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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十七章 青少年期・王城決戦編
205/250

第205話:『鴉』の系譜

少し短いです



 ―――女?


 仮面の砕けた『鴉』の素顔を見て――俺は一瞬固まってしまった。


 先ほどまで銀色の仮面が光っていた黒いフードの奥には、浅黒い褐色の肌に、薄い黄土色の髪の――若い女の顔があった。


「―――」


 別に――女だからどうとかいうつもりはない。


 魔法の存在するこの世界、男女の筋力や運動神経の差は、魔力の使い方次第でいくらでも埋められる。

 

 実際、シンシアやイリティア。

 女性でも凄まじい戦闘力を持つ剣士などいくらでも知っている。


 だが、少し油断していたというか、予想外であったというか…。


「――ハァァアッ!」


「――!?」


 俺がそんな思考をしているうちに、女――『鴉』が動いた。


 先ほどまでのくぐもった声とは違い――高めの掛け声。


 スピードに乗った小剣による斬撃が迫る。


 ―――考えるな…。


 関係ない。

 敵としている以上、油断などできるはずはない。


 ――キン!


 高い音が鳴る。


 剣が交差する。


「――正面から打ち合う気なら…!」


 辺りは俺の『閃光魔法』によって照らされ―――漆黒の闇も、幻影も、すぐに見破れる。

 逃亡も不可能。


 そして、正面からの剣の打ち合いであるならば、狭い通路ということを考慮しても、俺に軍配が上がる。


「―――クッ!」


 冷や汗を掻くような女の声。


 だが、手は休めない。

 油断も隙も見せない。


 なにせコイツが――エトナを攫った張本人―――。 

 同情する余地はない。 


「――おおおおおっ!」

 

 剣を振る。


 攻勢に出続ける。


「―――こんなところで…私は…!」


 女――『鴉』は歯噛みするような声を上げながらも俺の剣に対応している。


 俺が押しているが、ギリギリ耐えていると感じか。


 剣の膂力でもスピードでも俺が勝るが…流石に簡単に決めさせてくれるほど甘くはないらしい。


 ――ギアを上げるか?


 ヒナに出すなと言われている全力――魔力の最大稼働。

 スピードもパワーももう一段上がる。

 使えばこの場は勝てそうだが…。


「―――調子に乗るなよ…烈空!」


「――!」


 鴉の動きが変わる。


 回転斬り――剣戟のわずかな隙間で―――鴉の左腕がブレた。


 飛んでくるのは――


 ――投げナイフッ!


 近距離でのナイフの投合。


「―――ッ!」


 抉るように俺の顔面に迫るナイフを寸前で躱す。


「――そこッ!」


 隙、と見たのか、鴉は後退することなく、突っ込んできた。

 元より射程の短い小剣では、詰めない動きに圧が無いことを分かっているのだろう。


 だが…


「―――『飛燕』ッ!」


 カウンター。


 かつて『八傑』ギャンブランを討ち取った水燕流の奥義だ。


 半身で躱した俺の身体と鴉の身体は交差し、そこに容赦なく剣閃を打ち込む―――。


「―――浅いか!」


 手ごたえは微妙。

 ギリギリで身体を捻らせて致命傷を避けられた。

 俺の黄金色の剣閃は肩口を少しかすった程度だろう。


 おそらく、全力なら今のでやれていた。

 

 ――だが、追撃の隙は充分!


「―――フッ!」


 肩口を抑え、苦悶の表情を浮かべながら倒れ込む鴉に、俺は剣を振り降ろした。


 が、


「―――ッ!?」


 俺の剣は――空中で止まった。


 いや―――本能が―――止めることを選んだ。


 ―――これ以上腕を振り下ろしたら…不味い。


 そう思った。


「……」


 空中で止まる俺の腕には、つい先ほどまでなかった浅い切り傷のようなものがある。

 薄く血が滴り落ちているのだから、見間違いと言うはずもない。


 どうして、剣を食らっていないのに、血が流れるのか―――。


 その答えは、目を凝らすとすぐに分かった。


「―――ワイヤー…いや、《糸》か?」


 丁度――俺の腕が振り下ろされる場所。

 

 そこに――細く、薄い糸が張られていた。

 

 おそらくこのまま剣を振り降ろしていたら、俺の腕を綺麗に切断していたであろう―――鋭い糸だ。


 罠。

 トラップ。


 間違いなく――人為的に張られた糸。


 だが…


 ――いつの間に張った?


 分からない。


 剣で打ち合っているときにそんな隙があるとは思えなかった。


 暗闇に潜んでいるときにここまで読んでいたというのか?


 いや、それにしては…


「―――何故…」


 そう、それにしては…目の前で肩を抑え、倒れ込む女も―――動きを止めた俺に対して驚きの顔をしているのだ。


 つまりこの糸は、この女…『鴉』の物ではない。


 では、いったい誰が―――。


 その答えは、すぐに分かった。




 ―――コツ、コツ。


 俺の背後―――。


 そんな――不気味な足音を立てながら近づいてくる音。


 ――やはり…嫌な予感が当たったか…。


 内心の俺の呟きは――もう遅かった。




「――ククル、こんなところで何をしている…」

 

 声―――。


 深淵に響き渡るような、恐怖の声が背後から聞こえた。


 気づくと、『閃光』で照らされていたはずの辺りは―――再び『暗闇』に染まっている。

 閃光魔法の時間が終わったというよりは――奴の『暗闇』が俺の『閃光』を上回ったと考えた方がいい。


 今度こそ間違いない。


 この圧倒的なプレッシャー。


 俺は何度も経験したことのある圧。

 

 ゆっくりと、俺は振り向いた。


「―――」


 そこに立っていたのは――男だった。


 細身の男。

 

 褐色の肌に、黄土色の短髪。

 寒気のするような鋭い目つき。


 漆黒の装いだけは、倒れている『鴉』と変わらないが――その全身から出てくるオーラは、とても『暗殺者』と呼んでいい物なんかじゃない。


「―――兄…さん…」


 後ろから――そんな女の声が飛んできた。


 もはや、確定だ。


 分かっていたさ。


 『八傑』がそんな甘いものじゃないなんてこと、誰よりも分かっていた。


 間違いない。


「――アンタが…真の―――八傑…『鴉』だな…」 


 ゴクリと唾を呑みながら、俺は低い声で言った。


「――『鴉』は俺達一族を差す言葉だ、俺自身を差す言葉ではない」


 男は俺に一瞥をする。


「我が称号は『夜叉鴉』…。随分と…妹を可愛がってくれたようだな、若き剣士よ」


「―――ッ」


 『夜叉鴉』を名乗る男のプレッシャーが一段階上がる。


 妹―――。


 先ほどまで俺が戦っていた『鴉』は、コイツの妹であるらしい。


「――兄さん、どうしてここに…それに―――身体は…」


「ククル、黙っていろ」


 後ろから飛んでくる声に、正面の男はぴしゃりと答える。


「大丈夫だ。兄さんが全部――何とかしてやるから」


 声と共に高まるのは殺気と、魔力、そしてプレッシャー。


 あちらさんはどうやらやる気満々らしい。


 そりゃあそうか、妹が傷つけられたんだ。

 俺だってアイファやアランが斬られたら、犯人を地獄の底まで追いかけて八つ裂きにする自信がある。


「―――」


 ―――覚悟を決めろ。


 俺が選択したことだ。


 ヒナを置いてここに来たことも。

 トトスを先に行かせたことも。


 暗闇が―――動く。


 空気がひりつく。

 

 ―――待ってろよ、エトナ…すぐに片づけて―――君の元へ行くから。


 俺はゆっくりと、剣を構えた。


一応『八傑』は全員出揃いましたので纏めます。大まかな登場順です。


『天剣』シルヴァディ

『双刃乱舞』ギャンブラン

『摩天楼』ユリシーズ

『軍神』ジェミニ

『聖錬剣覇』フィエロ

『闘鬼』デストラーデ

『白騎士』モーリス

『夜叉鴉』クロウ


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