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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十七章 青少年期・王城決戦編
224/250

第224話:ルシウス・ザーレボルド

あと少しで王国編は終わります。

その後は間章を挟みつつ物語を締めにかかるつもりです。

どうか最後までお付き合いください!



「……」


 目を開けると、そこは真っ白な世界だった。


 前も後ろも、上も下も、真っ白な床に、真っ白な天井。

 

 真っ白な床は、終わりが見えないほど続いている――そんな世界で、俺は地面に足をつけて立っていた。


 頭がぼーっとする……えっと……確か俺は眠って…ここは―――。


 ――ああ、そうか。 


 俺は――このに見覚えがある。


 そう、ここは――


「―――来たか、少年」


「――!」


 後ろから――声が聞こえた。

 ぞっとするような―――でも優し気にも聞こえる、そんな声。

 ゆっくりと、俺は振り返った。


「――なんとなく……アンタが現れるような気はしていたよ」


「……そうか」


 いつの間にやら置かれていた白い机と椅子。


 そして――そこに座るのは、この白い世界ではやけに目立つ、痩躯の男。

 漆黒の長髪に、漆黒の瞳。

 白い肌なのに、どこか暗い雰囲気を思わせる顔立ち。


 かつて、前世の俺を殺し、そしてこの世界へ転生させた男。


 そう、俺にとっては全ての始まりとも言える男。


「……ルシウス・ザーレボルド――」


「……ああ、久しぶりだな」


 俺が名を呼ぶと、ルシウスは少しおどけて答えた。

 以前会った時より、いささか感情が見えるのは、俺の感じ方の違いだろうか。


「――とりあえず……座るといい。椅子も紅茶も二つある」


 いつか――初めてここに来た時も、そう言われた。


「……ああ」


 素直に俺は従い、白い椅子に腰かけた。

 

 なんとなく、今回は驚きはない。

 おそらく出てくるんじゃないかと――そう思っていた。

 

「――今日は…時間があるのか?」 

 

「……前よりはな」


 ティーカップを手に取った俺に、ルシウスは言った。

 前回は――確かカルティアで、内戦へ行くか行かないか迷っている時だった気がする。

 対面したのはわずかな時間だ。

 

「それは良かった。アンタには山ほど聞きたいことがあるんだ」


 これがただの夢でないことを、俺は良く知っている。

 この白い空間でルシウスが言ったことは、現実に起こり、良くも悪くも俺に深く関わる事だった。


 間違いなく、この男は、俺の知りたいこと――俺の知るべきことを知っている。


「……そうだろうな」


 彼も…どうやら話すつもりがあるようだ。


 深く息を吸い、その黒い瞳が俺を見つめる。

 昔は――その目はとても恐ろしい物に見えたものだが、今は不思議とどこか親近感すら湧いてくる。


「お前は――よくやってくれた」


 何を聞きたいのかが分かっているかのように、ルシウスは話し始めた。


「お前のおかげで―――ラーゼンは勝利し、ユピテルの新たな道は守られた。お前のおかげで、セントライトの野望は止まり、王国は救われた」


「……王国は、もう大丈夫なのか?」


「ああ、『白騎士』も既に倒れた。残った暴動も、仲間が何とかしてくれる。目が覚めたら全てが終わっているだろう」


 まぁ大丈夫だろうと思ってはいたが、セントライトを倒した事で――この王国の混乱は何とかなるらしい。

 『白騎士』は俺の来たときには見かけなかったので、少し不安ではあったが、既に倒しているらしい。

 頑張った甲斐はあったようだ。


 そこで、王国の話は一旦終わりと見たのか、ルシウスは話題を変えた。


「……ウルには―――悪い事をしたと思っている」


「――!」


 出てきたのはウルの名だ。


 『闇狗』ウルは――ルシウスの手によって、不老不死にされてしまった少女だ。


 《不老不死》という一種の呪いに、彼女がどれほど苦しんだかは――彼女の言葉から痛いほどわかった。

 彼女のことについては、その真意を問いただそうとは思っていたのだが、ルシウスとしても気にしていた事ではあるようだ。


「あの子に背負わせた物の重さは、重々承知している。だが……《ニルヴァーナの滴》を完全に破壊するには、同じ力で打ち消すしかなかった」


「――破壊できるのか!?」


 思わず大きい声が出た。


 《ニルヴァーナの滴》は―――神族が造り上げた、黒いオーブ。

 人に永遠の命と絶望の力を与える災厄の力だ。


 確かリンドニウムは、破壊できないと言っていた。


「ああ。落ち着いたらウルのところへ持っていけ。恐らくそれで、あのオーブの力は消滅し、ウルの《不老不死》も解かれる。彼女ならば……見ただけでわかるだろう」


「――そう…か」

 

 ニルヴァーナの滴を破壊するために―――同じ不老不死の力―――ウルが必要だった、と。

 

 普通に驚きだ。


 勿論こればかりは試してみないと話にならないが…今までの経験上、ルシウスが嘘を言っている可能性はないだろう。


「……」


 しかし、一体このルシウスという男は何者なんだ。

 今に始まったことではないが、俺がセントライトを倒すことも、ニルヴァーナの滴の事も――まるで何でも知っているかのような――。


「後は…そうだな、調停者―――《神族》について、か」


 俺のそんな考えを知ってか知らずか、ルシウスは話を進める。


「お前のおかげで―――この世に残る《神族》のうち1人は消えた。残りは…2人だ」


「―――!」


 調停者……《神族》。

 セントライトを使って、世界を絶望に陥れようとした…災厄の元凶。


 おそらく、消えたというのは―――ついさっき断末魔と共に塵になった赤いローブの少年…リードの事だ。


 そしてこのルシウスの言い方――


「やはり…俺の転生は――」


「そうだ。俺がお前をこの世界に転生させたのは―――《神族》を倒すためだ」


「――――」


 薄々――気づいていた。

 何年も前――ラトニーに初めて出会った時から、奴らと俺が、戦う宿命にある事。

 《特異点》である俺が、奴らと何か関係があるのではないかという事。


 そもそも、このルシウスが、「調停者は敵だ」と――初めて会った時にそう言った。

 そして、今日までで、それは本当に現実になった。


「なぁ、奴らは…《神族》って何なんだ?」


 俺は尋ねた。

 聞く限り――《神族》が、オルフェウス、セントライト、そして俺に関する――全ての元凶に思える。

 正直俺は、それほど詳しく奴らの事を知っているわけではない。


「……《神族》は―――憐れな種族だよ」


 ルシウスは、ひと呼吸を置いて答えた。


「絶大な力を持ちながら――生まれながらにしてその存在を人間の想いに依存する……生物としては欠陥を抱えた物……とでも言えばいいか」

 

 その存在力を、世界の混乱にリンクする…そんなことをリンドニウムが言っていたか。

 正確には、「人の想い」に依存するという事だろうか。


 ルシウスは続ける。


「元々、彼らは、人の願いによって生まれた。まだ言葉も文字もない人類が、その内包する魔力によって無意識化に願った――叡智を授ける存在。それが《神族》だ」


「叡智を授ける――存在…」


「ああ、恐らく――人類が初めて使った魔法が――『神族の生成』だろう」


「―――!」


「全てを授ける叡智の願望器として生まれた彼らは――その存在意義を示すかのように、人々に知識を授けた。言葉・文字・魔法。あらゆることを神族たちから授かり、人間は――繁栄を享受した」


 これは――ピュートン博士から聞いた神代の話と同じだ。

 人の願いに応じて現れた神々が、人に叡智を授けた、と。

 その結果人は著しく成長し、世界を制するほどになったのだ。


「その持ちうる全てを授けた神族は、役割を終えた。そして人々に忘れられ――消えていくはずだった」


 人の願いによってこの世に現れた神族は、人の願いによってしかその存在を保てない。

 求められなければ動けない、人の想いに存在を依存するという彼らの特性は、ここからきているのだろう。


「だが、奴らは、消えたくなかった。どんな手を使ってでも、再び地上に舞い降り――生き続けたかった。だから、考えた。どうすれば再び人々が神族を求めるか。どうすれば再び人々に崇められるのか」


「それで…」


「ああ、そして奴らは気づいた。再び神族を求めたくなるほど―――人を追い落とせばいい、と」


「……」


 苦しむ人は、救いを求める。

 この世ではない超常の存在を信じる宗教が生まれるのと同じ理由だ。

 より多くの人が苦しみ、救いを求めれば求めるほど、神族は力を増し、数を増やすことができる。

 そう考えたのだ。


 前回ルシウスが、『世界の混乱と崩壊こそが、奴らの望むことだ』というのはそう言う意味だろう。


「――神族は、その個体ごとに、超常の力を持っていた。今では失伝と呼ばれるような魔法――《服従》の魔法や、《転移》の魔法、《運命視》の魔法。そして――《絶望》の魔法」

 

 《絶望》という言葉に、思わず、ピクリと眉が上がる。


「奴らは残った7人の神族の1人――《絶望》の力を持つスロウを生贄に――《ニルヴァーナの滴》を造った。その先は、わかるだろう?」


「…ああ」


 《ニルヴァーナの滴》は、人に《永遠の命》と、《絶望の力》を与える災厄の力。

 神族を元にしているなら、それを取り込んだ者を神族にする――というのも分からないことはない。


 《ニルヴァーナの滴》から人と神族の戦いは始まった。

 《ニルヴァーナの滴》を取り込んだ人間を使って世界を制し、人類を《絶望》に追い落とそうとした神族と、それに立ち向かった――オルフェウスの戦いだ。


「――オルフェウスは帝国を倒し、命を賭して《ニルヴァーナの滴》を封印した。だが――神族を完璧に倒すことはできなかった。残った3人の神族は、オルフェウスの死んだあと、時間をかけて再び計画を開始したんだ」


「計画…」


「求められなければ何もできない神族も、求められれば何かはできる。人の欲望や、弱み、信仰に付け込み――時には悪霊として、時には神として――奴らは少しずつ人と運命を動かした。世界を絶望へと導くために――」


 そう言われれば――腑に落ちる。


 「求める人」になら干渉ができる。

 それならば、人の欲望に付け込み憑りつき、何かしらをしていたかもしれない。

 《神族》はともかく、《悪霊》ならば、昔からユピテルでも認知されていたのだ。 


 エドモンは、その嫉妬心が、ラトニーを呼んだ。

 神聖教も、結局はその信仰心をリードに利用されただけだろう。


「だから俺は、お前をこの世界に呼んだ。アルトリウスという《力》が無ければ――奴らの計画に対抗できなかった」


 故に、その神族の計画に対抗するために、俺――アルトリウスが必要だった。

 確か――アルトリウスはここ数十年で最も優れた身体能力と、魔法適正を持つ、みたいなことを、ルシウスが言っていた気がする。


「お前は、本当によくやってくれた。なにせ……セントライトは――奴らの切り札だった。リードが消えたのが、その証拠だ」


「切り札…」


「セントライトを止めたことで――奴らにとって都合のいい未来が一つ消えたんだ」


 人々の願いによって生まれた彼らは、その存在力を人々に求める。

 この王国の出来事を俺が阻止したことによって、その願いの力が、大きく失われたということか。


「――そして、奴らの手札はもう多くない。次が最後の戦いだ」


 少し通る声。

 ルシウスが、真っすぐ俺を見ていた。


「お前なら…できる。なにせお前こそが――リンドニウムの本当の担い手だ」


「―――ルシウス……」


 その真っすぐな瞳と、声色。


 そしてその雰囲気に――どこか見覚えがあるような気がした。


 どこだったか。

 それほど昔じゃない。

 つい最近――現実でないどこかで見たような―――。

 

「―――」


 そこで、思考が――ある可能性に思い当たった。


 このルシウス・ザーレボルドの…正体についての、可能性。


 元々――おかしいとは思っていた。


 ルシウスが俺を転生させたということは、分かった。

 それが《神族》を倒すためだということも分かった。


 だが、何故このルシウスという男が――《神族》を倒そうとしている?

 どうして、《ニルヴァーナの滴》の事を知っている?

 どうして、リンドニウムの名を知っている? 

 

 ―――そうだ。思い出せ。


 あの深淵の谷で、闇狗ウルは言った。

 父、ルシウス・ザーレボルドという男は、魔法の研究中にまるで()()()()()()()()()()()()()()、と。


 そして、父が研究していた魔法は――『降霊魔法』だ、とも。

 

 破棄されてしまったというその魔法が、実際にどのような物かはわからないが――言葉から想像はできる。


 『降霊魔法』とはつまり、「霊」――過去の人格や魂を、この世に現界させる魔法ではないか、と。

 なら、もしもそれが完成したなら―――ルシウスよりも過去にいた人間を自分自身に降ろすことも、可能ではないか、と。


 そして、俺は――《神族》を倒そうとした過去の人間など、1人しか知らない。


 勿論、これは、憶測だ。

 今まで色々なところで聞いた話から繋ぎ合わせた、憶測。


 でも、なんとなく、確信があった。


「―――アンタ……オルフェウスか?」


 真っ直ぐと俺を見つめる漆黒の男に、俺はそう告げた。

 

「―――『降霊魔法』で、ルシウスとなったオルフェウスが――《神族》を倒すため、そしてセントライトを止めるために―――俺をこの世界に呼びだした。―――違うか?」


「―――」


 少し緊張した面持ちの俺に対し、ルシウスの表情はあまり変わらない。


 数秒、俺をそのまま見つめ、そして―――


「―――ふ」

 

 そう、微笑を浮かべ……言った。


「―――確かに…俺はオルフェウスと呼ばれた時期もある」


「―――!」


「だが、それでようやく半分だ、少年」


「――え?」


 半分だけ正解ということだろうか。

 どういう意味だ?


「残り半分は――全てが終わった時に、教えてやる」


「いや、おい―――何を言って…」


 気づくと―――あたりの白い空間が――狭くなっている事が分かった。


 これは前も見た。

 

 時間切れだ。

 間もなくこの白い空間は終わり、俺は目覚めるのだろう。


「――大丈夫だ。お前なら――お前なら全てを越えれる。全てを掴める。俺が掴めなかった物、その全てを」


「おい――ルシウス…」


 真っ白な空間が終わる。


 視界が黒に包まれる。


「――自分を信じろ、少年。俺も――お前を信じている」


 意識と視界が落ちる中――そんな言葉だけが、頭に響いた。




めっちゃ時間かかったのに、全然上手く書けませんでした…。

書き忘れた事ありそうで不安(汗)


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