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異世界転生変奏曲~転生したので剣と魔法を極めます~  作者: Moscow mule
第十二章 青少年期・内乱開幕編
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第108話:2年ぶりの我が家①

 ここのところ忙しく、Twitterでの更新報告ができていません。

 そちらで確認している方がいたら大変申し訳ありません。



 


 メインストリートの人並みは消えていた。

 日も落ち、熱狂していた民衆たちも落ち着いたのだろう。


 しかし――時代の流れとでもいうのか、あれほどラーゼンが支持されているとは思わなかった。


 門閥派の影響力の強いはずの首都ですら、市民のラーゼンへの人気と期待は俺の予想を遥かに超えていたのだ。


 時代の流れか――はたまた、これも全てラーゼンの思惑通りなのか――いずれにせよ恐ろしい人だ。



 そんなことを考えながら、俺はメインストリートを抜け、懐かしい道を歩いていく。


 学校に行くために毎日通った道自体はそれほど変わっているようには思えない。

 ところどころ修繕の後や、新築の家が見られるくらいか。


 ただ、気になるのは、すれ違う人の誰もが俺を見て頭を下げることか・・・。

 最初のうちは、昔の知人かとも思ったが、違った。

 俺の身なりが、明らかにユピテルの軍人だったからだろう。

 彼ら民衆からすれば、ラーゼンの軍というだけで、敬うべき対象であったのかもしれない。


 目的の場所まではそれほどかからなかった。

 元々、都市の中心部――学校や官庁街までは子供の足で通えるほどの距離だ。

 当時よりは伸びた体格で歩くと、体感は一瞬だった。


 俺は無言で、その屋敷の前で立ち止まった。


 石造りの屋敷だ。


 貴族の家としては、少し小さめで――それでも、俺の中では大きな思い出がたくさん詰まっている家。


 ――俺の家だ。


「・・・」


 俺の記憶にある限り、この時間帯に家に人がいないなんてことはなかった。

 学校はもう終わっている時間だし、買い出しに複数人使うこともない。

 母は基本家にいるし、チータも普通なら夕食の準備をしている時間だ。


 だが、家の中に、人の気配はない。


 不安な気持ちが俺を襲う中、俺は扉に手を掛ける。

 鍵がかかっていた。

 当然だ。


「鍵は――そっか、川に落ちた時に失くしたな」


 慌ててポケットの中に手を入れても家の鍵はない。

 あるのはいくらかの金くらいだ。


 よく考えると、イリティアに貰った銀のペンダントと、カインの剣以外、旅立つ前に持っていたものは何もない。


「・・・・っ!」


 なんとももどかしい焦燥感に駆られたまま、俺は扉の鍵を魔法で壊した。

 簡単な風属性魔法でドアの一部を吹き飛ばしただけだ。

 もちろん魔法で鍵を壊して家に入るのは犯罪だが、自分の家だし――後で適当に直しておくつもりだ。


 とにかく――俺は中に入りたかった。


「・・・・」


 家の中は、閑散としていた。

 生活の跡はあまり見られない。


 間取りや、家具などは見慣れたものが多い。

 変わったものといえば、コンロの魔道具が最新式の物になっていたりしたくらいだろうか。


 俺はそのまま急ぎ足で家の中を進んだ。


 見慣れた壁に、見慣れた廊下。


 どの部屋も、シーツやカーテンは変わっているが、懐かしさは変わらない。


 階段を上がった。


 父――アピウスの書斎は、いくつか家具が無くなっていた。机やタンスが撤去されている。

 他の人の個室に入るのはやめておいた。



 迷うことなく向かった先は――俺の部屋だった。

 俺が育ち、12年間過ごしてきた俺の部屋。


「・・・・」


 俺の部屋は、驚くべきほど変わっていなかった。


 壁一面に置かれた本棚に、ぎっしりと敷き詰められた様々な本。

 俺にこの世界のことを教えてくれた、沢山の本達。


 そのせいで狭く見える部屋の奥には、簡素なベッドと、小さな椅子と机。


 子供部屋というにはいくらか無骨過ぎて、大人の部屋というには小さ過ぎる――そんな部屋。


 俺はそんな部屋の奥のベッドに腰掛けた。


「・・・はあ」


 家は、俺の家だった。

 細かい部分ではいくつか違う物もあったが、間違いなく懐かしい――俺がアルトリウスとしての人生の大半を過ごした家だ。


 イリティアに修行をつけてもらった庭に、アイファやアランと遊んでまわった部屋。

 家族皆で食事をしたテーブル。


 俺の家だ。

 懐かしい俺の実家。


 それでも・・・俺の会いたい人達――家族はいなかった。


「・・・・・・」


 最初に「穏健派が王国へ行った」という話を聞いた時から、漠然と予想していた。


 バリアシオン家は、クロイツ一門と懇意にしている。

 そもそも俺の母のアティアはクロイツ一門出身だ。


 クロイツ一門が首都を発つので、それに追従したのだろう。


 元老院でアピウスの姿を見なかったのも、そんな予感をより確実にするのに拍車をかけた。


 いや、もしかしたら最悪、門閥派の貴族と一緒に東へ逃げている可能性もある。


「カインはもちろん・・・エトナもいなさそうだな」


 クロイツ一門のカインは当然として・・・エトナも俺と同じウイン一門である。

 穏健派として行動していてもおかしくはない。


「そっか、そうだな・・・」


 きっとアピウスも彼なりに家族を守ろうとしたのだろう。

 どちらが勝つかわからない内戦に関わるよりは、終始穏健派のクロイツ一門についていた方がいいと判断したんだ。


「そう、大丈夫、大丈夫だ。家にいなかっただけで・・・きっとまた会える」


 そう自分に言い聞かせる。


 だけど、体は震えていた。


 ――武者震い?


 いや、違う。


 不安だ。


 まるでこれからどうなるかわからない内戦。

 自分に勝敗の責任がかかっているかもしれないという不安。

 そして、自分の知らない場所に――手の届かない場所に、大切な人達が行ってしまったという不安。


 もう二度と会えないんじゃないかという、そんな不安からくる恐怖からだろうか。

 俺の体は震えていた。


 かつて八傑のギャンブランの殺気を受けた時でさえ、これほど不安になる事はなかった。


 ――会いたかったな。


 辛いことや、苦しいこと。

 いくらでもあったカルティアでの出来事。

 話したいことがいくらでもあった。


「・・・落ち着け」


 わざと口に出して、俺は深呼吸をする。


 大丈夫。

 アピウスが――父がついてる。

 俺よりよっぽど頼りになる人だ。


 大丈夫。

 落ち着いたら、きっとまた会える。


 ごろん、とベッドに横になり、天井を見上げた。


 首都を出る前、10年間ほど毎日見上げていた天井は、やけに懐かしく感じた。

 カルティアの夜空や、石小屋の天井なんかより、よっぽど見慣れた天井だ。


 なんか・・・眠くなってきたな。


 一応軍に休息の許可は出ているが、俺はそれなりの立場を持つ人間だ。

 緊急の招集もあるかもしれないし、一応寝泊まりは駐屯地でしようと思っていたのだが・・・。


 軽い仮眠くらいしてもいいか。


「――っ!?」


 そこまで考えたところで、人の気配を感じた。

 しかも、俺の部屋のすぐ前である。


 ――なんだ?


 壊れた鍵を見て、泥棒でも入ってきたのかもしれない。


 ここまで近づくまで気づかないとは、俺も油断していた。


 俺は慌てて立ち上がり、剣の柄に手をかける。


 そして、中腰で構えて、ドアを注視する。

 剣も魔法も射程圏内だ。

 よほどの手練れでなければ一瞬で拘束できる。


「・・・・」


 そして――ゆっくりと扉が開いた。


「・・・え?」


 現れた人物に、俺は思わず構えを解いた。


「・・・アル――様?」


 聞こえてきたのは可愛らしい声だ。


 亜麻色のポニーテールに、クリッとした瞳。

 顔立ちは少し幼げだが、美しさも垣間見える。

 質素な麻の服なのに、まったく損なわれない可憐な雰囲気。

 相変わらず少し小柄ではあるが、俺の記憶にあるよりは背も伸び、女性らしさがわかるようになった肢体。

 だが、間違いなく、彼女であるとわかった。


「・・・リュデ?」


 どこからどうみても可憐な美少女――リュデが、そこにはいた。



● ● ● ●



「―――アル様っ―――アル様なんですね!?」


「え、ちょっ!?」


 少女――リュデは、部屋にいたのが俺だとわかると、目に涙を滲ませながら俺に飛びついてきた。


「良かった・・・本物です・・・生きてた・・・・」


 そしてそういって涙ながらに俺にぎゅっと抱き着いくる。


 概ね2年と少しくらいだろうか。

 身長は差が出ているが、彼女も成長している。


 密着すると、少し小振りだが柔らかい感触が服を通して俺の胸元に伝わってきた。

 同時に女性特有の甘い香りのようなものが漂ってきて、少し興奮しそうになる。


「リ、リュデ、とりあえず落ち着け。ちゃんと生きてるから」


「―――あ、すみません私ったら・・・」


 何とかそう言葉を出すと、はっと気づいたようにリュデは俺から離れる。

 顔は真っ赤だ。もちろん俺も。


 恥ずかしそうに顔を背けるリュデの姿はなんとも可愛らしい。

 やはりというか、案の定というか、俺の予想通り、彼女は美しく成長しているらしい。


 いや、しかし今はそれより・・・。


「リュデは・・・どうしてここに?」


 リュデはバリアシオン家の使用人一家―――チータとヌマの娘だ。

 彼らの姿も見かけないので、父と共に王国へ向かったのかと思っていた。


「・・・そうですね。アル様にはいくつかお話しないきゃいけないことがあります」


 リュデは目尻の涙をぬぐい、少し真面目な顔になった。

 

「でも・・・とりあえず―――紅茶を入れてきますね。まだ茶葉が残っていたと思いますので」


「え、ああ」


 話が長引くということだろうか。

 確かに紅茶などもう2年飲んでいない。

 カルティアでは嗜好品なんて嗜んでいる暇はなかったからな・・・。


「あ、砂糖とミルクは――」


「――なし、ですね。ふふ、わかってますよ」


 俺が紅茶の要望を言おうとすると、リュデがわかってますとばかりに微笑む。


「チータに聞いたのか?」


「はい! 紅茶に関してはもうお母さんにも遅れは取りませんよ!」


「そうか、じゃあ期待しているよ」


「任せてください!」


 そう言ってリュデは笑顔で部屋を去ろうとしたのだが、


「――アル様」


 扉の前で、こちらを振り返った。


「なんだ?」


「・・・おかえりなさい」


「・・・・ただいま」


 そう答えると、リュデはにっこりと笑い、下に降りて行った。

 亜麻色の髪がフリフリと揺れていた。


 ・・・俺も降りて下の階で話せばよくないか?


 そう気づいたのは、もうリュデが階段を上がってくる音が聞こえたときだった。

 


 読んで下さりありがとうございました。



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― 新着の感想 ―
[一言] 本人にそのつもりがなくても親や恋人等家族と対立派閥や違う派閥に付いて行く事は家を捨てるという事。
2019/12/11 18:57 退会済み
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