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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十四章 青少年期・黄金の意志編
155/250

第155話:夜想曲

 すみません、私事の関係で、次回の更新はお休みです。



「―――バリアシオン君…!」


 イリティアの部屋を後にし、次に向かったのは―――オスカーのところだ。

 彼も書類の山に埋もれて忙しそうにしていたが、俺を見ると書類を放り出して顔を上げた。


「――バリアシオン…」


 目をまるくして こちらを見ている彼の隣では、同じく書類に埋もれているミランダが驚いた顔をしている。


「…2人とも…久しぶりだな」


 そう言うと、オスカーはどこかホッとしたような顔をして駆け寄ってきた。


「――そうか、その表情を見るに…復活したようだね。気落ちしていると聞いていたが」


 俺が引きこもっていたことで、彼らにもだいぶ心配をかけてしまったようだ。


「…ああ、心配かけたな」


「――本当だよ。全く君はいつも1人で無茶をして―――」


「…それはお互い様だろ? 聞いたぞ、要塞攻略戦では最前線に出て指揮をしていたって」


「はは、まあそれもそうだけど」


 少し懐かしいような再会だった。

 眠っていた俺からすれば、それほど間は空いていないが、オスカーたちからすれば、それなりに時間が空いているのだろう。


「――そうだ、なにか食べに行かないか? 昼食はまだだろう?」


 不意にオスカーがそんな提案をしてきた。


「ああ、まだだが…いいのか? 仕事中なんじゃ?」


「いいさ。じゃあ、ミランダ、そう言うわけだから…バリアシオン君と食べてくるよ」


「…今日だけ」


「ありがとう」


 ミランダも一緒じゃなくていいのか、と思ったが、流石に2人とも抜けるわけにはいかないのかもしれない。

 もしくは男でだけ話したいことがあるとか。


「さあ行こうバリアシオン君、今日は僕のおごりだ」


 そんなオスカーに連れられて、俺達は外に出た。




● ● ● ●




 外食というのは久しぶりだ。

 単に野外で食べるという意味ならば、いくらでも駐屯地で経験したが、どこかお店に入って食べるのは―――数年ぶりな気がする。


 何を食べたいか、と言われたので、あまりボリューミーなものは少し胃が受け付けないから、少し柔らかめの物がいいと答えた。


「うーん、肉系よりは―――つまみ系かな」

 

 そんなオスカーの案内の元、結果としては軽く摘まみながら飲める、飲み屋のようなところに来た。

 とはいっても、元老院近辺の店だと最上級ランクの店だろう。

 流石は大貴族の御曹司と言うことで、予約もしていないのに、店主自ら個室を用意してくれた。


「お酒はどうする?」


「…いや、今日はやめておくよ」


「おや、どうしたんだい? 君と飲んでみたかったんだが」


「今日の夜は少し大事な用があってね」


「そうか、なら僕もやめておくよ」


「悪いな」


「勿論構わないさ」


 オスカーはそう言って俺に合わせてぶどうジュースを注文した。

 昼間からお酒を飲む文化は、この世界――というかユピテルではそれほどおかしいわけでもない。

 ユピテルでは葡萄酒の生産が盛んで、それなりに恒常的に飲まれている。


 程なくすると、飲み物が届き、俺達はコップを掲げる。


「では―――そうだな、バリアシオン君の復活に」


「―――オスカーの総督就任に」


「―――乾杯っ!」


 そう言ってコン、とコップを交わし、一気に口の中に運ぶ。

 ゴクリと喉に流し込んだぶどうジュースはやけに冷えていた。


「いや、というか…どうして知っているんだい? 僕がアウローラ総督に就任するってさ」


 コップを置いたところで、オスカーが驚いたように言う。


「ラーゼン司令に聞いたんだよ」


 オスカーがアウローラの総督に就任するという話は、ラーゼンに聞いた。

 かつてないほどの異例の出世だろう。


 なにせ、アウローラの総督は、ユピテルのおよそ三分の一を占めるといってもいい東方属州の、実質的な最高司令官だ。

 つまりは、この国で2番目に権力を持つ人間となる。

 ラーゼンが、自身の後継者をオスカーとすることを示したという意味合いにも受け取れる事実だ。


「あぁ、なるほど…父上に会ったのか…」


 オスカーは合点がいったと感じで頷いた。


「そうだ。色々と―――これからどうするか、話したよ」


 机に届いたパエリアのようなものを摘まみながら話す。


「ほう、いったいどんな?」


「そうだな…まあ簡単に言えば、軍に残るか、オスカーについて行くか、退役するか、それとも王国への大使になるか…そんな感じかな」


 ラーゼンに提示された選択肢だ。


「なるほどなぁ…まぁ僕としては、君がアウローラに付いてきてくれれば心強い限りだけど」


 まあ、それはそうかもしれない。

 俺としても、遠い地に行くとしても、オスカーが共にいるなら気は楽だ。


「とはいえ、多分父上としては君には大使をお願いしたいだろうね」


「やっぱり…そうなのか?」


「ああ、大使ばかりは他の人間だと代用が効かないからね。シルヴァディ閣下のいない今―――君か、ゼノン閣下か、二者択一といったところじゃないか?」


「司令は俺を過大評価しすぎているんだよ」


「そんなことないさ。僕の目から見ても―――君は『天剣』を継ぐのにふさわしい男だ。確かに年齢は若い方だが、父上も王国も実力主義だ。君ならば舐められることなどないだろう」


「…俺は別に天剣を継ぐ気はないんだけどな」


「おや、そうなのかい?」


「ああ。俺が継ぐのは―――名前じゃないからさ」


「…なるほど」


 シルヴァディも別に――『天剣』という名前にこだわっていなかった。


 それに、かつてシルヴァディは「一撃入れたら天剣の名前を譲ってやる」といった。

 俺は結局シルヴァディから一本取ることはできなかったし―――それなのに『天剣』を名乗るのは、なにか違う気がする。

 まぁどちらにせよ、二つ名なんてのは結局はただの名称だ。


「…まぁ、天剣はともかく―――大使とか、正直そんな大役は少し荷が重いな。王国へは行ってみたいけど」


 すると、オスカーはニヤついた顔をする。


「たしかに、王国は一夫多妻が認められているからね」


「お前もそれか…」


「なんだい? バリアシオン君からしたら大事なことだろう?」


「――まあそうだけど」


 確かに大事なことではある。

 一応昔から色々と考えてはいるんだが…周りの人間の方がその心配をしている気がする。


「それにしても驚いたよ。ミロティック君―――いや、今は名乗っていないんだったか。彼女と君にまだ交流があったなんてね」


 どうやら俺が眠っている間に、何度かヒナと話したらしい。

 確かに、彼女は元々大貴族の令嬢だし、同じく大貴族のオスカーとは子供のころから面識もあったのかもしれない。


「しかもなんだいあれは。完全に君にホの字じゃないか。少しくらい教えてくれても良かったのに」


 オスカーはそう言って口を尖らせた。

 俺は苦笑しながら答える。


「…まぁその―――聞かれなかったし、そんな大っぴらに言えることでもないからさ」


 少なくとも―――ユピテルは一夫一妻制が法で定められている国だ。

 複数の女性と関係を持つような事、褒められる行為ではないだろう。

 俺の前世の感性からしても…後ろ指は刺されるようなことだ。


 まあ…もう決めたことだが。


「…はは、確かに法的には難しいことかもしれないが、複数の女性から愛されるなんて、男からしたら羨ましい限りだよ。しかもエトナ君にシンシア君に、ヒナ君、3人とも皆美人揃いじゃないか。きっと君、いつか嫉妬で刺されるんじゃないか?」


「…実は4人だったり」


「なんだい?」


「いや、なんでもない」


 すると、何を思ったのか、オスカーは変な顔をして苦笑する。


「ああ、安心してくれ、僕は嫉妬なんて欠片もないさ。なにせ彼女たちは総じて―――その、胸元にボリュームがないだろう?」


「はは、確かに」


 シンシアは―――俺の記憶にある限りは小さかった。

 エトナの現在は知らないが、リュデも控えめだし、久しぶりに会ったヒナは―――何も言うまい。


 でもまぁ女性の価値の判断基準は胸じゃないだろう。

 オスカーみたいなのが極端なだけだ。

 …多分。


「それより、オスカーこそどうなんだよ。その―――結婚とか、考えていないのか?」


 すると、オスカーは少し真面目な顔をする。


「…そうだな。君はあまり気にしない事かもしれないが、僕は―――これから国の政治の矢面に立って行くつもりだ。妻選びは慎重にしないと、とは考えているよ」


 オスカーはこの先、ラーゼンの後継者として、政治の表舞台に立っていくのだろう。

 妻もそれなりの地位があったり、不祥事を起こさないような人選にしなければならないということか。


「とはいえ、結婚は成人と並んで、一人前になった証だ。近いうちにするつもりではあるよ」


「…そうか」


 何かの食事会などに呼ばれた際、同伴する女性がいないのは避けた方がいい。

 大貴族であるならなおさらだ。


 俺としては、あれ以来、ミランダとの関係がどうなったかは気になるところだが…まあ俺の口出すことじゃないか。

 もしも相手がミランダなら、結婚式には是非ともお呼ばれしたいな。

 

 しかし――確かカインも結婚したとかしなかったとか聞いたな。

 なんとも皆、気が早いことのように思える。

 俺の前世では、15歳で結婚は法的にもできないし、あまり実感は湧かないが…確かにこの世界の成人は15歳。それほどおかしい話ではないのかもしれないが。


「―――まあ、今後のことはいいんだ」


 不意にオスカーはコップを口に運ぶ。

 もう、これからはどうとでもなるというふうに。


「とにかく―――君が生きていてくれて、よかったよ」


 思い出すかのようにオスカーは言う。


「お互いさまだろ、それは」


「ああ、そうかもしれない。でも―――良かったよ。本当に」


 いつかも、そんなことを言われた気がする。

 あれは、戦場だったか。


 そしてその日と同じように、オスカーは俺を見つめる。


「――バリアシオン君、助けてくれて、ありがとう。君は、いつも僕のヒーローだ」


 そういって、オスカーは微笑んだ。


 そんなようなお礼を言われたのは、確か――カルティアで、絶体絶命のオスカーを助けたときか。

 

 その時はオスカーは酷い顔をしていた。

 俺も、酷い顔をしていると言われた。

 

「でも、もう大丈夫だから。君は――君の道を歩んでくれ」


 今日の彼の顔は、その時のような酷い顔ではなかった。

 どこか安心できる、そんな顔だ。


「――さて、そろそろ行こうか」


 あってないような積もる話も終え、俺達は店を出た。

 摘まみとはいえ、かなり腹は膨れた。


 多分お会計は結構な額だった。


「うーん、なかなか遅くなってしまったな。ミランダも今頃怒っているかもしれない」


 外に出ると、もう夕方に差し掛かろうかという頃だった。

 思いのほか、長い事話していたのかもしれない。


「バリアシオン君はもう帰宅かい?」


「え? あー、少し寄り道していくつもりだ。ちょっと買い物をしようかと」


「そうか、付き合おうか?」


「…いや、いいよ。俺もミランダに睨まれたくはないしな」

 

 彼との食事は楽しかったが、あまり仕事の邪魔をするのも良くはないだろう。


「はは、ミランダはバリアシオン君には甘いところがあるから大丈夫だと思うけどね」


「お、おう」


 多分、俺に甘いんじゃなくてオスカーに厳しいだけだと思う。


「じゃあ、また。今後どうするか決めたら教えてくれ。暫くは僕も元老院にいるから」


「ああ」


 そう言って、俺達は分かれた。




● ● ● ●




 家に帰るころには既に完全に日は落ちていた。


「あ、アル様お帰りなさい」


「いや、遅くなって申し訳ない」


 帰ると、リュデが出迎えてくれた。


「夕食はどうされますか?」


「いや―――いいよ。さっき食べてきたばかりであまりお腹が空いていないんだ」


「そうですか…」


 リュデは少し残念そうな顔をする。

 いや、残念そうというか、心配そうにしているとでも言えばいいのか。


 まあ、2か月間眠り続けてその間何も食べていないわけだから――食が細くなっていることに、心配をするのは当然か。

 そして、やっぱり心配をされるということは、まあ、愛想はつかされていないということか。


「…そうだな、でも小腹が空くかもしれないから――残り物か何かあれば――後で夜食として部屋に持ってきてもらえないか?」


「――はいっ! 紅茶もお持ちしましょうか?」


「―――うん。じゃあ頼むよ」


 そういって俺は上の階に昇った。



 

● ● ● ●




「―――ふう…」


 夜は更け―――改めて1人になると―――少し緊張していることがわかる。


 俺の部屋を照らすのは、壁に欠けられた薄い照明の魔道具だけ。

 今日は月はそれほど輝いていない。


 これから俺がやろうとしていることは――まあ今まで俺が先延ばしにしてきたことの尻拭いであり――そして、男として―――示さねばならない事でもある。

 先延ばしにするつもりもないし、誤魔化すつもりもない。


 かつて―――前世でこういう経験をしたことはあっただろうか。

 いや、こんな心境になったことはない。


 前世の俺は、誰かに裏切られたことはあっても、愛されたりした事はなかった。

 唯一愛してくれたのは親であり、親は――すぐに死んでいった。


 その後の人生は――今思うとお世辞にもいいものではなかった。

 仕事では上司と部下の板挟みになり、上司の紹介でできた恋人は俺のことを愛していなかった。


 だから、この世界に転生して。

 色んな人と出会って、色んな人に愛してもらって。


 大変なことも、辛いこともあった。

 つい昨日まで、俺はずっと立ち直れず、下を向いていた。


 でも、そんな俺を救ってくれようとした人がいた。

 

 そんな人たちに、俺に何ができるだろう。

 俺は何をすればいいだろう。

 

 今はそんなことを思う。

 やっぱりそれが俺のしたいことで、やりたいこと、やるべきことだ。


 そんなことを考えていると、


「―――アル様、お夜食をお持ちしました」


 ドアの外でそんな声が聞こえた。


「ああ、入ってくれ」


「失礼します」


 扉から出てきたのは、亜麻色の髪のポニーテールの少女―――リュデだ。


 カートのようなものを引いて、リュデは俺の部屋に入ってきた。

 優雅な動作だ。


「…冷えてしまいますので、先に紅茶をお入れしますね」


「あ、ああ」


 そう言って、部屋に入るなりリュデは手慣れた手つきでコポコポと紅茶をカップに注ぐ。

 やけに映える光景だ。

 

「どうぞ」


「…ありがとう」

 

 差し出されたカップを受け取り、紅茶を口に運ぶ。

 

「…うん、美味しい」

 

 茶葉がすごく高級というわけではないだろう。

 でも、どこか俺の舌には何よりもマッチした―――そんな風味だ。


「ありがとうございます」


 リュデは少し誇らしげな顔でそういう。


「それで―――お持ちしたお夜食は―――薄切りにしたラスクと夕飯の残り物の―――」


「―――いや、夜食は…いいんだ」


 カートに入った夜食の解説を始めたリュデの言葉を途中で遮る。


「――いいんですか?」


「ああ、いいんだ」


 リュデはきょとんとした顔をする。

 そう、別に夜食は――どっちでも良かった。

 お腹は空いているかもしれないが―――それよりは大事なことがある。


「少し――話をしないか?」


「…はい、大丈夫ですけど」


「―――座ってくれ」


 そう言うと、リュデは俺の部屋には唯一存在する小さな椅子にちょこんと腰かける。

 俺が座っているのはベッドの上だ。


 俺の部屋は狭いので、誰かと話をするときはこういうスタイルになることが多い。


「……」


 少し―――柄にもなく緊張している。

 いや、元から緊張はしがちだったか。


 でも、言わなきゃならない。

 伝えなきゃならない。


「――あの日のことを―――謝ろうと思って」


 少し震える声で、俺は口を開いた。


 そう、あの時―――俺を慰めようと、俺を救おうと――俺に全部を預けてくれようとしたリュデを、拒否してしまった。


 落ち込んでいたからとか、弱っていたからとか、悩んでいたからとか、そんな理由を、言い訳にはしたくない。

 そんな俺を、俺自身が許せない。

 だから、今日、今ここで、俺は傷つけてしまった少女に、伝えなければならない言葉がある。しなければならない行動がある。


 リュデの身体がビクンと震えた。


 そして数秒考えるかのように俯き――ゆっくりと口を開いた。


「…あのときのことは…私が悪いんです。アル様の気持ちも考えず、勝手なことをして、余計にアル様の負担になって…」


 少し目を逸らしながら、リュデは言う。


「だから、アル様が、気になされることはありません。きっと私がいなくとも、アル様が元気になりました。余計なことをしたのは私ですから」


 そんなリュデの姿はどこかいたたまれなかった。


『――リュデのこと、ちゃんとしなさいよ?』


 そんな声が頭の中に響いた。


 ―――わかってるよ、ヒナ。 


 どこか決心がついた。

 俺はゆっくりと立ち上がった。


「俺は……リュデにも元気でいて欲しい」


「私は…元気ですよ?」


「じゃあ、言葉を変えよう。俺はリュデに―――幸せになって欲しい」


「……」


 リュデは難しい顔をしている。

 きっと…「幸せです」とは言えないだろう。


 だって、俺が傷つけた。

 俺が拒否した。

 拒否された彼女がいったいどんな心境だったのか、俺にはわからない。

 でみ、俺がどれだけ彼女に愛されているのかは、俺が一番よく知っている。


「だから、ごめん。あの時、君を受け入れられなくて。あの時、君のことを抱きしめられなくて」


 そう言って、俺はリュデの手を握る。

 少し冷たく、きめ細やかな肌の手触りが伝わってくる。


 俺の謝罪の言葉は、許しを求めているわけではない。

 きっと彼女は、最初から許している。

 謝罪をしても、気にするな。構わない。自分が悪い。そう言う風に答えるだろう。

 だから、これは俺の―――俺なりのけじめだ。


「リュデ、君を―――幸せにさせてくれ。誰でもない、この俺に」


 リュデの身体も震えている。

 目には涙が浮かんでいただろう。

 

「――駄目ですよ、アル様。私は奴隷ですよ? アル様の手を煩わせるなんて、そんなこと…」


 やっと出てきたような言葉は、かき消えるように掠れていた。


「俺が…今まで身分を気にしたことがあったか?」


「でも、ダメです。―――私は―――私にはアル様を救うことはできませんでした」


 自嘲するかのように、リュデは言葉を紡ぐ。


「できたさ。俺は何度もリュデに助けられている。感謝している」


 救われたかどうかなんて、俺にしかわからない。

 少なくとも俺は、彼女の存在をありがたいと思うし、彼女のことを愛おしく思う。


「私は―――エトナ様のように可愛くありませんし、ヒナ様のように賢くもありません、あの金髪の方のように強くもありません。そんな私に―――」


「リュデは可愛いよ。それに、賢いし、強い。俺なんかより…ずっと」


「アル様…」


 慟哭する彼女の身体を、俺はそっと自分の胸の中に寄せる。

 かつて彼女が、俺にそうしてくれたように。


 俺の胸からは、すすり泣くような消え入るような声が伝わってくる。


「―――いいんでしょうか。私がアル様に甘えても――そんな幸せに触れて、本当にいいんでしょうか」

 

「いいさ。俺が君に甘えて欲しくて…俺が君に触れたいんだ」


「―――!」


 そして、俺は彼女の頬にそっと手を這わせる。

 涙で濡れた頬だ。


 そんな頬に、俺は自分の顔を近づけた。


「アル様……」


「――――」


 そして、そう――俺の名を呼ぶ彼女の唇に……俺は無言で自分の唇を押し当てた。


 …柔らかい唇だった。


「―――っ」


 唇を離したときのリュデの顔は、少し呆けたものだった。

 これが現実かどうかわからない、そんな感じだ。


「―――リュデ?」


「へ? …あ、は、はい!」


 声をかけると、動転したかのように返事をする。

 少し急すぎたか。


 だが、これで終わりじゃない。


 そう、ここが――勇気の絞りどころだ。

 心臓が熱くなるのを感じる。

 やっぱりリュデの勇気には敵わないな。


「もし…よければなんだけど」


 一呼吸を置いて、俺は言った。


「―――ベッドに…誘ってもいい?」


「―――!」


 俺の言葉に、リュデは一瞬の間の後、顔を急に赤らめる。

 少し目を左右に動かし、迷うそぶりを見せるも、すぐに視線は俺を真っすぐに見据える。


「―――はい、喜んで」


 そして、そう笑顔で答えた。



 一応これでヒロイン全員と想いを交わしました。

 多少強引なところもありますが、それは私の力不足です。

 本当は、リュデとはアウローラ決戦の前に結ばれる予定だったのですが、当時の私が日和ってしまったので、こういう形になることに。それがなければもう少しスムーズだったかと・・・。


 ラブシーンは書くならがっつり書きたいのですが、1話だけR18指定として投稿できたりしないんですかね?

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