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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十七章 青少年期・王城決戦編
226/250

第226話:騒動の後

ポケモン楽しそうですね(^^♪



「――てやぁぁああ!」


「――フッ!」


 木剣の音と、剣士の掛け声が、王城の中庭にこだまする。


 俺の眺める前で、剣を合わせているのは、青髪の少年、カインと、金髪痩躯の青年、トトスだ。


 今日、この組み合わせは2本目になるが、彼らの実力は拮抗しているようで、中々試合は長引いている。

 先ほど一本取ったトトスもかなりギリギリといったところだった。


「―――今回は――カインさんが押していますね」


「ああ、アイツ、剣に関する学習能力は高いからなぁ」


 そんなことを言いながら、2人を眺めるのは、俺とシンシアの2人だ。

 

 王都の騒動から――概ね1か月と少し。


 「剣士」ばかりのメンツからお察しの通り、今日はトトスに誘われ、剣の合同稽古をしているのだ。


「―――どりゃぁぁぁああ!」


「――っ!」


 俺達の前では、中々に白熱した戦いが繰り広げられている。


 速さではトトスに軍配が上がる。

 しかし、先ほどはその速度に翻弄されていたカインも、今回は上手くトトスの動きに合わせて対応している。

 水燕流や甲剣流ではカインの方が上手。臨機応変に対応できているという感じか。


 ここにいるメンツだと、彼らの実力が一番拮抗していて、見ている分にも、退屈しない。


 カインの剣を見たのは久しぶりだが、最後に見たときより随分成長していた。


 もっとも――先ほどそう言ったら、「お前にだけは言われたくねぇ!」と返された。

 別に皮肉を言ったつもりはないのだが…《第四段階》に達している俺は、この中だとどうしても少し頭抜けて見えるので仕方がないか。


「――ギルフォードさんやメラトスさんも参加できれば良かったんですけどね」


 彼ら2人の戦いを見ながら、俺の隣でシンシアがそう言った。

 

「…仕方ないよ。人手不足らしいし」


 そう、本当はトトス以外の2人も――今日の稽古には参加する予定だったのだが、さすがに有能な騎士を2人も余らせておくほど、今の王国に余裕はないだろう。


 騒動から、1か月といってところか。

 確かに、王国は、形の上では、平穏が戻っている。

 

 だが――まだまだ完全に復興したわけではない。

 むしろ、ようやく復興が始まった、といったところか。


 あれから間もなく、神聖教の暴徒たちはギルフォード達王国の親衛隊と、俺の隊の面々によって鎮圧された。

 何でも、神徒達の指揮をしていた「司教」の1人を、フランツ達1班が、早期に片付けてくれたことにより、鎮圧が円滑に進んだようだ。


 ただ――その「司教」のうち1人を逃がしてしまった、という話を聞いた。

 ビブリット商会の会長をしていた男であるらしい。

 ビブリット商会も軍属派も《神聖教》だった――というのは俺は後で聞いた話だが、彼の行方も、女王を悩ます種の一つだろう。


 トトス達――「人攫い」に遭ってしまった人たちは、つい数日前に王都に到着した。

 俺の言葉を実行してくれたようで、女王はすぐさま彼らの救助隊を出していたらしい。それなりに早く帰還することができたのだとか。


 彼らの帰還に尽力したトトスは、明日から仕事に復帰するのだが、その前になまった身体を叩き直すため、俺達と剣の稽古を申し込んできた、というわけだ。


 休暇なんだから、休めばいいのにとも思ったが―――まぁ折角誘ってくれたなら、断る理由はない。

 彼としては、自分が倒せなかった『鴉』を倒した俺の剣を是非間近でみたいとのこと。

 向上心の高さはヒナ顔負けだな。


 ちなみに――『鴉』…あの兄妹の行方は分からない。

 トトスが塔を後にするときには、もう彼らの気配はなかったようだが――まぁあれほどの実力を持つ2人だ。死んでいる事はないだろう。

 『鴉』が実際にしたことは、仕事とはいえ許されることではない。

 俺としては、同情する余地がない事もないが――まぁ今後は人に迷惑をかけずに残りの時間を過ごして欲しい物だ。

 


 さて、では俺はというと――それなりに忙しかった。


 といっても、別に王国の手伝いをしたわけでもない。

 俺自身は、手伝っても良かったのだが――王国からは、頼むからそのまま休んでいてくれと言われた。これ以上俺達に迷惑をかけたくはないようだ。


 まぁ部外者の俺たちが変に関与しても、むしろ向こうの仕事を増やすだけかもしれないので――俺達ユピテルの一行は、しばしの休暇を取ることになった。

 リーゼロッテも、今はこちらに構っているほどの暇はないだろう。


 地下で幽閉されていたユピテルの穏健派の面々は、地上の相応しい場所での滞在になり、まぁ特にやることもなく過ごしている。


 女王との話がまとまるまでは、勝手にユピテルに帰るわけにもいかない。

 というか、どうせ帰ろうにも、2000人もの旅路。それなりに準備期間は必要だ。


 俺の隊にも休暇を出した。

 観光の許可も出したのだが、まぁ、外を歩いても――燃えて朽ちた家や、活気のない商店街がどうしても目について、楽しめはしないかもしれない。

 

 さて、俺も半ば休暇のような物だったわけだが、どうして忙しかったのかというと、それなりに個人的な事が立て込んだからだ。

 

 家族との再会だったり。

 目覚めたヒナに「また無茶して!」と怒られたり。

 リュデや隊員から、王都の方で起こったことのあらましを聞いたり。

 救出した穏健派のトップ――カルロスと協議をしたり。

 リンドニウムと共に、深淵の谷へと行ったり。

 

 他にも、シンシアをエトナや家族に紹介したり。

 彼女たちの夜のお誘いに応えたり―――。


 と、まぁとにかく…色々とあった1か月だった。


 ある意味充実していた、ともいえるが――その間に苦労しているリーゼロッテたちの事を思うと、若干複雑な気持ちではある。 


「……上手いです!」


 そこで、シンシアの感嘆の声が聞こえた。

 一瞬何の上手さかと思ったが、どうやら、カインの剣の話のようだ。

 

 ここ最近の出来事を考えているうちに、2人の決着がついたのだ。


「―――ふぅ、お見事です」


「はぁ…はぁ…いや、ギリギリだったよ」


 見えたのは、カインがトトスの首元に剣を突き付けている姿だった。

 予想通り――今回はカインが勝ったらしい。


 まぁ見ていた感じ、どっちが勝ってもおかしくない勝負だったけど。


 この3人の中だとシンシアが少し抜けている感じか。

 彼女のスピードには、トトスもカインも敵わない。


「――いやぁ、シンシア殿といい、カイン殿といい……世界は広いですなぁ」


 トトスは負けたというのに清々しい顔をしている。

 いつも険しい顔をしているギルフォードと違って、やけにさっぱりした性格なのがトトスだ。


「さぁでは、烈空殿、もう一本お願いしてもよろしいでしょうか?」


「――ああ、勿論だ」


 今さっきカインにのされたばかりというのに、まだまだやる気充分のようだ。

 ちなみに、彼は先ほど、俺にもシンシアにもボコされている。


 カイン相手なら、五分だろうが、俺とシンシアとは何度やっても同じ結果だろう。

 その実力の差は、一朝一夕の差ではないのだ。


 それでもめげないのは――流石は聖錬剣覇の弟子といったところか。

 彼を見ていると、昔――シルヴァディに何度でも挑んだ自分を思い出すな。


 彼が俺達と剣を交えることで、何か得る物があればいいのだが。


 そんな若干懐かしい気分になりながら、トトスとの試合のため、木剣を手に取ったとところで…。



「―――アルトリウス、ちょっといいか?」


 ――少し離れたところから、そんな声が聞こえた。


 王国で俺が呼びすてにされるのは珍しい。

 家族や友人はともかく、一応俺はユピテル全権大使という結構な地位を持っているのだ。

 ギルフォードもトトスも、俺には何らかの敬称をつける。

 

 つまり、現れたのは、それに匹敵するような地位と実力を持つ人物――。


「――師匠!」


 といったのは俺ではなく、手前のトトスだ。


 そう、現れたのは――薄紫色の髪に、獅子王から取り戻した銀色の剣を携える剣士――『聖錬剣覇』フィエロだった。

 

 王城の戦いから数日ほどで回復した彼も、ここのところは王都の復興で忙しかったはずだが…。


「アルトリウス、陛下がお呼びだ」


「――陛下が?」


「ああ、ようやく時間が取れそうだから―――是非会いたいと」


 どうやら、女王リーゼロッテの使いのようだ。

 彼女とは、伝令越しには何度かやり取りをしたが――実際に会うのは、騒動の日以来だ。


「えっと、今ですか?」


「そうだな」

 

 今は剣の稽古中だったが…

 まぁ誘ってくれたトトスには悪いが、彼の上司が呼んでいるのだから、そちらを優先させた方がいいだろう。


「わかりました。では――すぐに正装に着替えて…秘書と共に参ります」


 そう言って、踵を返そうとしたのだが、


「いや、別に謁見というわけではない。そのまま1人で来るといい」


「――えっと…この格好で大丈夫ですか?」


 俺の着ているのは、シャツに皮のズボンという動きやすい普段着だ。

 貴族との対談で着るようなものではないが…。


「ふ、構わん。どうせもう――礼儀を気にするような家臣もいないのだしな」


「――そうですか…」


 なんとなく――今の王国のヤバさが知れる一言だった。

 家臣のほとんどが軍属派…それどころか神聖教だった、とかいう話は聞いた。

 今謁見をしようとしても、あの時のように参列する大臣などいないのだろう。

 リーゼロッテが、今日までずっと忙しかったのもうなずける。


 それを考えると、俺との面会なんてもっと後回しにしてもらってもいいのだが――まぁ大使としての立場もあるか。

 さっさと王国側と話をつけるのも、必要なことだ。


「わかりました。じゃあトトス、悪いけど――剣の相手はシンシアにでもして貰ってくれ」


「――あ、はい。ご指導、ありがとうございました!」


 トトスはそう言ってびしっと礼をした。


 うん、最後まで気持ちのいい青年だ。

 思わず自分が彼より年下の見た目であることを忘れてしまうよ。


 そんなことを思いながら、俺はフィエロと共に、中庭を後にした。 



シンシアを家族に紹介する件や、深淵の谷へ行った件は、王国編の後の間章で詳しく取り上げるつもりです。

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