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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十八章 青少年期・世界激動編
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第239話:アウローラ総督オスカー



 アルトリウスが王国へ発って間もなく、その親友も、新たな門出を迎えていた。


「では、オスカー、しっかりとな」


「はい、執政官も」


「ふ、見送りの時くらい父と呼んでくれてもいいのだがな」


「はは、まぁそれは()ですね」


 そんな何とも親子らしからぬ……いや、彼らとしてはとても()()()別れ方をして、オスカーは東へ発った。


 目的は、アウローラ属州総督の任だ。


 肥沃な大地、アウローラ、その総督。

 現在のユピテルにおいては東方司令官の意味合いも強い役職であり、勿論大役である。


 オスカーのような10代の若者が任命されたことなど今まではない。

 いや、そもそも『属州総督』という役職自体に若者が選ばれたのは初めてだろう。


 これは、先の内戦によりユピテルの世代交代が一気に行われた――という理由が大きい。

 なにせ、これまでユピテルの元老院を牛耳っていた門閥貴族が軒並み追放され、公の場から去っているのだ。

 その中でもとりわけオスカーは若手ではあるが、それでもラーゼンとしては最善の判断をしたつもりだろう。


 オスカーは、内戦の最終局面でイルムガンツ要塞を落とし、さらにはその後残存兵力の掃討という任務も見事にこなした。

 内戦の立役者の一人でもあるオスカーの下ならば、アウローラ軍として戦った兵達も納得するはずだ。


 オスカーにとって、自身の剣となってくれるかもしれなかった親友――アルトリウスは、王国へ発った。


 今となってはユピテルに置いて『迅王』と肩を並べる強者と言われ、遠からず『八傑』と呼ばれるようになるであろう少年だ。

 きっと彼ならば大使という難儀な役目も充分にこなしてくれるに違いない。


 勿論、オスカーからしたら、彼が付いてきてくれれば心強い事は間違いなかったが、既にこれまで彼がどれほど自分の事を助けてくれたかはオスカー自身が最も分かっている。


 あのアルトリウスという本来は戦いなど好まない心優しい少年を――「戦争の道」へと誘った自分にアルトリウスの今後について口を出す資格はない。

 

 勿論、将来オスカーの右腕として、敏腕を振るってほしいという欲はある。

 だが、それ以上に――オスカーはアルトリウスには幸せになって欲しい。


 彼がその職務を全て終えた後で―――自らオスカーを手伝いたいと申し出てくるまでは……オスカーからアルトリウスに何かを頼むことはないだろう。 


「――さて、僕も頑張らないとね」


 そんな新たな決意の元、オスカーはアウローラに到着した。

 もちろん、傍らには長身の少女も一緒だ。




● ● ● ●




 アウローラ総督に就任したオスカーは、暫くの間かなり忙しく奔走した。


 戦乱の後の土地、しかもそれが元々自国の領土だった場所など、指導者としてやらなければならないことはいくらでもある。

 

 壊滅したインフラの整備。

 あらゆる建物の再建に、ラーゼンの構想する未来に合わせた新法の導入。

 人口調査に、税金の再配備。

 それを踏まえた上での、本土に送る属州税の再設定。


 とにかく、やる事は山積みだったわけだが……中でも手こずったのは、軍事関連の事だ。


 アウローラには、軍人が多い。「アウローラ軍」として雇うには多すぎる、と言っていい。

 それもそのはず、前の内戦で、ネグレドがかなりの数の兵を募兵していたからだ。

 しかも他国との戦闘の結果で生まれた敗残兵ならともかく、彼らはれっきとしたユピテル人。

 たとえネグレドの味方だったとしても、ユピテルの為に戦ったという事を、父は認めた。

 奴隷にすることなどもってのほかだし、むしろそれ相応の報酬すら出さなければならない。


 その父の判断は大いに正しいとオスカーは思う。

 あの内戦が、単なる国内の権力争いでなく――国の未来のための戦いであったと証明するために、必要な措置だ。

 そもそも、アウローラ軍として戦った兵士たちを敗残兵としてしまっては――彼らが何をしでかすか分からない。数自体は万単位だ。蜂起されればひとたまりもない。


 だが……残念ながらこのユピテルは、財政がそれほどよろしくない。

 もちろん、その理由は、国庫の金をガストンが持ち逃げしたせいであるが、国を回すのでさえギリギリなのに、これほど多くの兵に報酬金を出すなど、どれだけ書類とにらめっこしても難しかった。


 だが、何とかしなければならない。


 元々オスカーがアウローラ属州総督を任されたのも、アウローラの内戦で活躍したオスカーならば、兵たちとの交渉もスムーズに進むと期待されていたからでもある。


「――ふぅ、就任早々無理難題を押し付けられたものだけど……頑張ってみるか」


 都市アウローラの総督府に到着した初日からため息をついた事はよく覚えている。


 オスカーがまず行ったことは、自分の指揮系統の確立だ。

 実績を上げたからと言って、15歳の若造と舐められることはある。


 まずは自分の周り――アウローラ地方の各地に指令を飛ばす「総督府」を掌握した。

 総督の人事権をフルに使い、幹部から受付までを短期間で吟味し、使える者を残し、使えない者を左遷し、一気に入れ替えた。

 「才能」を見出すファリド一門……とはよく言ったものだが、オスカーもその一門に恥じず、有能な人材を見つけ出すことには長けていた。


 オスカーやラーゼンの構想にあう人材を次々と登用し、かといって、急な人の交代で混乱が起きぬようベテランもある程度残し……ともかく有機的に属州が動く「機構」の構築を短期間で終えた。


 目ざとい人間はこの時点で彼がただの親の七光りではない事を理解しただろう。

 

 そして、新法の導入や、税制改革、都市の再建等――あらかたの事業の方向性を即座に決定し、自ら作った「機構」にその実行を任せ――オスカー自身は兵達との交渉に臨んだ。


 兵達――と言っても実際にオスカーが対談するのは、兵達のリーダーである百人隊の隊長たちだ。


 百人隊とは、軍団単位の中での最も細かなくくりである。

 勿論、突き詰めれば百人隊の中でも、細かな班分けがあったりするが――少なくともそれは「軍団」を扱う中ではカウントされない。

 その名の通り構成人数は100人前後。

 あのアルトリウス隊も――少々異例ではあるが「百人隊」の一種だ。


 軍団の運用は基本的にはこの百人隊を基軸に考えられる。

 兵は所属する百人隊と一心同体だ。


 そのリーダーたる百人隊長は、さしずめ末端の兵達の兄貴分。

 下手な将軍よりは、百人隊長の方が、兵達の支持はあったりもする。

 

 そんな百人隊長たちから、オスカーは直接、兵士たちの要求を聞き、交渉を始めた。


 兵士達が望むのは、先の内戦で戦った報酬。

 軍の退職金の要求だ。


 もちろん彼らに報酬を払うと約束したネグレドは、もういない。

 オスカーが彼らの上司となるためには、それを払わなければならない。


 とはいえ、こちらも財政に余裕はない。


 暫くの間、対話は横ばいだったが、オスカーは辛抱強く交渉をし続け――何とかある程度の妥協点を作る事に成功した。


 半分の兵をそのまま職業軍人として残す。

 なるべく精鋭や、やる気のある物だけを多く採用し「アウローラ軍」として再編成。

 

 ある程度の戦力をオスカー直轄の軍団として都市アウローラに残し、他はアウローラの各地に配置した。


 そしてこれらの兵士達は、まだ現役兵という事で、内戦の報酬は退役後に渡すという事になった。

 つまりは「後回し」である。

 

 さて、残った半分の兵については、軍隊を退役させ、その退職金として、「土地」を与えた。

 金の代わり、という事だ。

 勿論、内戦である以上、新たに獲得できる土地はない。


 だが、空き地になった土地は多い。

 

 それもそのはず、元老院の門閥派――追放された上級貴族たちがかなり不動産を貯め込んでいたのだ。

 当然、アウローラにもそのような別荘地はある。

 元老院が押収していたその土地を、オスカーは兵達に金の代わりに分配することにしたのだ。

 

 無論、分配には苦労したが……何度も協議を重ねて、ようやくあぶれた兵士の問題は解決した。


 ここまで、アウローラに来てから半年ほど。

 火急の事案は処理ができただろう。


 勿論、色々と他にもやらなければならない事は多い。

 普段の属州の運営ですら大忙しなわけだし、オスカーは身体も弱く、あまり根詰めることすぐに寝込んでしまった。

 その度かいがいしくサポートしてくれる副官がいなければ、きっとここまではこれなかっただろう。


 さて、風の噂でアルトリウスが王国に到着した、なんて話が聞こえてきた。

 ようやくアウローラも落ち着いてきた今日この頃だが――この日オスカーは一大決心をすることにした。


 前からいくらか悩んでいたことではある。


 そう、それは―――結婚だ。


 オスカーももう16歳。

 ユピテルでは成人も過ぎ、一人前にみられるようになる時期だ。

 特にオスカーは公的な地位も上がった。

 戦争も経験し、アウローラ総督としての仕事も板についた。そろそろ身を固めるべき時なのだ。


 勿論、大貴族ファリド一門の御曹司かつ、時の支配者ラーゼンの息子。

 縁談の話などいくらでも来ている。


 ここにきてモテ期が来たというわけだ。

 学生時代、ファンクラブなんて物があった親友を羨ましがっていたのが懐かしい。


 とはいえ、どれもがオスカー自身のではなく、親や家柄を見たものだという事は分かっている。

 少なくとも自分がひ弱で根暗な自覚はあるし、大量に来る縁談も、オスカーの内面を見たものではないだろう。

 

 もっとも――オスカー自身は、長らく結婚は手段の一つと捉えていた。


 例えば、政治上、急に大金が必要になった際、援助を貰うために豪商の娘と結婚したり。

 もしくは敵対勢力を懐柔するために、その家の娘を迎えたり。


 カレン一門ほど顕著ではないが、政治家の結婚にはそういう意味合いも強い。


 オスカーは、政治家の中でも――今後国の中枢を担おうとする人間だ。

 結婚は何かしらそう言った利益に基づきする物だと思っていた。


 同じ貴族でも、自由恋愛に勤しんでいる親友の姿は少し羨ましくもあったが……彼とオスカーでは立場も目指している物も違う。


 オスカー自身は持ち前の賢さからか、そういう達観視もしていた。


 故に、オスカーは結婚相手に何かしら願望を持っていたわけではない。

 さっさと娼館で童貞を捨てたのも、そういう割り切りがあったからだ。

 

 だが……ここにきてオスカーには迷いが生まれていた。


 ――思い返せばいつからだろうか。


 そう、いつもだ――。

 小さいころから、オスカーの為に、オスカーの傍にいて、尽くしてくれる少女がいる。

 

 昔はいじめっ子から守ろうとしてくれて。

 今は戦場で守ってくれて。

 

 振り返れば後ろに彼女がいた。

 何かをしようとすると、いつも彼女が手伝ってくれた。


 オスカーが間違った時に止めてくれた。

 オスカーが立ち止まった時に背中を押してくれた。


 女の子だというのに、傷だらけになりながら戦って。

 カルティアやアウローラまでついてきてくれた。


 そう、そんな子が……ミランダがいる。


 元々、オスカーはミランダには嫌われていると思っていた。

 彼女の前では、ふざけるのを自重したこともないし、適当な私生活であるオスカーと反対に、彼女は真面目なところがある。

 

 どうして、自分の傍にいるのか、オスカーはずっと分からなかった。

 親の家が仲がいいから、「護衛」として父かグリーズマンさんから何か言われているのだろう。

 

 ミランダが剣や魔法の修行を始めたと聞いたときに、そう思った。それ以来、過度に考える事はやめた。


 そう、考えない。

 考えていない筈だった。


 でもその日―――。


 オスカーが娼館に行った次の日。

 そのことを聞いたあの日のミランダの表情が……すごく悲しそうに見えたのだ。

 いつもなら、「オスカー、キモい」と言ってチョップをかましてくる彼女が、悲しそうな顔で、トボトボと帰って行ったのだ。


 次の日からは、別に普通だった。

 でも――どうしてもオスカーはその日のいいようのない罪悪感から逃れることができなかった。


 オスカーは残念ながら女心には鈍感だ。

 そういうのが得意そうなプレイボーイの親友は、特にアドバイスをしてくれるわけでもなかった。

 

 だから、このアウローラの地で、オスカーは熱心に仕事に打ち込む反面、考え続けた。

 考えて、考えた末……ようやく決断をすることにした。


 これは、未来の事を考えると……政治家としての自分の事を考えると、早計な決断なのかもしれない。

 結婚という手札はもっと慎重に切るべきなのかもしれない。


 だが、これは男としての責任。

 親友の言うところの、甲斐性の問題だ。

 

 ――いや、誤魔化しちゃだめだ。

 甲斐性とかそういうのじゃない。僕は――ミランダの事が―――。


「―――オスカー、何か用?」


 オスカーの執務室――要するに、アウローラ総督の執務室に、彼女が現れた。

 相変わらずの長身に、出るところが出た茶髪の少女、ミランダだ。

 

「ああ、実はその……君に、話したい、というか、頼みたいことがあってね」


 執務室の隣――何故か火災が起きた後のように焦げていた部屋を尻目に、オスカーは言った。

 柄にもなく緊張している。

 全く――親友はこんな事を複数人としようというのだから、やはり流石というほかない。


「――頼みたいこと?」


「ああ、その、一生に一度のお願いなんだけど」


「……ふぅん、一生に一度、ねぇ」


 緊張を少しでも紛らわせるためにおどけてそう言ったオスカーに、ミランダは怪訝な顔だ。

 大げさ過ぎたかもしれない。

 

「えっと、その……」


 口に出そうとすると、やはり恥ずかしい。

 机の下で、足はがくがく震えているし、ひょっとしたら顔は真っ赤だったかもしれない。


 やっぱり今日はやめようか。いや、でも――。


「その……そうだな。僕は、あまり――生活力はないし―――筋肉もなければ、身長もない」


 言い訳をするかのように――オスカーは目線を泳がせながら言葉を綴った。


「剣も魔法もてんで駄目で、男性としての魅力はいささか欠落しているし――自分で言うのもなんだけどデリカシーもないだろう」


「え、うん……知ってるけど……」


 ミランダは相変わらず怪訝な顔をしている。


「――あ、うん、そうだね。君がそんなことを知らないわけがないっていうのは分かっている。分かってるけど……ともかく僕は本当に欠点だらけの人間なんだ」


 少し早口になりながらも、オスカーは続ける。


「――だから、僕が君に――今更こんなことを言う資格があるのかはわからない」


 いや、きっと本当はオスカーにはそんな資格はない。

 彼女にどれほど苦労をかけ、どれほど助けて貰ったか。

 オスカーはそれに何かを返せてはいないのだ。

 彼女の気持ちを知らぬまま、思考を停止して生き続けてきたのだ。


「……でも、言わなければならない。僕が君に―――伝えたい言葉がある」

 

 ――彼女のため?

 

 違う。


 これは、自分のためだ。

 自分がそうしたいと思ったから。

 自分がそうなりたいと思ったから。だから――覚悟を決めろ。


 オスカーは立ち上がり――ゆっくりとミランダの前に立った。


「――ミランダ・レーヴ・ミストラル」


「……はい」


 珍しくフルネームを呼んだ彼に何かを感じ取ったのか、ミランダもどこか真剣な表情だ。


 勇気を……振り絞れ。


「僕と、結婚してくれないか?」


「―――え?」


 ミランダの目が見開く。

 空気が――時の流れがこの空間で止まったように感じる。


「―――でもオスカーは、その……」


「……確かに、貴族にとって結婚というのは《手段》かもしれない。いずれ何かに利用できたかもしれないし、未来ではそのせいで困難にぶち当たる事もあるかもしれない。そうでなくとも―――君だって僕と共に生きるという事で苦労することはあるだろう」


 見開く彼女の目をしっかりと見つめて。

 震える彼女の声を遮って。

 オスカーは言った


「でも、それでも――僕にとって君を幸せにできないなんて事よりつらい事なんてない」


 自分より高い視線の彼女に、堂々とオスカーは想いを伝える。


「君が、好きだ。ずっと僕を傍で支えてくれて、ずっと僕を助けてくれて、僕を想ってくれる、君が好きだ。他の人との未来なんてありえない」


「オスカー……」


 少女の瞳は揺れていた。

 動揺だろうか。

 感動だろうか。

 分からない。

 分からないが、オスカーは続ける。


「―――僕は、甲斐性なしだ。知っての通りひ弱だし、守ってもらわなきゃ何もできない、駄目な男だ。でも、絶対に――この国を背負って立てるような男になる。君に守ってもらって恥ずかしくないような、立派な男になる。その意志と覚悟だけは絶対に折れたりしない。だから――僕と一緒になって欲しい」


 そう言って、オスカーは手を差し出した。


「―――――」


 ミランダの瞳からは大粒の滴が零れていた。

 遠い昔――彼にいじめから助けて貰ってから、オスカーの前では強くあろうとしてきた彼女が、泣いていた。


 そして、


「……よろしく……お願いします」


 小さく、だが確実に聞き取れる声を発しながら、ミランダはオスカーの手を取った。



 この日――二人は結ばれた。

 オスカーが彼女に送った指輪は値は張るものの、センスは微妙な物だったが、不思議とそれに対して彼女が苦言を言うことは無かった。


 勿論まだ大々的に発表することはない。

 様子を見ながら父やミランダの家――レーヴ・ミストラル家にも手紙を送って、それからだ。


 でもきっとうまくいくと――そう思った。


 アウローラはとりあえず上手く機能し始めた。

 総督としても司令官としても、皆に認められつつある。

 カルティアへ行ってから、ずっとこれまで頑張り続けてきた。

 結婚相手くらい自分で選んだって……罰は当たらないだろう。


 この二人の婚約は、その後の結果がどうであれ、少なくとも当の本人たちにとってはめでたい事だっただろう。


 

 だが、世の中―――めでたい事ばかりではない。

 まるで仕組まれたかのように、幸運と不幸は交互に訪れる。


 この日もそれは例外ではなかった。


「―――し、失礼します!」


「――何だ!? 今日は入るなと……」


 一世一代の告白を終え、さぁとりあえず唇の味見でも――とオスカーが構えていた時だ。

 唐突に――今日は誰も入るなと言明していたはずの部屋の扉が開いた。


「――も、申し訳ありません! しかし……どうしても総督にこれを伝えないわけにはいかず……」


 伝令の男は、謝罪をしながらも――確かに様子がおかしい。

 顔面が蒼白で、汗もびっしょりだ。

 アウローラに来て以来、この伝令がこれほど慌てたことはない。


「―――何だ? 言ってみろ」


「は! その……大変申し上げにくい事なのですが―――」


 その悲報は、おそらくこのユピテル……いや、世界中を驚愕させた知らせだった。


 再び――ユピテルが混迷の海に落ちていく音が聞こえた。



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