表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
231/250

第231話:間話・目覚めたその後

アルトリウスが目覚めてから数日の補足回。

時系列的には前回より前です。



 俺が目覚めて3日ほど。


 つまりは王国の騒動から4日ほど経過した後だ。


 当然、まずは女王――リーゼロッテと面会し、ユピテルへの帰還についての相談をするのかと思っていたのだが、どうやらリーゼロッテの方が忙しそうなので、こちらはこちらで色々と下地を固めることになった。


 王国が落ち着くのは1か月は先になるだろう。



 私的な事はともかく、公的な立場として、俺にはやらなければならない事がいくつもある。

 もちろん、多くをリュデや隊員が知らず知らずのうちに片付けてくれるのだが、やはり中には俺自身が赴かなければならない物もあるのだ。

 女王との面会はその最たる例だが……それ以外にも、俺が面会しなければならない例はある。


 そう、穏健派の代表との協議だ。


 王都に亡命してきた穏健派の代表――カルロス・クロイツ・ローエングリンは、息子のカインと同じく青髪の男だった。

 年齢は俺の父のアピウスなんかよりは1世代上だろうか。多分シルヴァディと同じくらいか、それより少し上だ。


 俺は、大使として……そして、今回の騒動に関わった者として、そのカルロスと今後のユピテル陣営の生末について協議をすることになった。


 カルロスに、その従者と、アズラフィールに俺とリュデ。

 現在の王都にいるユピテル人のトップ対談というわけだ。

 今更だが、カルロスとか四大貴族の頭領だけど……俺も大変な身分に来たものだ。


「ほう、貴公が烈空か……噂には聞いていたが、若いなぁ!」


 初見は緊張したものだが、大柄な体躯の青髪男――カルロスは案外気持ちのいい武人といった雰囲気だった。


「ローエングリン卿、お初にお目にかかります。この度ラーゼン・ファリド・プロスペクター執政官より全権大使を拝命しました、アルトリウス・ウイン・バリアシオンと言います。以後お見知りおきを」


「ほうほう、なるほど、確かに―――ラーゼンの見る目はあるようだ。神童だったか……カインとは大違いだな、ハッハッハ!」


 自己紹介をすると、カルロスは、豪快に笑った。

 『神童』なんてこれまた久しぶりに聞いたが……まぁカインの父親なら、そっちの方が印象深いのかもしれない。


 そこからの会談は、それなりにスムーズに行った。


 俺が目覚める前から、ある程度の話は伝わっていたようで、細かい取り決めは、リュデと、カルロスの従者の間によって行われる。


 俺は、カルロスとアズラフィール相手に、今回の事件のあらましを、差し障りない程度に説明。

 

 まぁ、『神聖教』が暗躍して、王都を危険に巻き込んだよってことくらいか。


「なるほど……しかし『白騎士』に『獅子王』か。カインから聞いてはいたが……私も助けに行くべきだったな」


 王城の中での戦いの話をすると、黙って聞いていた眼帯の男――アズラフィールがしみじみと漏らした。

 確か『青龍剣』と呼ばれるカインの師匠である彼は、かなりの実力者だったはずだ。

 あのカインに剣を仕込んだのだから当然ではあるが……まぁ結果だけ見れば彼は穏健派の護衛として残ってもらっててよかったかな。

 『白騎士』はともかく、セントライトは、並の達人ではどうにもならないほど突き抜けていた。

 アズラフィールも強そうだが……流石にフィエロより上ということはないだろう。

 

 そして次に、穏健派を含めたユピテル側の代表を、俺にするという事が決定した。

 

 俺のウインという家格はクロイツには劣るが、全権大使という地位は、カルロスの持つ将軍の地位よりも上だし、何なら、俺も将軍の地位は持っているし、カルロスは亡命した関係上、正規の軍人ではない。実はいくつか勲章も持ってるし、俺が代表だったほうが、今後の事がスムーズに行く。


 カルロスはさもあらんという感じで快諾してくれた。

 彼自身は思慮深い人物だ。

 王都にて冤罪で2000人が囚われるというとき、女王の言葉を信じて武闘派が行動を起こすのをなだめたという。

 カインの日頃からの口添えもあったらしく、王国での今後の話は、比較的スムーズに行った。


 話されたのは、今後のこのユピテルの一団の方向性と、王国との関係について。

 具体的には、王国に対しての資金の要求についての話や、賠償についての話だ。

 勿論、ユピテル人であるカルロス側としては、王国側に多額の負担を言い渡してもおかしくはない。

 だが、そもそも亡命を受け入れてくれたり、軍属派から、彼らをかばったりと、今の女王自体には、カルロスとしても恨みはない。


 という事で、折衷案として、軟禁への賠償としての金は貰うが、そもそもの資金繰りの要求は、別の案にするのはどうか、という話が出た。

 色々と案は出たが、王国・ユピテル双方に利益のでる、「行路」の建設事業の委託という提案を煮詰めていくことになりそうだ。

 俺がごり押した感もあるが、一応、ラーゼンとの事前協議でも、交渉のカードの一つとして話には出た物だ。「国交」を開ければ、どれほどの利益が出るか、ラーゼンとしても分かっているのだ。


 まぁラーゼンにはいい言い訳でも考えておこう。

 ユピテルも金策には苦労するかもしれないがか、かといってこれ以上王国に苦労もさせたくないのだ。

 カルロスも、焼けた王都を見たからだろうか。

 苦笑しながら同意した。

 

 勿論、本当にどうするかは、実際に俺がリーゼロッテと交渉して決めることになるけれど、なんとなく上手くいくと思う。



 その後の会話は、ユピテル本国の話になった。

 

「そうか、シルヴァディは……本当に……」


「惜しい人物だった……」


 やはり――ユピテル人として気になるのは、シルヴァディの事なのだろう。

 アウローラでの内戦と、その結果を話していく中で、シルヴァディの話は彼らにとっても鮮烈だったようだ。


「済まなかった。我々は―――貴公らのように決断する事ができなかった。それなのに、こうしてまた尻ぬぐいをして貰うことになるとは……」


「いえ、亡命も……重要な決断の一つですから」


「かたじけない」


 先の内戦では、ローエングリン家……つまりユピテルの穏健派は中立を保ち、内戦に巻き込まれることを避けるため、王国へ亡命する選択肢をとった。


 結果から言えば、王国も決して平和ではなかったわけだが、それでも、家族や大切な人を守りたいという想いはわからないことはない。


 彼らの扱いは、ヤヌスに戻った後―――ラーゼンが決める事だ。俺からなにか言う事はないだろう。



● ● ● ●



 さて、そんな小難しい事も2日ほどの話し合いで終わり、女王はまだまだ忙しそうなので、しばしの間、俺はプライベートな事に時間を費やすことになった。


 深淵の谷に赴く事もそうだが、再会した以上、先延ばしにできないこともある。


 まず、エトナとキチンと話すこと。


 彼女には、シンシアの事やリュデの事を、「塔」から王都までの道のりで軽く存在を揶揄しただけで、それだけだ。

 リュデは元から認めているという雰囲気だったが、ともかく、一度エトナともちゃんと話し、シンシアを正式に紹介する必要があると思ったのだ。


 おそらく、俺にとっての今世紀最大のミッション。

 セントライトやジェミニ相手にも使わなかった最終兵器「DOGEZA」を高速で出せるように準備しながら、俺はエトナの元へ行った。

 

 しかし、


「――えっ? シンシアちゃん? うん、お嫁さんにするんだよね?」


 黒髪の少女はきょとんとした顔でそう言った。


 そう、またもや俺に――出る幕は無かったのだ。

 俺が起きたときには、既に何故か女性陣の間で話が済んでいたらしい。


 確かに、思い出すと、起きたとき皆一緒だったな……。

 またヒナかリュデが気を回してくれたのかもしれない。


「……ごめんなさい」


 それでも、俺は謝罪の言葉を口にした。

 俺の中では一種の裏切り行為ではあるのだ。


「どうしてアル君が謝るの?」


「だってその……少なからず傷つけたかと思って」

 

 前世の価値観で言えば、浮気だ。

 二股どころの騒ぎじゃない。

 こちらでも大きく間違っているわけじゃない……よね?


「ううん」


 でもエトナは笑顔だった。


「だって、聞いたよ。シンシアちゃんは……とてつもなく落ち込んだアル君を、助けてくれたんだよね?」


「まぁ……うん。そうかもしれないけど」


「それに、シンシアちゃんが、どれだけアル君の事が大好きかなんて……すぐにわかったし」


 翡翠色の瞳が、俺をしっかりとのぞき込む。


「だから、大丈夫だよ。皆で一緒に……幸せになろ?」


「エトナ……!」


 思わずそのままエトナを抱きしめた物だ。


 それからはちらほらエトナとシンシアが仲良く話しているところも見た。

 不器用なシンシアがエトナに料理を教えて貰う、なんて図もあったりなかったり。


 ようやく俺は理解した。

 男の甲斐性? そんな物は存在しないんだ、と。


 結局俺の最終兵器「DOGEZA」は、生涯使うことはなさそうだ。

 



 ちなみに、他の家族について。

 

 俺の両親や、相変わらず可愛くてブラコンの妹と、少し恥ずかしがるようになったけど同じく可愛いブラコンの弟に、リュデの家族も、今は全員が俺と同じ屋敷に住んでいる。


 暇があれば、そんな妹や弟の面倒を見ることもある。

 といっても、昔のような「かくれおに」とかではなく、例えば、2人の学校での事を聞いたり。

 上達した魔法や剣を見てやったり。

 アイファは相変わらず優秀で、アランは若干伸び悩んでいた……というかどうやらさぼっていたらしいが、まぁのらりくらりとやっているらしい。


 両親とも、多少は時間をとれた。


 愛しい妹弟と一緒になって俺に絡んでくる母親アティアに、根掘り葉掘り戦争や王国の出来事を話したり。

 父がたまに政治の話を振ってくるのは、一人前と認められた証かも知れない。

 

 家族には、シンシアも紹介した。

 シンシア自身は緊張でドキドキしていたが、うちの家族は受け入れてくれた。


 まぁ慣れたものよ、といった感じだ。

 俺の居ない間に、いったい家族の中で俺の認識がどうなっているのか甚だ疑問である。


 そしてついでに、というわけではないが、両親には「4人の妻を持つつもりである」という事を打ち明けた。

 正直、言葉にするのは初めてだったが……まぁ王国にそれを実現する目途も付きそうだし、俺の腹積もりでは、ユピテルに戻り、落ち着き次第――正式に婚約しようかと思っている。


 まだ先の話だが、両親には知らせておいた方がいいだろう。


 一応ユピテルでは、一夫一婦制が普通なので、少し何か言われるかな、とも思ったのだが、


「流石アルね! 往年の三角関係に終止符を打つどころか、数を増やして全部総取りなんて、男の中の男よ!」


 茶化された気もしたが、ありがたいことにアティアにはそう言って貰えた。


 ただ、アピウスには、


「ふむ、重婚という事か……。正式にとなるとユピテルでは難しいと思うが……。王国にとどまるのか?」


 なんて具体的ことも言われた。

 反対はしないが、難しいだろうというスタンスか。


「そうですね。一応王国への移住は、第一候補です。まぁどちらにせよ仕事を全て終わらせてからですが」


 プロポーズもそれからだ。


「そうか……寂しくなるな」


 神妙そうな顔でアピウスは呟いた。


「―――アルトリウス、お前の事だから分かっているだろうが……我々ユピテル人からしたら、重婚は険しい道のりだ。だがそれでも絶対に諦めず……4人とも、幸せにするように」


「……はい」


 最後に貰った訓示のような言葉は、とても心に響いた。


 俺は本当に――いい両親に恵まれたと、そう思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ