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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第三章 学校へ行こう・出会い編
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第24話:前触れ

 ようやく少しストーリーが動きます。




「そういえばエトナと仲直りしたらしいな!」


 カンッ!


 バリアシオン邸の庭。

 俺とカインは木剣の打ち合いをしていた。


「ああ、仲直りと言えるかはわからないが、以前と同じようには戻れたと思う」


 カンッ―――カンッカン!


 木剣の打ち合う音は次第に強くなる。


「へえー。俺からするとさらにエトナのやつ、前より積極的になった気がするけどな」


 カンッ!


「そうか? まあ少しはそうかもしれんが」


 カンッ! カンカン!


「へん、モテる男は辛いねえ!」


 そういいながらカインは木剣を振りかざす。


 カンッ!


 俺はそれを木剣の腹で受け止める。


「喋っていると―――隙だらけだぞ!」


 すぐさまこちらも攻撃体制に移り、カインの木剣を薙ぎ払うと彼の首元に剣を突き立てる。


「勝負ありだな」


 そういうと、カインは参ったというように両手を上げる。


「いや、アルお前、神撃流しか使えないのに強すぎだって・・・・」


 カインとはこうしてよく模擬戦をする。


 カインから提案されたのだが、学校が始まってからはお互い家庭教師がいなくなり、剣の練習がおろそかになりがちだったのでちょうど良いと思う。


 最近ではアランも交えて3人で剣の特訓をすることも多くなった。

 甲剣流はカインが、神撃流は俺が教えている。

 神撃流はカインも使えるが、譲る気はない。


「ようは使い方と立ち回りだよ。流派も重要だが、少ない型からどれだけ引き出しを得られるか、それが何事においても重要だ」


「いやーお前、そんな難しいこと考えながら戦えんのか?」


「俺はカインと比べて習っている剣術の量が少ないからな。考えないと勝てないさ」


 俺たちは稽古をやめ、ベンチに座り休息をとりつつ雑談をする。


 正直にいうとカインの剣術は世代だとトップレベルだと思う。


 甲剣流と神撃流を深く学び、驚くべきことに受けの型に関しては完全に水燕流のそれだった。


 甲剣流によるスタンダードな型に神撃流の応用力が効き、水燕流によるカウンターも使う。


 今はまだその流派の切り替えに多少の隙ができるのでそこをついて俺が勝っているが、そこを改善すれば化物のような剣士が出来上がる気がする。《身体強化魔法》もぐんぐん鍛わっているしね。

 まったく、カインの才能が豊かなのか、カインを教えた師匠が有能なのか―――。


 ちなみに、カインの師は『青龍剣』アズラフィールと言うらしい。


 家庭教師に二つ名を呼ぶというのは、莫大な金がかかるので、ローエングリン家というのは、やはり名門だけあって、金持ちだったのかと思ったが、


「アズラフィールのおっさんは元々ローエングリン家の出なんだ。だから本家の人間の家庭教師は格安で引き受けてくれる」


 とカインに教えてもらった。


 なるほど、ローエングリン家という大貴族家はその系譜の者が多い。こういう場面で得することがあるのか。

 それにしても、そのアズラフィールとかいう師匠はこのアホに3種類も剣術を教えるとは、中々のやり手だと思う。


「けど、アルの家庭教師っていう『銀騎士』イリティア・インティライミってのも、相当有名な人だぞ」


「らしいな」


「ああ、東方では若手随一の剣士って言われてて、『八傑』とも交流があるとかいうぜ」


「それは初耳だな。『八傑』なんて話に出てこなかった」


 ―――『八傑』。


 もともとは、ユピテル共和国建国の際、イオニア帝国を打倒した8人の英雄のことを指したのだが、現在は大陸でもっとも強いと呼ばれる8人の総称として使っているらしい。

 最近までは眉唾物だと思っていたが、話を聞く限り、どうやら実在するようだ。


 その活躍や、代替わりの様は、『八傑英雄譚』という本で誰もが知っている。


「詳しくは知らねーけど、最近の東方の騒乱も、『八傑』の1人と『銀騎士』イリティアのおかげで鎮圧されたって聞くぜ」


「そうなのか」


 そういえばイリティアへの返信を忘れていた気がする。

 アドバイスのおかげでエトナと仲直りしたこと、きちんとお礼を言わなければ。


「そういえば話は変わるけど、『エドモン』の一党がアルを狙っているって聞いたけど大丈夫か?」


 イリティアのことを考えていると、カインが急に知らない人物の名前を挙げた。


「急に物騒な話だな、エドモンなんて人間の名前聞いたことないぞ?」


「そうか、ならいいんだが、奴ら学年の優秀なやつを集めて派閥を作っているんだ。アルは去年の学年最優秀生徒だし、もう声がかかっているかと思ったんだが・・・・」


「いや、全くなにも」


「そうか、ならいいんだ。エドモン達にはあまりいい噂を聞かない、なるべく関わらない方がいいからな」


「そうなのか、忠告ありがとう」


「いいってことよ!」


 カインは頭はパーだが、なぜかこういう情報にはとても敏感だ。

 多分その人柄による交友関係の広さからだろうか。


 それにしてもエドモンか・・・全く聞いたことがないが、多少調べておくか。



● ● ● ●



 翌日の放課後、俺の知る限り、学校で最も優秀な生徒に話を聞いた。


「ミロティック、エドモンの一党について何か知らないか?」


「エドモン? ・・・あーあいつね」


「なんだ、知っているのか」


 尋ねると、ヒナは苦い顔をしながら答えた。


「たしか、1ヶ月くらい前に、その一派? みたいなのに勧誘されたわ。当然断ったけど、やたらしつこかったわね」


 なるほど、エドモンとやらはヒナにも目をつけていたわけか。


「2年生の優秀な生徒に声をかけて徒党を組んでいるようね。私が声をかけられるくらいだから、貴方なんてとっくの昔に誘われていると思っていたわ」


「いや、残念ながら俺にはなにも。それにしてもなんで徒党なんて組むんだ? 劣勢派閥の元老院議員でもあるまいし・・・・」


「例えが元老院議員って・・・・まあなんでって言われると疑問よね。徒党を組んで倒したい敵がいるとか、生徒会に入るための地盤固めとか?」


「でも生徒会って上級生じゃないとなれないんじゃなかったか?」


「そうだったわね、流石に早すぎるわ」


 3年生以上になると、学校の生徒を代表する生徒会というものに入ることができる。

 もちろん、誰もが入れるわけではなく、特に会長などは、多くの推薦がないとなることができない。


 その代わり、もしも生徒会に入ることができれば、内申書の内容が良くなり、就職にも有利なのだとか。


「じゃあ徒党を組んで倒したい敵がいるっていうのは?」


「学校内で?」


「・・・・・・」


「2年生で、徒党を組まないと倒せない生徒なんて貴方くらいよ?」


 え、俺?

 たしかに俺はエドモン一派に誘われていないが、特に倒されるような理由もないと思うんだが。


「―――でも誰かを倒すために仲間を集めるなんて突拍子もない話ね。大方、貴族特有の、自分の権力を見せびらかして有名になりたいだけじゃない?」


「まあそう考えるのが自然か」


 所詮は10歳の子供がすることか。


「そんなことより、私も貴方に聞きたいことがあったんだけど――――」


「アルトリウス・ウイン・バリアシオンはいるか!!!!」


 ヒナが俺に何かを聞こうとしたとき、教室の入り口から大きな声が聞こえてきた。

 入口にいたのは少し背の小さい少年だ。

 

 教室に他に人は残っていなかったので声の主は周りを見渡し、すぐにこちらに気づくと、


「いたな、アルトリウス・ウイン・バリアシオン!!!!」


 と、これまた大きな声を出しながら近づいてきた。


「俺は『エドモン党』、副長のミスワキだ。エドモンさんがお呼びだ、同行してもらおう」


 噂をすればエドモン一派の登場だ。


 それにしてもエドモン党って・・・・ほんとに国会議員かよ・・・・。


「悪いが、今日は予定があってね、エドモンさんとやらも誰か知らないし、またの機会にしてくれ」


 今日はアランとアイファに剣と魔法を教えなければならない。


 放課後多少残っていたのはエトナを待っていたからだし、むしろエトナが遅いのでこちらから出向こうと思っていたところだ。


 正直な気持ちを述べて、それなりにまともな返答をしたつもりなのだが、


「貴様、エドモンさんを知らないだと⁉︎ 下級貴族の人間の分際で生意気な・・・・身の程を知れ!」


 エドモン党副長を自称する彼はとんでもない暴言を吐いた。


 基本的に、学校において身分を差別するような言動はタブーだ。

 これは貴族も商人も平民も金さえ払えば平等に入学させ、生徒として扱うという学校の趣旨に反するからだ。


 それをこいつは、いとも簡単に破って俺を罵ったことにる。


「えーと、ミスワキ君とやら。学校で身分を差別することがどういうことかわかっているのか?」


 俺は冷静だ。


 確かにムカつきはしたが、10歳児に罵られた程度で怒るアラフォーではない。


「ふん、学校の規則など、上級貴族が下級貴族に舐められる原因だ。貴様のような身の程知らずのクズが粋がるためのな! どうせ、貴様の親など少ないなけなしの金で、貴族の対面を保つために貴様を学校に入れたのだろう!」


 ―――なんだこいつは?

 

 流石に家族までもバカにされたら俺も怒るぞ?


 と思っていたら、隣で黙って聞いていたヒナが右手を前に出した。

 

「『厳格と孤高の風の精霊よ。汝の翼に我が怒りを乗せ、汝の羽根に我が心を乗せよう、《風撃(ウインドブラスト)》』!!」


 かなり早口で詠唱が聞こえたと思ったら、俺の目の前にいたミスワキ君は3メートルほど吹っ飛ばされていた。


 動かないところをみると、気絶しているようだ。まさかこの程度で死ぬことはないだろう。


 《風撃(ウインドブラスト)》は風の中級魔法で、突風を発生させてものを吹き飛ばす魔法だ。

 風属性魔法は、水とか炎と違って、痕跡も残りにくいし、確かに室内で使うには有用・・・・って感心している場合じゃない。


「ミロティック・・・・・」


 隣をみると、ヒナが、やっちゃった、みたいな顔をしている。


「あぁ、聞いていたら流石にムカついちゃって我慢できなかったわ」


 口が動くよりも先に手が出てしまったという事だろう。


「いや、君がやらなければ俺がやっていたところだよ」


 と、フォローをすると、ヒナは肩を竦めて頷いた。


「でもやっちゃったわね、魔法で人を傷つけるなんて・・・」


「まあ先に挑発したのは向こうさ。気絶しているみたいだし、一応保健室に連れていくよ」


 そういうと俺はミスワキ君を背負う。

 うん、息はある。

 流石に重かったので身体強化魔法をかけた。


「ほっといてもいいと思うけど・・・・・優しいのね」


「問題を起こしたくないだけさ、俺はこいつを届けてくるから、ミロティックは先に帰っててくれ」


「え、でも・・・・」


「いいから、こいつのことは任せてくれ。他にも仲間がいるといけないし、なるべく早く帰るんだ。先生には俺から上手く言っとくからさ」


「――――わかったわ。ごめんなさい私のせいで」


 ヒナは何か言いたげな顔をしていたが、俺に任せた方が賢明であると判断したのだろう。

 こういったところの彼女の聡明さには、恐れ入るものだ。

 引き際をわかっているというか、合理的に判断できるというか。


「気にするな。俺のために怒ってくれたんだから、責めることはないさ。ところで、こいつがくる前に言ってた、聞きたいことってなんだ?」


「え?? えーと、うん、また今度でいいわ。今日は色々あったし・・・・」


「そうか、じゃあまた明日」


「ええ、また明日」


 俺はミロティックと別れ、保健室までミスワキ君を運ぶ。


「あら珍しい。去年の学年最優秀生徒(MVP)のバリアシオン君ね、背中の子は・・・お友達かしら?」


 保健教諭はミリーというふくよかな女性だ。


「いえ、今日初めて会ったんですが、家柄をバカにされたので、風魔法で吹っ飛ばしてしまいまして」


 俺はヒナの名前は出さなかった。


 なるべく俺だけの問題で済ましたほうが穏便だろう。


「それは大変ね!! ―――みせてみなさい・・・・ってなんだミスワキ君じゃないの」


 ミリーはミスワキをベッドに寝かせながらいう。


「え、知ってるんですか?」


「ええ、保健室の常連よ、だいたい喧嘩かなにかして、よく保健室に来るのよ。でも気絶してるのは初めてね」


「そうですか・・・・」


「まあ、ミスワキ君の事だから、家柄をバカにしたっていうのは本当だとは思うけど、一応危害を加えちゃったわけだから、親御さんには連絡させていただくわね」


 案外ミスワキはこの手の事件の常連らしい。

 確かに、こいつが普段からあの調子だったら、いろんな人から恨みは買ってそうだ。


 気絶させるというのは、冷静になって考えると大事をやらかしている気がするが、親への連絡だけでいいというのは割と儲けものかもしれない。


「わかりました。大丈夫です。何かしらお叱りは受けると思っていたので」


「ふふ、噂通り賢い子ね。もしかしたら、ミスワキ君の親御さんから何か言われるかもしれないけど、家柄をバカにするっていうのが事実なら、学校としてはバリアシオン君の味方よ」


「ありがとうございます。ではミスワキ君の事をよろしくお願いします。自分は失礼しても大丈夫でしょうか?」


「ええ、大丈夫よ。あとのことはなんとかしとくわ」


「では」


 そう言って俺は保健室を後にする。


 教室に戻ると、エトナが俺の席に座って待っていた。


「エトナ、遅れてすまない。ヤボ用が出来てしまってね」


「アル君! 全然いいよ! 私も遅れちゃったし!」

 

 エトナは俺を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。

 可愛い。


 その日はエトナと帰り、問題なくアランとアイファに授業を行った。


 夜にアピウスが帰ってくると、俺は今日起こしてしまった問題のあらましを両親に話した。


「仕事帰りに学校から伝票が届いた時は驚いたぞ。まさかアルトリウスが喧嘩なんてな。しかし、ちゃんと保健室に連れて行くあたりは流石だな」


「でもえらいわね、ヒナちゃんの名前を出さずに、守ってあげたのね」


「僕の問題に巻き込むのはどうかと思ったので・・・・・」


「アル、かっこいいわ。ヒナちゃんが知ったらきっとマジ惚れしてお嫁さんになってくれるわよ!」


「母上、やめてください」


 案外両親は俺を責めず、事情を話すとむしろ褒めてくれた。


 本当に俺は両親に恵まれているな。


「ミスワキ君の家からは、軽い注意喚起のようなものが来たようだが、学校側が間に入ってなんとか言いくるめてくれた。どうやら彼は普段から素行があまりよくないみたいだね」


 アピウスが言った。

 ミリー先生の言っていた通り、学校は俺たちの味方をいてくれたようだ。


 ともかく今回は俺もバリアシオン家も特に被害を被ることはなかった。

 せいぜい、ついに俺が喧嘩をした! と家族が盛り上がったくらいであろう。


 しかし俺たちはまだ知らない。


 この事件がさらなる事件の、ただの前触れに過ぎないことを。




 まだしばらくは、ヒナの転校が決まる前の話です。


 読んでくださり、ありがとうございました。合掌。

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