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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十七章 青少年期・王城決戦編
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第221話:アルトリウスVSセントライト②


 虹色に光り輝く――美しい剣。


 その剣の輝きを、セントライトは何度も見たことがある。


 戦場に煌めくその光は、セントライト達にとっては希望だった。


 軍神の名を冠した『不壊剣モンジュー』を右手に。

 煌めきを放つ『精霊剣』を左手に。


 その魔導士は何度も仲間の危機を救い、そして強大な敵を打倒した。


 何度も憧れ、越えたいと思った、最強の魔導士の剣の片割れ。


 ――それを…。


「―――貴様が…どうして貴様ごときが…!」


 その輝きを見たのは何年ぶりだろう。


 色褪せない虹色の光は懐かしい物だったが――しかし、それが今日はセントライトに怒りをもたらした。


 それは、オルフェウスの剣。 

 世界で唯一、好敵手と認めた、英雄の象徴――。


 それなのに、この700年後の世界でその光を振るうのは――彼とはかけ離れた少年だ。


 その事実に、セントライトは耐えられなかった。


「――身の程を知れ‼」


「―――ッ!」


 輝きが陰るように、セントライトの剣閃に、少年は吹き飛ぶ。


 ――弱い。

 脆弱だ。


 あの塔での戦いで、この少年の底は見た。

 

 確かに、強いだろう。

 この年齢でその域に至るには、並ではない才能と努力が必要だ。

 同じ年齢であったセントライトよりは、上かもしれない。 

 700年前でも、そう見ないレベルである。


 だが――オルフェウスはさらに上だった。


「―――」


 故に…今この場で、セントライトの中にあるのは――憤怒の感情。

 唯一認めたライバルの象徴を手にした紛い物に対する、怒りだ。


 本来なら、もっと考えるべきことはあったかもしれない。


 かつて、セントライトでも打ち勝てなかった『絶望』の力を受けて、どうして平気でいるのか。

 そもそもどうしてその虹色の剣を持っているのか。

 先ほどリードが言ったように、この少年は後回しにして、先に女王を確保し――完全体になった方が良かったのではないか。


 確かにそうかもしれない。


 だが――目の前のオルフェウスの剣もまた、セントライトにとっては許せない事だった。


 故に、


「―――3つ目は…世界の救い方を――間違えたことだ!」


 そう叫ぶ少年から目を離しはしない。


 ――今、ここで―――殺す。


 少年は確かに、速くなった。

 確かに、パワーも上がった。


 でも、それだけだ。

 700年前は、ただ強いだけでは勝ち残れなかった。


「―――フン、救い方に間違いも正解もあるまい」


「――!」


 黄金の剣閃を弾き飛ばした。


 少年の剣は()()()()()


 『明鏡止水』――武の極みに達したセントライトに、単なる剣撃は通用しない。


 空気の振動、剣の音、殺気―――あらゆる事象を鋭敏に感じ取り、セントライトは少し先の未来すら見通す。

 究極の読みとも言っていい彼の領域は…放たれる前から全ての剣を避けているのだ。

 四大流派を創始した彼に、既存の技など通じはしない。


「――重要なのは、結果だ。より多くの幸福を、より多くの平和を。実現できるかどうかが全てだ」


 少年の動きを読む。

 いくら速くなったところで――その先に置かれているセントライトの剣は避けられない。


 だが、


 ――キン!


 剣閃の音が響く。


「―――ああ、そうさ」


 同時に声と――真っすぐな眼光が飛んできた。

 

 欠片も諦めていない――そんな真っすぐな瞳。


「確かに、誰もが幸せになる理想郷なんて物があれば――きっとそれは、素晴らしい物だろう」


「―――!」


 剣の――膂力が上がる。


 ――コイツ…。


「でも――理想の未来の為に、《今》を犠牲にしていいわけがない」


 剣が――輝く。

 黄金色の剣閃と、虹色の剣閃が、セントライトに降りかかる。


「―――ッ!」


 速さが――上がっている。


 いや、それだけじゃない。


 この状況で…二刀流の技量が急激に上がっている。


「貴様――あまり調子に―――」


「―――『双車輪』‼」


「―――‼」


 初めて―――セントライトの剣が大きく弾かれた。


 見た事のない奥義――超高速の回転切り。


 黄金と虹の剣の嵐。


「――お前は、逃げただけだ」


 剣の嵐を抜けて、現れた少年が言った。


「全部を救う選択から逃げて――未来だけを選んだんだ」


「――何を…!」


 いったい、何を抜かしている。


 紛い物の―――オルフェウスの剣を持っているだけの分際で…。


「―――ラァアァァァアアッ!」


 雄たけびと共に、少年が迫る。


 ――速い。


「―――ッ!」


 ――キン!


 右の剣と左の剣。


 初めて――セントライトが剣を受けた。

 《避ける》という選択肢を取らなかった。


 いや―――取れなかった。


 ――コイツ…!


「俺は…逃げない。傲慢だろうと何だろうと…絶対に…!」


 ――何だ?


 何だその顔は?


 たかが紛い物の分際で――どうして奴と同じ顔をする?


 違う…。

 違うはずだ。


 そうだ、コイツは…オルフェウスじゃない。

 コイツが…コイツごときが―――

 

「――その口を…閉じろぉぉぉぉ!!」


 獅子の雄たけびは―――大地を揺るがす。

 

 赤銅色の髪が、その魔力の奔流によって、舞い上がる。


 ―――本気。


 700年前、オルフェウスを前にした時以来の、セントライトの全力。


 眠れる獅子が、頭を起こした。




● ● ● ●




「―――」


 ここにきて、セントライトの魔力が――動きが一段上がる。


『…多分…本気みたい』


 リンドニウムの声が頭に響いた。


 こちとら既に魔力も常に最大出力。

 身体能力も加速も最大強化――。


 分かってはいたが、中々にきつい展開ではある。


「―――ガァァァアアア‼」


「―――ッ!」


 速度――勝っていた俺とセントライトのスペックが、並ぶ。


 白銀の剣閃が走る。


「――っぶね!」


 剣が頬をかすめる。


 ギリギリ、左のリンドニウムをねじ込ませなければ、首が飛んでいた。


 身を躱す。

 加速する。


 イメージするのは『双刃乱舞』――ギャンブランの動き。

 あの縦横無尽の動きに、神速流の速度を乗せる。


「―――『双撃』‼」


「―――『流閃』」


「―――ッ!」


 先ほどは通用したギャンブランの動きは――今度は容易く流された。


 今までに見た中で、最も美しい『流閃』だ。


 水燕流剣士の優劣は、『流閃』の優劣で決まる。

 これに同じく『流閃』で打ち勝つ自信は――流石にない。

 

 そして――


「――『六花』‼」


「―――!?」


 『流閃』で空いた隙に―――奥義が炸裂した。

 飛んできたのは、6つの剣閃だ。

 異次元の速さの――ほぼ同時に走る剣閃。


「――ッ‼」


 その6つの剣を、両の剣で捌く。


 右に、左に、上に、下に。

 流しているというよりは、ギリギリ逸らしているだけ。

 

 頬を、わき腹を、剣が掠めていく。


 6つの斬撃を凌ぎ切っても、攻撃は終わらない。


「――『絶剣』」


 その間から、突っ込んでくる、高速の獅子。

 

 上段からの―――目視不可能の一撃。

 

 ジェミニの剣を思い出す――即死レベルの威力が籠った―――大地を割くような剣。


「―――おおおおおおお――――ッ!」


 目視などタイムロスだ。

 来ると思ったところに剣を置く。


 ――ガァァァアアン!


 剣と剣が交差する。

 空気を割るような衝撃と音が、身体に走った。


 どちらも俺の知らない技――。

 どこに攻撃が来るかなど分かったわけじゃない。

 身体に任せて剣を置いた。

 きっと――『夜叉鴉』との戦いが無ければ、この咄嗟の反応は出なかった。

 

「―――よく防ぐ!」


「―――ッ!」


 身体が――衝撃に痺れている。

 

 だが、休んでいる場合ではない。

 魔力で無理矢理動かす。


 目の前の『獅子王』の身体は、次なる剣を繰り出しているのだ。

 

 白銀剣が唸る。

 腕がブレる。


「――『秋雨』!」


 それは、俺の知っているような『秋雨』ではなかった。


 雨なんて言う生易しいものではなく――たとえるならば嵐。


 暴風雨ともいうべき剣の嵐が、縦横無尽に空気を掻きわけて俺へ向けられている。


 どう防ぐのか、どう避けるのか、そんな思考をする暇はない。


「―――!」


 いや、思考する必要などない。


 元々、「読み」と「技」では負けている。

 どうせ剣技の応酬になれば勝ち目はない。


 さっきの技を防いだのが――まぐれでないと信じるしかない。


 任せるのは反射。


 見た物をそのまま。

 身体に任せるがまま。


 俺の二刀流は、かつてないほど――充実した動きを見せている。

 あまり使ってこなかったのに、やけに手になじむような―――剣が一人でに動くような、そんな感じだ。


 行ける。


 全力で動け。

 まだ…行けるはずだ。


「――この…!」


 セントライトの顔が良く見える。


 怒っているような、焦っているような、そんな顔だ。


 リンドニウムを俺が持っている事が気に食わないのか。

 当たるはずの剣が当たらないことに――憤りを隠せないのか――。


「――――」


 ―――セントライト、アンタはすごいよ。 


 この技。

 この速度。

 この読み。


 きっと間違いなく世界最強の剣士だ。

 俺なんかじゃ及びもつかない領域にいるんだろう。


 『獅子王』セントライトの本気。

 あのジェミニにも見せてやりたい剣と技だ。


「―――オオ……ッ」


 でも、俺は一人じゃない。


 右手には、師――シルヴァディの意志がある。

 左手には、英雄オルフェウスの願いがある。


 そして背中には――俺を信じてくれる人たちがいる。


「―――もっとだ…」


 速さを上げろ。

 力を上げろ。


 過去も未来も、全てを越えていけ。


「―――どうしてこれも―――抜けれる!」


「――さあな!」


 剣の雨を抜ける。


 至高の技。

 至高の速さ。


 どうしてその剣をかいくぐれたのか、俺にもわかりやしない。


 ただ、身体が軽い。

 そこに行けと――そこに剣を振れと、世界が呼びかける。


 ―――止まりはしない。


『――アルトリウス! もうあまり持たない!』


 分かってるよ、リンドニウム。


 大丈夫、こんなところで終わったりしない。

 全て終えたら、君の話も聞きたいんだ。

 君が見てきた700年。

 その綴った英雄達の歴史を。

 

 だから―――。




● ● ● ●




「―――ッ!」


 その少年の速さに――膂力に―――悪寒が走った。

 

 ――このままではマズい。

 

 研ぎ澄まされた達人の本能が、避けろと警鐘を鳴らしている。


 剣撃程度なら超速再生ができるはずの、この身体が…。


「―――!?」


 気づくと―――セントライトは飛んでいた。


 少年との打ち合いから逃げるように――空高くへと。


 そこしか逃げ場がないと――本能が告げたのだ。


 ――何だ? いったいコイツは何なんだ?


 全力だ。

 全力のはずだ。


 セントライトの――剣の祖と呼ばれた『獅子王』の全力のはずだ。


 それなのに、どうしてアイツは平気で剣を避ける?

 セントライトの秘奥義を受けて、どうして無事でいられる?

 どうしてその速度を越えてくる?


 この短時間で…打ち合うことで、成長しているとでもいうのか?


 ―――そんな馬鹿な…アイツでも…オルフェウスでもこんな…。

 

「――空に逃げるとは思っていなかったよ」


「――!」


 すぐ真横から――そんな声が聞こえた。

 セントライトの高速の飛翔に、当たり前に追いついてきた少年の姿だ。


「―――余が…余が逃げただと?」


 少年の言葉に走るのは、憤りだ。


 最強の剣士たる自分が、剣の打ち合いから、上空へ逃げたという事に対する、怒り。


 こんな――こんな小僧を前に…!?


「――ガァァァアアア!」


 剣を振った。

 神速流の――至高の速度。

 

 ――キン!


「―――ッ!」


 だが、白銀の剣は、止められていた。

 その虹色の剣に。


 その――少年の揺るぎない瞳に。


「――ッ!」


 剣を返すセントライトに、少年は猛追する。


「――どうして…どうして《神族》と手を結んだ!? 世界を『絶望』に染めるなんて…アンタほどの人なら…もっと何かできることがあっただろう!」


 剣が交差する。

 火花すらも美しく感じる大空の剣戟。


 そんな中で、少年の声が響く。

 

「―――貴様などに何が分かる!」


 獅子は叫ぶ。


「国を滅ぼし、国を創り――余は理解した。誰かが世界を束ねなければ、誰かが導かねば、人類に先はない…世界に恒久の平和は訪れないと!」


「だから『絶望』を受け入れるのか!? …あの暗く――悲しい世界を!」


「ふん、『絶望』など――さしたる事だ!」


 かつて彼は支配される者の中で生まれた。

 理不尽に振りかざす権力を、いくらでも見てきた。

 親も友も、殺したのは同じ人間だ。

 

 いくら理不尽な目に遭おうと、助けてくれる物はいない。

 弱い物は強い物に淘汰される。

 そして、人は自分では立ち上がらない。

 全部人のせいにして、時代のせいにして、諦める。

 すぐに諦め、より苦しみの連鎖は広がっていく。


 だから、セントライトが、オルフェウスが――やらなければならなかった。

 

 だが、いくら革命を起こしても、その指導者がいなくなれば、また世界は混沌となる。


 そうならないために――終わりのない混乱の連鎖を、断ち切る力が必要だった。


「――『絶望』したから、それで人類が滅びるわけではない。『神族』との契約は、一度世界を絶望に包むこと。ならば履行した後――次の世代は、『絶望』などない――恒久の平和を作る事ができる」


 『神族』の言いなりになど、なるつもりはない。

 契約を全て終えた後――《神》になるのは、セントライトだ。

 その世界では、セントライトの元で――人類にとって理想の――永遠の平和と繁栄がある。 


「永遠だ…永遠の平和だ! 世界中の誰もが救われ、幸福に生きることのできる――理想郷。今のほんの数世代さえ越えれば――その先には…それがある!」


 黄金の剣を、虹色の剣を、弾き飛ばす。

 軌道は読めている。


「――それでも!」


「―――ッ!」


 だが―――押されている。

 剣を置いていても、最初から避けていても――身体が反応しない。

 それほどの速度に――少年の剣は達していた。


「――それでも、お前は間違ってるよ」


 崩れない剣を象徴するかのように、少年は揺るぎない瞳で言い放つ。


「永遠の平和――たしかに、《不老不死》となったお前が導く世界は、ずっと平和が続くのかもしれない。今の世界を犠牲すれば、今より多くの人を幸福にする未来が作れるのかもしれない」


 その表情は、どこか儚くて――遥かな決意に満ちていた。


「でも、全ての人を救えるわけじゃない」


「―――!」


「だって、そうだろ? その世界で、セントライト――アンタ自身の幸せはどこにあるんだ」


「余の…幸せだと…!」


 セントライト自身の幸せ?

 そんなこと、考えたこともない。

 力のある人間は人柱だ。

 オルフェウスも――《初代八傑》もそうだった。

 力があるから、できるから、救う。

 それが――強者としてのセントライトの責任だ。


「――そんなもの……!」


「永遠の時間をただ1人――世界のためだけに生き続ける―――それの…どこに救いがある!」


 訴えかけるかのように、少年は叫ぶ。

 セントライトを――否定する。


「俺はこの王国で、永遠の時を生きる少女と会った。ずっと孤独に苦しみ、死にたいとすら願った少女を―――。とてもじゃないけど、彼女は幸せそうには見えなかった」


「――何を…!」


 黄金の剣が、セントライトの肩をかすめる。

 その傷口は――再生が遅い。

 《完全体》でないのに――全力を出した弊害が、ここにきている。

 ザンジバルという、王族でもなんでもない身体に無理矢理定着させていたせいで、セントライトと《ニルヴァーナの滴》のリンクに、限界がきているのだ。


 もはや、舞う血などには目もくれない。

 そんな余裕はない。


「セントライト、アンタに――そんな悲しみを背負わせやしない。俺は――アンタも世界も、全てを救いたい」


「貴様――!」


 ――世界も――セントライトも救う。


 そう言った少年の瞳は――かつて見た…セントライトの英雄の姿と同じだった。


 いや、むしろそれよりも―――


「――――!」


 少年の剣が――セントライトの剣を弾く。

 ――黄金の剣が走る。


 身体が…身体の動きが、巡りが悪い。


「――大丈夫、人は――そんなに弱くない」


 剣閃が、届かない。

 魔力が、零れ出る。


 でも――それ以上に――。


「―――俺は知っている。別に誰かに教えて貰わなくても、人は言葉を作ったことを」


 その太陽のような少年の光が、少年の優し気な言葉が、セントライトに突き刺さった。


「―――俺は知っている。魔法なんてなくても、世界を制した人類の歴史を」


 言葉が届くよりも速く動いているはずなのに、その言葉は嫌でも耳に入ってくる。


「信じられるか? 俺達がどれだけ頑張っても手の届かない、夜空に浮かぶあの月に――人が足を付けるんだ」


「お前は―――いったい……」


「人は―――弱くない。だからセントライト―――アンタが頑張る必要はないんだ」


「―――」


 剣が――世界が加速する。


 見えている…見えているのに――体が動かない。


 この少年の意志の前に――膝を屈したかのように……全てが崩れていく。


 虹色の光。

 黄金の光。

 希望の光。


 それらが、セントライトの身体を、意志を溶かしていく。 


「――やめろ…余は―――俺は―――」

 

 やり切らなければならなかった。

 セントライトが…かつて帝国を倒したセントライトだからこそ、なさねばならなかった。 

 それが、力のある…英雄の責任だと――そう―――。


『――お前が思っているほど…人は弱くないよ、セントライト――』


「―――」


 声が響いた。

 懐かしい声だ。

 先に世界を去ってしまった――親友の声。


『言っただろ? 俺やお前なんかよりすごい奴なんて―――この先長い歴史で、いくらでも出てくる』


 ――オル…フェウス…。


『大丈夫。もう…俺たちの時代は終わったんだ』


 ―――だって…そんな…俺は…皆を…世界を…。


『―――すまない。あの時―――お前を止められなくて』


 ――違うんだ…オルフェウス…。俺は…俺がやらなくちゃって…だから――


『ああ、分かってるよセントライト。よく…頑張ったな』


 ―――また…いつもそうやって…お前は―――


『――はは、小言は…あっちで聞いてやるさ』


 そして、声は小さく消えていく。


『――さぁ、行こう――俺たちのいるべき場所へ――』




「―――――オルフェウス…」


 気づくと、光が――セントライトの視界を覆っていた。


 手を伸ばした先に見えたのは、太陽のような光に包まれた、少年だ。

 揺るぎなき意志で――セントライトを圧倒した少年。


 その左手に握られた虹色の剣は――セントライトの胸を――貫いていた。


 ――オルフェウス、お前は…いつもそうだ。最初から何でも知っているかのように…いつも一歩先に行きやがる。


 感覚がなくなっていく身体。

 心の中で、獅子王は呟く。


 出会った時から、最後まで。

 遂には――時すらも越えて、あの親友はセントライトの先を行った。


 ―――ああ、認めるよ――お前の…お前らの勝ちだ…。


 剣でも技でも勝っていた。

 身体が持たなかったとか、そんなのは言い訳だ。


 オルフェウスとこの少年に――セントライトは心で負けた。

 

 きっと…そう言うことだ。


「――アルトリウス…だったか―――」


 消えゆく意識の中で、英雄は、前を向く。


「…ああ」


 少年――アルトリウスは、真っすぐにセントライトを見つめていた。


「――見事だ。貴様がオルフェウスに及ばないという言葉は覆さないが――その()()はオルフェウスを越えていた。確かに――その剣を持つに相応しい男だ」


 光が――身体を包んでいくことがわかる。

 

 《ニルヴァーナの滴》で無理矢理つなぎとめていたセントライトの魂と、この見知らぬ男の身体の融合が、剥がれていく。


「――精々……証明するんだな。本当に全てを救えるのか―――お前自身も含めて、な」


 そして、そんな言葉を残して―――セントライトの意識はゆっくりと―――消えていった。




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