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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十七章 青少年期・王城決戦編
197/250

第197話:烏合の力

手を負傷しました。

タイピングが地獄です。



「―――フランツ! 明らかに他の教徒達とは違う―――特殊な武装をした集団を発見したよ!」


「なに!?」


 王城の外―――燃え盛る王都の一角で奮戦していたフランツの元に、アニーが駆け込んできた。


「他と比べても統一された重武装の集団が、暴徒たちの後方にいる。しかもやっぱり――《扇動者》のような人が守られているみたい」


「――首席秘書官殿の予想は当たっていたわけか……」


 この――王都中で巻き起こる暴動。


 『神聖教』の暴徒たちは数も多く、装備も憎たらしいくらい揃っているが、訓練した兵士というわけではない。

 これほどタイミングを合わせた動きをするにはある程度指揮する者がいる――。

 そんなような事を、リュデが予想したのだが、案の定当たっていたようだ。


「――うん。でも、結構奥みたい。…どうする?」


「……」


 フランツは一瞬思考する。


 この数時間――思い出したのはカルティアで――都市占領戦を行った時の事だ。

 侵略者であるユピテル軍に対し、そのカルティアの都市は最後まで徹底抗戦を挑んだ。

 

 いくら兵士を殺しても、誰一人降伏することはなく、最後は一般市民を相手に剣を振るった。

 家屋は崩れ、町は燃え、人は赤く染まった―――血みどろの世界だ。

 

 ――今の王都は、そのときよりも酷い。


 同じ王国民であるのに、一般人だろうと何だろうと『異教徒』だ、と見境なく燃やされ、殺され、逃げようにも逃げ場はない。

 フランツ達や親衛隊だけでは全てに対処できるわけでもない。

 今も―――神聖教も女王派もなんの関係もない王国の市民が、犠牲になり続けている。


 確かに――ユピテルにとっては関係のないことかもしれない。

 リュデが王都を見捨てて脱出するのが当然かもしれない。


「―――」


 フランツは右手に握りしめた剣を見つめる。


 かつて自身の上官アルトリウスが譲ってくれた剣だ。


 ―――隊長。


 今までは、全部アルトリウスに判断を任せてしまっていた。

 隊長の行く道が、フランツの行く道だ。


 だが今ここに、フランツの隊長はいない。


 ――隊長……あなたなら……。


「……行くぞ。こんな狂った宗教……ここで終わらせる」


「……了解」

 

 烈空アルトリウス隊『1班』。

 精鋭中の精鋭が、今動き出した。




● ● ● ●




「――ガッハッハ! その程度の剣――我が神聖なる《信仰》の前にはびくともせんわ!」


 高笑いながら――白騎士モーリスは盾を構える。


 相手にしているのは、幾人もの剣士――あるいは魔法士。

 言わずもがな剣士も全員が魔剣士であり、一般的に考えれば、全員が達人である。


 だが―――それを相手にしても、この白騎士モーリスは、まるで規格が違うとでもばかりに力を誇示している。


 右には大剣――『アロンダイト』。

 左には巨大な盾―――『アルカディアス』。

 

 そして全身を覆う――白魔鋼製の鎧……『アダマント・テンプル』。

 

 これらの重武装を持ちながら機敏に地を動き回るのが白騎士――『甲剣流』を極めた男、モーリスだ。


 『アルトリウス隊』も親衛隊も頑張ってはいるが―――傷の青年の剣はまるで通らず、金髪の少女の速さでは追いきれない。

 そして―――この2人以外は、それほど突出した力を持っているわけでもない。


 他はせいぜい、連携によってなんとかモーリスの動きを多少制限しているに過ぎない。


 新しく来た威勢のいい青髪の少年も――それなりにやるように思えるが、所詮はそれなり。

 八傑は「それなり」程度で倒せるものではない。


 つまり―――。


「――おらああぁあぁぁああ‼」


「――ガッハッハ! 無情にして非情‼ 我が神の道に背く輩は――何人たりとも逃がしはしない!」


 ―――ガァァアアン‼ 


 向かってくる青髪の少年を盾で受け止めた。


 鈍い音の末、押し負けるのは当然、少年の方だ。


 その間に後ろから迫る傷の青年も――問題なく気付いている。


「――丸見えである!」


「――クソッ!!」

 

 傷の青年を大剣で横薙ぎ―――。


「――ガハッ!」 


 青年は受け止め切れず、そのまま遠く吹き飛んでいく。


 『聖錬剣覇』の弟子だったか。

 たしかに純粋な実力自体はこの中では最も高いが――モーリスには遠く及ばない。

 それに、「連携」でモーリスを何とか押しとどめているこの状況、あまり連携に参加できないこの2人の対処はそれほど難しくはない。


 ――圧倒。


 これが八傑――世界の頂点だとでも言うように、モーリスはこの場に君臨していた。


 ただ――。


「――ナオミ!」


「分かってるわ!」


 聞こえたのは少女の声と――それに対応するような返答。


「―――!」


 そう、唯一――モーリスが攻撃を食らう危険を感じるのは、このパターン。

 

 青髪の少年と、傷の青年を遊撃として――その隙をついた残りの8人による連携による波状攻撃。


 青髪の少年……いや、むしろ彼と共に来た女性が来たことにより――『烈空隊』の人数が8人になった。


 これによって、彼らの連携は まるで水を得た魚のように、目覚ましく変化した。


 攻撃に厚みが加わったというか、スピードが速くなったというか―――。


 掛け声もほとんどなしに、呼吸を合わせ――目線のみで連携を取るそのスピードは、モーリスも未だ見た事のないチームワークだ。


 ――なるほど『暁月の連隊』の再来とは―――あながち間違いでもないらしい。


 かつて――キュベレーとユピテルの戦争『バルムンク戦争』において、ユピテルをあと一歩まで追い詰めた伝説の魔導士部隊―――『暁月の連隊』。

 無論―――モーリス自体は『暁月の連隊』との戦闘経験はないが、おそらく現代にいれば、この眼前の隊のような物を言うのだろう。


「…確かに、見事」


 この連携パターンに入ると……いつも何故かモーリスは追い詰められる。

 1人を相手にしているつもりでも、いつの間にか2人を相手にしていたり、まるで誘導されるかのように選択を狭められる。


 1人1人は大した脅威でもないのに――かと言ってこの8人が動いている間は、誰も落とすことができない。

 

 トップクラスの魔剣士や魔法士たちが、長い訓練と、幾度もの実戦を経て身に付けたであろう連携の完成系。

 

 素直に感嘆できる連携だ。


 絶え間のない連携。

 8人が縦横無尽に踊り、じりじりとモーリスの行き場を奪う。


 そしてここが好機と見たのか――掛け声もなしに、一斉に攻撃が飛んでくる。


 5つの斬撃に、3つの魔法。

 どれも惚れ惚れするほどの技。

 しかもこの場所、このタイミング――どれか一つは最低でも被弾するように放たれた技。


 それを何の指示もなしにやってのけるのだから、驚きである。


 だが……。


「―――あえて言わせてもらおう」


 そんな剣と魔法の雨の中で――モーリスは静かに告げた。


「――所詮は烏合である」


 8人に対し……モーリスが取った行動は……。


 防御でも、回避でもなかった。


 ―――カカカカカカン!


「―――!?」


 まるで小石でも当たるかのような…間抜けな音が響いた。


「―――そんな……」


 驚愕の表情を浮かべるのは―――正面に切り込んできていた金髪の少女。


 少女だけではない、他の隊員も全員が――驚き、もしくは困惑の顔をしている。


「――軽い……貴様らの信仰は軽すぎる……」


 あるいは盾に。

 あるいは剣に止められるならわかる。

 

 だが―――5本の剣は全て……避けもされず――その純白の鎧に弾かれていた。

 3発の強力な魔法は、まるで存在に気づかなかったとばかりに、純白の鎧の前で消え失せた。


 全力で放たれた魔法も―――勢いよく当てたはずの剣も――その重厚な鎧に、傷一つすら付けられないのだ。


「……そんなバカな…」 


 誰ともなく歯噛みするような声が聞こえた。

 

 盾でもない――全身に纏う鎧に剣が弾かれるならば、どうあがいても決定打にならない。

 どれほど連携しても、どれほど隙を突こうと―――無意味。

 絶対に勝てないのではないか。


 そんな絶望の混じったような声だった。


「――我が鎧の堅さは、信仰心の堅さも同じ―――これが―――神徒と異教徒の違いである」


 モーリスは兜の奥で不敵に笑う。 


「見事な連携、大いに結構。だが、結局はあの『暁月』も―――強大な『個』には敗れ去った。それが歴史の宿命である」


 かつて――ユピテル全土から恐れられた『暁月の連隊』は、最強の『軍神』1人を相手に壊滅した。

 結局、どれほど数を揃えようと、どれほど質を上げようと、それすらも飲み込む『個』は存在する。 


 残念ながらモーリスという『個』は――彼らの手には余るレベルにあった。


「―――さて、では歴史の再現と行くのである」


 固まる10人の剣士の前。

 

 純白の騎士は、まるで隙などいくらでも付けばいいとばかりに、ゆっくり悠然と―――剣を構えた。


  

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