ」


「ふふ。いえ、何でもないです」


 そして、シンシアは前を向いた。


 ――そうですね。私も、しっかりしないと。

 共に来れなかったエトナやリュデの分まで―――。

 



 ほどなく一行は――ブレア大森林に差し掛かる。



一応、この作品の他に、「魔王インヘリテンス」という作品を投稿していました。

それほど自信のある物ではありませんが、長編ではないので、良ければ読んでみてください。

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