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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十三章 青少年期・アウローラ編
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第124話:『烈空』VS『魔断剣』&『摩天楼』



 ―――ふむ、予想外、予定外。


 自身の前に立ちはだかる1人の少年を前に、老人――『魔断剣』ゾラは思考していた。


 元々―――限界までの攻勢は、敵にラーゼンがいる場合になんとしても討ち取るためのプランBの戦略だ。


 正面がシルヴァディ、右翼を指揮しているのがバロンとなれば、左翼にラーゼンがいると思ったが、宛が外れた。


 ラーゼンが敵軍に存在しないこの状態で、攻める意味はない。


 撤退していく敵軍を追うよりは、これに乗じて全軍撤退し、要塞に引き篭もる事を優先すべきだろう。


 だが―――。


「お爺・・・この子相当ですよ。魔力量は私と同等です」


 隣で、ユリシーズが小声で言う。


「わかっておる」


 魔力―――魔法を扱うことのできないゾラからすればわからない部分だったが・・・しかし、そんなものがなくても充分この少年が規格外であることはわかる。


 彼の纏う雰囲気、それはゾラのその長い70年にも及ぶ剣の道の中で、幾度も対面したあらゆる強者達の雰囲気と同じである。


「―――第3特記戦力『烈空』アルトリウス・・・ですか」


 隣でユリシーズが呟いた。


「そうじゃな・・・」


 間違いない―――この少年こそ烈空アルトリウス。

 シルヴァディやゼノンと同列に、危険な戦力としてカウントされているラーゼン軍のエース。

 そして天剣シルヴァディ秘蔵の弟子。


 おそらく中央の軍からやってきたのだろうが、やけにタイミングのいいことである。

 並外れた勘を持っているのか・・・戦術眼に優れているのか、あるいはその両方か。

 いずれにせよ、彼が抜けても大丈夫なほど、中央の戦闘は西軍が有利であるということだろう。


 ―――だとすれば、この場で取るべき選択肢は限られるが。


 そんなことをゾラが考えていると、少し離れた位置から1人の男が近づいてきた。


「失礼します! ご助力感謝いたします! 敵軍は後退していく模様、我々は追撃に移ろうと思いますが・・・」


 彼はこの1万の東軍の指揮官だ。

 確かに後退していく敵軍は追撃することが定石だが・・・。


 ゾラは首を振った。


「いや、直ちに撤退して正面軍と合流すべきじゃな」


「いや・・・しかし・・・」


「―――敵軍にラーゼンはいない。これ以上の攻勢は無意味じゃ。安心せい、殿(しんがり)はワシ等に任せておけい」


殿(しんがり)? 敵兵は逃げている最中だと思いますが・・・」


「そこの少年は『烈空』じゃよ。ほれ、巻き込まれんうちにさっさと退け」


「―――なんと・・・あんな少年が・・・了解しました。魔断剣殿も、ご武運を!」


 そう言って、指揮官はすぐさま下がり、撤退の指示を出し始めた。


「ほれ、ダルマイヤー、お前もじゃ。さっさと下がれ」


 ゾラの言葉に、3本の剣を背負う青年が驚きの表情をする。


「え? しかし―――コイツが例の『烈空』でしょう? ここは3人で・・・」


 ゾラの弟子であるダルマイヤーは、状況を理解できていないようだ。

 大きな戦争を経験させてやろうと連れてきたのは良かったが、まだまだ精進が足りないといったところか。

 彼は、目の前の少年の脅威を理解できる域に達していない。


「ダルくん、いいから退きなさい。足手纏いですよ」


 隣のユリシーズも、真顔でそう言い放つ。


「ユリシーズ殿まで・・・」


「早くしろ。あの少年が動かんうちにな・・・」


 目の前の少年は、黙ってこちらを注視している。

 ゾラとユリシーズ、さらには1万の軍を前にして、1人敵陣に残ることを一切躊躇しなかった少年だ。

 その姿は、やけに不気味に映った。


「・・・わかりました」


 ダルマイヤーはゴクリと唾を飲んで、その場を離れた。


 目の前の少年はそれを見ても微動だにしない。

 とにかく、ユリシーズとゾラを視界に捉えて離さない、そういった感じだ。


 徐々に後退していくこちらの兵を眺めながら、少年が口を開いた。


「・・・追撃は良かったのか?」


 なるほど、絶好の追撃のチャンスで撤退の指示をしたこちらの動向が気になったのだろう。


「追ってもお主が通しくれんじゃろう。それに、ラーゼンがいないのであれば追う理由はない。できればワシもさっさと帰りたいが――それも許してくれんのじゃろう?」


「・・・正面の軍に合流しないならいくらでも帰すさ」


「それは無理な相談じゃな・・・ネグレドには恩がある。仇で返すわけにはいかん」


「そうか・・・じゃあ暫くはここで時間を潰してもらわないとな」


 ―――なるほど・・・この小童、あくまでワシら2人を相手取るつもりか。


 1万の兵士が正面軍に合流するよりも、ゾラとユリシーズが自由になることの方が面倒だと判断したのだろう。

 ゾラたちからすればここでアルトリウスを倒さなければならない理由はない。

 あとはさっさと要塞に籠り―――ヌレーラの援軍が蹂躙するのを待てばいい。


 だが、少年がゾラたちを逃がさないというのなら、彼らとしても放置はできない。

 少なくとも、ただで逃げれるような相手ではないだろう。


「・・・お爺、やるんですね?」


 隣のユリシーズが、真剣な面持ちで言った。


「ああ、孫弟子を斬るのは忍びないが――ここは戦場。戦士として立つのならば仕方があるまい」


「・・・ですね」


「ユリシーズ、貴様も変な情を持ち込むなよ」


「・・・わかってます」


 ユリシーズは表情を固める。

 ゾラも、剣に手をかける。


 相手が子供だからといって油断はない。


「・・・我は神撃流筆頭剣士、『魔断剣』ゾラ。『烈空』よ、いざ尋常に―――勝負!!」


 戦いが始まった。




● ● アルトリウス視点 ● ●




 正直、内心は混乱している。


 たしかに嫌な予感はした。

 もしも向こうもこちらと同じ思惑だった場合、オスカーの身が危ないかもしれないな・・・と、なんとなく思い、軽い気持ちで一度様子を見に来ただけのつもりだった。

 正面の対決に余裕があったのもその一因だろう。


 だがまさかこんなことになっているとは思っていなかった。


 1万の軍に対して善戦をしていたはずのオスカーの軍の守りは、たった1度のその魔法で決壊していた。

 遠目からでも充分わかる莫大な魔力量に―――俺のオリジナルである爆炎魔法に似た―――いやほぼ同じと言ってもいい魔法だった。


 それを放ったのは、1人の美女だ。

 20代半ばに見える桃色の髪の女。

 対面すれば嫌でもその魔力の圧がわかる。


 以前シルヴァディから聞いた特徴と一致する。


 間違いなく―――『摩天楼』ユリシーズだろう。

 八傑に名を連ねる大陸最高の魔法士だ。


 そしてさらには――背中に6本、腰に2本の剣を持つ、老人。

 コイツも大概、ヤバい。

 見ただけで実力者だというのがわかる。

 ユリシーズと一緒にいるところを見ると、この老人が『魔断剣』ゾラだろう。

 神撃流三剣士にして、シルヴァディの師匠である。


 残り1人の男に心当たりはないが――ともかく、そんな奴らを相手に、軍団は半壊しつつも、オスカーとミランダが生きていたことは安堵すべきことだろう。


 1班を連れてきていて良かった。


 彼ら7人は俺と共にカルティアの戦場を駆けてきた、経験豊かな兵士達だ。

 彼らが援護してくれれば、なんとか撤退戦はできるはずだ。


 もちろん――その間この3人を俺が止めることができれば、だが。


 オスカー達の気配が後ろに下がっていく中、1人敵陣に残り、俺は覚悟を決めたのだが――意外にも軍勢は撤退していくようだ。


 3人のうちの1人、3本の剣を持つ男と共に、敵軍はぞろぞろと後退していく。

 こちらへ追撃はしないようだ。


「・・・追撃しないのか?」


 思わず尋ねたのだが、


「追ってもお主が通しくれんじゃろう。それに、ラーゼンがいないのであれば追う理由はない。できればワシもさっさと帰りたいが――それも許してくれんのじゃろう?」


 なるほど、あくまで敵が攻勢に出ていた理由はラーゼンがいると勘違いしていたからなのか。

 つまり、既にラーゼンがいないとわかった以上、奴らに戦う意義はない。

 むしろさっさと引いて、要塞の中に立て篭もった方がいいということだ。

 だがそれならば、


「・・・正面の軍に合流しないならいくらでも帰すさ」


 この2人を、正面――ネグレドの元へ帰した場合、シルヴァディでも突破は難しいだろう。

 むしろ、この2人がここにいる今が、俺たちにとっては、ネグレドを倒すチャンスでもある。


「それは無理な相談じゃな・・・ネグレドには恩がある。仇で返すわけにはいかん」


 案の定、家に帰ってはくれないらしい。

 しかし・・・恩か。

 そういえばシルヴァディは、ゾラがネグレドには協力するかはわからないとか言っていたが・・・なるほど恩があるのか。


「そうか・・・じゃあ暫くはここで時間を潰してもらわないとな」


 戦争に勝つためには、この2人をここに張り付けておく――あるいは倒してしまうことが必要だ。

 ここではいそうですかと逃がし、ゾラとユリシーズが中央のネグレドの守りに合流した瞬間、こちらの勝機は潰える。


 ・・・とはいえ、俺個人としては、さっさと帰って欲しいし、帰りたい。


 誰が好き好んでこんな化け物と戦うって言うんだ。

 ぶっちゃけ今も、オスカー達の撤退が完了した瞬間、さっさと飛行魔法で飛んで逃げてしまいたい。

 心臓はバクバク唸っているし、足も震えている。


『――別に無理して戦う必要はない』


『――無茶だけはしないで下さいね』


 そんな親子のセリフが呼び起こされる。


「・・・だけど、そうも行かないよなぁ」


 俺は小声で呟いた。


 『摩天楼』ユリシーズ。

 『魔断剣』ゾラ。


 この2人の存在が、もしかしたらラーゼンの負ける理由なのかもしれない。

 だとしたら、俺がここで立ちはだからなければ、俺たちに勝利はない。


 ・・・ごめんシンシア、約束は守れそうにない。


「―――我は神撃流筆頭剣士、『魔断剣』ゾラ。『烈空』よ、いざ尋常に―――勝負!!」


 時間をかけるつもりはないのだろう。

 老人――魔断剣ゾラが動いた。


「――っ!」


 老人とは思えないほどの機敏な動き・・・。


 だが、見える。

 予想よりはマシな速さ。

 先手を取ったのは、先の先の動きを理想とする神速流の出鼻を挫くためだろうか。


 俺は剣を抜き、ゾラの剣撃を弾く。


 『流閃』を使えれば大きなチャンスになるが――通じるかどうかはわからない。


 甲高い音を鳴らしながら初撃の剣は弾いたが、しかし、すぐに違う剣が飛んでくる。

 逆手で持った2本目の剣だ。


「反応やよし、だがそれだけか!」


 初撃を弾いた勢いをそのままに、2撃目――回転斬りが俺に迫る。


 まるでギャンブランの使ったような回転斬りだが、ギャンブランのそれよりはいささか速さで劣る。


「悪いが、二刀流はもう見飽きたよ!」


 差し込む――。

 回転の隙間に一撃をねじ込み、無理やり弾き飛ばす。


 キィン、という音と共に、間違いなく俺の剣はゾラの左手の剣を弾き飛ばした。


 だが――。


「誰が2本だと言った?」


 ―――3本目。

 背中から抜かれた3本目の剣が既にゾラの手に握られていた。

 俺の剣が、ゾラの剣を弾くその瞬間に、それまで握っていた剣は離したのだ。


 抜き身のゾラの刃は、俺の眼前まで届く。

 俺の返しは間に合わない。


「―――ちっ」


 俺は無理やり左腕を体と剣の間にねじ込んだ。


 ガァァァアン!!


 衝撃と、鈍い音と共に、俺は後方に弾き飛ばされる。

 俺の左腕に装備された手甲と、ゾラの剣がかち合ったのだ。


 左腕は痺れるが、白い手甲には傷1つ付いていない。

 流石はシルヴァディに貰った手甲である。


「ユリシーズ!」


「わかってます!」


 ゾラと距離が開いた瞬間、そんな声が聞こえた、


 そう――相手をしているのはゾラだけではない。


 膨大な魔力を感じた時には、既に魔法は放たれていた。


「――これは――《氷槍》!?」


 俺の頭上に形成されていたのは中級魔法《氷槍(アイスランス)》。

 実力のある魔法士が使う魔法としてはレベルが低いのではないか、と思うかもしれないが、それは違う。


 違いは――その数だ。


 俺の頭上に浮かぶ《氷槍》の数は、目算でも50以上。

 頭上にある時点で視認できたのはほんの一瞬で、細かい数などわかりはしない。

 とにかく、大量の氷の槍が、頭上から、切っ先を俺に向けていた。


 実質的にそれは《氷槍》ではなく――《氷槍雨》だ。


 ――はやく魔力障壁を・・・いや、こんなものをまともに防御していたら魔力が持たない・・っ。


 だとしたら選択肢は1つ・


 ――回避だ。


 俺は瞬時にそう判断した。


「・・・おおお!!」


 思わず声が漏れ出る。


 ――見切る。

 刹那の間を駆け抜ける。

 氷の槍の雨の中、俺は全速で、地面を蹴った。


 地面と氷が衝突し、爆ぜるような音が聞こえる。


「―――っ!」


 全力疾走で、氷の雨を抜けだした。

 結果としては当たらなかったが――その先、正面には、腕を構えた桃色の髪の魔女、ユリシーズが立っていた。


 そう――待ち構えていたかのように。


「――よく避けました。ですがこれならどうでしょう!」


 暴力的なまでに強大な魔力の収束と共に放たれたのは、爆炎の魔法。

 俺もよく使う炎と風の複合魔法だ。


 ――これは避けられない。


 無数の氷槍の雨はここまで誘導する囮だったのだろう。

 対応は完全に遅れた。


 ゴオォォオ!!


 爆ぜるような音と共に、俺の視界を爆炎が覆う。


「―――はぁぁっ!」


 だが、俺には届かない。

 《魔力障壁》が間に合った。


「――くっ!」


 ガンガン魔力が持っていかれる感覚がわかる。

 まともに食らえば消し炭だろう。

 

 真っ赤な視界は、魔力が持っていかれる感覚が終わると同時に、消え去った。

 俺の立っていた場所を除いて、周囲は地面ですら焦げ付いたように黒ずんでいる。


「ほれ! 止まっとる暇はないぞ!」


「―――っ!」


 息つく間もなく迫るのは小柄な老人の姿だ。

 相変わらず二刀流の剣が俺に向けられる。


「―――『流閃』」


 ゾラの剣に俺の剣を添える。

 出すのは水燕流奥義・・・『流閃』。

 どんな体勢からでも出せるように、ひたすら修練を積んできた流しの奥義だが――。


「――ちっ!」


 手応えはない。

 それもそのはず、ゾラは既にその剣を離していた。

 水燕流の奥義の多くは、剣と剣を介して発動する。

 剣を離されては、完全に発動させることはできない。

 

 かつて俺はそうやって、『浮雲』センリの技を攻略したことがある。


「ふぉっふぉっふぉ・・・その程度の『流閃』など、いくらでも見てきたわ!」


 老獪に笑うゾラの左の剣が俺に迫る。

 この老人は、剣を離したとしても、代わりの剣があるのだ。

 なるほど、異様な格好にも理由があったわけだ。


「―――ハアア!!」


 俺は瞬時に体を加速させた。

 ここで退けば、また後ろからユリシーズの魔法が飛んでくるだろう。


 ならば、前に出る。

 地面を蹴り、剣を振りかぶりながら体を捻らせる。


「ほう――!」


「――っ!」


 ゾラの剣は俺の右肩をかすめた。

 鋭い痛みが走るが――ギャンブランにバッサリいかれた時に比べたらマシだ。


 そして、ここは既に剣の射程の内側。

 この距離ならば――ゾラが空いた手で剣を引き抜くよりも、俺が()を振り抜く方が速いだろう。

 俺は左手の拳を握りしめた。


「ハァァァア!」


 狙うは鳩尾。

 ゾラの動きを一瞬でも止めた瞬間に、ユリシーズを仕留める――。


 そんな考えで行った前進だったが・・・ゾラは俺の上を行っていた。


「若いのう!」


「――かはっ!?」


 俺の拳がゾラに届く前に―――ゾラの拳が俺の鳩尾を抉っていたのだ。


 ――そうか・・・徒手空拳は神撃流の専売特許・・・。


 ゾラは「神撃流三剣士」に名を連ねる神撃流の代名詞とも言える男。

 接近戦はお手の物か。


「お爺、離れて!」


「おうよ!」


 ユリシーズの声と共に、ゾラが俺の前から離れた。

 鳩尾への衝撃で俺の動きが止まった瞬間だ。


「悪いけど、これで決めます!」


 放たれたのは、先程よりも一回りほど大きい爆炎の魔法だ。


「――――――‼」


 『魔力障壁』―――っ!


 声なき声と共に、魔力を練り上げる。


 体は動かない。

 だが、脳は動いている。

 思考するな、全力で前に魔力を注げ。


 ゴオオオオオオオ!!


 爆音と爆炎で、俺は埋め尽くされた。

 熱い。

 皮膚が焼き切れそうだ。


 前にかざす腕が火傷によりただれていく。

 服も燃えてしまう。


 そして、右腕の青いミサンガも、その余波で焼き切れてしまった。

 首都で待つ少女が、俺の勝利を願って編んでくれたミサンガだ。


 ――クソ・・・。


 ・・・全く、毎度毎度貧乏くじばかり弾いている気がする。


 どうして俺はこんなところで死にそうな目にあってるんだ。


 このゾラとかいう老人、とんでもない剣の練度だ。

 俺の方が速いのに、俺の動きの全てが見透かされ、神撃流の練度で負け、水燕流の技は効かない。

 読みでも上をいかれ、俺の動きの先にゾラの攻撃が置かれている。


 かといって距離を取ろうとすると、その瞬間にユリシーズから強力な魔法が飛んでくる。

 毎回、全力で魔力障壁を張らないと消し炭になるような大魔法だ。

 もう何回も防げない。

 そして、魔法に耐えたと思ったらその瞬間に、再び老人が攻めてくる――。

 抜け出せない無限ループだ。


 どうすれば勝てる?

 なにか答えがあるはずだ。


 集中しろ。

 かつて、カルティアで、ゲイツとゲイルに追い詰められた時、ギャンブランと戦って死にかけた時、不思議と俺は生き残った。

 そして、そんな限界の状況でこそ、急激に成長してきた。


 思い描くんだ。

 俺が勝つ瞬間を。


 大丈夫だ。

 俺を信じろ。

 確かにあいつらは強い。

 だけど俺も強い。

 こいつらと同じ領域に立っているはずだ。


 ――まだ、やれる。


 爆炎が止んだ。


 魔力障壁は、なんとか耐えきったようだ。

 体のあちこちが火傷をしているが・・・四肢は動く。


 正面に、少し驚いた表情のユリシーズ。

 少し左に神妙な顔で剣を構えるゾラ。


 落ち着け。

 大丈夫だ。

 少なくともこの中で一番速いのは俺だ。

 相手を最初から格上と判断するのは悪い癖だろう。

 俺が俺を信じないでどうするんだよ。


 受けに回るな。

 攻めろ。


 神撃流じゃ、確かに奴には勝てないかもしれない。

 水燕流の奥義は通用しないかもしれない。

 でも、神速流は――純然たる速さは、俺に分がある。

 

 神速流は、最速最強。

 かつて俺に剣を教えた銀髪の騎士はそう言っていた。


 ―――いける。


 俺は地面を蹴った。


 第2ラウンドだ。



 読んで下さりありがとうございました。

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